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霊視結果

 その日の夜、大阪の佐藤宗一に捕らわれていた3人の女性が目を覚まし、ぼんやりしていたが命に別状はなかったとのことであった。


「少しぼんやりしていたけど、あの悪霊に捕らわれていた時の事を少しずつだけ話してくれた。あの3人のほかにも、15人もの女性が捕らわれていたみたいだ。しかも全員が生きているみたい」


 おそらく、あの建物の中が大阪の佐藤宗一によって魔界化していて、時間の流れが止まっているのかもしれない。そんな3人は、たくさんご飯を食べた後、しばらくして食休みしてから空き家の中で寝袋に入って眠っていた。


「なんにせよ、全員生きていて良かったわ。助け出した3人の彼女たちの状態を見るに、しっかりご飯を食べてお日様を浴びながらたくさん動けばすぐに元気になるし、奪われた生命エネルギーも回復するわ」

「それだけで済んで良かったです。2年もあの悪霊に捕らわれているのに、本当に奇跡です。おそらく、もっと長く愛でていたいという欲求が、彼女たちを生き長らえさせているのだと思います」

「「「2年?」」」


 由乃さんの口から気になる言葉が発せられ、俺と華々美と涼が一斉に声を上げた。里美と美玲と朝香なんて、ポカンとした表情になっているぞ。


「「って!2年も閉じ込められてたの!?やっぱりあの中、時間が止まってたの!?」」


 数秒の沈黙の後、涼と朝香が同時の声を上げた。予想はしてても、改めて聞くとやっぱり驚く。


「霊視してみて分かりましたけど、あの男は霊滅版を持っていません。というか、売られる前日に既に亡くなっていました」

「「「「「「えええええええ!」」」」」」


(ちょっと待て!大阪の佐藤宗一も、北海道の彼と同様にこの現象の前から既に亡くなっているというのか!?)


「ちなみに死因は?」


 恐る恐る華々美が由乃さんに尋ねると、由乃さんは大きく息を吐きながら答えた。


「怨恨により、女性たちから背中を押されて、トラックに撥ねられ即死でした」


 怨恨からの殺人で殺されたのか。




 詳しく聞くと、生前の佐藤宗一はとにかく強欲な性格をしていて、本人も言っていたように子供のころからその傾向はかなり強かったという。

 他の子から欲しかったオモチャやゲームなどを奪い、その後返そうともしなかったことで親に怒られ、全て取り上げられた上に必要なもの以外は何も買い与えなくなってしまったという。誕生日やクリスマスでも、ケーキをあげただけでそれ以外に何も与えなかったのだという。ちなみに、取られたオモチャやゲームはご両親がきちんと返してあげたそうだ。

 だが、それで佐藤宗一の欲望は収まることはなく、むしろ自制させられたことでその欲望はどんどん大きくなっていったのだという。




「酷いな」

「だけど、それが人間というものなのです。人よりも優れたい、相手が持っているものを自分も欲しい、流行りのゲームや服が欲しい、美味しいお肉が欲しいなど、上げたらキリがないくらいに人間というのは物凄く欲深な生き物なのです。私達だって、より良い暮らしをするために建物を壊して整地し、養豚や養鶏に着手し、必要な物資を調達するために廃墟同然のスーパーやモールから物を調達するなどしました。それだって、言い方が悪いですが欲望なのです」


 確かにその通り。お金の価値が無くなってしまったことで、俺達は堂々と店から物を盗ってきている。必要だから仕方がないこととはいえ、それだって立派な窃盗であり犯罪であるため褒められたものではない。

 由乃さんの言う通り、暮らしに必要だから、今後の生活に必要だからという理由で調達する、それもまた欲望からくるものである。


「尤も普段は、この現象が起こる前はお金がないからだの、子供の為にならないだの言って親が我慢を覚えさせてくれたお陰で、君たちはある程度の自制が出来るようになっています。いえ、それが当たり前であり、時に我慢も必要となるのです」


 そうだ。俺の親はともかくここに居る皆は育ててくれた親のお陰で、欲しいものがあってもある程度我慢で抑えるということが出来き、それを当たり前だと思えるようになったのだ。


「でも、あの男は違っていました。生来のものなのかは定かではありませんが、あの男の欲望は常軌を逸していて、欲しいものは何でも手に入らないと気が済まないという考えの持ち主だったのです。あの男の辞書に、自制や我慢なんて乗っていないのというくらいに酷い物でした」

「最悪だ」


 しかも質の悪いことに、あの男の両親がいくら我慢や自制の重要性を説いても本人には全く響かず、むしろ欲望が更に膨れ上がって制御できないくらいに悪化していったのであった。

