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北海道へ

 岩手の佐藤宗一を成仏させて帰った後、日口家の人達と昼食を取った後で孝介さんと朝香さんからこんな提案をされた。


「今後、どんな危険な悪霊が現れるか想像も付きません。涼ちゃんや影山さんだけでは、対処しきれないほどの強大な悪霊、もしくは魔物が出てきてもおかしくありません。なので、うちからも朝香をつけさせようと思っています。連れて行ってください」

「この神社には、お父さんやお兄ちゃん、彩羽さんは絶対に必要なので離れられません。なので、ある程度自由の利くボクが武谷さん達と一緒に行こうと思います」


 朝香さん自身の強い希望もあり、俺達は朝香さんの加入を受け入れることにした。朝香さん曰く、「ボクは将来お嫁に行く身だから、何処にでも行けるんだよ」、と気軽に言っていた。


「付いて来るのは良いけど、必要な武器や道具はどのくらいあるんだ?」

「お兄ちゃんの使っている刀ほどいいものではないけど、ボクにも自分の刀を2本持っているし、弓の腕はからっきしだけど投擲技術はお兄ちゃんやお父さんにも負けないよ」

「投擲技術に優れているってことは、手裏剣や投石が得意ってことか?」

「棒手裏剣と術を施した石を、投石紐を使って飛ばすのが得意だね。あと、お札や墨、縄とライターとかもいるよ」

「武器と妖術、両方使える一族だからね」


 そんな訳で、朝香さんが必要な道具と着替えも用意し、更に孝介さんや避難した人たちの行為によって豚肉の燻製やイナゴの佃煮、更に採れたて野菜のパック詰めや飲み水までも貰った。


「何から何まですみません」

「気にしないでください。皆が、武谷君たちの応援をしています。この現象の解決して欲しいのは、皆も同じです。なので、私達は私達の出来る事をするだけです」


 そんな孝介さんに続いて、後ろにいた避難した人たちも笑顔で頷いてくれた。


「俺達は一緒に行けないけど、肉や野菜を分けてあげられる」

「遠くで祈るくらいしかできないから、これくらいは」

「私達も、皆を応援しているわ」


 生存者たちが、俺達に向けて応援の言葉をかけてくれた。

 そんな皆の期待を背負って、俺達は翌早朝に日口神社を出発する為にその日はゆっくりと体を休めた。




 そして早朝。

 俺達はそれぞれキャンピングカーとワゴンに乗り、皆に見送られながら日口神社を後にした。新しい同行者の朝香さんは、俺と華々美と里美のいるキャンピングカーに同乗していた。


「不謹慎だけど、なんだかワクワクするね」

「確かに不謹慎です。周りは白骨死体だらけだし、建物の中には死霊たちでギュウギュウなのに」

「敬語はいらないよ。ボクの方が、幹夫さんよりも一つ年下なんだし」

「俺達より一つ下ってことは、美玲や空道と同い年ってことか」

「青美ちゃんも無事なんだね」

「困った問題児だけどな」

「あははは・・・・青美ちゃんらしい。あれでも一流の陰陽師なんだけどね。まだ免許皆伝前だけど」

「それならついこの間、涼や由乃さんから免許を貰ったぞ」


 話をして何となくわかったが、朝香はおそらく女子にモテるタイプ女子だ。長かった髪も、出発前に義姉の彩羽さんにお願いしてバッサリ切ってもらい、今は黒髪ショートボブになっていて、凛とした立ち居振る舞いはもちろん、顔立ちも中性的で男装させると男子と間違えてしまうくらいであった。男性アイドルでも、女性アイドルでも通用するような整った顔立ちであった。


「本当に良かったのか?せっかく伸ばしていたのに」

「これから危険な戦いに投じるんだから、長い髪なんて邪魔なだけだから良いの」


 本人も気にしていないみたいだし、それ以上何も言わないことにした。

 しかし、残念なことに朝香の身長は一般的な女子の身長くらいしかなく、それこそ里美や華々美の身長の方が高いくらいであった。それでも2人とも、170センチに達していない。


「朝香って、学校では男子よりも女子にモテるタイプじゃないのか?」

「・・・・まぁ、確かに中学時代に何度か告白されたよ。女子に」

「その割には、あまり嬉しそうではなさそうだな」

「ちっとも嬉しくないよ!ボクだって女なんだよ!女子ではなく、男子にモテたいよ!悪いけど、ボクにはそんな趣味はないから!」

「なのに自分の事は『ボク』って言うんだな」


 華々美の尤もなツッコミに、朝香はシュンと下を向いた。


「そんなこと言ったって、昔見ていたアニメの影響で言っているんだし、その癖が今でも抜けないだけなんだよ。今更『私』って言っても、なんだか違和感しかないし」


 小さい頃に見ていたアニメの影響で、一人称が「ボク」になっただけなら、朝香が女子に人気なのはやはりその中性的には顔立ちと立ち居振る舞いがそうさせたのだろう。実はかなりのオタク気質で、アニメや特撮が大好きだと言っていた。


