生存者との交流 広島
調査を終えて撤収した俺達は、2台の車を里美と涼に任せて俺達は西光の取り巻きの案内で松北さんのお寺まで歩いて行っていた。それに文句を言ったのは、もちろん西光であった。
「なんで俺が歩きなんだよ!俺は車で送ってもらうべきなんじゃないの!」
「黙れ怠け者」
「ううぅ・・・・」
流石の西光も、由乃さんが相手では虚勢を張ることも出来ずに大人しくなっていた。そんな無様な西光を見て、取り巻き2人も隠す様子もなくガッカリしていた。
しばらくして、飛んできたドローンに必死でアピールしていた人たちとも合流し、何故か拘束されていた西光を不思議そうに眺めていた。
「なんで、なんでこんな目に・・・・」
「ああぁ!?」
「いえ、何でもありません!」
姉弟子の登場によってすっかり勢いをなくし、これ以上ないくらいの屈辱を味わうことになった西光。まぁ、由乃さんのことを「姐さん」と呼んで恐れるくらいだから逆らえる訳がない。
「西光さんって、実は大したことなかったの?」
「めちゃくちゃダサかった」
「由乃の姐様に圧倒されて格好悪かった」
「由乃姐様のほうが格好良かった」
由乃さんがいつの間にか「姐様」と呼ばれて、俺らは生存者たちから羨望の眼差しを受けることになった。
一方の本人は、触れられたくない黒歴史に土足で踏み込まれて今にも発狂しそうになっていた。顔まで真っ赤になっている。
「由乃さん、お気の毒に」
「まぁ、由乃さんのおかげで余計ないざこざは防げたんだし、ヤンキー由乃に感謝だ」
「朝香ちゃん、ヤンキー由乃って呼ばないで♪」
笑顔だが、ドス黒いオーラを放つ由乃さんに朝香が、引きつった笑顔で額から汗を流して怯えるのであった。「ヤンキー由乃」は、この日を最後に二度と口にしてはならない禁句となった。
その後も、お寺に避難している人たちと合流を果たし、全員で松北さんのお寺に到着した。お寺では既に、里美と涼が避難した人全員に食事をふるまっていた。
「たくさん食べなさい。猪肉と熊肉もたくさん用意してあるから」
「家庭菜園レベルだけど、野菜がたくさんあってよかったわ」
大阪で調達した熊とイノシシの肉と、このお寺で栽培された野菜で作られた料理を美味しそうに食べる避難した人たち。ざっと見で30人ちょっとで、合流した人たちを含めると50人弱というなかなかの大所帯であった。
「少し早いけど、昼食にしようか」
「ああ」
「そうね。英二は手を縛ってだけど」
「なんでだよ」
手を縛られたまま食べるのに不満を吐く西光だが、お前の罪状を考えると仕方のないことだ。
ここにいる人たちを見て分かったが、50人弱というのは15歳以上の男女のことを言っていて、1歳以下の子供も含めると60人くらいになる。
15歳以上は西光以外全員が、ガリガリと言うほどではないがかなり瘦せ細っていて、赤ちゃんたちも少し元気がないように思えた。それを考えると、戸村さん達は本当によく自分たちの子供を守っていたなと思うくらいに。
そしてすぐに、その原因が分かった。
「おい!もっと飯よこせよ!」
「でも・・・」
「いいからよこせ!俺がリーダーなんだよ!」
「やめろ!これはあの子の分なんだぞ」
「うるせぇ五反田!この俺に指図するな底辺が!」
全く反省していない西光は、懲りずにこの中で一番年下の子からご飯を横取りしようとして、それを五反田さんという人が止めようとしてくれているが、西光はそれを聞き入れようとはしなかった。見かねた由乃さんが、西光の髪の毛をつかんで脅してきた。
「黙れごく潰し!それ以上騒ぐなら、飯を取り上げるぞ!」
「だが、ここのリーダーは!」
「ああぁ!?」
「い、いえ、何でもありません!」
近くの生存者からご飯を強奪しようとする西光を見て、コイツが普段から周りの人から食べ物を奪って自分だけがお腹一杯になるまで食べるということをしていて、それを五反田さんという人が止めるというのがこのお寺ではよく起こっていたのだろう。
そのせいなのか、五反田さんの言うことを聞かない西光の、あまりにも横暴な行動のせいで避難した人たちが日々お腹を空かせているのだと分かった。
今回は、由乃さんが西光を止めたおかげで何とかなったが、怒られた西光は不満そうであった。とはいえ、王様気取りの西光も元ヤンで地元でもかなり恐れられていた由乃さんには逆らえず、ドスの効いた声で脅されると何も出来ないみたいだ。
「とことん自分に甘い男だ。その弛んだ腹を見ればわかる。他人に働かせて、自分は安全な所でぬくぬくと過ごしてるだろ」
