赤ちゃん同士の交流
戸村さん達がうちに来た次の日、彼女たちの子供たちの健康状態を改めてチェックしてもらうために空道神社へ行き、智恵美さんに改めて診てもらった。それと同時に、4人の赤ちゃんの予防接種も行った。当然のことながら、4人ともギャン泣きした。
「よしよし、痛かったね。でも、それは亜美ちゃんを悪い病気から守る為でもあるのよ」
「頑張りましたね。こんな状況下でも、予防接種できてよかったです」
「えっと・・・・頑張ったね・・・・」
戸村さんと西園寺さんの2人が、泣き続ける我が子を優しくあやしている中、柴川さんは少しおどおどした感じではあったが瞬君の事を思っているのは伝わった。数分後には、4人ともすっかり泣き止んだ。
「3人とも、私より若いのにしっかり母親としての自覚があっていいですね」
「子供は宝ですから、大切にしていきませんと」
同じく自分の子供がいる仲崎夫妻も、我が子の智明君を抱っこしてあやしながら3人を絶賛してくれていた。
「えっと、茅音さんでしたよね。やっぱり、グループ内に男がいるといろいろ大変ですか?」
「ちょっと、亜衣さん!」
「いえ、大丈夫です。3人の事は、事前に武谷君から聞いていますので」
前日に3人と4人の赤ちゃんについて、笠島先輩を通じて智恵美さんに改めて健康チェックしてほしいとお願いしていて、その流れで3人の事を軽く話したのだ。
「まぁ、正直言って男子がいるとそういうことをすることで日頃のストレスを発散したがる人はたくさんいます。私の主人の道明は、そういうのは避けていましたけど・・・・」
「しつこく誘ってくる女子たちには、正直言って困りました。僕には茅音がいるって何度も言っているのに」
「だから、私は道明とだけすることで女除けにも男除けにもなったのです。ただ、私は道明の事が本気で好きなので、最初から避妊はしませんでした」
「案の定、すぐに子供が出来て戸惑いました。でも同時に、うれしくも思いました」
仲崎夫妻の話を聞いて、3人はとてもうらやましそうにしていた。
「いいなぁ。奥さんのことも、自分の子供のことも大切にしてくれる旦那さまって」
「わたくし達とは大違いです。あの男は、自分の子供のことをかなり邪険に扱っていましたので」
「羨ましい・・・・」
3人から羨望の眼差しを向けられる仲崎親子。
でも、この2人はとても運は良かったと思う。茅音さんは道明君のことを本気で愛していて、道明君も俺より年下でありながら茅音さんだけを全力で愛し、生まれてきた自分の子供のことも大切にできているのだから。
この2人は、お互いに本当にいいパートナーに巡り合えたと思っている。
(それに、笠島先輩の存在がそういう男子たちの抑止力にもなっているし、そんな不幸な女子を出さないようにするために自ら身を捧げた鈴原さん達のお陰でもあるのかもしれないな)
そんなことを思っていると、俺に抱っこされている絵里奈ちゃんが興味深そうに4人の赤ちゃんを凝視していた。
「どうした、絵里奈ちゃん?」
「ちっちゃ」
「そうだね。4人とも小さいね。でも、一生懸命に生きているんだよ」
「ううぅ?」
自分より小さい赤ちゃんを、興味津々でジッと見つめ続ける絵里奈ちゃん。ついには、触ってみようと手を伸ばしてきた。
「コラ、絵里奈ちゃん」
「大丈夫だよ」
「絵里奈お姉ちゃん、茜ちゃんと葵ちゃんですよ」
3人とも、自分の子供を絵里奈ちゃんに触らせてあげる為に近づいてきた。
絵里奈ちゃんに触られた4人の赤ちゃんの反応は様々で、亜美ちゃんと茜ちゃんは絵里奈ちゃんに興味津々で手を伸ばしていて、頬っぺたや手を触ってきても嫌な顔せずに嬉しそうにしていた。
葵ちゃんは、されるがままといった感じでジッとしていた。