 中学までは厳しく叱られるくらいで済んだのだが、高校に入るとそれだけでは済まされなくなってしまい、一時は退学の危機にまで追い詰められていたくらい酷かったのだという。


「具体的な内容を言うと、ちょっと小腹が空いたからという理由で他の生徒の財布からお金を盗み、借りた物を返さない、気に入ったからという理由で彼氏持ちの女子であっても言い寄って略奪を繰り返していたそうです」


 それがだんだんとエスカレートしていき、退学こそ何とか免れたがクラスの男子たちから集団で殴られるといった制裁を受けたという。

 だが、それでもあの男の欲望は収まる気配はなく、歴史好きだったこともあって歴史学者としての道を歩んだはいいが、大学生や社会人になっても他人の物を借りパクするのも、気に入った女を略奪するのもやめられなかったのだという。

 そうしてあの研究所に勤めると、今度は同僚や部下の成果を奪って自分のものにするという最悪な手段まで取るようになり、それによって出世して上がった給料でたくさんの骨董品や貴金属などを買い漁ったのだという。

 当然ながら、そんな生き方をすればあっという間にお金も無くなるし、欲しいものを手に入れてもまた次の物が欲しくなるという悪い癖は抜けられないため、彼は常に極貧生活を行っていたのだという。

 そんな性格をしているのだから、女性との交際も何又、はたまた何十又という付き合いを繰り返していった。しかも別れるということもしないで、15年以上も二桁にも及ぶ数の女性と関係を持って何とかバレないようにしていたのだという。


「だが、そんな生活をして女性側からバレない筈もなく、当然のことながらとても深い恨みを抱かれることになりました。その上、金遣いもかなり荒いため、最後はあの男と交際していた女性たちが結託して、信号待ちをしていたあの男をトラックの前に突き飛ばして殺害した。というのが、あの時霊視をして分かりました。本当に反吐が出るくらいのクズでした」


 これが大阪の佐藤宗一の生前の様子であり、死んだ後もその異常ともいえる欲望は消えることはなく、しぶとくこの世に留まり続け、更にこの現象が起こったことで悪霊化してしまい現在に至るのだという。


「酷いな」

「ええ。通常なら、この世への未練を断ち切らせることでその霊を成仏させるのだけど、あの悪霊は無理ね。例え未練を断ち切らせたとしても、別の新しい欲望を見つけてはまたこの世への未練と執着へと繋がってしまう。消滅させる以外に方法がないわ」

「そうなのですが、その強烈な執着と欲望があの悪霊の力を更に高めてしまい、一つ満たすごとにその倍は力を増していきます。手に入れた物を手放したくありませんから」

「最悪だね。それなら無理やり外に出して、日の光を浴びさせるしかないぞ」


 3人の陰陽師が頭を抱えている中、俺はあの悪霊を倒す方法を一つ思い浮かべた。


「一つ、考えがある。朝香、ちょっと聞いていいか?」

「え?ええ」


 少し戸惑いながらも、俺は朝香と話をした。それが出来るのが、この中では朝香だけだから聞いてみた。

 あの悪霊を倒すために。


「可能か?」

「うん。可能だけど、ボクはまだやったことがない。父やお兄ちゃん、彩羽さんなら何度も経験があるから安心できるけど、ボクはまだそれをやったことがないんだ」

「それでも、出来るのならやってほしい。朝香にとっては、ぶっつけ本番で不安が大きいかもしれないが」

「・・・・分かった。それであの悪霊を討伐できるのなら」


 朝香は、今回の俺の提案を呑んでくれた。


「やってみる価値はあります。その間に私があの悪霊を更に弱体化させます。そしてトドメは、涼さんにお願いします」

「まぁ、宝刀で一刀両断すればいいわけだし、いいよ」

「よし、決まりだ」


 大阪の佐藤宗一を倒す方法を見つけた俺達は、早速その準備を整えてから夕食の準備を進めた。聖域の山に囲まれているだけあって、幽霊は一人も近寄って来なかった。

 だけど、元々住む人がいなくなったことで捨てられた廃村。空き家の中には何もなく、電気はもちろん水道も通っていない。井戸はあるが、かなり濁っていてごみも入っていた為とても飲めたものではない。


