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色欲悪霊 2

 宙に浮く女の悪霊に、俺は銀の矢を引いていつでも放てるようにした。

 俺の隣では、華々美は拳銃を構えて、孝一さんも術式が刻印された矢を構えて、彩羽さんはショットガンを構えていた。


『あら、4対1だなんて酷いわ。そんな事よりも、坊やたちもこっちにおいで♪私達と一緒に気持ちいい事、たくさんしましょう』


(この女一体何を言っているのだ)


 だがそんな俺の考えとは裏腹に、後ろにいた涼が虚ろな目をしてのっそりと俺達の前に出ようとしていた。直前になってすぐに、彩羽さんに肩を掴まれて正気に戻った。


「あっ!?」

「しっかりして!あの悪霊の魅惑の霊気に惑わされないで!」

「くぅっ!」


 顔を真っ赤にして少し苦しそうにしている涼は、同じく苦しそうにしている朝香さんに手を引かれながらゆっくりと神社の方へと下がっていった。


「魅惑の霊気って、今もあの悪霊が出しているのですか?」

「何も感じないぞ」


 俺だけでなく、華々美も何も感じていないみたいで拳銃をずっと女悪霊に向けていた。

 

「まぁ、涼ちゃんの気持ちも分かるし、俺と彩羽も3日前まではかなり参ったさ」

「一昨日の夜に孝一君と甘い夜を過ごしてから、あたしと孝一君も魅惑の霊気を感じなくなったの」


 どうやら、俺と華々美が何も感じなかったものを涼と朝香さんは感じたみたいで、その誘惑には力の強い陰陽師の2人でさえ抗えなかったみたいだ。


『チッ!そっちの坊やとお嬢ちゃんは童貞や処女でもなければ、2人以上としてなかったの!?女の方は私程じゃないにしてもかなりの美人なのに、信じられない!』


「はぁ!?」


 この女悪霊、どれだけ自分に自信を持っているのだ?自意識過剰で、他の女が自分よりも劣っていると思っている。おそらく生前は、複数の異性にモテる事を自慢して回っているような勘違いナルシスト何だろう。


「相変わらず偏った価値観ね。複数の異性に好かれる、イコールモテる美人と勘違いしてる。あたしは複数の異性に好かれるよりも、孝一君にだけ好かれていればそれだけで満足だし」

「いるよねぇ。不特定多数の異性に好かれているから、自分はモテいるのだと勘違いしているバカが。この女もそんな感じだな」


 彩羽さんや華々美が、そんな女悪霊を可愛そうなものを見るような目で見ていた。

 そういえば、不特定多数の女にモテているという事で勘違いしていた残念イケメンが俺の学校にもいた事を思い出していた。代表的な奴は、2年前に悪霊化した笠島隼人、笠島鷹志先輩の弟であった。

 だが、そんな華々美と彩羽さんの煽りなんてどこ吹く風と言わんばかりに女悪霊は、2人を見下していた。


『あら、モテない女の僻みかしら?惨めねぇ♪私なんて、こんなにたくさんの霊が私を好きになってくれるくらいにモテモテなの♪はあぁ、超絶美人の私って何て罪な女♪』


「うぅわ。なんて痛い女」

「男にも女にも、あぁいう奴はいるよな。容姿が良いだけで、たくさんの異性にモテているだけで勘違いしているバカが」


 俺に続いて、孝一さんもあの女悪霊を憐れんでいて、後半からは完全に煽っていた。


『あら男まで僻みを言うなんて、かわいそうねぇ』


「いい加減黙れ」


 これ以上は聞くに堪えない為、俺は銀の矢を女悪霊に向けて放った。それを見た女悪霊は、大慌てで俺の矢を避けて、矢は弧を描くように後ろに控えていた悪霊の一人に刺さって消滅した。