「それの何がいけないんだよ!俺はここのリーダーであり、王様なんだから好きなように暮らして何が悪いっていうんだよ!」
「お前は本当に、救いようがないレベルの怠け者だな。ただ働きたくないだけだろ」
「王様の俺が働くこと自体が間違いだろ!」
「さっきから聞いてれば、テメェのどこが王様だぁ?戯言をぬかすな!テメェなんざ、出てきてすぐに殺されるスライム以下の弱者なんだよ」
「はあぁ!?誰がスライムだって!」
「やんのか?リンチすんぞ」
「うううぅ・・・」
「リンチごときではぬるい。手足に2~3発銃弾を撃ち込んだ上に、縛って吊し上げでもしないとダメだって」
「華々美、物騒なことはしないで」
ましてや、拳銃を取り出して西光を威嚇しないで。西光だけじゃなく、避難している人全員が怯えちゃっているぞ。しかも、拳銃を持っている時点で華々美がその筋の人間だっていうことが知られることになったし。
ただ、西光を大人しくさせるには十分みたいで、完全に縮み上がっていた。同時に、俺達に逆らうと命の危機にあると思ったみたいだ。
「遺憾だ」
「放っておいてください。私たちがその筋の人間だという印象を持たせた方が、あの男も何もしてこないと思います」
「んん・・・・・」
美玲はあまり気にしていない様子だけど、俺はあまり華々美と同類の人間だと思われたくない。そんな人間相手に対等に接している俺も大概だけど・・・・・。
(まぁ、どの道西光がこの先も王様気取りでいられることはもうないだろう)
西光自身は諦めていない様子だが、あの男の正体がバレた今はもう好き勝手に過ごすことはできない。何故なら、由乃さんや華々美に委縮して怯えまくっている西光はどうしようもなく格好悪く、姉弟子の由乃さんによって実は知識も力も何もない普通の人間だということもバレた。その証拠に、周りにいる人たちの西光を見る目が明らかに冷ややかになっていた。
その後、俺達はこの町の状況を知るために西光の横暴から弱い人を庇った五反田さんと奥さんらしき女性から話を聞くことにした。
ちなみに西光は、これまでのお仕置きもかねて本殿近くの物置の中に閉じ込められた。出せと騒いでいるみたいだが、夕方まで閉じ込めておくように皆には通達してあるため、泣こうが喚こうが誰にも相手にされなくなった。
「改めて、助けていただきありがとうございます。まずは自己紹介から、私は五反田健司と言います。彼女は妻のノアと言います」
「妻と言っても、席を入れたのは去年です。この子を授かったことをきっかけに、籍を入れることを決めました」
そういってノアさんは、抱っこしている男の子に視線を向けた。名前は健斗というそうで、健司さんとの間に生まれた生後5か月の赤ちゃん。
健斗君は、俺達に興味津々なのかずっとこちらを見つめていた。
「健斗君。君は健司さん達に守られて健康に育っているみたいだね」
「と言っても、つい最近までいたノアのお母さんのアドバイスのたまもので、私達だけの力ではありません」
「はい。私と健太も、まさか10代で子供を授かるなんて思ってもいませんでした」
驚くことに、五反田夫妻の年齢は俺達よりも年下の16歳だというのだ。それでいてとてもしっかりとしていて、西光の横暴から弱い立場の人たちを守っていてくれていたのだというのだ。
(てっきり俺達よりも年上だと思った・・・・恥ずかしい)
俺だけじゃなく、一緒に話を聞いていた華々美と涼も驚きのあまり言葉も出なかった。
由乃さんには、子供たちの健康状態のチェックとケアをお願いした。里美と美玲と朝香は、畑の作物の栽培と、イノシシの捕まえ方と解体についてアドバイスをしてくれていた。
「その、ノアさんのお母様は今?」
「西光に逆らったとして、見せしめとして夜の町に放り出されました」
「お義母さんの遺体を見つけた時、私は西光に対してどうしようもない怒りを覚えました」
「・・・・すみません」
「いえ、気にしないでください。今までは、悪霊たちに対抗できる唯一の人間ということで無下に出来ませんでしたが、実際は何の力も知識もない普通の人間と分かった以上もう容赦しません」
「母は松北さんと共に西光に反抗していましたが、松北さんが悪霊から私たちを守る為に亡くなってからはもう歯止めが利かなくなり、鹿森と共に好き放題に過ごしていました」
「酷いな」
まぁ、鹿森に関しては戸村さんを追いかけているうちに犬神にとり憑かれてしまい、その代償として命を落としてしまった。そのことを2人に話すと、鹿森が死んだことよりも戸村さん達が生きていて、俺達のグループに入って今も生きていることに安堵していた。
