第十六話:視えない未来への返事
ヴァンスに連れられて辿り着いたのは、町外れの小高い丘だった。夜空を一望できる、二人がこれまで何度か、散歩の途中で立ち寄った場所でもある。
「ここ、久しぶりですね」
「ああ」
ヴァンスは、いつになく落ち着かない様子で、何度も咳払いを繰り返していた。
「あの、大丈夫ですか。顔、少し強張ってますけど」
「……緊張、しているだけだ」
「団長さんが、緊張だなんて、珍しいですね」
軽口を叩くリリーに、ヴァンスは苦笑しながらも、意を決したように、懐から小さな箱を取り出した。
「その……こういうのは、柄じゃないと分かっているんだが」
差し出された箱を見て、リリーは息を呑んだ。中に収められていたのは、シンプルながらも、丁寧な作りの指輪だった。
「これは……」
「占いに頼らず、自分の言葉で伝えたい。ずっと、そう思っていた」
ヴァンスは、真っ直ぐにリリーを見つめながら、続けた。
「お前と出会って、当たりすぎる占いに振り回されて、それでも、お前のことを、もっと知りたいと思うようになった。これから先も、視えない未来を、お前と一緒に、一つずつ確かめていきたい」
「……はい」
「だから」
ヴァンスは、丘の上に片膝をつくと、箱を掲げた。
「リリー、俺と、結婚してくれないか」
夜風に、丘の草花が、さわさわと揺れていた。リリーは、しばらく言葉を失ったまま、目の前の光景を見つめていた。
(視なくて、本当に良かった)
もし事前に視てしまっていたら、きっと今のような、素直な驚きと喜びは、味わえなかっただろう。
「……はい」
震える声で、リリーは頷いた。
「よろこんで。私と、結婚してください」
その返事に、ヴァンスは、これまで見たことのないほど、安堵したように、大きく息を吐いた。
「良かった……正直、断られたら、どうしようかと」
「そんな不安そうな顔、団長さんらしくないです」
「お前の前だと、色々と情けない姿ばかり見せている気がするな」
「それも含めて、好きですよ」
さらりと告げた言葉に、今度はヴァンスの方が、驚いたように目を見開いた。
「……不意打ちだな、それは」
「ふふ、たまには、私からも」
指輪を薬指にはめてもらいながら、リリーは、夜空を見上げた。満天の星が、二人を祝福するように、静かに瞬いている。
「これから先のことも、視ませんからね、私」
「ああ、それでいい」
「でも」
リリーは、悪戯っぽく笑った。
「たまには、ちょっとだけ、視てもいいですか。楽しみな時だけ」
「都合のいい奴だな」
「占い師なので」
笑い合う二人の間に、穏やかな夜風が、いつまでも吹き続けていた。
当たりすぎる占い師の恋は、こうして、視えない未来へと、確かな一歩を踏み出したのだった。
――もっとも、この後も、当たりすぎる占いのせいで、結婚準備にまつわる、ひと騒動が待っているのだが。それはまた、次のお話で。