そして瞬君は、人見知りを発動して泣き出した。
「あああ・・・・・大丈夫よ・・・・・」
「まぁ、昨日今日会ったばかりの人にいきなり触れられても怖いよな」
周りの他のちびっ子達は、瞬君が泣いても全く気にした様子もなく、亜美ちゃんたち3人も絵里奈ちゃんに興味津々の様子であった。
「それにしても、絵里奈ちゃんは本当に抱っこされるのがお好きなのですね」
「いえ、自分で自由に動けるようになった途端に華々美にしか抱っこをねだらない様になったのですけど、岩手や北海道から帰った翌日から俺と涼にもよく抱っこをねだるようになったんです」
それに、絵里奈ちゃんは元々他のメンバーにはなかなか抱っこさせない所がある。
自由に動けるようになってからは、自分で動いたり走ったり触ってみたいと思っているだけで、決して他の人たちに抱っこされるのが嫌という訳ではない。事実、俺や華々美や涼以外だと由乃さんと佳苗さんと小夏さんがよく抱っこしている。
(だけど最近は、いつも以上に抱っこをねだるようになったんだよな)
佳苗さんの予想では、大好きな人と離れたくないからくっ付いているのではと言っている。
(まぁ、絵里奈ちゃんに抱き着かれるのは悪い気しないし、華々美の言うように血の繋がりがなくても大事な娘だからな)
しばらく仲崎夫妻と話をした後、戸村さん達と一緒にたくさんの赤ちゃんのお世話のお手伝いをした。
相変わらずここでは、笠島先輩を中心に鈴原さんや空道など複数の大人たちがてんてこ舞いになりながらもお世話をし、うちからも華々美と涼と里美と由乃さんと咲が既に手伝いをしていた。中でも、元保育士の由乃さんが一番要領よく作業が早かった。
「改めて診ると、よくこんなにたくさんの赤ちゃんを保護して、全員しっかりと育てているなんて・・・・・」
「この現象が起こられた際に、救出された子たちだそうですけど、全員を健康的に育て上げるなんて・・・・尊敬しかありません」
「確かに、たった一人でもかなり大変なのに、40人以上もの赤ちゃんや、小さい子供もたくさんいる中一人も欠けることなく育て上げるんだから、俺も笠島先輩には尊敬しかないよ」
もちろん、笠島先輩だけだったらとっくに潰れて全滅している。
だけど、ごく一部の他の大人たちや小学校高学年以上の子たち、更には建築作業をしに来てくれたおじさんたちも手伝ってくれるお陰で、ここにいる子供たちは全員がすくすくと育っているのだ。
そのせいなのか、40人もの赤ちゃんたちは全員笠島先輩に懐いていて、現在では日々子供たちの間で笠島先輩の取り合いをしているくらいだ。
(まぁ、今は手伝ってくれる人たちもだいぶ増えてきたし、吸血鬼騒動があった協会から来た人たちも、最初は半数以上が渋っていたのに今では全員が育児に協力的になっているもんな)
皆が子供たちのお世話をしている中、子供たちの方は戸村さん達の子供たちに興味をもって近づいてきた。
「あらあら。皆亜美ちゃんたちに興味津々ね」
「ふふふ♪絵里奈ちゃんもそうだけど、皆さんわたくし達の子に触りたいのですね」
「ご、ごめんね。私の瞬君は、人見知りで・・・・・」
そんな柴川さんの言葉とは裏腹に、2歳になった子供たちは亜美ちゃんたちに触ろうと手を伸ばしてきた。
そんな赤ちゃんたちを、来月2歳になる絵里奈ちゃんが前に出て静止しさせた。
「めええぇ!」
『やだ!』
「やだあ!」
『やだやだ!』
「コラ、絵里奈ちゃん!」
一対多と多勢に無勢ながらも、まったく引かない絵里奈ちゃん。イヤイヤ期真っ只中の幼児たちの口喧嘩に、俺達は揃って頭を抱えた。何せ、皆「やだ!」としか言っていないのだから。
「これが地獄のイヤイヤ期なのか・・・・」
「あたし等も幹夫たちが留守の間スゲェ大変だった。何をやらせてもやだやだ言ってくるから」