『危ないじゃない!銀の矢を使うなんて!』


「いい加減に黙れ!」


 今度は孝一さんも矢を放ったが、その矢も避けて後ろに控えていた他の悪霊に命中した。

 だが、直後にパアァンという大きな銃声が鳴り響き、女悪霊の下半身が吹っ飛んだ。なんてことはない。彩羽さんが、ショットガンで避けた女悪霊を撃ったのだ。


「彩羽さんも凄いな」

「霊と戦っていないときは、山に入ってイノシシや熊やシカを狩ってるの。猟銃の扱いなら、実家で党首の父から叩き込まれたの」


『ああああああああああ!よくもよくも!』


 撃たれた女悪霊は、もの凄い剣幕で手下の悪霊たちの所へと降りていった。それと同時に、それまでジッとしていた悪霊たちが一斉に動き出した。


「させるか!」


 こちらに近づく前に、孝一さんがお札を3枚取り出してそれを悪霊たちに向けて放った。するとそのお札は、地面に張り付いた直後に大きな火柱が立ち、その中にいた悪霊はもちろん近くにいた悪霊も悲鳴を上げて燃えていった。

 その後、孝一さんは再び口から火を噴いて前方にいた悪霊を全て消滅させていった。そのお陰で、悪霊の数はかなり減った。


「スゲェ力・・・・なんだか魔法みたいな術だな」

「あれでは神社の中では使えないのも頷ける・・・・て言うか、わたしも涼や由乃さんで慣れたと思ったけど、上には上がいるんだな」


 力が強いのはもちろん、派手で広範囲に及ぶものであるため人口密集地であまり使えないのを、俺と華々美は茫然としながらも納得した。

 数が相当減ったが、それでも40近くの悪霊がいた。


「これくらいなら俺達でも何とかできます」

「わたしも幹夫も、この2年間遊んだわけじゃない」


 数が減った所で、俺と華々美は金の刀を抜いて悪霊たちの大群に突っ込んでいった。俺達と一緒に、刀を抜いた孝一さんと、薙刀を構えた彩羽さんも続いた。

 この2年間、華々美や涼にみっちり鍛えられたお陰で、俺は悪霊たちに捕まることなく金の刀で消滅させる事が出来た。


「へぇ、随分と豪勢な刀を使ってんな」

「孝一さんだって、涼が愛用している刀と同じくらい高そうな刀を使っているじゃないですか」

「へぇ、見ただけで分かるんだ」

「何となくですけど」

「それにしても、よくここまで鍛えられたな」

「孝一さん程ではありませんよ」

「十分さ。それに、楽しい気分でいるのが良いんだよ。悪霊どもは、明るい話題と雰囲気を嫌っているから」

「そうですね」


 だからあえて、孝一さんは明るい雰囲気で俺に話しかけながら悪霊と戦っていた。

 その近くでは、華々美が彩羽さんと背中合わせで悪霊に対処していた。


「へぇ、そっちは武谷君以外全員が女の子なんだね。マジヤバ、ハーレムじゃん」

「にも拘らず、手を出してくれたのはわたしだけで、しかもそれも最初にしてから昨日まで全然」

「ええぇ~。ガード硬すぎぃ~」

「しかも幹夫の方から誘ってくれたことはなく、2年前も昨日も全部わたしから誘ったんだよ」

「ええぇ~。こんな法律もへったくれもあってないようなご時世で?奥手すぎぃ~」

「何だよ、それ?」

「あたしはギャルだから、難しい言葉は分かんないの」

「とてもお堅い家の令嬢とは思えないな」

「だから異端児なんのぉ~」


 あっちはあっちで楽しそうな雰囲気を出しながら、目の前の悪霊たちに対処していた。あと、誰が奥手だ。

 明るい雰囲気を出しているお陰か、悪霊たちがあまり積極的に襲ってこようとしなかった。


『あらあら、酷いわねぇ。私の可愛い手下たちをこんなに』


 だけど、しばらく知ると下半身を吹っ飛ばされたはずの女悪霊が元の姿に戻ってまた俺達の前に姿を現した。


「よく言うよ。テメェの欲求とくだらないプライドの為に、大勢の若者を攫う貴様の方がよっぽど酷いぞ」


『あら、あの子たちは私の魅力と美しさに惹かれて自ら付いてきたのよ。死んでいる今は、私があの子たちとイイコト出来ないから、あの子たちの逢瀬を見て欲情しているだけよ』