(これで身長が170センチくらいあったら完璧なのに)


 しかし、それがあったとしても朝香はきっと喜ばない。だって朝香は、女子ではなく男子にモテたがっていたのだから。

 それに何より、その実態はただのオタク女子だからな。


「まったく。それならもっと、女らしく振る舞う努力をしてみたらどうなんだ?」

「お母さんと同じこと言わないでよ。一応、彩羽さんからお洒落で流行のファッションとか買ってもらっていたし、極力女の子らしい可愛い服も来たけど・・・・効果はありませんでした」

「それなら、料理や裁縫などを覚えるとか」

「頑張ったし、出来るようになったよ。でも、それでも女子にばかりモテるんだよ・・・・何で!?」

「ううう・・・・・」


 朝香のそんな反応に困る華々美。

 一応女の子らしくしようと努力しているみたいだが、そのどれもが逆効果だったなんて悲しすぎる。


「10代なんてそんなものよ。夢見がちで、見た目の良さに目がいきがちで人を見る目がない。全員がそうというわけではないけど、大半が無意識に幻想を抱いてしまうもの。容姿が良いからと言って性格もいいとは限らないし、理想通りの人物じゃないことは多いもの。別にテレビの向こう側の人物でも何でもないし、話しかけたければ普通に話しかければいいのに、立場だのカーストだのくだらないものを気にするんだから本当に馬鹿ばかりだよ。でも、それが学生というものなのよ」


「「「・・・・・」」」


 里美の言うことは尤もだし、学生時代のカーストや立場なんて社会に出たら何の意味もなさない。クラスの中心だったり、一軍だったり、陽キャだのなんだの言っていても、そんなものは学校という限られた空間内での幼稚な立場。社会に出たら、そんなものはクソの役にも立たない。婆ちゃんが亡くなる前に、俺もよく言われていた。


「そんなことより、北海道に行くにはフェリーか新幹線になるわよ。流石に車では行けないわ」

「それなら、フェリーに車を乗せて渡ろうと思っている。調べたけど、フェリーに車を乗せることができるみたいだ」


 それだけではない。

 この10ヶ月の間に、俺は涼と一緒に町の本屋に足を運んでは、船やフェリーの操縦についての本を調達して、持ち帰っていろいろと勉強をしてきた。魚を捕りに行く際に実際に漁船を操縦し、何度も練習をした。

 むろん、遠出は涼や由乃さんに反対されているから沖に出て漁をすることはできないが、それでも今まで以上にたくさんの魚が取れるようになったのは間違いない。

 なので、今回もフェリーに車2台も乗せて海を渡ることにした。

 同時に、それはとてもリスクが大きいことでもあった。


「大丈夫か?漁に出る時でも、常に死霊たちが水中からわたし達を狙っていて、涼や由乃さん抜きではいけないんだろ」

「2人ともいるし、今回からは朝香もいる。3人には苦労を掛けるけど、他に方法はないから」


 水辺には霊が近づきやすく、海も例にもれずたくさんの幽霊が寄り付く。去年から魚と一緒に死霊たちがついてくることはなくなったが、それでも水のある所に霊がたくさんいるのは事実。

 しかし、青森から北海道へは車で行くことはできない為、どうしてもフェリーを使わないといけない。

それをわかっているからなのか、涼も由乃さんも反対しなかったし、フェリーを使うのは北海道へ行き来するこの時だけだ。

 それから俺達は、フェリーが使える町で一旦高速道路を降り、港でフェリーに車2台を乗せて出発させた。フェリーがあったのはラッキーだったし、それが最短の方だったのが良かった。もちろん中にいた死霊と、周辺にいた霊は全て追っ払ってもらいました。

