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霊媒師・影山由乃

 次の日の朝に、両手を縛った状態でアイツを監禁した倉庫の前まで連れてきて尋問を行った。ちなみに、アイツが武器に使っていた錫杖は取り上げられ、現在は由乃さんが管理している。


「おい!俺の錫杖を返せよ!」

「何言ってんだ。あの錫杖はお前の物ではないだろ。それに、錫杖は棍棒でも槍でもないんだから、お前の間違った使い方をされては松北さんも浮かばれない」

「黙れ!俺は王なんだよ!王の命令は絶対なんだ!黙って俺の言うことだけを聞け!」

「こんな目に遭っても尚、まだ反省しないのか?」

「はぁ!?なんでこの俺が反省しなくちゃいけないんだ!」

「お前もいい加減、無意味な虚勢を張るのはやめろ。そんなことしたって何の意味もないし、お前の人間性の薄さを露呈するだけだ」


 由乃さんには怯えたように縮み上がり、ヘコヘコしていて逆らおうとはしない。

 だが、相手が俺だと自分が下に見られないようにする為に虚勢を張って自分が強いことを声高に主張する。

 その後も何か吠えているみたいだが、そのどれもが自分がいかに偉い存在なのかを、いかに自分が特別な存在なのかを必要以上に説いていた。

 だが、そのどれもが自分勝手な内容ばかりで、聞いているだけでも腹が立った。


「おい聞いてんのか!」

「うっせぇな!」


 これ以上聞いていられなかった事と、こちらが下手に出ると調子に乗って虚勢を張るこの男には、力により制裁と上からの圧力が必要だ。

 そう結論付けた俺は、西光の胸倉を掴み上げると勢いよく物置の壁に叩きつけた。


「いい加減にしないと、死霊共ではなく俺達がテメェを殺すぞ」

「い、いいのかよそんなことをして!?お、俺という貴重な存在を失うことは、この町にとって、いやこの国にとって大きな損失になるんだぞ!」

「実際には何も出来ねぇクズが偉そうに言うな!テメェなんかいなくても、こっちには涼たち以外にもあと5人も陰陽師の知り合いがいるんだよ」

「ご、5人も!?」

「そうだよ。だからテメェみたいな、そこら辺に転がっている石ころ同然のカスが偉そうに吠えるな!」

「あああ・・・・・」


 完全に震え上がった西光は、涙を流しながら失禁してその場にしゃがみこんだ。


「本当に情けない男だな。テメェの親が更生を願ってここに送り込んだのも頷ける」

「なんなんだよ!何でそんなこと言うんだ!バカなのは俺の爺ちゃんと親父の方なんだよ!良成の爺さんはチョーがつくほどの金持ちで、その人の所で生まれてれば俺は今頃、学校にも仕事にも行かずに一生遊んで暮らすことが出来たというのに!その地位を自ら放棄して平民に成り下がり、援助も一切断るようなクソみたいな爺と親の下で生まれた俺の不幸が分かんねぇのか!?」

「分かるわけねぇだろ、このクソニートが」


 最初から親の金だけを当てにして、自分はダラダラ遊んで暮らすことしか考えないダメ人間。親が亡くなった後のことなんて一切考えず、今楽しくて幸せならその後のことなんて全然考えられていない。

 確かに、不登校になる理由は人それぞれあるのだけど、この男の場合はただ勉強するのが嫌だ、学校に行くのが嫌だ、働くのが嫌だ、働くことなく一生ダラダラ遊んで暮らしていきたいという願望が強すぎるのだ。しまいには、鼻くそをほじくるだけで大金が手に入るような暮らしがしたいという、本気でそんなことを考えるようなクソみたいな怠け者になってしまった。

 ご両親も良成さんもこんなニートを最後まで見捨てず、良成さんよりも更に厳しい松北さんの所に送り込んで、きちんと更生してまともな人間にさせるという希望を最後まで捨てなかった。

 それなのに、目の前で喚いているこの男はそんな家族と元師匠の思いを汚い足で踏みにじり、ここにいる人たちを苦しめ、たくさんの避難してきた人を見殺しにして死なせた。


「お前はとんだ親不孝者だな」

「おい!待てよ!」


 西光を無視して俺は、皆と一緒に朝食の準備を進めた。


(アイツのお爺さんが、お兄さんである良成さんの援助を断ったのは、良成さんに頼りきりになるのではなくきちんと自立して、金持ちではなくても普通に生活できるようにたくさん努力しようとしたからだと思う。由乃さんの話を聞く限りでは、決して良成さんの家族との関係が悪いわけではなさそうだ)


「そんな立派なお爺さんとお父さんを持っておきながら、なんであの男はあんな怠け者で臆病な奴に育ってしまったのだろう?」


 不思議に思っていると、何やら本殿の前から騒ぐ声が聞こえたので俺は急いでそこに向かった。


「またアイツ等が来たんだ!あの悪霊共が来たんだ!これは俺の優秀さを見せつけるいい機会だ!」


 何やら西光がいきっているが、こんな日中に悪霊が白昼堂々、しかも死霊が容易に入り込めないお寺に入ってこらえるのだろうか?

