救出と廃村再建
翌朝、俺たちは早くから大阪の佐藤宗一のいる建物に向かい、朝の9時にはあの建物の前に立っていた。中に入るのは、俺と涼と由乃さんと朝香の4人で、華々美と里見と美玲と昨日救助した3人には外で待機してもらい、大阪の佐藤宗一を倒した後で捕まった女性たちの救助を手伝ってもらうことにした。
「本当に幹夫も行くのか?こう言っちゃなんだけど、やってもらうことがないからただ眺めるだけになるわよ」
「それでも、何もしないで待っているのはもう嫌だから」
「相変わらず、負けん気の強い性格をしているわね」
「だからこそ、守られてばかりというのが嫌なんだろう」
里見と華々美からは、やれやれと言わんばかりに首を横に振ら得たが、それでも俺はこの信念を曲げたくないのだ。
「まぁ、いいでしょう。どの道、捕らわれた女性たちを運び出すのに男手が必要ですし、幹夫君なら彼女たちに変なことは致しませんので」
「そうね。それに、この作戦の発案者は幹夫さんだし」
「んん・・・・まぁ、2人がいいのなら私はもう何も言わないけど」
「そんじゃ、行くか」
俺の掛け声とともに、涼と由乃さんと朝香も中へと入っていった。建物の中相変わらず薄暗く、陰鬱とした雰囲気を出していた。中に他の幽霊がいなかったおかげで、俺たちは何もないまま佐藤宗一がいるであろう部屋、局長室の扉の前に立っていた。
「いるとしたら、絶対にここだよな」
「新潟のアイツもそうだったけど、ドイツもコイツも皆分不相応すぎるわよ」
「まぁ、新潟のアイツと違ってこっちはちゃんと自分も努力していたみたいですけど、あの性格と散財癖があっては、出世は夢のまた夢でしょう」
「なんにせよ、悪霊はとっとと消し去らないと」
早くも興奮モードに突入した朝香に、俺と由乃さんは軽くため息を吐き、そういう所があると分かっていた涼は若干呆れつつも、何処か諦めている様子でもあった。
「それよりも、さっさと済ませようぜ」
「そうね、こういうのはあまりモタモタしてはいけませんから」
「ええ。そういうわけだから、朝香も少し気持ちを落ち着けなさい」
「分かった」
意を決して俺たちは、局長室と書かれた扉をゆっくりと開いた。中には、15人もの若い女性が大阪の佐藤宗一の周りで倒れていた。全員まだ生きている様子であった。
『わざわざそっちから出向いてくれるなんてな。俺から奪った女はどこに隠した!?』
「人を物扱いするな。それに彼女たちは、3人ともお前のことを嫌っていたし、付き纏われて迷惑もしてた」
『関係ないな。あの3人は俺好みの美人だったし、そんな彼女たちにイケメンの俺と付き合うのは必然でもあり、ふさわしいと思わないのか?』
何がイケメンだ、と言いかけて飲み込んだ。
「はぁ?自分の顔を鏡で見たことがないのですか?」
せっかく俺が飲み込んだのに、由乃さんが挑発するように言うから台無しになった。
「その顔でよくイケメンを名乗れましたね。アナタの顔なんてせいぜい中の下、何処にでもいるありふれた顔といった感じではありませんか。そんな顔でイケメンを名乗るなんて、恥ずかしいとは思わないのですか?」
『はぁ!?女テメェ!ちょっと顔が奇麗だからって、調子に乗ってんじゃねぇぞ!』
「調子に乗っているのはアンタでしょ」
これ以上この男の言葉は聞くに堪えなかった。
(アンタはただ、自分の欲望を抑える気がなかっただけだ。欲しい物は常に手に入らないと気が済まない、そんなことを繰り返していくうちに際限がなくなり、結果自分の首を絞める事になっているのにまだ気付かないのか?)
欲望に溺れ、永遠に尽きることのない欲望に支配された哀れな男。そんな男の身勝手で、いったいどれだけの人に迷惑をかけたのか、分かっていないのだろうか?
