↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
85/125

大阪へ

 ついに出発の日を迎えた今日、俺達は皆に見送られながら車に乗り込もうとしていた。同行者は、華々美、涼、里美、美玲、由乃さん、朝香の6人だ。


「絵里奈。パパとママはしばらく留守にするけど、必ず帰ってくるからいい子にお留守番してるんだぞ」

「わたし達はいつも、絵里奈の事を思っているよ。例え離れていてもそれは変わらない。わたしもパパも、絵里奈の事が大好きだから」

「うん」


 寂しそうではあるが、いつも泣きついて離れようとしなかった絵里奈が珍しく聞き分けが良く、きちんと屋敷で待っていることを承諾した。


「幹夫がちゃんとパパになってくれたことで、絵里奈の中で安心感が生まれたんだと思うぞ。それまで幹夫は、父親代わりにはなっているが何処か他人行儀な所があったから、絵里奈が不安がって離れようとしなかったんだと思う」

「絵里奈を不安にさせてしまっていたんだな。ごめんな、絵里奈。パパは絵里奈の事が大好きだ」

「パパ」


 俺に抱き着いてきた絵里奈を、俺は背中をポンポンと軽く叩きながら優しく抱きしめた。しばらく抱きしめた後、絵里奈を抱っこして立ち上がり、小夏さんに渡した。


「絵里奈を、お願いします」

「任せてください。もう2年もお世話していますので」

「私達も精一杯面倒見ます」

「わたくし達も、ここの子供たちを精一杯守って見せます」


 戸村さんと西園寺さんの言葉に、柴川さんもうんうんと力強く頷いてくれた。彼女達3人には、自分の子供のお世話があるのに本当にありがたかった。西園寺さんに至っては、子供は双子だから大変さも2倍の筈なのに。


「それじゃ、行ってきます」


 俺の挨拶の後、皆も一斉に挨拶を済ませ、それからすぐにそれぞれキャンピングカーとワゴンに乗って屋敷を出発した。

 ワゴンには、由乃さんと涼と美玲の3人が乗った。

 キャンピングカーには、俺と華々美と里美と朝香が乗った。


「奈良で一泊してから大阪まで行くんだよね」

「ああ。その後広島に行って、最後に鹿児島に行く。その前に霊滅版を見つけられれば、それでこの長旅は終わるんだけどな。里美には苦労かけるけど」

「いいよ。だけど、たまには幹夫たちも運転しなさい」

「堂々と無免許運転を推奨するなって」


 そんな軽口を言い合っているが、里美にはいつも苦労を掛けていると思っている。

 東京、新潟、岩手、北海道はハズレ。奈良は向こうから来て、そこもハズレであることも知った。

 霊滅版は見つからなかったが、東京では影山姉妹とたくさんの子供たち、新潟では絵里奈と佳苗さん、岩手では日口家と朝香とたくさんの生存者たちと出会った。北海道は残念な結果に終わったが、それでも行って良かったと思っている。

 残るは3人。大阪と広島と鹿児島出身の、佐藤宗一という名の歴史学者。彩羽さんの予想だと、霊滅版を買った佐藤宗一は、本当は歴史学者ではないかもしれないと言っていたけど、それでも俺は行くべきだと思っている。例えは全てハズレに終わっても、何かしらの収穫があると思っている。


「大阪までは?」

「休憩や昼食込みだと、5~6時間ってとこかしら。今日中に着くことは出来るけど、無理をする必要はないわ。当初の予定通り、奈良で一度降りてそこで一泊してから向かうべきだわ」

「そうだな。まだ暑いけど、徐々に涼しくなっているし、日が暮れるのも早くなっている。一旦奈良で降りて、そこで一泊するとしよう」


 奈良の佐藤宗一が俺達の所に来なかったら、アイツの研究所や家を特定して調査していただろうが、アイツが持っていないどころか売られていたこと自体知らなかったと知った。

 なので今回は、一泊するだけでそれ以上は何もしない。


「窓の外からの様子だけど、人の気配は全く感じないな」

「その代わり、こちらを睨んでいる霊の気配をごまんと感じる。ボク達の車には、涼ちゃんが術をかけてくれているから大丈夫だけど、普通なら日陰やトンネルに入った瞬間に侵入されて襲われる」


