大阪の佐藤宗一
翌朝、俺達はドローンを飛ばす準備を進めた。
「里美と朝香と由乃さんは、大阪の佐藤宗一の住所の方に飛ばして。俺は生存者が他にいないか調査する。華々美と美玲は、画面のチェックをお願い。涼は周囲の警戒を頼む」
「了解。由乃さんは住所のチェックを、朝香は画面に映った死霊たちの思念を跳ね除けて」
「案内は任せてください。SNSや顔写真から住所を特定して、そこを調べればなんとか」
「任せて。幽霊たちって、写真や映像からでも思念を飛ばしてとり憑こうとするから」
里美たちは手際よく準備を進め、既にドローンを飛ばしていた。
一方俺達も、少し遅れてドローンを飛ばして周辺調査を進めた。
「相変わらず、野良猫やネズミ、野良犬やカラスの姿ばかりだ」
「たまにイノシシや熊が通った痕跡が見えますね」
「建物からは、死霊たちがギュウギュウに入っているし、空を漂っている浮遊霊の数は日に日に減ってきているし、人のいた痕跡はなくはないけど最近の物はない」
せいぜいが焚火の跡や、道端に袋菓子の袋や空の缶詰などが捨てられているということだが、いずれもが年季が経っていて最近の物がなかった。
(相変わらず、白骨死体ばかり。ガリガリに瘦せ細った死体も見つかったが、生存者がいる可能性は限りなく低くなったな)
めぼしい場所はあるのだが、死体ばかりで生きている人が一人もいない。
「都会は特に悲惨だって2年前に流れた動画で知ったが、ここまで酷いとは」
「それでも、生存者が一人もいないなんて不自然です」
「一体この町で、何が起こっているっていうんだ?」
生きた人の気配は皆無。
だけど、相変わらず何かに引き寄せられるような気配は感じられる。
「ちょっといいかしら?」
「ん?ああ」
疑問に思っていると、大阪の佐藤宗一の自宅を調査していた里美から声を掛けられた。
「大阪の佐藤宗一も、霊滅版は持っていないと思うわ。家の中を調べてみたけど、それっぽいものは何もなかったわ」
「職場に持ち出したという可能性もありますが、それだとここから車で15分かかる距離です」
「しかも、由乃さんが言うには思念の発生源もそこだということも分かったんだ。嫌な予感しかしないよ」
「「「・・・・・」」」
朝香の言う通り、嫌な予感しかしない。というか、十中八九その強欲悪霊の正体って間違いなく大阪の佐藤宗一じゃないか。
「行くしかないじゃない」
「わたしも同じ意見だ」
「行きましょう」
「そうだな。撤収!涼も戻ってくれ」
周囲の警戒をしていた涼を呼び戻し、ドローンと機材の撤収を行い、10分後に車に乗って大阪の佐藤宗一の職場に向けて走らせた。
由乃さんの言う通り、引き寄せの思念はどんどん強くなっていき、涼が皆に持たせた護符がなかったら今頃理性を失って悪霊の餌食になっていたと朝香は言った。
「こんなに強力な思念を放つなんて、一体どんな悪霊なんだ?」
「由乃さんも詳しく霊視したわけではないけど、大雑把に言うとかなり出世欲と権力欲の強かった人ではないかと予想している」
「出世欲に権力欲って・・・・新潟のアイツみたいな悪霊じゃないだろうな」
アイツの場合は、何にもできないくせにプライドだけはエベレスト級に高く、学生時代の栄光を語ることしかできない幼稚な男で、とにかく傲慢な男だった。
「分からない。でも、その悪霊が生前かなり酷い性格をしていたのは間違いない。放っておくわけにはいかない。特にこの現象が起こっている今は」
「ああ、分かってる」
向こうでは一体どんなことが起こっているのか、一体どんな奴なのかも検討がつかない。
だが、ここで食い止めないといけない。こういう欲深な奴は、更なる欲求を満たすために何をしでかすか分からない。悪霊化しているのなら尚更だ。
そうして15分ほどで目的の建物がある町に着いたが、今までにないくらいに強烈な思念を感じて吐き気がした。
「やっぱりここからか。霊感のない俺達でもハッキリとわかる」
「霊感のない幹夫たちでさえこれだから、私や由乃さんや朝香なんて立っているのが辛いくらいよ」
そういって俺達の目の前にある建物、大阪の佐藤宗一が勤めていた研究所を見上げていた。と同時に、そこから強烈な引き寄せの思念が発せられているのが肌で分かる。
「早速、中にいる死霊たちを追い出して日の光を浴びさせ」