「何がイイコトだ」


 要は、自分の性欲を他の若い子たちが行為に及ぶ姿を見て満たしているだけだろ。その見返りとして精力を奪い、無意識とはいえ命まで奪っているのだ。到底許せるわけがない。

 それに、10代後半と20代ばかりを狙うのもこの女悪霊の好みの年齢というだけだと思う。


「テメェの戯言なんてどうでもいいんだよ!」

「そのせいであの神社にいる人たちが、どれだけ危ない目に遭っていると思ってんだ!」


 女悪霊の身勝手さに腹を立てた俺と華々美は、それぞれ銀の矢と弾丸を女悪霊に向けて放った。

 しかし、女悪霊は銀の矢と弾丸による攻撃を避けた。代わりに、その後ろにいた悪霊に命中した。


『やめてよ。私は別に命を奪おうとはしてないんだから』


「アンタがそう思っていなくても、悪霊であるアンタがいるだけで命が危ないの!」


 全く悪ぶれない女悪霊に、今度は彩羽さんがショットガンを放った。

 女悪霊はそれも避けたのだが、直後に孝一さんが放った矢が女悪霊の胸に命中した。


『ああああああああ!苦しい!』


 矢が刺さった瞬間、女悪霊は必死になって矢を引き抜いたが、それでもダメージは相当大きかったのか、すごく苦しそうに転げ回っていた。


「クソ!取り込んだ悪霊が多すぎたせいで、すぐに葬れなかった」

「それでも、十分です。華々美」

「任せろ」


 俺の指示を受けて、華々美は拳銃を構えた。

 だが、手下の悪霊たちが女悪霊を抱えて大慌てで逃げていった。数もかなり減らす事が出来、10人未満にまで減らす事が出来た。


「待て!」

「クソ!」

「追うな!時期に夜が明ける!」

「そうね。それまで待ってな」


 女悪霊を追おうとする俺と華々美を、孝一さんと彩羽さんが引き留めた。


「それに涼ちゃんが来ていたのなら、あの悪霊はもう逃げられない」

「そうね。涼ちゃんなら、あの悪霊の気配覚えて追う事も出来るでしょうからね」

「・・・・・そうですね。少し休みます」

「そうだな。他の死霊たちも、夜明けが近いせいで一斉に建物の中へと逃げて行っている」


 華々美の言うように、畑の前で立ち往生していた死霊たちが逃げて行くのが見え、とりあえず安全な時間帯になったのだと安心して日口神社へと帰っていった。


(夏だから夜の時間が短いお陰で、夜明けが来るのが早い)


 東の空が明るくなり始めているのを見ながら、俺達は神社内にある宿泊施設で仮眠を取った。




 それから5時間後に、俺達は目を覚まして遅めの朝食を日口家の住居で取っていた。


「すみません。朝食までご馳走になって」

「気にしないで。武谷君たちには昨夜、息子と娘共々助けられましたので」


 さりげなく彩羽さんの事を娘と呼んでいるのを見て、夜香さんにとって彩羽さんも家族の一員として認めている様子であった。


「それはそうと、涼ちゃんに聞きたいことがあるんだけど」

「分かっています、孝一さん。あの女悪霊の気配ですよね。バッチリ覚えていますので、気配を追うことは出来ます」

「さっすが涼ちゃん♪うちのお父さんだったら、羅針盤を用意しないといけないのに」

「彩羽さんは軽すぎです」

「だけど、あの短い間に気配を覚えられるなんて、流石は涼だ」


 これなら、逃げた女悪霊を追って消滅させる事も出来る。


「だけど、場所は教えてあげられるけど、対峙することは出来ないわ。実際に遭遇してみると、あの魅惑の霊気は想像以上に強力でした。一瞬でも気を抜くと、すぐにあの魅惑の霊気に飲まれて性欲のままに理性を失いそうだわ」