『黙れ黙れ黙れ!捻り潰してやる!』
激怒した佐藤宗一は、昨日と同じように背中から生やした無数の腕と両腕を伸ばしてきた。
「くそ!」
そんな佐藤の攻撃を、俺と涼はそれぞれ刀で弾いて防いでいった。由乃さんは桃木剣で応戦していた。
そんな中、朝香は俺たちの後ろで何か準備を進め、程なくしてバイオリンの音色が部屋中に響き渡った。演奏しているのは、朝香であった。
『なっ!?なんだこの音色は!?・・・・あっ!?ああああああ!』
朝香のバイオリンの演奏を聞いた瞬間、大阪の佐藤宗一は全身から黒い瘴気のようなものが漏れ出し、頭を抱えて苦しみだした。
「かなり苦しんでいるみたいだな」
「当然でしょ。これこそが、日口家の本来の戦い方なんだから。自分の念力を音楽に乗せて流し、周りにいる全ての霊を弱体化させて成仏させやすくする。それが悪霊なら、効果は倍増。豊美トンネルの悪霊は、祓ってもまた新しい霊が寄って住み着くから殆ど意味がないんだけど」
「あと、所かまわず音楽を奏でる訳にもいきませんしね。今のご時世、それを騒音だと騒いでクレームを言う人もいます。子供の元気な声に文句を言うような頭のおかしい人もいるくらいですから」
まぁ、最後は子供好きで元保育士の由乃さんの私怨が混ざっている気がするが、確かに普通なら誰も気にしないような音にキレて文句を言う人がいるから、本当に辛抱のない人間ばかりが増えたと思う。
だが、今なら何処であろうと大きな音を出しても文句を言われる心配が殆どない。
一曲弾き終えたところで、大阪の佐藤宗一は膝をついて苦しみだしていた。そんな佐藤に、由乃さんは桃木剣を腰のベルトに差してすぐにカバンから五鈷杵を取り出し、それを佐藤に向けた。
その瞬間、五鈷杵から強い光が発せられ、それを浴びた佐藤は更に苦しみだした。
「涼さん!」
「ええ!」
最後に涼は、前に出て愛刀で佐藤の首を切り落とした。首を切られた佐藤は、断末魔を上げる暇もなく塵となって消滅した。
「終わったわ」
「ああ。3人ともお疲れ様」
「一息ついている場合ではありません。早く彼女たちを助け出さないと」
「忘れてない。ただ、バイオリンをしまわせて」
朝香がバイオリンをケースに入れている間に、俺たちは倒れている女性たちに声をかけた。自力で動けそうな人は自分で、そうではなさそうな人は俺たちで抱えてこの建物から出してあげた。バイオリンをしまってすぐに、朝香も動けない人を抱えてくれた。
幸い、自力で動ける人が多かったため彼女たちは一人ずつ抱えるだけで済んだ。俺だけ2人も抱えることになったが・・・・・。
外に出ると、待機していた華々美たちによって介抱され、2年ぶりに、彼女たち的には数時間ぶりの食事を与えた。
「この度は私たちを助けていただき、ありがとうございます。津筒麗といいます」
皆を代表して、津筒麗さんという人が俺たちにお礼をしてくれた。それにしても、珍しい苗字だな。
「ご丁寧にどうも。武谷幹夫です」
「食事の際に聞きました。まさか自分たちが2年も閉じ込められてただなんて」
「あの中では時間が止まっていたみたいですし、仕方がありません」
だからと言って、これ以上悪霊の傍に置いてはいずれ命を落とすため、どの道危険であることには変わりない。
「助け出しておいてなんだけど、全員を連れ出すわけにはいかないんだよな」
「承知しています。動ける車は2台だけ、武谷さんたちはこれから広島に向かわれるのですから、全員で同行というわけにもいきません」
「申し訳ありません」
暮らす場所がないわけではないが、それでも彼女たちには不便な思いをさせてしまうことには変わりないため、申し訳ないという気持ちが強かった。
「いいのです。むしろ、助けていただいて感謝しています。それに、先に救助された3人から聞きました。私たち全員、その廃村に移住しようと考えています」
「移住って、あそこは人が住むには」
「家があればなんとかなりますし、野菜の栽培も井戸の掃除も、イノシシなどの捕まえ方も熟知しています。こう見えて私、実家が北海道の農村でしたのでその手のことには詳しいですし、野生動物対策もバッチリです」
