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岩崎家の家庭事情(予習)

 怨念集合体を一掃した後、俺達はお寺に避難した人たちに改めて罠のかけ方や捕まえたイノシシやクマの処理方法、野菜の栽培方法を1週間ほど掛けてレクチャーしてから次の目的地である鹿児島へと向かった。

 その際に、五反田夫妻を中心にお寺の人達に見送られていた。お寺を見守っている守護霊たちも加わって。


「本当にありがとうございました。一刻も早く、探している石板が見つかることを願っています」

「ご武運を」


『我々も、ここにいる人たちを見守っていきます』

『せっかく平和になったのに、こんな現象のせいで苦しい思いもしてほしくありません』

『私は生前、電気会社に勤めていましたので、この現象が終わった時の為に電気の復旧方法を勉強させます』


 たくさんの人達、たくさんの守護霊たちに見送られながら俺達はお寺を後にした。



 その間に起ったことをザックリ言うと、西光は言うまでもなく追放された。町に放り出してもまた戻ってくるだろうから、由乃さんがこの町から遠く離れた死霊達も寄ってこない無人の村に放置した。

 その際、西光はものすごく騒いでいたらしい。錫杖も取り上げられ、電気が全く通っていない、水道は通っているが食料がないのだから騒ぐのはまだわかる。

 そんな西光に、由乃さんは簡単なサバイバル術や火の起こし方、安全な水の飲み方や必要なもの等、色々な説明が書かれた資料を渡した。それも、幼稚園児が見て分かりやすいようかわいらしいイラストメインで。

 それでも西光は、連れて帰れと言って騒いでいたと聞いた。まぁ、幼稚園児でも分かりやすい図解メインの資料と言っても、六法全書並みに分厚いのだから怠け者としては見るだけでも嫌なんだろう。

 だが、それを読まないとちゃんと生きられないのは事実。いつまでも嫌だとは言っていられない。

 そんな風に、西光を無人の村に放置して去っていった由乃さん。

 ちなみに、松北さんの錫杖については、最初はお寺に奉納しようとしていたのだが、五反田さんをはじめ多くの人の後押しもあってそのまま由乃さんが所持することになった。



 そんなこんなで、由乃さんは新しく錫杖をワゴンに積んで運転していた。


「いよいよ最後だな」

「ああ。出来ればこれで決着をつけたいが・・・・」

「同時に、最後の佐藤宗一さんがどんな人なのか不安になります」


 華々美と美玲が不安に感じるのも分かるし、俺も鹿児島の佐藤宗一がどんな人なのかを知るのが怖くなる。まぁ、こんな状況で生きているかもという期待は抱いていないし、生きている可能性は限りなくゼロに近い。

 そうなると、あとは霊滅版を見つけて回収するだけだ。そう思って割り切ることはできる。

 だけど、朝香はそれよりも不安なことがあるみたいだ。


「ああぁ・・・・憂鬱だ。鹿児島の佐藤宗一の家と仕事場がある町には、厳造さんの家と管理している岩崎神社がある。柚羽ちゃんならともかく、厳一さんや琴羽さんや愛羽さんも厳造さんに引けを取らないくらいに頑固で気難しい性格をしているからな・・・・」

「ゆずは?げんいち?ことは?まなは?」


 朝香の口から、聞いたことのない人の名前が出てきて俺達は頭に疑問符を浮かべていた。おそらく厳造さんの子供、彩羽さんの兄妹達なのだろう。というか、彩羽さんって今時珍しい5人兄妹だったんだな。兄と姉と妹がいるとは聞いていたけど、まさか5人兄妹だったとは思わなかった


