鹿児島へ
屋敷を出発してから半月以上が経ち、俺達はようやく鹿児島に入ることが出来た。
ここでは、霊滅版の有無の確認だけを行って速攻で帰ろうということが満場一致で決まり、俺達はすぐに鹿児島の佐藤宗一が住んでいた町に入り、広い駐車場で車を停めてドローンを飛ばす準備を進めた。
「ささっと終わらせて、ささっと帰りましょう。あの面倒くさいおっさんに会うのは、私も嫌だから」
涼も厳造さんに会うのは嫌なのか、いつもよりも軽快に準備を進めていた。まぁ、俺も道中で朝香から岩崎家がどういう家なのかを予習してからは、俺もあまり関わりたくないと思うようになった。
それはさておき、俺達はさっそくドローンを1台飛ばしてさっそく佐藤の自宅と職場の調査をすることにした。今回は、生存者がいるかどうかの調査はしないことにした。
「まったく、ここまで嫌われるなんて、その家も大概ね」
呆れる里美をよそに、俺は寄り道せずにドローンを佐藤の自宅に向けて飛ばした。その際に、ドローンのカメラから映し出された映像に違和感があった。
「妙だな」
「私も同意見だ。日中だから外には野良猫やカラス、野良犬やネズミしかいないのはまだ分かるが、建物の中に死霊が一人もいないなんて」
「確かに、イノシシの通った痕跡はあっても、クマの痕跡が全くないな」
「幹夫、九州にはクマはいないから痕跡がなくて当然だよ」
「あ、そう・・・・」
涼の指摘で、俺は恥ずかしさのあまり顔から火が吹き出しそうになった。申し訳ありません、知りませんでした。
「だけど、ここまで死霊達がいないのも珍しいな」
「そりゃ、よく見たら全くいない訳ではないけど、このくらいなら強引に突破すれば逃げ切りは可能ね」
「それでも、私達のいる町と比べるとその差は歴然です。もしかして、危険な悪霊がこの町に住みついているのでしょうか?」
由乃さんからそんな不吉な言葉が出たが、そう思っても不思議ではないくらいにこの町は極端に幽霊の数が少なすぎるのだ。
その代わりに、生きた人間の痕跡はたくさん見つかった。事実、最初に飛ばした佐藤宗一の自宅でも、中は相変わらず死霊でいっぱいであったが、物が幾つかなくなっていた。主に食料や衣類、布団や家電製品などと言ったものであった。
「自宅には霊滅版はなし。次は職場に飛ばすか」
自宅にないことを確認し、俺はドローンを佐藤宗一が勤めていた研究所に向けて飛ばした。そこも入念に調べてある為、殆ど迷うことなく飛ばすことが出来た。
だが、研究所に着いた途端ドローンは窓から伸びた黒い手に捕まって中に引きずり込まれてしまった。
「なんなんだ!?」
「分からない!悪霊が太陽の下に、腕だけとはいえ晒すとは考えられない!」
「その悪霊が今映し出されています!」
「コイツ!」
由乃さんに指摘され、俺は反射的にカメラに目を向けた。
カメラには、全身が真っ黒に染まり、ギョロギョロとした目玉に黒ずんだ歯を強く噛み締めた男の顔が映し出されていた。
『麻衣!俺の倉町麻衣を何処に隠した!俺から倉町麻衣を奪った男!佐藤宗一はどこへ行った!』
「コイツ、カメラの向こうの俺達に向けて」
「そのようだけど、これはマズイぞ」
すぐにヤバイ状況だと理解した華々美は、すぐにノートパソコンの画面を大きな石で壊し、俺もドローンのコントローラーを地面に叩きつけて壊した。
そのあとすぐに由乃さんと涼が全員を集め、お祓いをしてもらった。
「何なんだ、あの悪霊は!?」
「おそらく、あの悪霊が好きだった女を佐藤宗一が取ったんでしょう。倉町麻衣さんって女性は、あの悪霊が人間だったころの彼女、もしくは婚約者だと思う」
朝香はそう予想していて、俺達もあの悪霊の怒り具合を見て納得したが、由乃さんだけが険しい表情を浮かべていた。
「由乃さん?」
「申し訳ありませんが、私は朝香さんの予想は外れていると思います。あの怒り具合は、最愛の異性を奪われた人の怒り具合ではないです。画面越しで、正確に霊視したわけではありませんけど、あの悪霊は倉町麻衣という女性にしつこく粘着していて、佐藤宗一にその倉町麻衣が惚れていたのだと思います。あの悪霊の一方通行の想いと、佐藤宗一に対する嫉妬で怒り狂っているのだと思います」
由乃さんの予想では、佐藤宗一はただのとばっちりであの悪霊に恨まれてしまい、倉町麻衣という女性は生前のあの悪霊にしつこく粘着されていたのではないかと言った。
だけど、朝香は少し納得いっていない感じであった。
ならば涼の意見はと朝香は視線を向けるが、霊視が苦手な涼は気まずそうに視線を逸らすだけであった。仕方がない、涼が得意なのは気配を探ることであって、霊視はあまり得意ではない。
「けれど、それであんなに怒るものなの!?」
「怒り狂っているように見えますけど、霊視をした結果あの悪霊から異常ともいえる執着と嫉妬を感じました」
「ボクだって!」
「己の間違いを認められぬようでは、お前は陰陽師としてまだまだ二流だ」
「っ!?」
突然壮年の男性の声が聞こえて、声の方を向くと和服を着た40代後半の男性がそこに立っていた。眉間の深い皴と鋭い眼光、全身を突き刺すような圧倒的な威圧感を放つ。