「少し待ってください、涼さん」
術を掛けようとする涼を、険しい表情の由乃さんが制止させた。
「由乃さん?」
「・・・・・なんてことだ」
「霊視したの?」
「この気配・・・中にいる霊はこの思念を発している悪霊1人だけみたい」
『え!?』
由乃さんの口から発せられた衝撃的内容に、俺達は一斉に絶句して目の前の建物を改めて見上げた。
「その代わりに、中にはたくさんの生きた若い女性とたくさんのお金などが詰め込まれています」
「他の死霊たちは、取り込んだってところかな」
「おそらく」
細心の注意をしながら、俺達はそれぞれ武器を手に持ってからゆっくりと建物の中へと入っていった。中は、由乃さんの言う通り大量の一万円札と貴金属類、更には半裸状態の女性が3人床に横たわっていた。幸いなことに、3人とも弱っていたがまだ生きていた。
「助けるぞ」
俺の指示で、横たわっている女性3人に駆け寄ろうとした。上の階にもまだいるかもしれないが、その悪霊がどんな奴なのかも分からないまま乗り込むのは危険だ。今日中に詳しく調べて、明日中には上の階にいる人を何とか助け出したいと思っていた。
だが、その瞬間階段から黒い影がものすごい勢いで迫ってきて、横たわっている女性3人に近づいてきた。
「クソ!」
黒い影が近づく前に手を伸ばし、何とか1人をこちらに引き寄せることが出来たのだが、あとの2人は黒い影に捕まって階段の所まで連れていかれた。
そしてその影は、徐々に人の形へと代わっていき、やがて白衣を着た40代くらいの男性へと変わった。その男の顔には、見覚えがあった。
『俺の物に手を出すな!』
「お前の物って、人はモノじゃないぞ。佐藤宗一!」
そう、あの黒い影の正体が大阪の佐藤宗一で、死後悪霊となって自分が勤めていた研究所に居着いていたのだ。
「里美、美玲、華々美、彼女を連れて外に」
「「分かった」」
「分かりました」
『おい待て!女はここに残れ!男のテメェだけが出ていけ!』
そんな悪霊の戯言を聞き流し、3人は助けた女性を連れて外に出た。流石の悪霊も、太陽の下に出ることが出来ずに動けないでいた。
『貴様!俺の物を無断で盗みやがって、許さねぇぞ!この、犯罪者が!』
「どっちが犯罪者だ!」
「というか、悪霊のアンタが生きた人間と一緒にいることは許されないわ!」
「アナタが悪霊というだけで、アナタが抱いているその2人は命の危機にさらされるのです!」
「さっさと放せ!さもないと、消すぞ!」
警告する涼と由乃さんと、悪霊を睨みつけながら今にも刀を抜きそうな朝香。
だけど佐藤宗一は、そんな3人の言葉なんて右から左であった。
『知らねぇよ!俺が欲しいと思って手に入れた物なんだから、ここの女どもは皆俺の物、俺の所有物で間違いないんだよ!女だけじゃない!ここにある金も、貴金属類も、服も、ワインも、全部が俺の物なんだよ!』
「聞いてもいないのにベラベラと。というか、他にも服やワインもあったんだな」
『当然だろ!俺は、欲しいものは何でも手に入らないと気が済まないんだよ!』
まるで子供みたいな主張をする大阪の佐藤宗一。
だが、同時にあれは人間の本質を現しているのかもしれない
『そう!俺はずっとそうだった。子供のころから、欲しかったオモチャはどんな手を使ってでも買わせたし、ゲームも欲しいと思ったら周りの友達から無理やり取ってやった』
「テメェ!それこそ泥棒じゃねぇか!」
『そんなことはない!相手の物は俺の物、俺の物は俺の物って決まってんだよ!』
あの人気アニメのガキ大将のセリフそのままの使い、それを実際に聞くとかなり腹が立ったし、現実にそんなことをすると思い切り犯罪だ。特に、この男くらいの年齢の大人がやると警察が動くレベルの犯罪だ。
『大人になれば成果を出せば評価され、出世すれば貰える給料も多くなる!だから、俺は自分の成果と合わせて同僚と部下の成果も奪えば今まで以上に早く出世出来て、欲しいものも今まで以上にたくさん手には入れたし、欲しい女もたくさん手に入れることが出来たんだよ!』
「クズだな」
人間の欲望には際限がない、ということはよく聞く。この男は、その言葉を体現したような奴であった。
『誰がクズだ!』
「「「させない!」」」
激情した悪霊が俺に向けて手を伸ばしてきたが、その前に陰陽師3人が前に出てその伸びてきた手を弾いた。