「厳一さんは長男で、ボクのお兄ちゃんより7歳も年上だから今は27歳だったはず」


 長男ということは、厳一さんという人が岩崎家の次期党首ということになるのか。


「琴羽さんは厳一さんの妹、彩羽さんの2個上のお姉さんなんだ」


 2個上ということは、琴羽さんという人は今22歳か。


「三女の愛羽さんは、彩羽さんの1個下の妹で厳一さんや琴羽さんよりも輪をかけて酷い頑固者なんだよ。厳一さんや琴羽さんがマシに見える程に」


 彩羽さんや孝一さんよりも1個下ということは、俺や華々美と同い年の19歳か。涼とも同学年ではあるけど、誕生日の関係で彼女が1個下になる。

 そしてこの3人は、父親そっくりの昔気質の超が付くほどの頑固者であるのだろう。説明する際の朝香の顔が、ものすごく嫌そうであった。


「最後に、四女の柚羽ちゃんは今年15歳になる末っ子で、気難しいところはあるものの、他の身内に比べたらまだ話が分かる方ね。今もそうだという保証はもちろんないけど・・・・」


 四女の柚羽ちゃんは、まだマシだと言われるくらいには柔軟な考えが出来るのだろう。それにしても、今年15歳って一番上のお兄さんよりも一回り(12歳)も年が離れているのか。


「まぁ、厳造さんやおばさんを含めた5人は・・・いや、岩崎家は本家と分家共に頑固で厳しいから話が全く通じないんだよね。そんな中、彩羽さんみたいな人が生まれたのが奇跡だよ」


 次女の彩羽さん(20歳)は、そんな厳格な家とは無縁と言ってもいい程の現代っ子気質で、高校時代は髪をピンクに染めてギャルっぽく振舞っていたくらいだ。

 対して性格は、ギャルっぽい容姿とは裏腹にとても真面目な努力家で、最初は苦手だった料理や楽器の演奏も努力で克服し、今では得意になっている。その為、夫の孝一さんとの関係が良好なのはもちろん、義両親との仲もとても良い。

 このように、傍から見ればとても好印象で皆から好かれている彩羽さんなのだが、格式や昔からの伝統に拘る岩崎家にとっては問題児でもあり、家の決まりに逆らってばかりの異端児なのだろう。


「彩羽さんが最初、お兄ちゃんと婚約するんだという話が出た時も、向こうでは物凄い騒ぎだった。だって岩崎家では、三親等以上の親族との結婚が義務付けられているの」

「そんな中、岩崎とは血縁関係が全くない日口家に嫁ぐと言うんだからそりゃ騒ぐわな」

「わたしの父も厳格だったが、そこまで煩く言われなかったぞ」


 自分たちが恵まれていることを再確認し、俺と華々美は改めて朝香の話を聞いた。

 岩崎家では、昔からその血が薄れるのを避けるために三親等以上の親族との婚姻が現在も行われている。具体的に言うと、分家の中から現当主の三親等以上の人間と自分の子供を結婚させるという風習があるのだという。時代錯誤も甚だしい血統主義が、今も根付いているのだ。

 彩羽さんにも当初、父親が指名しようとした婚約者がいたみたいなのだが、彩羽さん自身がそれを蹴って孝一さんと結婚するんだと言ったものだから、当時の岩崎家はかなり騒いでいたし彩羽さんと岩崎家との関係もかなり悪くなっていたという。

 そんな中、孝介さんの説得と、孝一さんの熱心な説得によって彩羽さんは15歳の誕生日と共に無事に孝一さんと婚約できたのだという。名目上は、両家との繋がりを強固なものにするということになっているが。

 事実はそんな事は全くなく、彩羽さんは今後一切実家の敷居を跨ぐことは許されなくなり、実家との縁を切られたも同然の状態になってしまったのだ。言うなれば、体よく家を追い出されたのだ。


「大変だったんだな」

「うん。でも、ボクやお兄ちゃんからすれば、彩羽さんをあんな家から切り離すことが出来て良かったと思っている。その時も、お兄ちゃんたちと一緒に岩崎家の説得をしてくれたのも、当時まだ9歳だった柚羽ちゃんだったんだ」