「それは、苦労かけてすまなかったな」
そんな2歳児たちのイヤイヤ合戦は、1分ほどで何とか収まった。というか、皆の集中力が切れて全員が散り散りになって他の人たちの所へと遊びに行った。
「そんな中、女の子は全員残って亜美ちゃんたちに興味津々だな。絵里奈ちゃんも含めて」
「まぁ、瞬君は仁美ちゃんに抱っこしてもらったらいいし、亜美も皆に興味深そうにしているし」
「そうですね。茜と葵も興味津々ですし」
という訳で、亜美ちゃんと茜ちゃんと葵ちゃんを布団に寝かせて空道神社の赤ちゃんたちと交流させた。
「ぷにぷにぃ♪」
「ああぁ」
「わあいい♪」
「あぁ、ああ」
「きゃっ、きゃっ」
皆亜美ちゃんと茜ちゃんと葵ちゃんの頬を触ったり、手をにぎにぎしてもらったり、頭を撫でてあげたりしていた。
そんな中、人見知りの瞬君だけは母親である柴川さんにくっ付いたまま離れようとしなかった。すごく泣きそうな顔をして。
「その、よしよし・・・・」
柴川さんは少しおどおどしながらも、瞬君が泣き出さないように必死にあやしていた。というか、母親であるあなたがそんなにおどおどしていては瞬君だって不安がるぞ。瞬君の人見知りは、母親である柴川さんに似たんだろうな。
そんな瞬君に、絵里奈ちゃんが逆に興味を惹かれたみたいで、ゆっくり近づいて瞬君に顔を近づけてきた。
「ふぇええ・・・・・」
「おい、絵里奈ちゃん」
泣き出す前に絵里奈ちゃんを止めようとするが、絵里奈ちゃんは瞬君に頬ずりをした後優しく頭を撫でてあげた。最初こそ泣きそうになっていた瞬君も、次第に落ち着き始めた。
「ああ・・・・・瞬が・・・・・」
「絵里奈ちゃん・・・・」
何事もなく、絵里奈ちゃんと瞬君の交流が続いている横で、亜美ちゃんと茜ちゃんと葵ちゃんは他の子たちにたくさん遊んでもらえて楽しそうにしていた。
そんな感じで、お昼ごろまで空道神社で過ごし、自分たちの屋敷へと戻ってすぐに掃除やら夕食の準備やらを進めた。
その間に、俺と華々美と西園寺さんと由乃さんの4人で絵里奈ちゃんたち赤ちゃんのお世話をすることになった。空道神社での一件で、瞬君はすっかり絵里奈ちゃんに心を開いたみたいで楽しそうに一緒に遊んでいた。
「ああぁあ♪」
「いこ、いこ♪」
「いい子いい子してるのか?偉いね、絵里奈ちゃん」
遊んでいるというより、絵里奈ちゃんが寝転がっている4人の頭を触り、ペタペタと体を触ったり、オーバーリアクションを取るなどをしていたが、赤ちゃんたちはとても楽しそうにしていた。見ていて本当にほっこりする。
「ビックリです。わたくしたちでさえなかなか心を開いてくれなかった瞬君を、絵里奈ちゃんはたった1日で笑顔にするなんて」
「絵里奈はわたしの自慢の娘だからな」
「華々美は絵里奈ちゃんを溺愛し過ぎなんだよ」
「いいではありませんか。良き母になれる証拠です」
由乃さんの言うように、華々美は本当に子供が大好きで、屋敷で絵里奈ちゃんと一緒にいる時や、空道神社で育児の手伝いをしている時は本当に生き生きとしていて、その時の表情はとてもその筋の家の娘とは思えないくらいであった。
「あの男から逃げ出すことが出来て、本当に良かったです。けれど、あのまま自転車を漕ぎ続けていたら、きっとどこかで野垂れ死んでいたと思います。皆さんに出会えて、本当に良かったです」
「俺達も、広島に行く際にとても重要なことを聞くことが出来てよかったです。向こうでは、西光英二と鹿森冬夜の2人が好き勝手に過ごしているということを知ることが出来ました」
「それに、そこからここまでの道中で生存者は一人もいなかったこともな」