「クソ!」
「通常なら爆散するのに、効いていない!」
「欲望を満たすことで、その力を増しているのだと思います!」
どうやら、その腕を爆散させるつもりだったのだが、3人の術が効かずに弾くくらいしかできなかったみたいだ。
『女ども、お前ら何者なんだよ!?』
「私達は、お前みたいな悪霊を退治するもの」
「同じ大人として、アンタみたいな男は恥です」
「消えろ悪霊!」
自分たちの術が効いていないことに少し驚く涼、恥ずかしい行動と言動ばかりする悪霊に棘のある言葉を吐く由乃さん、激しい感情をむき出しにする朝香。
3人の反応もそれぞれであった。
『陰陽師か!そんなものが実際に存在するとは思わなかったが、所詮はただの人間!この俺の敵ではない!』
すぐに涼達の素性に気付いた悪霊は、2人の女性を床に放り投げ、両腕と、背中からも無数の腕を生やして伸ばしてこちらに迫ってきた。
「クソ!」
「術が効かない!」
「犬神ほどではないにしても、これはキツイです!」
「悪霊め!」
それぞれ刀と桃木剣で腕を弾いていて、涼と朝香に至っては時々術を悪霊にぶつけているのだが全く効いていなかった。建物が火事になることも覚悟で炎を噴き出しもしたが、それでも悪霊は涼しい顔をしていた。
「クソ!何なんだよアイツ!」
「落ち着きなさい朝香ちゃん!それと、騒がないでください!」
「由乃さん?」
そういえば由乃さんは、涼や朝香と違って術は一切使わずに俺と一緒に桃木剣で弾くだけであった。
その間も、由乃さんは鋭い眼光で悪霊を睨みつけて視線を逸らさなかった。
(由乃さん、もしかして霊視をしているのか?)
こんな状況であるにも拘らず、由乃さんは冷静に相手の悪霊の霊視と分析を行い、倒し方を探っているのだとすぐに気づいた。
(こんな状況であるにも拘らず、よく冷静に分析が出来るな)
力は涼と朝香の方が上なのだが、冷静に状況を分析して的確な攻撃を繰り出せる由乃さんの方が頼りになり、模擬戦でも2人は由乃さんに勝ったことがない。力では劣っても、実戦経験の豊富さから由乃さんが涼と朝香を圧倒することがある。
しばらく攻撃をしのいでいると、由乃さんがカバンから五鈷杵を取り出して前に突き出して強い光を放った。
『ううぅ・・・・』
「涼さん、朝香ちゃん、戻ってください!一旦引き上げます!」
「しかし由乃さん!」
「でも悪霊はまだ!」
「引け!」
なかなか引こうとしない2人を、厳しい口調で命令することで強引に2人を引かせた。その間に俺と由乃さんは、悪霊の近くで倒れている女性2人を抱えてから戻った。
「引き上げるぞ!」
相手が怯んでいる間に、俺達は救出した女性たちと一緒に建物の外に出て、華々美と里美と美玲が乗っている2台の車に乗り込んだ。
「出すぞ!」
俺達が乗って席に座ると同時に、華々美がキャンピングカーのエンジンをかけて急いで走らせた。ワゴンは里美が運転していた。
「一旦町を出て!ただし、高速ではなく国道に入って!停まる場所は私が指定する!」
「分かった!」
一緒に乗った涼の指示で、華々美はキャンピングカーを走らせて、後ろを走るワゴンもこっちの後を追って走っていた。
しばらく走って、国道に入って町を出て山道に入ると、しばらくすると幽霊が一人もいない所に入った。
「次で国道を降りて!その先の廃村に入って!周りの山が聖域になっているから、死霊はもちろんあの悪霊も入ってこられないわ!」
「ここにも聖域があったか!」
指定された廃村に入ると、涼の言う通り幽霊が一人もいなかったが、当たり前だけど生きた人間も一人もいなかった。
「あの町からかなり離れてしまったけど、ここまで徹底しないとあの悪霊は執念深く追いかけてくるわ」
「確かに。それに、助け出した3人の女性たちの介抱もしないといけないから」
停まってしばらく、すぐ近くにブルーシートを敷いて3人を寝かせて、里美と美玲と由乃さんの3人が介抱してくれた。その間に俺は、華々美と涼と朝香の4人と一緒にテントを2つ立てていた。
数日は彼女たちの介抱を行い、日を改めてから大阪の佐藤宗一を改めて対峙することに決めた。
大阪は「強欲」がテーマとなります。
何度も書いていますが、実在の人物や団体等とは一切関係ありません。




