岩手へ
朝になってすぐ、俺と華々美はすぐに朝食の準備を進め、皆が起き始めた頃にはすぐに食べられる状態になっていた。その時、涼と美玲からジト目を向けられたが、華々美はそんなことはどこ吹く風と言わんばかりに全く気にしていなかった。
「また華々美としちゃって」
「たまには涼ちゃんや美玲ちゃんともしてあげなさい」
と、里美と由乃さんから小声で指摘されてしまった。というか、何故押すの?
そんな感じで若干重苦しかったが、朝食を食べてしばらく食休みをした後で俺達は改めて岩手へ向けて出発した。その道中、俺と華々美はキャンピングカーのベッドの上で仮眠と取っていた。あれだけエキサイトして、その上後始末やら片付けやらなんやらしていたらあの後眠れなくなるのも当然。
そして、3時間ほどで目的地の岩手に到着し、更に1時間半後に岩手の佐藤宗一の住んでいる町に着いた。
「2人とも、目的の町に着いたわよ」
「今起きた」
「意外に大きいな」
都会という程ではないが、かなり人が多そうな大きな町であり、ここに、岩手の佐藤宗一当時49歳が住んでいるのだ。
「佐藤宗一の勤めている職場は、ここから30分ほど先の町の端にあるわ。すぐに向かう?」
「いや、先ずは生存者の確認をする。適当な駐車場に停まって、ドローンで周囲の探索をする」
「了解」
里美に指示を出した後、俺達は大きいショッピングモールの駐車場に車を停めた。その後に、由乃さんが運転するワゴンも駐車場に到着した。
そこで俺達はすぐにドローンとパソコンの準備をし、出来てすぐに俺と里美はドローンを飛ばした。
「左に曲がって。そこにこの町で一番大きな神社があるから、そこも見てみたい」
「その神社の住職とは面識があるわ。あの人ならたくさんの人を上手く避難させていると思う」
「はいよ」
華々美と涼の指示により、俺はその神社に向けてドローンを飛ばした。涼曰く、そこの住職とその息子と娘もとても強い力を持っているそうで、年に一度会って互いに力を高めあっていたという。あと、息子の方は中学の時に当時小学6年生だった涼に告白して振られた過去があるという。お気の毒に。
(相変わらず、建物の中は死霊だらけだな)
俺達が今いる所もそうだが、建物や日陰等の陰になっている所には相変わらず死霊たちがギュウギュウになっていて、外には死霊たちに殺された人達の白骨死体がそこら中に転がっていた。生き物といったら、ネズミや野良猫や野良犬などの死霊たちに見向きもされない動物たちばかりであった。
(死霊たちが動物を襲ったのは最初だけで、その後は近くを通っても無視されているもんな)
そんなことを考えながらドローンを飛ばしていると、山の中に瀧倉神社よりも敷地面積の大きい神社が見えた。そこが、涼がしていた神社、日口神社で間違いないだろう。
近づいてみると、そこには大勢の人が避難していて、ドローンに気付いた人たちが一斉に手を振ってアピールしていた。
「生きているみたいだ」
「まぁ、孝介さんや孝一さん、朝香ちゃんならあそこにいる人たちを上手くまとめられるでしょう」
「そういえば、そこの住職さんと面識があったんだったな」
「ええ。幹夫たちには話していなかったけど、瀧倉家、空道家、日口家、岩崎家は日本で最も強い力を持つ陰陽師の一派としてすごく有名なんだ」
「そうなんだ」
「わたしも初めて知ったぞ」
自慢げに胸を張る涼だが、その場合凄いのはご先祖様の方であって涼自身がすごい訳ではないと思う。確かに、涼も強い力を持っているが。
「瀧倉家が名家なのは知っていたけど、空道家も凄い一族だったなんて初めて知ったぞ」
「まぁ、前の党首、青美のお父さんが嫌われ者だったからね」
「他の3家からも煙たがられたってわけか」
ちなみに、名前が挙がった4家の中でまだ会ったことがない岩崎家は鹿児島出身であるため、会えるのはまだまだ先になるだろうとのことだ。
何にせよ、生存者の存在を確認したため一旦離れて他の所の調査もした。結局のところ、日口神社以外で生存者は見られなかった。
「佐藤宗一の所に行く前に、先ずはここの生存者とコンタクトを取りたい。幸いなことに、あそこの住職と涼は面識があるみたいだから」
「孝介さんはとても人当たりのいい人だし、息子の孝一さんに至っては歴代最強と言われているくらいに強い力を持っているわよ」
相当信頼できる相手なのか、自信満々に言う涼。
そんな涼のナビで俺達は、大勢の人が避難している日口神社へと車を走らせた。生存者を探すことに集中して気付かなかったが、よく見ると神社に近づくにつれて畑や田園が多くみられるようになり、そこではたくさんの作物や米が今でも栽培されていた。どうやら、食べ物には困っていないみたいだ。
