広島へ
津筒さんたちに見送られて、広島の佐藤宗一の家を調べる為に広島へと向かっていた。
1時間ごとに休憩を取り、6時間後の午後1時には広島に到着することが出来た。広島に入る時に、ドライバーをそれぞれ里美と由乃さんに交代してから入った。
「調べてみたら、広島の佐藤宗一の家と職場のある町に、西光英二が預けられているお寺があるみたいだ」
「面倒なことだけは勘弁してほしいな」
華々美が広島の佐藤宗一のSNSから特定した住所のある街に、由乃さんがろくでもないと言うあの西光英二がいるかもしれないと聞き、俺は少しげんなりしてしまう。
「まぁ、用があるのは佐藤宗一だけだから、会うことはおそらくないだろうし、接触さえしなければ」
「無理だろ。ドローンを飛ばせばこちらの存在はバレるし、向こうだって黙っちゃいない」
「良成さんはとても偉大なお方なのに、英二は本当にどうしようもないごく潰しらしいよ」
「朝香も、西光さんと面識があるのか?」
「うん。英二とも会ったことがある。確か、お兄ちゃんと同い年だったはず。だけど、あまりにも偉そうな態度を取ってばかりだから、良成さんがかなり怒っていたのを覚えている。かなりの問題児だったらしいよ」
相当鬱憤がたまっているのだろうか、朝香は苛立った様子を隠すことなく西光英二に対する不満をぶちまけた。
「そりゃ、当時のボクはまだ小6で未熟者だったけど、だからと言って調子に乗りすぎだし、そもそもアイツはボク以上の未熟者で念力はおろか霊力すら身に付かなかった落ちこぼれで、知識も何もなかったド素人。なのに偉そうにマウントばかり取るから、良成さんが物凄く怒っていたのもよく覚えている。結局、高校入学と同時に広島に飛ばされて、地獄のような修行生活を送っているって良成さんから聞いたことがある」
溜まりすぎでしょ。孝一さんと同い年ということは、西光英二は現在二十歳くらいということになる。
更に話を聞くと、西光英二は一度孝一さんと決闘を申し込んだことがあるという。その理由は、孝一さんが彩羽さんという美人の婚約者を貰ったことに対する嫉妬であった。結果は、言うまでもなく西光英二の惨敗。
怠け者で知識も力も何もない西光英二が、歴代最強の力とセンスを持つ天才の孝一さんに勝てるわけがない。勝負する前から結果は見えていた。
そんな口先だけの西光英二に、良成さんの怒りは最高潮に達し、広島に飛ばす決定打にもなった。
ちなみに、そのあとで朝香とも決闘を申し込んだらしいが、当時中一で未熟者だった朝香にも惨敗したそうだ。
「そんな男に頼らざる得ない人たちが気の毒でならない」
「出来れば関わりたくないな」
とはいえ、生存者の確認のためにドローンを飛ばせば必然的にこちらの存在がバレるだろうし、接触ゼロというわけにもいかなくなるだろうな。
そうこうしているうちに、車は目的の街に到着した。
町に入ると、俺たちは適当に広めの場所を見つけてそこで野宿する準備を進めた。今回野宿する場所は、近くにあった高校のグラウンドであった。
「よし、生存者の確認と広島の佐藤宗一の調査は明日にして、今日はここで体を休めるとしよう」
俺の指示で、皆がキャンプの準備に取り掛かった。涼と朝香は、校舎全体に結界を張って死霊たちが入ってこられないようにした。俺は里美と華々美と一緒に、テントの設営を行った。
30分ほどで全ての準備を終えて、俺たちは遅めの昼食をとることにした。
「幹夫さん、本当に今日はドローンを飛ばさないのですか?」
「ああ。今面倒な奴と接触されても困るし、由乃さんがここでドローンを飛ばすことにすごく抵抗があるみたいなんだ」
「この現象が起こる前に師匠から聞いたのですが、この高校が英二の通っていた高校であることが分かり、師匠の知り合いが住職をしているお寺がこの近くの山にあることが分かったのです」
「つまり、飛ばしたら100パーセントバレるというわけだ」
西光英二の学校の成績は、お世辞にも良いとは言えないし極端に悪いわけでもない。一言でいうのなら、中の下レベルの成績であった。ただしそれはこの学校、問題児ばかりが通うこの高校での話であって、一般レベルの高校だと留年寸前の底辺レベルになる。
「つまり、バカばかりが集まる高校の中でも中の下だなんて、本当の落ちこぼれだな」
「か、華々美さん。容赦ないですね・・・・」
「美玲さん、取り繕っても仕方がありません。英二がバカなのは知っているし、そもそも英二は怠け者なんですから勉強なんてするわけがありません。英語に至っては、アルファベットすら書けないくらいに酷いのです」
「えええ・・・・」
ちょっと待て、この現象が起こる前は高校3年生だから、それでアルファベットすら書けないなんてヤバすぎだろ。
「おまけに漢字も小1レベルすら読めないくらいに酷いし、運動も疲れるのが嫌だという理由でやりたがらないし、算数も小4レベルでストップしているし、本当に怠け者なんです。この高校も、名前を書いただけでほぼ合格できるようなものです」
「由乃さん、それ以上は言わないで上げて」
鬱憤が溜まっているのか、怠け者の弟弟子に対する愚痴が止まらない由乃さん。そりゃ、破門される。
「ま、そのせいで師匠の知り合いの松北さんの所に送られるんです。あの人は、ものすごく厳しい人だから、毎日泣き言を言いながら修行をさせられているみたいです。しかも、松北さんの所で修行するときは男女問わずに丸坊主にされますし」