 当然ながら、海中ではとんでもない数の死霊たちが手招きをして俺達を誘っていたが、そこは涼と由乃さんと朝香のお陰で凌ぐことができた。

 そうしておよそ2時間後に、フェリーは北海道に到着した。

 フェリーを降りてすぐ、俺達は再び北海道の佐藤宗一がいる町に向けて車を走らせた。

 そして、15時に俺達は適当なパーキングエリアでキャンプすることにした。


「北海道って寒いって聞いたけど、夏だというのを差し引いてもそんなに寒くないな」

「近頃は、北海道も温暖化の影響で夏は暑くなっているって聞いたことがある。きっとそのせいだ」


 確かに、この現象が起こる前にニュースで見たことがあった。


「それにしても、もうすぐ日が暮れるというのに死霊たちの姿が見えないな」

「それはおそらく、すぐ後ろの山が聖域になっているからだと思います。前に訪れた聖域と同じものを感じます」

「って、ここにも聖域があるの?」

「北海道は自然がとても豊かですので、そういうところがたくさんあっても不思議ではありません」


 それが本当だとしたら、神社や教会以外にも死霊たちの進行を食い止められるところがあるということになる。そしてそこに、たくさんの生存者がいるかもしれない。


「となると、聖域に行けば生存者にも!」


 朝香も同じ考えに至ったみたいだが、由乃さんは静かに首を横に振って否定した。


「申し訳ありませんが、その可能性はないと思います。なぜなら、北海道の聖域には幽霊以上に危険なものがたくさんいますので」

「幽霊以上に危険なものって」

「そんなものが!」


 あるはずがないと言いたげな朝香だが、由乃さんが指さす先にいたそれを見て、俺達は一気に血の気が引いた。


「あれがいるからです」


 その先には、大きな黒い生き物がこちらを値踏みするようじっと眺めていた。その黒い大きな生き物が何なのか、俺達はすぐに理解した。


「由乃さん。もしかしなくてもあれって・・・・」

「はい。ヒグマです」

「「「「「やっぱり!」」」」」


 やっぱりというかなんというか、自然が豊かなところに聖域が発生するのだから、当然のことながら野生動物だってたくさん生息している。そして、ここは北海道であるためヒグマがいても不思議ではない。


「確かに、聖域には幽霊は近づけませんが、北海道の聖域にはたくさんのクマが生息していて、とても危険なので絶対に近づかない方がいいです」

「というか、見える範囲内にクマがいる時点でかなりやばいんだけど!」

「大丈夫です。人の味でも覚えていない限り、クマが積極的に襲ってくることはありません。向こうから立ち去るのを待ちましょう。その際に、絶対に背を向けてはいけません。クマが餌と認識して襲い掛かってきますので」

「そうね、下手に刺激したらこっちが危険だから。向こうがこっちに近づいてこない限り、私達は動かない方がいいわ」

「わかっていても、怖いものは怖い!」


 見える範囲にヒグマがいるというのに、由乃さんも里美もよく落ち着いていられるな。

 いざとなったら、華々美が猟銃で仕留めてくれるが、やはり生で見るヒグマは迫力が違う。本州のツキノワグマが、まるでミニチュアに見えてしまうくらいに大きい。

 なんてことを考えていると、ヒグマの方から俺達に興味をなくしてどこかに行ってしまった。とりあえず助かった。


「向こうから行ってくれて助かった。少し休んだだら夕食にしよう」

「そうね。ボクおなか空いた・・・・」

「そういえば、今朝出発してから何も食べてなかったもんな」

「途中でお菓子やジュースは飲み食いしたけど」


 みんなで楽しそうにそう言い、俺達はパーキングエリアで野宿の準備をし、ついでに野生動物が寄ってこられないように対策も取った。キタキツネやエゾシカなら何とか追い払えるけど、ヒグマが来ては堪ったものではない。

 それから俺達は、日が暮れるまでの間に楽しく談笑し、だるまさんが転んだ等の遊びも行い楽しく過ごした。

 そして、日が落ちたころに俺達は日口神社で貰った肉と野菜でバーベキューをした。


「そういえば、北海道の佐藤宗一がいる所ってここから遠かったっけ?」

「いいえ。でも、どのみち今日中に尋ねるのは無理だわ。岩手の佐藤宗一みたいに無害な幽霊のままとは限らないし、この現象が起こってからもう2年も経っているのだから警戒した方がいい」

「そうだな。里美の言う通り、無理して行くことはない。暗くなったらわたし達は身動きが取れないだろうから」

「そうだな。明日の早朝に行こうか」


 そもそも、明るいうちに北海道につけただけでも良かったのだ。それ以上の贅沢は望んではいけない。


(2年も経てば、流石に殆どの浮遊霊も死霊になり、死霊の2割ほどが悪霊になってしまっただろう)


 この現象によってたくさんの幽霊が狂暴化し、死霊となって生きた人間を無差別に襲い、時が経てば更に力を増して悪霊となり、そしてその悪霊が更に力をつけるとその上の魔物になる。その速度が、この現象が起こってから更に早くなっていった。

 その為、北海道の佐藤宗一も悪霊化していると考えた方がいいだろう。岩手の佐藤宗一が、無害な幽霊のままでいられたのが奇跡に近かったのだ。


(一番いいのは、佐藤宗一が無事に生きていることなんだが、その望みはかなり薄いだろうな)


 これまで訪れた所、物部神社がある町、港町、隣市はもちろん、東京も新潟も、その道中に見た街も、その全てに生存者はいなかった。いや、もっと探せば見つけられたかもしれないし、由乃さん達や佳苗さんのように静かに生き残っている可能性だってある。

 それでも、1000人どころか100人にも満たない。俺たちの住んでいる県でも、生き残っているのは俺たちのグループと、笠島先輩のグループだけとなっている。生きているかもしれないという淡い期待は、抱かない方が良いかもしれない。無論、生きていてくれた方が一番いいが。

 そんなことを考えながら、俺の目の前で楽しそうにお肉を食べている仲間たちを眺めて和んでいた。


「こんな状況でも、皆が笑顔でいる」

「なんか言ったか?」

「いや、なんでも」


 この笑顔を守るために、子供たちに明るい未来を与えるためにも、俺たちでこの現象を解決する。

 そう決意を新たに、俺は焼きあがった肉を食べた。





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