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怨念集合体

 その日の夜、再びジャンケンに負けた俺と華々美は再びテントで寝ることになった。ちなみに3人目は、今回は涼が寝ることになった。


「ううぅ・・・死霊達の唸り声が酷い・・・・」

「だからテントは嫌だったのに・・・・」

「まさか2回連続で・・・・」


 気味の悪いうなり声をあげる死霊達に、俺達は思わずネガティブなことを考えてしまいそうになる。それでは余計に死霊達を引き寄せてしまう。


「どうする?また平方根や歴代総理大臣の名前を言い合うか?」

「何そのクソつまらないゲーム!?どうせならポ〇○ンの名前の言い合いっこにしない!?」

「いいけど、わたしと幹夫の独壇場になると思うぞ」

「なら、幹夫が好きそうなもの」

「幹夫の好きなもの・・・・わたしの胸」

「ちょっと華々美さん、あんた何言ってんの!?」

「違う?するときはいつも」

「華々美!少し黙って!」

「2人だけでイチャつくなコラ!・・・・っ!?」


 3人でそんなじゃれ合いをしていると、急に涼の表情が険しくなり、寝袋から出てバッと飛び起きた。


「涼?」

「どうしたんだ?」

「何かヤバい奴が近づいている」

「ヤバい奴?」

「手強い悪霊か?」

「悪霊なのかどうかは分からないけど、コイツは!」


 何かを察した涼は、近くに置いてあった宝刀とカバンを持ち、靴を履いて外に出た。俺と華々美も、金の刀を持って涼の後に続いた。


「涼さん!」

「涼ちゃんも起きたの?」

「由乃さんに朝香」


 どうやら、変な気配を感じて飛び起きたのは涼だけではなかったようだ。


「涼!いったい何が近づいているっていうんだ!?」

「わたし達の知っている悪霊とは何かが違うのか?」


 俺と華々美の質問に、涼は鋭い目つきで校門の方に視線を向けて睨みつけていた。

 その直後、校門の方から真っ赤なコートを着た長身の女性が立っていた。遠目から見てもわかるくらい美人の女性だが、その手には大きなハサミを持っていて、口がすっぽり隠れるくらいに大きなマスクを着けていた。

 そんな女性は、アクションスター顔負けの軽やかなジャンプで校門を飛び越えてグラウンドに入ってきた。


「幹夫と華々美は下がって!」

「コイツの相手は、2人には荷が重いわ!」

「コイツはとても危険です!」


 訳も分からず指示通りに下がると、涼と由乃さんと朝香の3人は女性の前に立った。それぞれ武器を手に。


『わたし、綺麗?』


 お決まりのセリフを聞いて、俺と華々美はあの女性が何者なのかをすぐに理解した。そんな女性の問いかけに対し、涼が代表して答えた。


「醜いわ。それはもう見るに堪えないくらいに酷いわ」


 明らかに相手を挑発して、わざと怒らせるような口調で言う涼。

 そんな涼の言葉に激怒した女性は、勢いよくマスクを外して耳まで裂けた口をさらけ出した。


『醜いですって!』


 怒りに任せてハサミで攻撃してくる女性。涼はそれを宝刀で防ぎ、その隙に朝香が女性の額にお札を張り付けた。お札を張られた女性は、大きな声を上げて苦しみだした。


『ああああああああああああ!』


「由乃さん!」


 涼の掛け声とともに、由乃さんは桃木剣で女性の胸を突き刺した。それがトドメとなり、女性は黒い靄になって霧散し消滅した。


「まさか、本物を見るとは思わなかったぞ」

「わたしもだ」


 驚いている俺と華々美に、涼は刀を収めてからあの女性の正体について話してくれた。その間に由乃さんと朝香は、周囲の見回りと警戒を行った。


「聞かれる前に答えるわね。あれは怨念集合体だ」

「「怨念集合体?」」


 聞きなれない言葉に、俺と華々美は同時に疑問符を浮かべた。


「複数の人間の恨みと無念などの思念が集まり、一つの危険な化け物となったもの。残留思念の集合体ともいうわね」

「残留思念?」

「霊魂とは違う、亡くなった人の思いや無念が、魂が成仏した後も思念だけがこの世に残り、留まっている意志の塊みたいなもの。それが一つに集まりすぎると、とんでもない災いを呼んでしまうといわれている」

「その残留思念がたくさん集まって、あの女の化け物を生み出したというのか?」

「ええ。しかも、ただの残留思念ではない。あれは怨念ね。それも、かなり強い恨みを残して亡くなっていった人の思念が、怨念となって残り、一つとなった姿よ」

「そんなものが・・・・」


 予想もしていない存在に、俺と華々美は言葉を失う。

 いや、ここ広島ならもしかしたらあり得るのかもしれない。


「もしかして、原爆で亡くなった人たちの無念が残って、この現象でそれ等が集まってあんな」

「違う」


 俺の予想は、涼の一言であっさりと否定された。


「実際に対峙してみて分かったが、あの怨念が出来たのはつい最近。それも、この現象が起こった後で亡くなった人の無念が集まってできた怪物よ」

「この現象が起こった後ってことは」

「その亡くなった人の魂は、もうこの世には存在しないのに思念だけがこの世に残ってしまった」

「絶対そうとも限らない。霊がこの世に留まっていて、尚且つ怨念までも残して遠くに飛ばすなんてこともできるわ。心霊写真がいい例ね。霊が映り込んだだけで、その写真を持っている人にとり憑いて災いを起こすなんてこともあるわ。まぁ、個人的にはそんな写真はとっとと捨てたほうがいいわ。本物の心霊写真はものすごく危険だから」