このほかにも、ソーラー発電用のパネルもいくつか設置されていた。おそらく、日口神社の方でも電気に困っていないのだろう。
そんなことを考えていると、車は日口神社の駐車場に着き、到着早々大勢の人が駆けつけてきた。そんな人たち先頭に、袴姿の男女が3人と割烹着姿の女性が1人いた。
俺達はすぐに車から降りて皆の前に姿を現し、涼が車から降りた瞬間に袴姿の3人の男女と割烹着姿の40代くらいの女性が駆け寄ってきた。
「涼ちゃんじゃない!」
「生きていたんだね、涼ちゃん!」
文様がある紫色の袴を穿いた40代後半くらいの男性と、割烹着姿の女性が涼の名前を呼んでいたことから、この2人が日口神社の党首夫婦だと想像がついた。
そんな2人の後を、紫色の無地の袴を穿いた若い男性と、水色の袴を穿いた俺達と同い年くらいの女性も付いてきた。
「孝介さんに夜香さん、孝一さんと朝香ちゃんも無事だったんですね」
「まぁ、何とか」
「主人と孝一と朝香と彩羽さんが居れば、亡者たちが来ても大丈夫だから」
「彩羽さんも無事なんですね」
「ああ。ただ、町の人全員を避難させることは出来なかった」
「それでも、お父さんやお兄ちゃん、それに彩羽さんのお陰で50人近くの人を助ける事が出来たわ」
再会を喜んだ後、4人は俺達の所に来て握手をしてきた。
「よくここまで来た。私は日口孝介と言います。日口神社の神主をしています」
「どうも。武谷幹夫と言います。涼さんのお陰で、生き延びる事が出来ました」
神主である孝介さんと握手を交わし、互いに自己紹介を終えた後、先ずはこちら側からそれぞれ自己紹介をすることになった。
「わたしは藤波華々美だ」
「えっと・・・城ヶ崎美玲と言います!」
「長谷川里美です。涼さんのお陰で安心して過ごせています」
「霊媒師の影山由乃と言います。涼ちゃんと同じように、幽霊たちと対抗する力を持っています」
「由乃さんなら知っています。確か、西光良成さんの所のお弟子さんで、学生時代はかなり手のかかる不良娘だと」
「それは言わないでください」
どうやら向こうも、由乃さんの事は師匠である西光さん経由で知っていたみたいだ。同時に、元ヤンであることも知られているみたいだ。
「改めて、日口孝介です。こちらは妻の夜香です」
「日口夜香と言います」
割烹着姿の女性は孝介さんの奥さんみたいで、涼が言うには旦那や子供達みたいな力は持っていない一般女性のようだ。
「日口孝一と言います。現在20歳です」
「ボクは日口朝香です。高校1年、じゃなくてもう3年です」
「どうも」
続けて子供2人、孝一さんと朝香ちゃんも自己紹介をしてくれた。孝一さんは、里美や小夏さんと同い年の20歳か。朝香さんは、美玲や空道と同い年か。というか、朝香さんってボクっ子なんだな。
「募る話もあると思いますが、先ずは上がってください。何もおもてなしも出来ませんが」
「いえ、お気になさらず」
孝介さんの案内で、俺達は日口神社へと入っていった。敷地内には、老若男女問わずたくさんの人が避難していて、子供もたくさんいた。もちろん、赤ちゃんもたくさんいた。
なのに、10代後半や20代の人がいなくはないけど少なく見えた。
そんな俺の疑問に気づいた孝一さんが、俺に近づいて耳打ちしてきた。
「若い男女が少ない理由に関しては、後で説明します」
「あ、はい」
孝一さんの身長は俺よりも高く、しかも芸能人ではないかと思うくらいのイケメンで、短い黒髪に赤のメッシュが入っていて今時の若者という感じがした。それでいておごった感じはなく、爽やかな好青年といった人であった。こんな人からの告白を断るなんて、当時まだ小学生だったとはいえ涼ももったいない事をしたな。
そんな孝一さんの妹の朝香さんも、中世的な顔立ちをしたアイドル並みの容姿をしていて、バランスの取れたスタイルをしていて、長い黒髪をポニーテールに結っていた。
孝介さんの案内で、俺達は本殿の近くにある日口親子が住んでいると思われる大きな家に入り、そこの広い畳の居間へと通された。長テーブルを挟んで、俺達の正面に日口親子が座った。座って1分後に、ゴシック調の派手な格好をした黒髪の女性が俺達にお茶を置いた。
「彩羽ちゃんも座って。情報の共有は必要だから」
「はい」
彩羽と呼ばれた派手な女性は、孝介さんに促されて孝一さんの隣に座った。
「えっと、彼女は?」
「ああぁ。俺の婚約者です」
「岩崎彩羽と言います」
「鹿児島に住んでいる陰陽師の一族、岩崎家の次女で私や由乃さん、青美と同等の力を持っているわ」
「へぇ、孝一さん婚約者がいたんですね」
何でも、日口家も岩崎家も瀧倉家と同様の大地主であって、名目上は家同士の繋がりを強化する意味も込めて岩崎家の次女である彩羽さんが、高校に入ってすぐに日口家の次期党首である孝一さんと婚約することになったという。高校も、孝一さんと同じ学校に通っていたという。