 走ろうとする西光を縛っている縄を引っ張り、この馬鹿が先走らないように制止させた。


「おい!何で止めるんだよ!」

「確かに悪霊なら寺(ここ)に入る可能性はあるが、快晴の早朝から外に出てここに来ることはない。アイツ等は太陽光を浴びると消滅するから」

「偉そうに語るな!お前の常識の範囲内で語るな!」

「全部涼からの受け売りだ。俺自身の知識ではないことも認めるが、お前なんかよりも詳しいと思っている」


 先走る西光を制止させ、俺達は本殿前へと足を運んだ。

 そこでは、軍服を着た人や現代的な洋服を着た霊がいた。顔から生気が感じられないことから、彼らが幽霊であることは間違いない。

 だけど、彼らからは穏やかな雰囲気を感じる。

 だけど、ここに避難している人たちは全員が目の前で死霊達が人を襲う瞬間を見たことがあり、有害無害関係なく幽霊を極端に怖がるようになるのも無理ない。


「やはりお前等か!今日こそこの俺が!」

「引っ込んでろ」


 突っ走りそうになっている西光を抑え込み、騒いでいる皆の間を割って涼と由乃さんと朝香が前に出てきた。


「引っ込んでろよ!あの悪霊共を倒すのはこの俺なんだよ!」

「あれは悪霊ではないぞ」

「はあぁ!?何言ってんだ!戦没者の幽霊までいるんだぞ!何で悪霊ではないって言いきれるんだよ!」


 喚いている西光を皆が無視して、涼と由乃さんと朝香の方を注目した。確かに、集まってここに来た幽霊たちの大半が太平洋戦争時代の服装と軍服を着た霊もいるが、だからと言って悪い霊だと決めつけるのはよくない。

 そんなことを、ここに避難してきた人たちには分からないから、怖がるなというのは無理だが、涼たちがあんなに落ち着いているのだから絶対に大丈夫だ。


「喋れないのかしら?おそらく、この現象のせいね。死霊にならないように必死になっているのかしら?」

「そうだね。すごく辛そうにしている」


 涼と朝香は、すぐにでも彼らを成仏させてあげようとしているが、由乃さんが2人を制止させた。


「少し待ってください。日の光のおかげで、彼等が悪霊化する心配はありませんが、それでも長くは持ちません。ですが、それは彼等が私たちに伝えたいことを聞いてからでも良いです」


 そう言って由乃さんは、カバンから数珠を取り出して両手を合わせて念仏を唱えた。

 すぐに退治してくれるだろうと思っていた生存者達は、そんな由乃さんの行動を不思議そうに眺めていた。


「姐さんは一体何をしているんだ?」

「おそらく、彼等の意思を読み取って、俺たちに何を伝えたがっているのかを聞いているんだ」

「何でそんな面倒なことするんだ?」

「それが由乃さんの、霊媒師の本分だから」


 涼や朝香とまとめて陰陽師と呼んでいるけど、由乃さんの本職は保育士であり霊媒師なのだ。霊とコンタクトを取って、その霊のメッセージを生者に伝える。それが、霊媒師である由乃さんの本来の役目なのだ。


「涼と朝香と一緒に戦えるからつい忘れがちになるが、由乃さんは本来霊が俺達に伝えたいことを、自分を通して他の人に伝える方が得意なんだよ」

「こんな状況下で、良い幽霊なんているわけないだろ」

「決めつけだ」


 気持ちは分からないこともないし、空を漂っていた浮遊霊たちが徐々に死霊化して生者を襲うようになってきているのだから、西光の言いたいことも分からなくもない。

 けど、それでもいい幽霊は今もいるのだと俺は思っている。

 しばらくすると、由乃さんは微笑んで彼らに視線を向けた。


「ありがとうございます。貴方方のご意思は、私が必ずお伝えいたします」


 由乃さんのその言葉を聞いた後、彼等は優しい表情を浮かべて心底安心しきった顔をした。

 困惑する生存者達の方を向いて、由乃さんはたった今彼等から伝わった意志を伝えた。


「彼等は無害の霊です。私達に伝えたいことがあるためにここに来たのです」

「伝えたいこと、ですか?」


 生存者達を代表して、健司さんが由乃さんに尋ねた。


「まず彼等は、戦争や原爆で命を落とした人たちの霊が大半を占め、他にもここに避難していた人の親や兄弟姉妹などの霊です。彼等は死霊にならずに、ここに留まってずっと皆を守ってくれた良い霊なのです」