 朝香の言う通り、俺達は涼のお陰で車に乗ることが出来るのであって、通常は日陰やトンネルに入った瞬間に襲われるのだという。

 戸村さん達は、自転車であったことと日陰やトンネルを避けて通っていたお陰で襲われずに済んだのだという。

 他にも、太陽の光をたくさん浴びたのも襲われなかった要因ではないかといっている。日の光を嫌う死霊たちは、それをたくさん浴びた物にも近づかないこともこの2年間で知ることが出来た。

 とはいえ、真夏の太陽を長時間浴び続けるのはかなり危険であるため、この方法はあまりお勧め出来ない。


「幾つか、村や集落は見つけたけど、その全てが無人だな」

「電気が使えない今、火は生きていく上で重要だから、人がいれば必ず煙が上がるはずだ。ソーラーパネルで自家発電しているのなら別だが」

「それっぽい所は見当たらないな」


 それに、便利な暮らしに慣れ過ぎている現代人が、電気も使えず食べ物や必要物資の調達のままならない、おまけに自由に外を出歩けず娯楽がないのは苦痛でしかない。笠島先輩たちみたいに順応できる人もいるが、大抵の人はそうではない。何かしらの暴動が起こり、その痕跡も残るもの。

 だが、道中それらしい痕跡すら見当たらなかった。


「奈良の佐藤宗一が、俺達の所に向かう途中でたくさんの人を引き連れたというのを差し引いても、ここまで人がいないなんて」

「町に入って調査すれば見つかるかもしれないけど、絵里奈も待っているんだしそんな時間はない。わたし達の最優先課題は、霊滅版を見つけて回収することだ」


 手を差し伸べたい気持ちを押し殺し、俺達は最初の目的地である大阪にまっすぐ向かうことにした。途中で奈良に寄って、そこで一泊するけどそうでもない限りは何処にも寄らない。

 1時間ごとにパーキングエリアへ立ち寄り、30分休憩した後でドライバーを交代して先へ進むを繰り返した。正午には1時間半の昼食と昼休憩を取り、俺達はまず奈良へと入ることが出来た。

 だが、その瞬間に何か妙な気配を感じた。いや、正確には大阪に近づく度にその気配をより強く感じるようになったのだ。

 その気配の正体を知る為に、高速を降りてすぐに近くの学校のグラウンドに車を停めた。


「涼、この気配は一体・・・」

「何か強い思念で引き寄せられている。発生源はまだ先だ」

「今由乃さんが、思念の発生源を探っている。本当にすごいよ、あの人は」


 涼と朝香が、霊視で探っている由乃さんに視線を向け、俺達も由乃さんに注目した。涼と朝香も霊の気配を探れるが、思念の気配となると探るのは困難になる。その辺は経験の差が関係しているだろう。


