↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
91/125

嘆く怠け者

 憂鬱な気持ちのまま朝を迎え、俺達はドローンを飛ばす準備を進めた。


「幹夫、あんた昨夜はちゃんと眠れたの?華々美もなんだか眠そうにしているし」

「あんな状況でぐっすり寝られる里美の神経の図太さに脱帽だぜ」

「ん?」


 本当に何も知らないのか、キョトンとする里美を無視して俺は生存者がどのくらいいるのかを確認するために、里美は佐藤宗一の家と研究所を調べる為にドローンを飛ばした。

 飛ばしてみて分かったが、昨夜遭遇した怨念集合体と同種の怪物が建物の中に避難していた死霊達を食っているのが、俺の飛ばしたドローンに映し出されていた。


(昨日抱いていた違和感の正体はこれだったのか)


 正確には食っているのではなく、魂を取り込んで更に力を増しているのだ。

 それ以外に目立った収穫はない、と思ってドローンを移動させようとするとボロボロの服を着た何人かの男女が駆けつけてきて、自分たちの存在をアピールするかのように大きく手を振った。声を上げないのは、おそらく西光英二に見つからないようにしているのだろう。


(普通なら声を荒らげるけど、それをやらないってことは)


「よう!まさか外から生存者がわざわざ来てくれるなんて、思いもしなかったよ!」


 彼らにドローンを近づける前に、俺達は図々しく近づいてきた男の声に反応してそっちのほうを向いた。全員ではなく、涼と由乃さんと朝香だけは男に背を向けていた。

 そして、その男の顔には見覚えがあった。昨日町を散策している時と、怪物を倒した時に見えた記憶に映し出されたあの男であった。まさか、向こうからこっちに来るなんて思ってもみなかったが。


「ほおぉ。なかなかに綺麗な女たちばかりだな、男もいるみたいだけど」

「何の用だ?」


 相手の上から目線の喋り方に、俺は不快感を隠すことなく用件を聞いた。


「おいおい。目上の人間に対する態度がなってないな。俺はこの世界において数少ない、幽霊どもと戦う力を持ったエリート陰陽師の西光(さいこう)英二(えいじ)様なんだよ」


 自身のことをエリートなどと言って大きく見せて、いかに自分が偉い存在なんだということを声高にアピールする西光英二。


「あ、そう。だから何だってんだ。邪魔だからどっか行け」

「なんだよ。俺に向かってそんな態度を取っていいと思ってんのか?おい!」


 俺のぞんざいな態度に腹を立てたのか、取り巻きの男子たちに命令を出す西光英二。

 だが、それもあの人が声を上げたことでその伸び切った鼻を根元からへし折られることになった。


「随分と偉そうなこと言うね。怠け者の無能のくせに」

「ああぁ!?誰が怠け者の無能だ!?俺の真のすごさを知らないで!」

「何の力も持たず、修行もさぼって怠けるだけの愚図が偉そうにほざくな!」

「ひいぃ!?」


 いよいよ我慢の限界と言わんばかりに振り替える由乃さんを見て、西光英二の勢いは一気に弱くなっていき、先ほどまでの威勢はどこに行ったのか途端に怯えだす西光英二。


「西光さん?」

「どうしたんですか?」


 訳が分からず困惑する取り巻き達を無視して、由乃さんは鬼のような形相で西光に近づき、胸ぐらをつかみ上げた。完全に元ヤン時代の口調と雰囲気になっていた。


「力も知識も何もない正真正銘の無能であるテメェが、何偉そうにしてんだよ、英二!」

「ゆゆゆ、由乃姐さん!?」

「し、知り合いですか?」

「コイツは私の弟弟子だよ!コイツが東京にいた時のな!」

「「ええっ!?」」


 まさかの姉弟子の登場に驚く取り巻き。

 そんな取り巻きを無視して、由乃さんは不出来な弟弟子に凄んでいた。


「何がエリートだ!修行も座学もさぼって何もしてこなかったテメェのどこがだぁ!?」

「だだ、だって俺はこの町唯一の陰陽師だし!」

「聞こえなかったのか!力も知識もないテメェの、何処がエリート陰陽師なんだ!?」

「ひいぃ!?」

「だいたいテメェがここにいるのは、破門されてその腐った根性を叩き直させるために松北さんの所に送りこまれただけだろうが!ここでは陰陽師としての修業は受けさせてもらえず!」