「あの3人が出ていくと聞いた時は流石に驚きましたが、あの時の西光と鹿森の横暴っぷりには皆苦しんできましたし、鹿森は自分の子供には全く関心がなく、危険な目に遭っても見て見ぬふりを決め込むようなクズでしたし無理もありません」
「亡くなった人に言うことではないかもしれないけど、あんな男なんて死んでくれた方がよかったです。それはそうと、亜美ちゃんと俊君、茜ちゃんと葵ちゃんは元気でしょうか?」
「4人とも元気です。向こうには、医者が2人と見習いが2人もいますし、別グループですが60以上もの子供の世話をしている人もいますので、その人からアドバイスも貰っていますので元気に育っています」
「そうですか」
「よかった」
2人とも心から安堵し、ノアさんは健斗君を抱きしめていた。
その後は、お互いの避難場所での生活と状況について語り合った。聞いているうちに、この2年の間に五反田さん達がどれだけ大変な思いをしてきたのかが分かり、その原因となっている西光と鹿森に対する強い怒りを覚えた。尤も、鹿森に関しては既に死んでいるけど。
まず、この現象が起こった当初はこのお寺には100人以上もの人が避難していて、松北さんが皆の指揮を執ってくれていた。
(敷地面積も広く、とても大きなお寺だからそのくらいの人がいても不思議ではない)
だけど、現象が起こって半年後にものすごく危険な悪霊がこの寺に攻め込んできて、松北さんはその悪霊との戦いで命を落とした。悪霊は、松北さんの決死の攻撃により無事に消滅させることが出来たのだという。
それは同時に、これから起こる地獄の日々の始まりでもあった。
手綱を握る相手がいなくなり、歯止めが利かなくなった西光と鹿森の独裁政治が始まったのだ。自分に反抗的な態度を持った人は夜の町に放り出され、食料調達の度に最大5人もの人が命を落とし、更に若い女の子には2人の夜の相手を強要されてしまうという毎日を送った。
ちなみに、ノアさんの息子の健斗君は健太さんとの間に生まれた子供で間違いない。あんな2人に手を出されるくらいなら、3年前から付き合っていた健太さんがいいということで関係を持ったという。変な所で潔癖症な2人は、既に健太さんのお手付きになったノアさんには指一本触れようとはしなかったが、代わりに西光と鹿森から酷い冷遇を受けたのだという。
「ということは、ここにいる子供たちは健斗君以外全員が?」
「いいえ。私以外にも何人か別の男性と関係を持ち、子供を産んでいる人がいます。鹿森との子供は大半が命を落とし、今ここに残っている鹿森の子は3人だけです」
「最低だな」
しかもその死因が、悪霊に襲われてではなく、父親である鹿森と西光のストレス発散の為の虐待が原因だという。マジで鹿森は、死んでくれて良かったと思う。そりゃ、あの3人が自分の子供の安全のために逃げ出すわと思った。
だが、その鹿森までもが抜けたことで西光は更に調子に乗ることになり、師匠である松北さんの錫杖を使って入ってきた悪霊を片っ端から倒していき、それによって完全に天狗になってしまい今のような王様気取りの態度を取るようになったのだという。
「大変だったんですね」
そんな環境でありながら、この寺の守護の力がなくならずに済んでいるのは、おそらく五反田夫妻のお陰なのかもしれないな。
「はい。ま、西光が実は大したことのない人間と分かった以上、こちらももう遠慮することはなくなりました。次にまたあんな態度を取ったら、今度は西光をこの寺から追い出します」
「それが賢明だ。あぁいう男は、自分が組織のトップじゃないと気が済まないからな。これ以上傍に置いても害悪でしかない」
華々美の言う通り。西光は怠け者でありながら、典型的な王様気質の人間だ。だがそれも、平凡で何の力も持たない自分を隠すための虚勢であり、1人では何にも出来ない甘ったれでもあり、汗水垂らして努力することを嫌うニート。それが、西光英二という人間なのだ。
それから俺達は、ここに来た目的を五反田夫妻に話し、俺達が出た後もちゃんと暮らしていけるように知識も与えることを約束した。
また帰るのが遅くなって、絵里奈に怒られるかもしれない。だけど、ここにもたくさんの人が避難していて、しかもまだおむつも取れていない赤ちゃんがたくさんいることも知ったので、何もしないで出ていくわけにもいかない。
今後も良好な関係を築いていきたいので、必要な知識は全て教えていきたい。




