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犬神の力

 犬神が3人の陰陽師を相手にして、鹿森が傷みで悶えている間に助け出した華々美を戸村さん達がいるワゴンまで連れてきた。


「華々美さん!」

「酷い傷です!あの男にやられたのですね」

「・・・・酷いです!」

「このくらい平気だ。物理攻撃が通じる人間相手に、このわたしが怯えて屈服するとでも思ったか」

「確かに、華々美は俺達のグループで一番ケンカが強いもんな」


 ついでに捕捉すると、拳銃も隠し持っていました。生きた人間相手に、華々美が怯える要素なんてあるわけがないわな。


「それでも、助けられてよかった」

「助けてくれるって信じてたさ」

「当たり前だろ。皆は華々美の手当てをお願い。俺も犬神と戦う」


 華々美の事は戸村さん達に任せて、俺は再び外に出て犬神と今も戦っている3人の元へと向かった。

 相手があの犬神だからなのか、流石の一流陰陽師3人でさえかなりの苦戦を強いられていた。


(攻撃は当たっているみたいだけど、どれも犬神の身体を貫通できていない。術も時々使っているけど、まるで効いていない。それまで一撃で葬ってきた彼女たちの術が、犬神には全く通用しない)


 というより、彼女たちが物凄く強いから悪霊相手であっても一撃で倒すことが出来たのだ。でなければ、俺達全員無事でいられるはずがない。

 それに、運が良かったというのもある。でなければ、道中でたくさんの人と出会うこともなかっただろう。


「だが、それでもたくさん経験を積んできたことには変わりない。守られてばかりなんて御免だからな」


 俺は弓で矢を引いて、3人ともが犬神から距離を取ったタイミングで俺は矢を放った。

 しかし、それに気付いた犬神は素早く掴んで真っ二つに折った。


(鏃が刺さらなければ何の意味もないか!だが、隙を作ることは出来たはずだ!)


 その直後に、涼は宝刀を一旦収めてすぐに親指の先を嚙み切り、血を掌に塗ってパンと両手を鳴らした。


「食らえ!」


 両掌を素早く犬神に向けると、ドンという大きな音と共に華々美が縛られた木まで勢いよく吹っ飛ばされた。


『ワアアアアァッ!』


 流石の犬神も、涼の衝撃砲を食らって無傷では済まなかったようで、身体中から黒色の瘴気の様なものが溢れ出ていた。


『はっはっはっ・・・・』


「流石の犬神も、私の衝撃砲はキツかったみたいね」

「涼ちゃんのその術は、本当に厄介ですからね」

「そのようだね。一気に決着を!」


 そう言って朝香は犬神に向かって斬りかかっていったが、その前に犬神は大きくジャンプをし、ワゴンの中へと入っていった。


「しまった!」


 ワゴンには、負傷して戦えない華々美と、そもそも戦えない3人が乗っていた。

 すぐに俺達が駆けつけると、柴川さんと西園寺さんが慌てた様子でワゴンから出てきて、その後に戸村さんが華々美の首を締めながらゆっくりと出てきた。


「華々美!」

「わたしはいい!それより戸村を!犬神にとり憑かれている!」

「なに!?」


 華々美から告げられた衝撃的な内容に、俺達は茫然としてしまった。


「とり憑いたって、あの一瞬で!?」

「言ったでしょ!犬神の人間にとり憑く能力は他のどの悪霊とは比べ物にならないくらいに強力だって!」

「人にとり憑いて災いを起こす、それが犬神なのです!」

「あの男の時と違って、背中に張り付いて憑依しているわけではなく、本当に相手の身体の中に入っているんだね」


 確かに、よく見ると戸村さんの口から長い犬歯が生えていた。

 人にとり憑く悪霊だというのは知っていたが、まさかここまでとは思ってもいなかった。涼から持たされていた護符が、何の役にも立っていなかった。

 けれど、このままにする訳にもいかない為俺と涼と朝香の3人で引き離すことにした。戸村さんの腕力はそれほど強くないのだが、犬神にとり憑かれている影響なのか飛躍的に強くなっていて、俺と涼と朝香が協力してようやく華々美から引き離すことが出来た。