「なんか不安になってきたな。それはそうと、15歳の誕生日と共にと言っていたが、15歳の誕生日を迎えると同時に親が指定した相手との婚約が成立するのか?」


 華々美のふとした疑問に、朝香は静かにうんと頷いた。ということは、岩崎家では15歳になると男女ともに結婚する相手を決められるのか。


「それだけじゃなくて、18歳になると、現代では高校を卒業してすぐに籍を入れて結婚するんだ」

「まだ10代のうちに!?ちょっと待て!今は令和だぞ!女性の尊厳や多様性に厳しいこのご時世に、そんな前時代的な思考がまかり通っているのか!?」

「とことん時代に取り残された一族だ」


 華々美の言う通り、確かになくはないのかもしれないが令和のこの時代ではとても考えられなかった。

 というか、15歳で婚約というのにもビックリなのに、18歳で結婚させられるなんて本当に何時の時代の人間なんだよ。

 更に詳しく聞くと、岩崎家の女性は大学進学も就職も許されず結婚後は専業主婦にならなければならず、二十歳までに第一子を産まないといけないのだ。これ、絶対に女性差別になるぞ。


「とまぁ、そんな家だからボクたちの家との関係もかなり悪いんだ。それでも、空道家よりはマシだった」

「流石に空道以上って訳ではなかったんだな」


 それでも、岩崎家があまりいい印象を持たれておらず、事実日口家は瀧倉家とは良好な関係を築けているけど、岩崎家と空道家とは余程大事な行事がない限りは関わろうとはしなかったという。

 そんな時、運転中の里美から朝香にふとした疑問を投げかけた。


「そういえば、岩崎家の女性は高校を卒業したらすぐに結婚して、大学進学も就職も出来ないのでしょ。だったら、家業のお祓いや悪霊退治の為の修業も受けさせてもらえないの?」


 言われてみれば、彩羽さんは術を使えるし悪霊と戦うことが出来る。高校卒業後は強制的に専業主婦になるのなら、そういう修行を受ける必要があるのだろうか?


「まぁ、専業主婦になるのなら修行なんていらないよなってなるけど、そうもいかないの。念力を持つ者の伴侶がただの人間では示しがつかない、ということで女性もきちんと修行を受けさせるんだ。どこより血が濃いから、岩崎家の人間は高確率で強い念力と霊力を宿して生まれるんだけどね」


 その実例なら、俺達の身近にいる。今この場にはいないが、屋敷にいる絵里奈がそうだ。あの子も、生まれた時に強い念力を宿して生まれてしまったせいで、新潟のアイツに執拗に狙われた。

 岩崎家では、生まれた子供は高確率で強い念力を宿す。そのために、夫だけでなく妻も我が子を守れるようにならないといけないから、将来専業主婦になるのが決まっていても修業は受けないといけないのか。


「と言っても、彩羽さんだけは小さいころからあんな感じだったからまともな修行も受けさせてもらえず、陰陽師としての本格的な修業はうちに来てから受けたんだ。たった3年であんなに強くなれるんだから、本当にすごい人だよ」

「「・・・・・」」


 なんだろう。もしかして彩羽さんって、実は物凄い才能の持ち主だったのではないだろうか?それこそ、歴代最強になれるほどのとんでもない逸材だったのだろう。厳造さんは、実はすごく惜しいことをしてしまったのかもしれない。


「さて、これ以上話しても仕方ない。というかもうこれ以上話したくない。あの家と関わってもろくなことはない。だから向こうに着いたら、霊滅版の有無だけ調べたら速攻で帰ろう」

「そうだな。ここまで長い話を聞いて、改めて関わりたくない家だなって思った」

「わたしもそれに賛成だ」

「その方がいいわね。同じ人間同士であっても、話の通じない人というのは存在するもの。そんな家とは、本当に必要な時以外関わらないほうがいい」


 朝香の提案に、この場にいる全員が賛同してくれた。

 前時代的思考には辟易したが、それでも事前に岩崎家という家がどういう家なのかを予習することが出来て良かったと思う。


(とはいえ、ドローンを飛ばせば必然的に俺達のことが向こうに知られるだろうし、慎重に行動しないといけないな)


 鹿児島に着いた後のことをいろいろとイメージし、俺達は途中で野宿しながら鹿児島に向けて車を走らせるのであった。





作者は決して女性差別をするつもりなんてありませんので、ご理解のほどよろしくお願いいたします。

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