「守ってくれたって、この幽霊たちは守護霊なのですか?」


 五反田の問いかけに、由乃さんは静かに首を横に振った。


「元々は、この地で生まれ育った子孫たちを見守ってきた普通の幽霊だったのです。しかし、この現象が起こって多くの霊が見えるようになり、見守っていた子孫たちが大勢命を落としたこの現状に心を痛めていて、自分たちの出来うる限りの手段で生き残ったあなた達を守ってきたのです」


(なるほど。だからあの幽霊たちは、太陽の光を浴びても消滅しないのだな。守護霊をはじめとした良い霊は、悪霊みたいな悪い霊とは逆で太陽の光が大好きで、そういった霊にとってはエネルギーになっている)


 更に話を聞くと、彼らが喋らないのはここにいるある人物を狙って入り込もうとする怨念集合体に、自分たちの存在がバレないようにする為であって、決して死霊化しかかっているのではなかった。


(ごめんなさい。失礼なことを想像してしまって)


 そんな怨念集合体からここの人達を守るために何度も来たが、何を勘違いしたのか王様気取りでいた西光によって何人か消滅させられ、その間に怨念集合体の数はどんどん増えていっているのだという。

 そんな彼等の意思を聞いた生存者達は、勘違いとはいえ彼等を何度も追い返そうとしたことを後悔したのか、ずっと黙って俯いたままでいた。


「その、申し訳ありません。貴方方が、ずっと私たちを守ってくれていたとは知らずに怖がって。そのせいで西光は更に調子に乗って、多くの人の命を失わせてしまいました」


 生存者達を代表して、健司さんが彼等に深々と頭を下げて謝罪をした。そんな健司さんに続いて、他の生存者達も一斉に頭を下げて謝罪した。


『もういいのです。こうして伝えることが出来たのです』


 ようやく伝えることが出来た安心感からなのか、彼等を代表して白衣を着た40歳くらいの男性が前に出て言葉を発した。その男性の顔には見覚えがあった。と言っても、その顔を見たのはSNSでなのだが。


「そう言って貰えると幸いです。それよりも、こっちに来い英二!」


 突然の怒声にビックリしたが、ビビっている西光を連れて俺は由乃さんの所へと歩いて行った。西光は逃げようとしていたが、このまま逃がしてはいけない気がしたので、この男を縛っている縄を引っ張って強引に連れてきた。


「離せよ!俺はこんな所で生贄になるようなマヌケじゃないんだよ!」

「マヌケじゃない代わりに、救いようのないレベルの大バカ者だがな」

「誰がバカなんだ!」

「黙れ!」

「ひいぃ!?」


 由乃さんの「黙れ」の一言で、西光は涙を浮かべながらしりもちをついて怯えていた。


(ちなみに、俺もさっきの怒声にはビビりました)


 なぜ連れて来られたのかも分からない西光だが、俺はさっきの話を聞く限りだとその理由には想像がつく。そしてそれは、俺だけではなかった。


「姐さん、俺を生贄にしないよな?」

「ああぁ?テメェは私の話を聞いてなかったのか?彼等は、テメェのせいで生み出された怨念集合体からずっとこのお寺と、そこに避難してきた人たちをずっと守ってきたんだぞ」

「ま、守ったって・・・・え?ちょっと待ってよ。俺のせいで生み出されたって」

「そうだよ。松北さんがなくなって、暴走したテメェへの恨みから生まれた怨念が集まって、あの都市伝説の化け物のような怨念集合体を生み出した。英二にとってはいかに自分が偉いかを誇示したつもりかもしれんが、テメェのせいでここにいる人たちが苦しみ、命の危機にさらされているんだよ」

「は、はあぁ!?」


 本人にとっては衝撃的な内容に、西光は驚愕している様子であった。尤も、西光以外全員は分かったみたいであまり驚かなかった。


「つまり、悪霊のせいではなく、全部テメェのせいで起こったってことなんだよ!動きたくない、働きたくない、面倒なことはしたくない、楽に過ごしたい、けれど自分が下に見られたくない、そんなテメェの怠惰と努力を極端に嫌う性格が災いを招いたんだよ!」


 聞きたくもない事実に、西光は完全に意気消沈し、虚勢を張ることも出来なくなっていた。


「ったく!これじゃ、おじさんやおばさんに申し訳が立たない。アンタの更生を期待して松北さんの所に送ったのに、お前は全く更生することもなく益々酷くなっている」


 西光のご両親の思いを考えると、本当にこの男はどうしようもないほどの親不孝者でもあり、努力することを極端に嫌う究極の怠け者だ。怠惰の化身と言っても過言ではない。

 そんな怠惰の化身の西光は、由乃さんに散々怒られた後放心状態となりその後はいくら声をかけても全く反応しなくなった。





という訳で、広島では「怠惰」をテーマにしましたが、それは怠惰な悪霊が悪さをしているのではなく、たった一人の怠惰な生きた人間が引き起こした災厄となっています。

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