「大丈夫?」

「死ぬかと思った・・・・・」

「だけど、これでは流石に手も足も出せない」


 幸い華々美は無事だったが、あれは本当に危なかった。

 犬神にとり憑かれた戸村さんは、朝香と由乃さんの2人が取り押さえているが、それ以上何もできないでいた。


「護符は持たせてある筈だが、それでも人にとり憑くなんて。犬神のとり憑く力の強さを甘く見ていたわ」

「何とかして追い出せないか?」

「やってはみる」


 そんな状況になっているにも拘らず、俺に矢を撃たれて蹲っているあの男はまるで勝ち誇ったかのように大きな声で笑いだした。何か言っているみたいだが、もはや聞いているだけで時間の無駄なので聞き流すことにした。俺だけじゃなく、他の皆も鹿森の事を無視していて、相手の言葉なんて耳に入れていなかった。


「さて、これが果たして効くか?」


 緊張した面持ちで涼は、カバンから金墨で書かれたお札を取り出して、それをゆっくりと戸村さんの額に貼ろうと近づけた。


「クッ!」


 だが、貼られる前に犬神は黒い靄となって戸村さんの身体から離れた。


「え、えええっ!?」


 そして今度は、すぐ後ろでオドオドとしていた柴川さんの身体の中へと入っていった。直後に、隣にいた西園寺さんの首を絞める為に手を伸ばしてきた。


「きゃあああ!」


 だけど西園寺さんは、すぐに俺達の所まで逃げてきたおかげで事なきを得た、と思われたが柴川さんは信じられない速さで俺の所に来て首を絞めようと腕を伸ばしてきた。


「クソ!」


 首を絞められる前に何とか柴川さんの両手を掴んで阻止したが、信じられない力を前に徐々に彼女の手が俺の首に近づいてきた。


(柴川さんは本当に非力で、野菜が入った箱も持ち上げられないくらいに力の弱い子の筈だ!瞬君のことはずっと抱っこできるのに)


 犬神の影響を差し引いても、今までの柴川さんでは考えられない力を前に動揺を隠せないでいた。

 だが、柴川さんの手が俺の首に触れる前に華々美と涼が彼女の腕を掴んで俺から引き離して地面に伏せさせた。


「幹夫、大丈夫か!?」

「ああ、大丈夫だ。それより戸村さんは?」

「気を失っている。後遺症は無いみたいで良かったわ」

「そうか」


 ちょうど西園寺さんが、気を失っている戸村さんを介抱しているみたいだ。そのお陰なのか、戸村さんはすぐに目を覚ました。


「私は・・・・はっ!?」


 とり憑かれた時の記憶があったのか、すぐに起き上がって華々美の所へと駆け付けた。


「ごめんなさい!苦しかったでしょ!本当にごめんなさい!」

「気にするな。犬神にとり憑かれたんなら、どうすることも出来ない。それより」


 現在華々美は、犬神にとり憑かれている柴川さんを涼と一緒に取り押さえている最中であった。


「またコイツにとり憑かれる前に、西園寺と離れろ」

「は、はい!」


 華々美から離れるように言われた戸村さんは、西園寺さんを連れてワゴンの後ろへと隠れた。


「代わりますので、華々美さんもここから離れて!」

「由乃さん!お願いします!」


 すぐに駆けつけてきた由乃さんと代わって、華々美は戸村さんと西園寺さんのいるワゴンの後ろへと隠れた。


「幹夫君も早く!私達なら、そう簡単にとり憑かれやしないから早く!」

「いや、俺はここに居ます」


 由乃さんにここから離れるように言われたが、俺はそれを突っぱねて柴川さんの前に出た。


「出てこい、犬神!そして俺にとり憑いてこい!」

「はあぁっ!?」

「なにを言ってるんですか!?」

「バカなこと言わないで離れて!」

「そんなことしたら、別の誰かにとり憑かれてしまう。そうしたら3人で俺を叩きのめしてくれ!男の俺なら遠慮はいらねぇ!」


 華々美や西園寺さんにとり憑かせるわけにもいかないし、涼や由乃さんや朝香にとり憑かれるのが最悪だ。

 そうなるくらいなら、俺自身にとり憑かせて俺自身を叩かせた方がいい。女性を叩くのに抵抗はあるが、男の俺なら容赦なく叩くことが出来るだろう。

 俺の言葉を聞いた柴川さん、もとい犬神はニヤリと笑った。


「やめろ幹夫!」

「やめなさい!」

「幹夫さん!」


 柴川さんから離れた犬神は、黒い靄となって俺に向かってきた。


(来い!俺にとり憑いてこい!)