「ねね、姐さん!それだけは言わな」

「まだ何か言うことでもあんのか、このごく潰し!」

「あああ・・・・・」


 すっかり勢いを失った西光を見て、それまで信頼していたであろう取り巻き達の視線が懐疑的なものへと変わっていった。


「そもそも、アンタ自分が破門されて飛ばされたという自覚が全くないでしょ」

「自覚できるような奴が、ボクのお兄ちゃんに決闘を挑むなんて馬鹿なことする訳ないよな」

「げげ!?瀧倉(たきくら)涼(りょう)に、日口(ひぐち)朝香(あさか)まで!?」

「久しぶりだね、ぐうたらダメ男」

「ボクは二度と会いたくなかったけどね」


 どうやら、涼と朝香のことも覚えていたみたいで、振り返った2人の顔を見たことで西光の顔が更に絶望に染まった。


「知らないわけないよな。2人ともお前と面識がある上に、お前よりも年下であるにも関わらず力も知識も身に着けて、ともに15歳で免許皆伝をした本物のエリート陰陽師だもんな」

「じゅ、15歳で免許皆伝だと!?出鱈目を言うな!そんなことが出来る訳が!」

「出来たんだよ。涼は血反吐を吐く努力をたくさん積んで、朝香は元々持っていた才能を開花させて」

「そんな、バカな・・・・・」


 自分よりも年下の女の子2人に追い抜かれた上に、先に免許皆伝をしたことを悔しがる西光。

 悔しがる西光を見て、由乃さんが不敵な笑みを浮かべて更に追い打ちをかけた。


「哀れな男だな。テメェが師匠の所に送られた訳を、いまだに理解しないで」

「わ、分かっているさ!父も祖父も、俺の陰陽師としての才能を評価して師匠の所に!」

「まだそんな戯言を言っているのか。本当は分かってんだろ。お前も私も、その腐った根性と素行の悪さを叩き直して更生させるためであって、陰陽師としての修業を本来はさせて貰えなかった筈だった」

「違う!違う違う違う違う!」


 頑なに認めようとしない西光だが、実際は由乃さんの言うとおりだ。

 由乃さんが西光良成さんの所に来た本当の理由は、当時暴走族のリーダーを務めて悪さばかりをしていた為、その腐った性根を叩き直させる目的で師事させられたというのが本当の理由だ。姉の巻き添えで、妹の梨乃も一緒に来てしまったが。

 そんな中で、西光良成さんは影山姉妹の霊媒師としての才能に気付いて、本格的な修行を積ませたという経緯がある。もちろん、由乃さんがなんやかんや言ってもきちんと努力しているからというのもあると思うが。

 時間はかかったものの由乃さんは無事に更生し、霊媒師としての力も開花させることに成功した。

 対して西光英二は、自分に対する劣等感を隠すために無意味な虚勢を張り、自身の才能の無さを認めることが出来ず、自分は才能のある将来有望なエリートだと言い聞かせて威張り散らすことしかしてこなかった。