「涼ちゃんでも抗えないのなら、ボクなんてもっと無理だよ」


 確かに、あの時の涼は目が虚ろになっていて、理性が働いているようには感じられなかった。似たような状況に、かつては孝一さんと彩羽さんも苦しんでいたのだろう。


「それにしても、何でたった一人の異性としか関係を持たなかっただけで?」

「戦った時にも気付いただろうけど、あの女悪霊はたくさんの異性と関係を持てている、イコール勝ち組と思い込んでいるような偏屈者で、1人だけだとその異性にしか相手にされていない負け組に見えて見下していたのでしょうね」


 そういえば、あの女悪霊を霊視したのは彩羽さんだったな。


「お義母さん。洗い物はあたしがやっておきます」

「ありがとう。でも、私も手伝うわ」


 朝食を済ませた後、彩羽さんは義母の夜香さんと一緒に食器や調理器具を洗いに行き、華々美も手伝いに行った。

 美玲は、涼と由乃さんと里美を連れて何処かに行った。

 リビングには、俺と孝介さんと孝一さんの男3人だけとなった。


「彩羽さん、ご両親との関係はとても良好みたいですね」

「多少軽い所はありますが、あぁ見えてとても頑張り屋で、努力家でもあります。ここに来た当初は料理が苦手だったのに、妻に教わったお陰で得意になりました」

「俺にとっても、彩羽は自慢の嫁です。経緯はどうあれ、彼女と関係を持った以上近いうちに籍を入れようと思っている。お互いに二十歳になったんだし、法律が生きていたとしても問題ない筈です」

「そうですか」


 ここまで気に入られているくらいだから、家族仲もかなり良好であることが伺える。ノリが軽いのが玉に瑕だが、芯の強い出来たお嫁さんになるだろうと俺も思う。孝一さんは、本当に素晴らしい女性と出会えた。


「そんないい子な彩羽さんを、向こうは邪険にするから私は正直言って嫌いだし、連絡が取れないと聞いたときは正直言ってほっとしました」

「古いしきたりや伝統に縛られている家だと知っているけど、派手な格好と軽いノリをするだけで彩羽を異端児呼ばわりするのは俺も許せない」


 そう言って怒りを露わにする日口親子。

 確かに、派手なファッションとメイクに、多少乗りの軽い所とギャルっぽい雰囲気はあるが、現代人の俺からすれば彩羽さんのような人は何処にでもいる普通の人。容姿は良いから、学校に通っていた時はかなりモテていただろうと思う。

 だけど、古い風習に捕らわれている岩崎家にとっては許せない事なのだろう。


「本人は気にしていないけど、彩羽が俺と婚約したいと言い出した当初は物凄い剣幕で怒ってた。家のルールを何度も無視し、縁者でも何でもない俺との縁談話も当初は猛反対してた」

「まぁ、私が今の世の中の事と、彩羽さんの意思を尊重すべきだと何度も説得した事と、彩羽さん自身がブレずに孝一と結婚したいと言い続けたことでようやく向こうの許可が下りました。名目上では、両家の関係を強固なものにするということになっていますが」

「でも、それは厚意からでも、彩羽の意思を尊重したからではない。家の決まり事を破った彩羽を、体よく追い出す為なんだ」


 なるほど。向こうにも面目と立場があるから、公の場では家同士の繋がりを強化する為に娘を嫁に出したと言っているが、実際は異端児である彩羽さんを勘当して追い出すのが目的だったのか。


「彩羽はただ現代っ子ってだけなのに、あの家は!」

「だけど、お陰で彩羽さんを岩崎家から解放する事が出来ました。結果オーライです」


 2人とも怒ってくれているけど、彩羽さん自身は楽しそうに義母である夜香さんと話をしながら後片付けをしているのを見ると、本当に気にしていないようであった。おそらく、日口家に嫁ぎに行って毎日が幸せだからなのだろう。

 本当に良い婚約者と、新しい家族に恵まれたのだと今の彩羽さんを見て俺は思ったのであった。





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