 迫ってくる黒い靄を睨んでいると、俺の顔のすぐ横を神々しい程に白い腕が伸びてきて、黒い靄を跳ね返した。


『ワアアアアァッ!?』


 弾かれた犬神は、黒い靄から人間のボディと犬の顔の姿に戻った。

 それと同時に、俺と犬神の間に白い着物を着た老婆が神々しい光を放ちながら立っていた。


「婆ちゃん・・・・・」


 姿を現したのは、俺の祖母の霊であった。だが、祖母は他の幽霊たちと違って清らかな雰囲気を出し、全身から神々しい光を放っていた。

 祖母はジッと犬神を睨むと、スッと右手を挙げて前に出した。その瞬間、祖母の掌から周囲が一気に明るくなる程の眩いばかりの強い光を放ち、それを浴びた犬神が苦しそうに天に向けて吠えた。


『わあああああああああああ!』


 強い光は10秒ほどで収まり、先程の勢いと力を失った犬神はフラフラの状態で立っていた。

 そんな犬神に、涼が前に出て手に持っていた金墨のお札を相手の額に貼りつけた。


『わあああああああああああ!』


 苦しむ犬神に、涼は呪文のようなものを唱え、終えると今度は右手を前に出した。突き出した右手から、金色の混ざった白い光が激流のように放たれ、それを浴びた犬神は断末魔を上げる間もなく塵となって消滅した。


「はぁ・・・はぁ・・・」


 犬神を倒した後、念力をたくさん消耗したのか、珍しく大きく肩を揺らして呼吸をする涼。

 由乃さんと朝香は、気を失っている柴川さんを抱えていた。

 華々美と戸村さんと西園寺さんからは、無茶をしようとした俺の所に駆けつけて叱ってきた。

 そんな中、消滅した犬神を見て絶望とする男が一人いた。


「そ、そんな・・・・犬神様が、あんな底辺に負けるなんて・・・って!?なんだこれは!?」


 絶望する鹿森を見ていると、その体が砂となって崩れていった。自分の手が指先から崩れていき、砂になっていることに驚愕して震えあがっていた。


「どうなってんだよ!?」

「当然だろ」


 その原因を知っている由乃さんは、柴川さんを車に乗せた後すぐに鹿森の前に立って話した。


「犬神クラスの大悪霊にとり憑かれただけならともかく、契約して一緒に同行してきたんだからその代償はかなり大きいものになる。そして、代償としてお前の命はずっと犬神によって奪われ続けていたんだよ。犬神が消滅した今、お前は自分自身の存在を保つことも出来なくなり、そのまま死ぬことになるんだよ」

「そ、そんな!?何とかしてくれよ影山!」

「無理、因果応報だ」

「なんでだよ!」

「悪霊化されても迷惑だから、せめてもの情けで成仏させてやるが、テメェの魂は徹底的に洗浄されるだろうから畜生にしかならないだろうな」

「嫌だ嫌だ嫌だ!何とかしてくれ、影山!」

「やだ」


 無常ともいえる由乃さんの言葉の後、鹿森の身体は完全に砂となっていった。そこから出た魂に、由乃さんは術をかけて成仏させた。

 最後に、俺を助けてくれた祖母の霊は穏やかな笑みを浮かべながら俺に抱き着き、再び姿を消した。


「あのお婆さんは、幹夫さんの守護霊なの?」

「ええ。これまで何度も幹夫を助けてくれた。本当にすごい力を持っているの」

「なるほど。だからボク達は、安全に霊滅版探しが出来ているんだね。幹夫さんの守護霊が、幹夫さんだけでなくボク達の事も守ってくれていたから」

「私達も、日々感謝しないと」


 そんなことを言って、涼と朝香は揃って俺に向かって合掌して拝んだ。むず痒いのでやめて欲しかった。

 全て終わった後、俺達は全員ワゴンに乗って、由乃さんの運転で屋敷まで帰ったのであった。





幹夫が犬神に向かって自分に取り憑くように言うセリフが少しおかしいですが、これは本人の覚悟とは裏腹に怯えている様子があったからなのです。

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