 それも前に聞いたことがある。心霊番組などで取り上げられている心霊写真は、その全てが加工された物や、自然現象などで偶然そう見えただけの偽物だということを。本物が送られても、それは地上波では絶対に放送できないのだという。


「そういうパターンもあるから、思念を送った霊がまだこの世にいる可能性も十分にある。だけど、あの怨念集合体を作り出した霊は全て消滅しているわ。それも退治してみて分かったわ」

「どうしてわかるんだ?」

「それはね」


 説明の途中で、涼は再び険しい表情を浮かべながら校門の方を見た。すると今度は、以前鹿森が呼んだあの長身の女性の怪物が、校門を壊してこちらに近づいてきた。


「下がって!」


 由乃さんの叫びも虚しく、怪物は俺たちの目の前まで現れ、手を伸ばしてきた。


「くそ!」


 俺はとっさに金の刀を抜き、それを怪物の胸に突き刺した。怪物は苦しそうにし、声を上げる間もなく消滅した。

 その瞬間、俺の頭の中に見たことのない映像のようなものが流れ込んできた。

 昼間に見たあの男の理不尽な命令によって命を落とし、更に霊はその男の持っていた錫杖の一突きによって消滅していく様子が映し出された。


「なんだ、今のは?」

「幹夫も見えたのか?」

「ということは、華々美にも見えたのか」


 あれは間違いなく、あの思念を残した霊が見てきたものの映像だ。その時の記憶が、近くの人たちの頭の中に映し出されたのだ。


「これで分かったと思うけど、あの怨念は西光英二に対する強い恨みが原因で生み出された霊の思念なんだ」

「よほどあの男に強い恨みを抱いていたんだろうな」

「あの男が西光英二だと知っているということは、涼もアイツと面識があったのか?」

「ええ。何にも出来ない無能のくせに偉そうで、その上自分のことを強い陰陽師だと本気で思い込んでいるみたいで、怠け者のくせに無駄にプライドだけ高い奴だったわ。それでも、新潟のアイツに比べたらまだカワイイほうよ」


 あれでカワイイほうだと言うが、言われて思わず納得してしまう。

 西光英二のプライドは、学校内などの狭いコミュニティー内ではよく見られるもので、いわゆるお山の大将や井の中の蛙のような状態で、ハッキリ言って幼稚で無駄なプライドであった。

 だけど、二十歳になってもその幼稚なプライドに固執して怠けるのだから本当に始末に負えないし、由乃さんの師匠が破門してこんな所に飛ばすくらいだ。しかも、全然改心どころか反省もしていない。


「アイツは所詮口先だけの男です」


 そんな弟弟子の犯した罪に腹を立てながら、由乃さんが俺たちに近づいて補足説明をしてくれた。


「そもそも英二は、地道に汗水垂らして努力するのを嫌い、楽なほうへとすぐに逃げるような意気地なしです。そのくせ、自分が下に見られるのを嫌がる傾向があるので虚勢を張って自分を大きく見せようとするのです。英二のご両親も、そんな英二の甘ったれた根性を叩き直させるために師匠の所に預けたのに、英二は相変わらず努力を嫌う怠け者のまま。それを隠すために偉そうな態度を取り、知ったかぶりな態度を取るのです」


 もはやどう返したら良いのかも分からないくらい、西光英二の堕落っぷりがかなり酷かった。


「しかも、あの怨念集合体を倒した時に見えた、英二が持っていたあの錫杖!あれは松北さんの錫杖で間違いありません!お世話になった松北さんの錫杖で、許せません!」


 弟弟子の愚行に、心底腹を立てる由乃さん。先ほど倒した怨念集合体の思念の持ち主の霊が、西光英二に強い恨みを抱いて怨念を残すのも当然であった。自分では何もせず、全て他人に任せてたくさんの命が失われる。


「どうしようないレベルのクズだな。朝にはドローンを飛ばして周辺の調査をするけど、顔を合わせるのが億劫になってきた」


 とはいえ、ドローンを飛ばす以上向こうに俺達の存在が伝わる。そうなると絶対に接触を図ってくるだろうし、関わらずに次に進むというのが出来ない。


「まぁ、いざとなったら私が英二を絞めておきます」

「あまり物騒なことはしないで、由乃さん」


 明日への不安を抱いたまま、俺達は再び寝床についた。その日はなかなか寝付けなかったのは、言うまでもない。





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