 それによって、自分の手には負えないとして西光良成さんは英二を破門させて、自分よりも更に厳しい松北さんの所に送ることになった。


「哀れな男だな。力を持たない自分を認められず、さりとて地道に努力することを嫌い、楽な方へと逃げる怠け者」

「黙れよ・・・」

「そんな弱い自分を隠すために、自分より弱い人間を虐めてマウントを取り、自分がいかに優れているのかを示さないと気が済まない」

「黙れ」

「自分より下の人間を貶めることでしか、自分自身の精神と保つことが出来ない臆病者が」

「黙れ!」


 ついに怒りが爆発した西光は、由乃さんの腕をつかんで無理やり自分から離して怒鳴り散らした。


「お前に俺の一体何が分かるっていうんだよ!大叔父の家はとてもデカくて裕福だったのに対し、うちは絵に描いたような平凡な家庭で金も権力もない!爺ちゃんはバカなことに、大叔父の家から離れて平民に成り下がり、俺がどれだけ惨めな思いをして生きてきたと思ってる!大叔父との縁は殆どないに等しく、爺ちゃんも両親も金持ちの大叔父の家に頼ろうとしない!あんなに立派な大叔父と血縁にありながら、俺の家は全然裕福ではない!そのせいで、小学校の時に一体どれだけ惨めな思いを受けてきたと思ってんだ!それでも俺は、あんな愚民共と同じように真面目に働いて努力をしないといけないような底辺になりたくない!俺は誰よりも優れ、誰よりもエリートで、誰よりも才能にあふれた人間でなければいけないんだよ!愚民共がやっているような努力なんて必要ないくらい、俺には優れた才能がないとダメなんだよ!」


 言っていることが支離滅裂で、それでいてとても幼稚で、それでいて努力をする人を底辺なんて呼ぶ始末。それも、泣きながら叫ぶものだから余計にもみっともなかった。


「呆れた男だ」

「そうだな。才能さえあれば努力する必要なんてなく、何の障害も弊害も無く楽に暮らせると強く思い込んでいる大バカ者だ」

「それでいて、自分自身の至らなさから目を逸らして他人を見下すことにだけ専念する。まるで小学生ですよ」


 華々美と美玲が呆れるのも当然だし、里美なんてあまりのアホさ加減に言葉も出ない様子であった。


「美玲の言うように、完全に小学生の発想だ。要は努力したくないから、ゴロゴロしているだけで金が稼げるようになりたいから、何もしなくても何でも出来るようになりたいから、そんなくだらないことばかり言って怠けるだけのクズだ」


 由乃さんの言う通り、この男はただの怠け者だ。努力することを嫌い、鼻くそをほじくるだけで大金が手に入るような暮らしを求める生粋のニート気質。

 普通に学校で勉強したくないから、働きたくないからそんな言い訳ばかりをして自分を無理やり正当化し、他人を見下すことでしか自分を優位に立たせられない。どうしようもないぐうたら小僧であった。

 無論、そんな身勝手な言い訳を由乃さんが容認するわけがなかった。


「だっさ。ただ努力したくない、働きたくない言い訳をして、自分のやること全てを肯定しない奴はみんな底辺。そうしないと自分を保つことが出来ない、お前はただのニート気質の怠け者だよ」

「なんだとっ!」


 逆上した西光が由乃さんに掴み掛るが、元ヤンでケンカも強かった由乃さんに勝てるはずもなく、あっさりと組み伏せられた。そんな茶番を前に、取り巻き達はもう西光を擁護することなく完全に見放していた。無理もない、死霊達に対抗できると思って慕っていた男が実は何の力も知識も持たない凡人で、しかもその実態がニート気質の怠け者だと分かってガッカリした様子であった。


「ロープを持ってきて!コイツを拘束する!」

「私が持ってきます!幹夫さん達は、引き続き調査をお願いします!」


 少し時間がかかったが、俺達は調査を再開するために近くのアパートの天井に置いたドローンを再び飛ばし、調査を再開した。その間、由乃さんと美玲は西光を拘束して動けなくさせた。


(荒事は避けたかったんだけど、向こうから来てしまった以上どうすることも出来ないな)


 とはいえ、幼稚な西光も姉弟子である由乃さんには逆らえなかったみたいだし、これで心置きなく松北さんのお寺に行って避難した人たちとコンタクトを取ることが出来る。

 そのことに安堵し、30分後には調査を終えてドローンを回収したのであった。

 結論から言うと、広島の佐藤宗一も霊滅版は持っていなかったと思われる。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。