聖域
そんなこんなであっという間に出発の日を迎え、俺達はキャンピングカーとワゴンに乗る為の準備をした。行くのは、俺、華々美、涼、里美、美玲、由乃さんの6人で、キャンピングカーには俺と華々美と里美が乗り、ワゴンには涼と美玲と由乃さんが乗る事になった。
そして、出発直前にちょっと困ったことが起こった。
「やああぁああっ!」
「絵里奈ちゃん・・・・」
「参ったな」
これから車に乗ろうというタイミングで、皆と一緒に見送りに来ていた絵里奈ちゃんが、俺と華々美の足にしがみついてきた。俺と華々美の出発を阻止するために。
「絵里奈ちゃん。パパとママは、この状況を打開するために出かけるの。ちゃんと帰ってくるから、あたし達と一緒にいい子にお留守番してよ」
「やああぁああっ!」
咲が絵里奈ちゃんを説得しているが、絵里奈ちゃんはなかなか俺と華々美から離れようとしなかった。咲だけじゃなく、佳苗さんや小夏さん、姫香の3人も加わって説得をしているが、絵里奈ちゃんはなかなか聞いてくれない。
あまりにもしつこいからなのか、ならばと言わんばかりに一旦離れた絵里奈ちゃんは、今度は俺と華々美が乗ろうとしているキャンピングカーに乗ろうとしていた。
「って、絵里奈ちゃん!?」
「流石に絵里奈ちゃんは連れていけないって!」
「やああぁああっ!」
こうなるともう、絵里奈ちゃんの意志はテコでも揺るがない。何が何でも、俺達と一緒に行くと言わんばかりに車に乗り込もうとする。
無論、これから危険な所に行くのだからまだ1歳でおむつも卒業できていない絵里奈ちゃんは連れていけない。そもそもの話、子供である絵里奈ちゃんが一番狙われやすいので尚更だ。
(とはいえ、絵里奈ちゃんの気持ちも分からなくもないんだよな)
本当の母親と二度と会えなくなったことを、赤ん坊のこの子が理解しているのかどうか定かではないが、似たような状況になるのを嫌がって離れたがらないんだよな。
それを理解しているからこそ、俺と華々美は絵里奈ちゃんを突き放すようなことはせず、2人でそっと抱き締めて地道に説得した。
「大丈夫。パパもママも必ず帰ってくるから、絵里奈ちゃんはここでお留守番してて」
「大事な娘を置いて帰って来ないなんてことはしないから、いい子にして待ってて。パパもママも、必ず絵里奈の所に帰ってくるから」
30分程説得してようやく絵里奈ちゃんは車から離れ、トボトボとではあるが佳苗さんの所に行った。
「それじゃ、行ってきます」
「絵里奈も、いい子にしててね。ママもパパも、出来るだけ早く帰って絵里奈に会いたいから」
「ううぅ」
皆に挨拶を済ませると、俺達はすぐにそれぞれの車に乗って出発した。目指すは岩手、それから北海道に行ってから一度屋敷に帰る予定だ。
「とは言ったものの、あんな寂しそうな顔をした絵里奈ちゃんを置いて行くのは・・・・」
「確かに、こんな現象が起こっていなかったら、一緒に連れて行ってあげれたのに・・・・」
「2人とも、早速寂しそうにしないの。幸いなことに、道路はまだ無事なんだから、片道に何週間もかかったりはしないわよ。上手くいけばだけど、1週間もあれば帰って来られるわよ」
「「それでも1週間か・・・・」」
「親バカ全開ね」
里美に呆れられながらも、俺達は岩手へ向かう道中の道路と周りの様子を窺っていた。
幸か不幸か、車は全て路肩にあったので道路としての機能は健在で、今のところは順調に走っている。そしてそれは、高速道路でも同じであった。おそらく、車の中に入ってきた死霊たちから逃げる為に車を捨てて外に出たのだろう。
「高速は比較的開けているから、日向の面積が大きかったんだろう。車さえ捨てれば、死霊どもに襲われる心配は無くなる。尤も、逃げたとしても、避難できる場所があったかどうかは別だが」
「そうだな。森の中は相変わらず死霊たちでいっぱいだし、今日は晴れているが、先週までは雨が続いていたから死霊たちが活発だったな」
俺達が今日を出発日にしたのは、華々美から10日間は晴れが続くからという事で、そろそろ梅雨が明けただろうと思い決めたのだ。その結果、7月の2週目まで待つことになったが。
「でも、雨が降ってくれること自体はありがたい事なのよ。雨が降ってくれることで、私達は水不足に悩まされずに済むし、山が雨水をろ過して綺麗な湧き水にしてくれるんだから感謝しないと」
「そういえば、前にも婆ちゃんにもそんなこと言われたっけ」