「一時的な避難場所としてはいいかもしれないが、定住するには向かないな」

「確かに、知識のない現代人のわたし達では無理だろうな」

「知識を持っている人も、近くにはいなさそうですし、あの町で安全な所を見つけてそこに済ませるしかありませんね」

「ああ」


 華々美と美玲の言うように、空き家以外に何もない廃村では定住は難しいだろう。

 救いがあるとしたら、雑草だらけではあったが当時の人たちが使っていたであろう畑の跡がたくさんあって、そこで作物を育てることが可能だということだろう。

 ただし、野菜の種や苗がなければただの土の山でしかないのだけど。


「幹夫!3人が目を覚ましたわよ!」

「ああ。今行く」


 眠っていた3人の様子を見に行っていた里美から、あの3人が目を覚ましたと聞いた俺は、話を聞くために3人の所へと向かった。まだ元気のない様子ではあったが、助け出した時よりも明らかに顔色は良くなっていた。ろうそくや懐中電灯の灯りしかなく、そこまで鮮明には見えているわけではないが、それでも分かるくらいに良くなっていた。


「気分はいかがですか?」

「ええ。もう、大丈夫です。助けてくださって、ありがとうございます」

「私は少しくらくらしますが、それでもあの中にいた時よりも幾分か楽です」

「数時間眠ったおかげで、少しだけ元気になりました」


 後遺症もなく、あの悪霊の悪影響もなく、2年もあの中に閉じ込められたとは思えないくらいに健康であった。2年間もあの中に閉じ込められていたと聞いた時、3人ともかなり驚いていたみたいだった。3人の体感では、3~4時間程度しかたっていなかったという。これもやはり、あの悪霊と魔界の影響なのだろう。


(本来なら入った人の命を奪うための空間なのだが、あの悪霊が強欲な性格をしていたおかげで殺されずに済んだのだろう)


「私たちは、佐藤のせいで当時付き合っていた人と無理やり別れさせられた」

「アイツのせいで、せっかく婚約が決まった人と別れさせられました。あの男は本当に最悪です」

「佐藤の欲の強さは、常軌を逸している。5日前に、実際には2年前に何人かの女性に殺されたと聞いたけど、こんな現象が起こって悪霊にまでなってしまったことであの男の欲望は更に強くなった気がします」


 やはり悪霊になったことで、佐藤宗一の欲望は更に強くなったみたいだ。


「アイツはもう成仏させることはできませんので、消滅させることにしました。うちには、力の強い陰陽師が3人もいますので」

「陰陽師って、そんなすごい人たちが仲間にいるのですか!?」

「いいなぁ!」

「しかも、3人もいるだなんて!?」


 3人ともかなり驚いていらっしゃる。まぁ、今の時代に陰陽師は殆どいないに等しいからな。涼だって、力を持つことができた陰陽師はとても数が少ないのだと言っていた。ものすごく驚かれた。




 その後、救出した3人と一緒に夕食を食べて食休みをしてから、寝床の確保をしてから寝る準備を進めていった。

 その際に、朝香にちょっとした疑問を訪ねてみた。付き合いの長い涼と一緒に。


「朝香ってさ、もしかして悪霊を前にすると性格が変わってしまうタイプなのか?」

「それは・・・・ごめんなさい。お父さんやお兄ちゃんにもよく注意されるけど、全然治んなくて・・・・」

「まぁ、それで返り討ちにあったり、逆にとり憑かれたり、自分が不利になったりすることがないからそこまで厳しく言われないけど、それでも私と同じ15歳の時に免許皆伝をした陰陽師としては致命的だからね」


 つまり朝香も、涼と同様に15歳で一人前の陰陽師として認められ、免許皆伝を貰っていたのか。違いがあるとしたら、涼は祖父や父親からかなり厳しく叩き上げられた努力型で、朝香はもともとの才能から最速で術を習得した天才型なのだそうだ。


「それでも、悪霊を前にすると激情する癖はなかなか治んないのよね。その上、容赦ないし」

「そのせいで、悪霊退治はもっぱらお兄ちゃんにばかり任されていたし、彩羽さんがうちに来てからはあの人も加わっているから、ボクはますます関わらせて貰えなくなっちゃったんだよね」

「そうか」


 もしかして、豊美トンネルの件も朝香のそういう悪い癖があるから、アシスタント程度に留められていたのか。


「そんなんで、明日は大丈夫なのか?」

「それは大丈夫。明日は任せて。幹夫さんの手を煩わせたりはしないから」

「俺としては、一緒に戦いたかったんだけど」

「何言ってんの。前にも言ったけど、悪霊関連は私たちに任せておきなさい。力を持たない幹夫が関わっても危険なだけだから」

「それでもだ。守られてばかりっていうのは御免だからな」


 危険は承知の上だし、俺だって彼女たちの役に立ちたいし、屋敷の皆や生き残った子供たちの為に俺は自分で動いていきたい。

 これだけは絶対に譲れない、俺の信念でもあり覚悟なのだから。

 




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