「それはキツイな・・・・」
ところが、一月前に俺たちの町に来た鹿森は髪がかなり伸びていた。ということは、松北さんは今生きていないということになる。
「由乃さん。その松北さんも、由乃さんや梨乃と同じ力を」
「いいえ、松北さんは霊力を身に着けていても念力は持っていません。ですが知識はありますので、武器で何とか対応できると思います。けど、数に押されればどうなるか」
「そうか」
つまりその松北さんは、西光さん以上に問題児の更生に特化した住職さんということになる。
(厳しすぎる修行も、髪を剃られるのも、性根の曲がった相手の根性を叩き直す為のものなのかもしれないな。となると、そのお寺にいる、問題児は西光英二だけではない可能性が高いぞ)
よく考えるとそうだ。鹿森みたいな男がいるくらいだから、アイツと同等の、もしくはそれ以上の問題児があの神社にいる可能性だってある。
考えただけでも頭が痛くなりそうだ。
「なぁ、アイツ等ここに来ないだろうな?そこまでのバカなら、自分達の危険な状況も理解できていない可能性もある」
「うぅん・・・鹿森ほどのバカはそうそういないのかも知れない。けれど、英二のバカ具合は私でも分かりません。アイツは自分のことを理解しなさ過ぎていますから」
「確かに、ボクのお兄ちゃんに決闘を挑むくらいだから、自分のこと強い陰陽師だと強く思い込んでいる可能性がある。実際は、何の力も持たないただの一般人なのに」
「ああぁ・・・」
由乃さんと朝香の言葉に、俺だけでなく他の皆までも言葉を失っていた。
「バカな奴だとは聞いてたけど、そこまでとは思っていなかった」
「それでも、自分の身が危険に晒されるような行動はとらないと思いますけど、それはあくまで自分自身の危険に対してってだけで、他人に強要してくる可能性だってあります」
それでもかなり厄介である。
(ここからそのお寺まで一応距離があるけど、それでも俺の感覚ではお寺からここまでは十分に徒歩圏内。自転車でも10分弱で行ける距離だ)
俺たちがここに来ていることはまだ気付いていないだろうけど、ドローンを飛ばせば必然的に俺達の存在に気付く。
一抹の不安を感じつつも、昼食を食べ終わって後片付けを終えると、華々美を連れて軽く周囲の散策に出かけた。
「相変わらず、建物の中には死霊でギュウギュウ状態だな」
「街並みはわたし達の町と殆ど同じだけど、あまりじろじろ見ないほうがいい」
「分かっているけど、なんか違和感があるんだよな」
「違和感?」
「ああ」
一見すると、俺たちの町とあまり変わらない状況に見えるが、何かが違う。
その理由はまだわからないが、死霊だけじゃない何かがこの町にいる気がしてならない気がする。
「幹夫!」
「ん!?」
突然華々美に腕を引かれ、俺達は十字路の陰に隠れた。
その直後、近くにあるコンビニに6人の男子が近づき、そのうちの一人が他の男子に偉そうに指示を出して、死霊でいっぱいのコンビニの中に入るように指示を出していた。俺と華々美にも聞こえるくらい大きな声で。
「モタモタすんなよ!幽霊どもが近づいても、塩をかければ霊を退治できるから」
「バカすぎるだろ」
「塩をかけたって退治できるわけがないのに」
俺と華々美は、小声でその男に突っ込みを入れた。
以前涼から聞いたことがあるが、塩はあくまで魔除けとしての効果があるだけで、塩事態に幽霊を撃退する力はないのだという。塩をかけても、幽霊たちは逃げるだけであってそれで消滅させることが出来ないのだ。
しかも、床にまいて踏んでしまうと魔除けとしての効果がなくなってしまうため、やり方があまりにも杜撰であった。
「せめてモリオンや錆びた鉄を使えよな」
「それでも、中の死霊達を追い出せなかったら意味がないし、あんな方法では絶対に死者が出る」
そんな華々美の予想通り、目に見えるだけで既に2人が死霊達に襲われて命を落としていた。
それから5分後に、2人がコンビニから出てきて水と缶詰とインスタント食品を外で待機していた男に渡した。
「チッ!今日はこれっぽっちなんかよ」
「だったら、アンタが入って取ってきてくれよ西光!アンタ陰陽師なんでしょ!」
「そうだよ!いっつも偉そうに指示するだけで自分からは何もしない!」
「黙って言うことだけ聞いていればいいんだよ。さもないと、お前たちを俺の寺から追い出すぞ」
追い出すという言葉で、2人の勢いは途端に窄み、それ以上は何も言えなくなってしまった。
「分かればいいんだよ。あのお寺では俺こそが王であり、絶対権力者なんだから逆らうことは許さない。分かったらさっさと飯と水を取ってこい!俺は先にお寺に帰るか」
そう言って1人先に帰る男を、罵倒された2人はただ見送ることしかできないでいた。
「酷いな」
「どうやら、アイツが西光英二で間違いなさそうだな」
まぁ、名前を叫んでいたから間違いないだろう。
あんな男が、自分の面倒を見てくれた住職のお寺で傍若無人にふるまっていると思うと、無性に腹が立って仕方がなかった。
「戻るぞ。由乃さんや朝香にも確認がしたいし」
「ああ。今手を差し伸べると、あの男が何をしでかすのかわからないし危険だから」
助けたいという気持ちを抑えながら、2人に気付かれないよう俺達はゆっくりとその場を後にしてみんなと合流したのであった。