「酷いわね。まぁ、私も今年で20歳になったんだし」
「そういえばそうだったな」
「ああ。もう2年だ。道理でこの状況にも慣れてしまう訳だ」
華々美の言う通り、もう2年も経つと幽霊が見えるこの状況にも慣れてしまい、何処にいれば襲われずに済むのかも、どう対処すれば良いのかも自然と身についてしまう。
だけど、だからと言ってこのままでいいという訳にはいかない。奈良の佐藤宗一の様に、悪霊が魔物になってしまう可能性だってある。それに、俺達が避難している所だっていつまでも安全という訳ではない。
「とはいえ、今日中に岩手に着くのは無理かもしれないわね。無理をすれば着くかもしれないけど、夕方以降に動くのは危険だからね」
「まぁ、これが現象前だったら今日中に着けるだろうけど」
「無理は禁物だ。安全第一だ」
これは事前に、涼や由乃さんと話し合って決めた事であった。
どこか別の県で一旦降りて、町中にある教会か神社に行くか、適当な広場に駐車してキャンピングカーで寝泊まりする事でまとまった。
そうして3回目の休息で、俺達は違和感を覚えていた。
「なぁ涼。ここだけなんだか、死霊たちの数が極端に少なくないか」
ここに立ち寄る前に寄ったパーキングの施設の中には、死霊たちがギュウギュウに入っていて、俺達が近づくと飛び掛かりそうな勢いで襲ってきていた。
けれどここは、片手の指でも数えられるくらいの死霊しかいなかった。こんな事は初めてであった。
「そうだね。この程度ならわざわざ術を使わなくても、普通に戦えばいいわね」
「そんなに強くないから、すぐに倒せますね」
由乃さんからもそう言われたので、俺達は施設の中にいた死霊を僅か1分で全滅させる事が出来た。完全に霊が居なくなったのを確認した後、俺は涼と由乃さんにその訳を尋ねた。
「前に寄ったパーキングエリアは、いずれも死霊がたくさんいたのに、ここだけ異様に少ないのも不自然だ。特にこの辺り特別な何かがある訳では・・・・」
「・・・・・そうでもないかもしれません」
「え?」
「由乃さん?」
涼が疑問に思っている中、由乃さんは何かを感じたみたいで外に出て気配を探っていた。俺はそんな彼女の後を追って、何か気付いた由乃さんが右の掌をある山の方へと向けていた。
「由乃さん?」
「なるほど。あそこの森から神聖な力が、わずかながらこっちにも流れてきたのですね」
「神聖な力?」
「私は霊の気配を探るのはあまり得意ではありませんが、聖域の気配を探るのは私の方が涼ちゃんよりも上手なのです」
「聖域?」
「私達がいつも野菜とお米を貰っている村と、牛乳や乳廃牛の肉を貰っている牧場に宿っている守護の力が宿った土地の事で、私が今手を向けている所にとても強い力を感じます。あそこには霊が一人もおられませんので、本日の野宿場所に良いと思います」
「そうか。じゃあ、ここで高速を降りてあの場所に向かおう。道案内をお願いしてもいいか?」
「はい。では、今度は私達が先頭を走りましょう」
予期せず見つけた聖域に向かう為、俺達は小休憩を取った後すぐに車に乗ってすぐに高速を出て、由乃さんが運転するワゴンの後を追った。
しばらくは町の中を走り、やがて山道へと入っていった。いつもなら死霊たちがたくさんいるのだが、その山道には死霊はおろか浮遊霊もいなかった。
「この山自体が聖域になっているのかな?」
「おそらくね。ここって木が多い割にはとても明るく、何となく清らかな感じがするのよね」
「確かに、一般人のわたしにもよくわかる」
確かに、車の中でも分かるくらいこの山には清らかな感じがする。その力も、奥に行けば行くほどより強くなっているのを感じた。
しばらく走っていると、由乃さん達が乗っているワゴンが止まったので、俺達の車も止まる事にした。停車してすぐに、由乃さんがワゴンを降りてこっちに駆け寄ってきた。
「今日はこの辺でキャンプをしましょう。これ以上奥に行かれても遭難するだけですので」
「分かった」
こういう山の中の聖域は、他のどの聖域よりも強い守護の力を宿しているが、その分奥に行けば行くほど遭難の危険がある為立ち寄らない方が良いというのを、前に涼から聞いた事があった。
という訳で、俺達は車を降りて周囲を散策して回った。登山で有名な山だったのか、遊歩道が見つかった。それと残念なことに、行儀の悪い登山客が捨てたであろうタバコの吸い殻などのゴミも何個か見つけた。もちろん拾って袋に入れてから、一旦車の中に入れた。町に出たら、適当な場所でゴミ箱に入れるつもりだ。