「俺達には理解できない世界ですね」
「まぁ、別に強制されたわけではありませんし、俺も彩羽の事は好きですから」
「まぁ、あたしから猛アプローチをしてようやく落とす事が出来て、婚約と同時に家を出る事が出来たわ」
そんな風に軽口を言い合う孝一さんと彩羽さん。
そんな彩羽さんの容姿は、長い黒髪と黒を基調としたゴシック調の服を着ていて、耳にはピアスを着けていて、メイクも少し派手にしていた。アイドル並みの整った顔立ちに、グラドル並みの抜群のスタイルを誇る超絶美人ではあるのだが、どちらかというギャル系といった感じで俺の苦手なタイプで、一見すると陰陽師には見えなかった。ちなみに、今は黒髪だが現象が起こる前はピンク色に染めていたという。
彩羽さんの登場に驚いたが、その後はつつがなく情報交換を行った。今日までの出来事や、ここに来た目的まで俺達が知りうる情報は全て話した。
「霊滅版の事は知っていましたが、正直言ってそんなものが本当にあったなんて思いませんでした」
「俺なんて初めて聞いたぞ」
「しかも、それが盗まれて佐藤宗一という歴史学者が1000万で買ったって、ソイツって常識なくない?」
「彩羽さんが言うとなんだか違和感がある」
「まぁまぁ、お父さんも孝一も落ち着いて。あと朝香、それは彩羽ちゃんに失礼よ」
動揺が走る日口親子と息子の婚約者を、唯一冷静だった神主の奥さんの夜香さんが宥めていた。何となくではあるが、この家族のパワーバランスが分かった。
「で、その8人の佐藤宗一のうちの一人がこの町に住んでいたというのだね」
「はい」
孝介さんの問いかけに、俺は首を縦に振った。
「先に訪れた東京と新潟はハズレで、魔物化してそっちに来た奈良もハズレ。8人のうち3人が外れて、残りは5人・・・・」
「こっちもハズレだとかなりキツわね。その後に北海道、大阪、広島、鹿児島と順番に行かないといけないんだから」
「ここから北海道はまだ近いけど、鹿児島まで行くのはキツイな。電気も死んでるし、電話も繋がらんからあたしの実家にも連絡がつかないし、そもそもうちの実家がソーラー発電を導入するとも思えないね」
深刻そうに考える日口兄妹に対し、彩羽さんは自分の実家の安否があまり気にならないのかあっけらかんとした感じであった。
「まぁ、あのお堅い岩崎家が自分の家に最新機器を導入するとも思えないし、させようにも接続の仕方も分からないアナログ人間だから、連絡が取れないのも仕方ないわね」
「アナログって・・・・・」
「だって岩崎家って、全員という訳ではないけど昔ながらの伝統と面子ばかりを気にする家で、近代的な文化には物凄く疎いのよ。それこそ、スマホはおろかガラケーすら成人するまで持たせてもらえないげ・・・アナログ人間なのよ」
ちょっと涼さん、あなた今岩崎家の事を原始人なんて言おうとしたでしょ。これは、空道家とは違った面倒臭さを感じるな。
「気にしなくていいわよ、涼ちゃん。あたしの実家はまさに原始時代そのもので、古いしきたりと伝統ばかりを重視していて滅茶苦茶生き辛かったし、スマホやゲーム機もここに来てからようやく買ってもらえたくらいだから。あたしにとっては、修行以上に苦行な生活だった。それなのにお兄ぃもお姉ぇも妹たちもそれが当たり前に感じて、周りから浮いても全く気にしなかったもん」
「相当溜まってたんですね・・・・・」
「まぁ、岩崎家からすれば彩羽は異質な存在だったと思います。こんな格好を好むくらいですから」
まぁ、確かに彩羽さんの格好はかなり派手だし、耳にピアスを着けるくらいだから古い伝統ばかり守る家からすれば異端児だったんだろうな。
だけど、俺等からすれば彩羽さんの方が普通であって、向こうの方が異質な存在に感じるんだよな。
「霊滅版探しに協力したい所ですが、私達にだって守り導いて行かないといけない人たちがいますので」
「気にしないでください。それにこれは、空道や由乃さんの妹が町に残ってくれているから出来る事ですので、そうでなかったら町を出て探しに行こうなんて思いもしませんでした」
そう。これは俺達が他の生存者たちよりもかなり恵まれ、平穏に暮らせたから出来たのであって、普通は危険な所に飛び込むような真似なんて絶対に出来ない。そもそもの話、電気が使えなくなった時点で現代人のストレスはマックスになる。
それに、ここまで来た以上今更人任せなんて出来ないし、するつもりなんてない。空道神社に避難している子供達の為に、そして絵里奈ちゃんの今後の未来の為にも俺達自身が動いて解決しないといけない。
例え、その先に大きな危険が待ち受けていても、俺達はこの現象を解決するために霊滅版を探しに行く。
ボクっ子キャラ登場。今後の活躍に期待してください。