確かに、ここまで来るまでの間に無人の教会や神社やお寺で寝泊まりをしていたとは聞いたが、生きた人と遭遇したとは一言も言っていなかった。それはつまり、そこまでの間に生存者がいないことを示している。
「だが、それはたまたま立ち寄った町がそうだっただけかもしれない。次に向かう大阪には、少数ながらも生存者がいるかもしれない」
「華々美様の予想通りだと思います。わたくしたちが立ち寄った町には、たまたま生存者がおられなかっただけなのかもしれません。ですが、これはとても良くないことでもあります」
「そうだな」
たまたまでも生存者と会わなかったということは、それだけ今生きている人の数がかなり少なくなっているということになる。日本だけでなく、世界規模で人口が信じられないくらいに減少している可能性を示唆しているのかもしれない。
「ならば早く霊滅版を見つけ出さないと」
「だからと言って、焦ってもいい結果は出ません。それに、幹夫君たちの心配することはないと思います。人間というのは、弱いですがとても図太い生き物でもあります。そう簡単には全滅なんてしませんし、たまたま会わなかっただけで何処かで生き続けていると思います」
「そうですね」
それに、絵里奈ちゃんの親代わりになると決めた以上この子をないがしろにするわけにもいかない。娘と過ごす時間も大切にしつつ、霊滅版を探さなければいけない。
「それに、私の予想では鹿森は西園寺さんを連れ戻しに追いかけていると思います」
「「「え!?」」」
由乃さんからのとんでも発言に、俺達は一斉に声を上げてしまった。綺麗にハモッタものだから、5人の赤ちゃんたちが不思議そうに一斉にこっちを見た。
「曲がりなりにも私はアイツの姉弟子でもあり、同じ学校の同級生でもありますのでアイツのやりそうなことは何となくでも想像がつきます。霊力も念力もありませんが、勘だけは無駄に鋭いですのでおそらくここまで来ると思います」
「そんな・・・・」
「ま、私がリンチすれば強制的に黙らせらせるので何とかなると思いますが」
「それならわたしも協力しよう」
「こら、集団リンチは良くないぞ」
2年も一緒にいるが、未だに元ヤンとその筋の人間の発想にはついていけない。
「まぁ、冗談はそこまでにして」
「とても冗談には聞こえませんでしたが」
「アイツは顔だけは良いですから、学校では無駄に女子からの人気が高かったです。私からすれば気味が悪くて嫌でしたが、顔さえ良ければ何でもいい見る目のない女共が色めき立つには十分なルックスです。そのせいで調子に乗り、学校では常に王様気取りでいきり散らしていました。ですが、アイツは自分が一度抱いた女を簡単に手放すような男ではありません。その執念深さは、まるで質の悪いストーカーです。そのくらいあの男は、女に対する執着が激しいのです。そういう男なのです、鹿森冬夜という男は。なので、必ずここまで追ってくるでしょう」
「そんな・・・・」
せっかく逃げてきたの、ここまで追いかけてくるかもしれないという由乃さんの発言に、西園寺さんは震えが止まらないでいた。そんな西園寺さんを、彼女の双子の娘たちが心配そうに手を伸ばしてきた。
「だけど、来たとしても追い返してやる。同じ男の俺でも、ソイツのやっている行為は絶対に許せないからな」
「ああ。そんな女の敵なんかに、お前たちは絶対に渡さない」
「幹夫様、華々美様」
「私も協力する。アイツの姉弟子として、しっかり絞ってやる」
「由乃さん、ヤンキー時代の口調になってるよ」
正直に言って不安はあるが、26前後になっても若い女の子に執着するなんて危なすぎる。西園寺さんに至っては、鹿森よりも10歳も歳が離れているのだ。それ以前に犯罪だ。
そんな男から絶対に、彼女たちを守ってやると俺は決めたのであった。