「・・・・・掴めました」


 気配を探っていた由乃さんが、パッと目を見開くとすぐに気配の発生源の方を指さした。


「思念はあちらから発生しています。距離感から、大阪からです」

「大阪って、俺達が向かおうとしている所だ。こんな所まで思念を飛ばすなんて」

「気配から察するに、これは悪霊の仕業です。それも、かなり欲の深い。おそらく、生前はかなり強欲で卑しい人だったのでしょう」


 それが遠く離れたこんな所にまで及ぶなんて、とんでもないくらいに強い欲望を持った悪霊なのだろう。


「でも、ここまで届くほどの強い思念を飛ばすなんて、あの鹿森を軽く凌ぐくらいにとんでもない欲望の持ち主だったんでしょう。ここまで欲が強い思念は、私も初めてです」

「私もだよ。地下の悪霊でも、ここまでの強欲さはないわよ」

「なんか不安になってきた・・・・・」


 陰陽師3人からもそんな意見が出て、俺達は心底嫌そうな顔でこれから向かう大阪の方を向いた。


「だけど、これだけの強い欲望を放っているってことは、大阪は今酷い状況になっていることになる」

「ああ。それに、こんな所にまで強欲悪霊の思念が届いてるんだ、放っておいたらいずれ日本全土に広がる」

「ああ」


 俺と華々美は互いに顔を合わせながら、うんと力強く頷いた。このまま放置するわけにはいかなくなった。


「予定では、ここで一泊する予定だったが、状況が変わった」

「すぐにでも大阪に行って、この思念を発している悪霊を退治した方がいい。わたしもすぐに向かうべきだと思う」

「そうですね。このまま放置しても、いずれ私たちの所にまで影響を及ぼす可能性だってあります」

「私も、すぐに行くべきだわ」


 俺と華々美だけでなく、美玲と里美も賛同してくれた。

 涼と由乃さんと朝香の3人も、このまま放置という訳にはいかないと分かっているのか、互いに顔を合わせながら頷いてくれた。


「だったら早く行こう。今日中に解決、は無理かもしれないけど明日には調べて潰すことが出来ればいいと思うわ」

「私とて、こんな思念を放つ悪霊を無視するわけにはいきません」

「善は急げね。休憩を省けば今日中に着くだろうし、出来ればそこでキャンプして明日に備えておきたいね」


 そうと決まったら皆早かった。

 真っ先に運転席に座ったのは、里美と由乃さんの二十歳以上の2人が進んで座り、俺と華々美と朝香は里美の乗るキャンピングカーに、涼と美玲は由乃さんの乗るワゴンに乗り込んだ。

 奈良の滞在時間が僅か15分となってしまったが、どの道奈良の佐藤宗一は霊滅版を持っていないことはもう分かっているのだし、早く大阪に着けるのならその方がいい。

 それに、奈良の佐藤宗一のようにこっちに来る可能性だって十分にある。

 休憩なしでずっと車を走らせるのだから、腰と背中とお尻が痛くなり、ずっと同じ姿勢で2時間以上は精神的にキツかった。

 だけど、ずっと運転している里美や由乃さんの方が辛い筈なので、誰も何も言わなかった。唯一言葉を発していたのは朝香だが、彼女は呪文のようなものを唱えていて、謎の引き寄せの思念を跳ね除けていた。

 2時間ほどで大阪に到着した。


「次で降りて。そこから強い思念を感じる。おそらくそこに、強欲悪霊がいる可能性がある」


 朝香の指示で、俺達は指定された街へと降りて、近くの大型スーパーの駐車場に停めた。


「よし、すぐに結界を張ってキャンプと夕食の準備に取り掛かるぞ」


 俺の指示を受けて、涼と朝香が俺達の2台の車を中心に広い範囲で結界を張り、華々美と由乃さんと美玲で夕食の準備を行い、俺と里美でキャンプの準備をした。


「コンクリートが所々ひび割れていて、ビスを撃つことが出来るわね」

「人数も増えたし、持ってきたテントなら3人は余裕で入る。キャンピングカーのベッドは2つしかないし」

「ワゴンでは寝袋になるし、詰めれば3人は入るけど、やっぱり狭いからね」

「どこで寝るかについては、悪いけどジャンケンで勝った人に選択権を与えることにした」

「そうなると、キャンピングカーのベッドが真っ先に取られるわね」

「仕方ないさ。恨みっこなし」


 里美とそんな話をしながら俺達は、慣れない手つきながらも何とかテントを立てることが出来た。ちょうどそのタイミングで、涼と朝香の2人も結界を張り終えたみたいで俺と里美の所に歩み寄った。