俺達が今まで出会ってきた生存者の中では、群を抜いた貫録を持っていて、何物にも動じなかった華々美でさえ冷や汗をかくほどであった。
その男性を見た涼と朝香は、ものすごい勢いで前に出て勢い良く頭を下げた。
「お久しぶりです、厳造さん」
「ご壮健のようで何よりです」
「2人とも、よくぞこの2年間生き延びていたな」
(うわぁ、やっぱり)
涼と朝香の反応で何となく想像はついたが、やはりあの人が涼と朝香の2人が煙たがっていた超頑固者のおじさん。
そんなおじさんは、ピリピリするような威圧感を放ったまま俺達の方へと近づいてきた。
「そなた達は初めましてだな。私の名は、岩崎厳造。この町ではそこそこ大きな土地を保有している地主であり、複数の不動産も持ち、更にそこの2人の家と並ぶ名門陰陽師一族の党首だ」
そこそこなんて言っているが、保有している土地面積は瀧倉家や日口家とは比べ物にならないくらいに大きく、その上彼自身はこの町の大半の不動産を経営している「平成の不動産王」とも呼ばれている超億万長者。その総資産は、いくつも会社を経営している大企業が霞むくらいであると聞いた。
「初めまして、武谷幹夫と言います」
「藤波華々美と言います」
「じょ、城ヶ崎美玲でしゅ!」
「長谷川里美です」
「影山由乃と言います。宜しくお願いいたします」
あまりの威厳を前に、里美と由乃さん以外は委縮されながら自己紹介をした。その威厳を前に、敬語を使わない華々美でさえビビリながら敬語を使うくらいだし、美玲なんて言葉を噛んじゃっているし。
「うむ」
それだけ返事をした後、厳造さんは由乃さんの方へと歩み寄った。
「あの短時間で、尚且つ画面越しであったにも拘らず、よくあの悪霊の本質を見抜き、正しく霊視をしたものだ。そなたはかなり腕の立つ陰陽師と見た」
「お褒めに預かり光栄です。我が師、西光良成の指導の賜物です」
「ほおぉ、そなたはあの西光氏の弟子であったか」
どうやら、由乃さんの正確な霊視を称えたかったようだ。
(ということはあの悪霊、佐藤宗一に狙っていた女を取られて醜い嫉妬にかられた哀れな男ってことか。しかも、女側はかなり迷惑がっていたみたいだし)
そんなことを考えていると厳造さんは、今度はこちらに視線を向けてゆっくりと近寄ってきた。
(ヤバイ!変に緊張する!)
しかも口調も固く、さっき由乃さんを誉めていた時でもあまり称賛している感じはしなかった。それどころか、出来て当たり前だと言わんばかりの態度で、若干上から目線な感じもあった。これではあの2人も、緊張のあまり委縮してしまうのも当然だ。会いたくないというのも、改めて納得だ。
「頭を上げろ」
「は、はい」
そう命令された以上、俺達は頭を上げるしかない。というか、俺達あなたとは初対面ですよね?
「武谷殿だったな。何用でここに来た?車のナンバープレートを見る限りだと、涼と同じ町出身であることが伺える。ここに一体、何の用で来たんだ?」
「はい」
直感で分かる。この人に誤魔化しや嘘は通じない、それを言っているのかもすぐにわかる。
なのでここは、正直にハッキリと答えないとものすごい雷を食らうことになる。
「実は、この現象の原因となっている石板、霊滅版を探しにここまで来ました。手掛かりとして、佐藤宗一という歴史学者がネットで購入したことを突き止め、ここが最後の、8人目の佐藤宗一がいる所であるため」
「ここまで来た、ということか?」
「はい」
俺の言葉を途中で遮り、ここまで来た理由を問う厳造さん。一声発する度に、大きな岩に押し潰されそうなほどのプレッシャーを放って。
「なるほど、そういうことか。それよりも、目上の人間を呼び捨てにするのはいただけないぞ。ましてや、佐藤殿がどういう人柄をしているのかよく知りもしないで決めつけるのは言語道断だ」
「申し訳ありません」
静かに怒りを顕わにする厳造さん。目上と言っても、盗品と分かっていて霊滅版を買うような人間に敬語なんて使いたくない。それで怒られるのは、少し納得がいかなかった。
とはいえ、鹿児島の佐藤宗一の人柄も知らずに勝手に決めつけるのは良くなかったと反省はする。
それよりも俺は、気になることを厳造さんに尋ねてみることにした。
「あの」
「何だ?」
「いえ、佐藤そ・・・佐藤さんの人柄をよく知らずにとおっしゃっていましたけど、厳造さんは佐藤さんをご存じなのですか?」
「知っているも何も、お前たちが探している佐藤殿とその家族は今私の神社に避難していて、よく働いている」
「っ!?ここの佐藤宗一さんは、生きておられるのですか!?」
「うむ。歴史学者の佐藤宗一殿なら、彼の家族ともどもご存命だ」
厳造さんの口から発せられた衝撃の事実に、俺たちは言葉を失った。
なんと、鹿児島の佐藤宗一は探していた8人の中で唯一生きていたのだ。
作者は決して女性差別をするつもりなんてありませんので、ご理解のほどよろしくお願いいたします。
そしてなんと、8人目の佐藤宗一は唯一の生存者であった。そんな彼は、この現象の解決に大きな貢献をする重要人物でもあります。