「そ、そうなんですね」
この先どうしようか悩んでいると、なんと津筒さんの実家は北海道で、しかも元農家だったと聞いて驚いた。その上、井戸の再生方法までも知っていたとは驚きだ。
「なので、私達のことはどうかお気になさらず」
「は、はぁ・・・・」
とはいえ、そのまま放り出すわけにもいかないので、廃村の再建には協力しようと考えている。
そのことを津筒さんに伝えると、1週間だけでいいといったので驚いた。理由については、「娘さんをあまり悲しませてはだめだよ」、と言われたからだ。確かに、あまり絵里奈を待たせてはいけないわな。
そうして、彼女達が救助されてから6日が立ち、あの廃村は少しだけ人が住めるように改善された。更に、町から調達したソーラーパネルや浄水器も使い、運良く動けるトラックと冷蔵庫を調達することで食材の長期保存ができるようになり、更に津筒さん直伝の動物捕獲罠も意外と効果があり、わずか6日間でイノシシ10頭と、シカ7頭を捕らえることができた。ツキノワグマに関しては、華々美がショットガンでズドンと仕留めたけど。
仕留めた動物に関しては、俺たちから解体方法や保存方法、食べる際の注意点や寄生虫対策等々をレクチャーして覚えてもらった。最初は渋っていた彼女たちも、自分で解体したお肉を食べると美味しそうに食べていた。
井戸の掃除も、全員でかかることで早めに進めることができたが、それでも飲めるようになるにはあと2週間もかかるという。
野菜の種も町で調達し、津筒さん指導の下で復活した畑に植えられた。現在は、冬に収穫できる野菜を栽培している最中であった。
そうして8日目の朝、俺たちは広島に行くための準備を整えていた。
「あっという間の一週間ですけど、本当に良かったのですか?」
「大丈夫ですよ。皆意外と根性がありますし、幽霊たちに襲われる心配もありませんのでこっちのほうがいいです」
「でも、あまり再建とは言えないですけど・・・・」
家は何とか住めるようにしただけで、家財道具も綺麗にしたし、電気と飲み水の心配も改善されたし、たくさんの冷蔵庫と動かせるトラックも1台も手に入って少しだけよくなった。
だけど、この廃村で定住するにはあまりにも不便が多いのは変わらない。畑の作物も、ようやく苗が出始めたくらいだし、井戸の水もまだまだ飲める状態ではない。
そんな中でここを出るのは、なんだか申し訳ない気がする。
だが、こっちだって娘を長い間待たせるわけにはいかないし、こっちは一刻も早く霊滅版を見つけ出してこの現象を止めないといけない。
「それでも、ここまで再建できれば十分です。武谷さん達は一刻も早く先へ進んで、幽霊たちが暴走するこの現象を食い止めてほしいです」
津筒さんの言葉に、他の女性たちもうんと頷いた。
「私達なら大丈夫です」
「皆さんは先に進んでください」
「次に来られるときに、この村をもっといい村にします」
彼女たちの言葉を受けて、俺たちはここを出て次に進む決心を固めた。
「分かりました。皆さんもどうかお元気で」
皆に見送られながら、俺達はそれぞれキャンピングカーとワゴンに乗って次の目的地である広島に向けて出発した。
「この現状が収まったら、こっちからも野菜の苗と豚と鶏を送るとしよう」
「そうだな。そのためにも、どちらもしっかり増やさないとな」
「連絡先も交換したんだし、いつでも連絡が取れます」
「その為にも、この現象を一刻も早く収めないとね」
皆と今後のことを話しながら、俺たちは高速道路に入って次の目的地である広島に向けて車を走らせた。
そして、そこには由乃さんの弟弟子で師匠の弟の孫の西光英二がいる。ソイツがそこで何をしているのかは想像もつかないし、由乃さんの話ではろくでもない男だということを聞いていた。
余計なトラブルが起こらないといいなと思いつつも、そのろくでもない弟弟子とどう接したらよいのかについて頭を抱える俺であった。