「結界は張ったわ。これで死霊たちは私達に近づくことが出来ないよ」

「幽霊たちは防げても、野生動物や野犬は防げない。幸い動物の気配はないけど、いないという保証はない」


 なんにせよ、死霊たちが入ってこられないようにしてくれて助かった。

 それから30分後に、夕食の準備を終えた3人に呼ばれて、俺達は席に着いた。


「ご飯を食べた後、キャンピングカーとワゴンとテントのどこで寝るのかをジャンケンで決めようと思っているけど」


 夕食を食べ終わり、後片付け作業中に俺は自分の提案を皆がうんうんと面白そうな顔で頷いて見せた。なんか楽しそうであった。


「そうだな。恨みっこなしで」

「なんだか楽しそうだね」

「ボクも賛成」

「私も異論はありません」

「私もです」


 全員から賛成意見が出て、俺達は片づけを終えてすぐに寝床決めのジャンケンを始めた。


『ジャン、ケン、ポン!』


 何度か勝負したのち、最初の勝者が2人決まった。


「はいはーい!まずは私ね」

「えっと・・・・すみません」


 最初の選択権を獲得したのは、里美と美玲であった。


「まぁ、ベッドも魅力的だけど、私はこれまで通りワゴンでいいわ」

「私は、テントで寝てみたいです。ちょっとした憧れなんです」


 その後も、俺達は寝床決めのジャンケンを行った。

 結果、キャンピングカーのベッドで寝るのは、由乃さんと朝香に決まり、ワゴンには里美と涼が寝ることになった。

 そして、最後まで残ってしまった俺と華々美は美玲と一緒にテントで寝ることになった。


「はは・・・・言い出しっぺが最下位になるなんて、お約束展開」

「まさか、このわたしが全敗だなんて・・・・」

「仕方ありませんよ。ジャンケンだったので」


 落ち込む俺と華々美を連れて、美玲は寝袋を持ってテントに入った。まだ就寝時間ではないため、寝袋を置いてすぐにテントを出て今後の話し合いをした。

 明日の早朝に、ドローンで周辺の調査をして生存者のチェックをして、接触して大丈夫そうなのかを様子見てから接触するのかを決める。その後で、強欲悪霊の捜索および討伐を行うという。

 そうして夜の10時ごろまで皆で話をしてから、ジャンケンで決めたそれぞれの寝床に向かった。


「ううぅ・・・・テントでキャンプっていうのもやってみたかったですが・・・・」

「結界を張っているとはいえ、死霊たちに囲まれながら外で寝るのは抵抗があったからな」

「だから皆、キャンピングカーかワゴンで寝たがるんだ」


 最初はルンルンだった美玲も、外から聞こえてくる死霊たちの呻き声を聞き、テントを選んでしまったことを後悔した。

 流石にこれはマズイ。怯えていては、かえって死霊たち引き寄せてしまうし、最悪の場合は悪霊も引き寄せてしまう。

 それだけは、何としても避けないといけない。


「無理やり寝るしかない。目を瞑って円周率を数えれば」

「そう言っているが、幹夫は円周率を何桁まで言えるんだ?」

「3,14以降の数字は一切分かりません・・・・」

「あはは・・・・分かりませんよね。それなら平方根ならどうですか?」

「そうだな、じゃあ幹夫、5の平方根は?」

「えっと、富士山麓オウム鳴くだから・・・・2,2360679」

「正解だ」

「だったら華々美。3の平方根を答えろ」

「人並みに驕れや、だから・・・・1,7320508」

「流石は元お嬢様学校出身。正解」

「ちょっと2人とも、私を置いていかないでください」

「なら美玲、9の平方根は?」

「えぇっと・・・・・って、3ですよ!」

「チッ!答えたか」

「幹夫も大概意地悪だな」


 そんな感じで平方根を答えたり、歴代総理大臣の名前を言い合ったり、ポ××ンの名前を言い合っているうちに、俺達は自然と眠りについたのであった。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。