そして目を引いたのは、車を停めてある車道から少し横を下ると滝と綺麗な川があった。滝から少し離れた所では、大ぶりの魚がたくさん泳いでいた。せっかくなので、俺達はその魚を釣って今夜の晩御飯にすることに決めた。
「うまい。焚火で魚を焼くのもいいな」
「そうだな。聖域に感謝しないとな」
「ご飯も出来ました。カレーもいい具合に出来ました」
「こんな風に外でキャンプ飯食べるのもいいわね」
時間が経つのはあっという間で、暗くなったところで俺達は川の近くで夕食を取ることにした。こうしていると、皆とキャンプに出掛けているみたいでなんだか楽しい気持ちになった。
(不謹慎だとは思うけど、こういう楽しい気持ちでいると死霊や悪霊を遠ざける効果があるんだよな)
だけど、それは俺達みたいに衣食住が充実していて、電気が自由に使えて、その上死霊や悪霊に対抗できる人が合計で4人もいるのが大きい。そのお陰で俺達は、何不自由なく過ごす事が出来、今だってこうして皆が笑顔で美味しいご飯を食べているのだ。
(すごい贅沢をしているな、俺達は)
これから向かう所に生存者がいるのなら、今の俺達みたいに明るく過ごす事なんて出来ず、皆が日々死霊たちに怯えながら避難先の神社や教会等から離れられない生活を送っている。おそらく俺達は、そんな彼等から恨まれることになるだろう。
(涼や由乃さん、空道や梨乃には日々感謝だな)
今のような楽しい時間が過ごせることに感謝しつつ、俺は皆と一緒に美味しい魚とカレーに舌鼓を打っていた。
後片付けを終え、しばらく談笑しつつ岩手と北海道の佐藤宗一の所在と顔と年齢の確認をしてから俺達は眠りに就いた。
キャンピングカーのベッドには、俺と華々美と涼と美玲が2人ずつ密着しながら眠った。上の段には華々美と涼が、下の段には俺と美玲が寝る事になった。組み合わせはジャンケンで決めた。
ワゴンには、里美と由乃さんが椅子を倒して寝袋に入って寝ていた。
そんな時、ふと俺は夜中に目を覚ました。
「うう・・・・まだ夜中の1時か・・・・」
何となく眠れなくなった俺は、美玲を起こさないようにベッドから出て何となく外へと出た。
「寝たのが9時だったとしても、早すぎだろ・・・・」
また寝られれば良かったのだけど、無理に寝ても寝られない気がしたので仕方なしに川の方まで下っていった。
だが、そこで俺は見てしまった。
滝の近くで、裸の華々美が川に入って水浴びをしている所を。
「・・・・・・」
見てはいけないと思いつつも、俺は水浴びをする華々美からどうしても目が離せないでいた。
月明かりに照らされ、何度も川の中に潜っては立ち上がり、首を振って長い黒髪をなびかせる姿はとても美しく、その上濡れた肌が艶っぽく見え、ただでさえ綺麗な華々美がより美しく見えた。
そんな俺の視線に気づいた華々美が、笑顔で俺の方を向いた。
「何見てんの」
「あああっ!?ごごご、ごめん!」
「構わない。見惚れてくれたのなら、むしろ嬉しいくらいだ」
「そ、それは、どうも」
思えば、華々美の裸を見たのはこれが初めてではなかった。グリムスに襲われた日の翌日、華々美の17歳の誕生日の夜に初めての行為を行った時以来、実に2年ぶりであった。
「ぼぉとしていないで、幹夫も一緒に水浴びするか?」
「い、いや、俺は!」
「わたしが良いと言っているんだ、来いよ。そこにブルーシートを広げているから、服はそこに畳んで置いておいて」
「い、いいのかよ・・・・」
とはいえ、抗う事が出来なかったのも事実であるため、俺は服を脱いだ後華々美に手を引かれながら川の中へと入った。入ってすぐに華々美は、俺に抱き着いてキスをしてきた。
「か、華々美!?」
「相変わらず奥手だな。普段は頼もしいのに、こういう事になるとヘタレるんだから」
「悪かったな・・・・ああっ!?」
照れくさくなってそっぽを向くと、華々美が更にギュッとだ気付いてきて、かなり大きく膨らんだ双丘をこれでもかと言わんばかりに押し当ててきた。
「ふふ、可愛い声出して。2年前よりも大きくなって、あの屋敷に避難しているメンバーの中では一番大きくなったんだ。当然、ブラのサイズも大きくなったぞ」
「うううう・・・・・」
確か、2年前の初めて会った時はFカップだったから、今ではそれより上、少なくともGカップもあるという事になる。
(というか、これ絶対にGカップなんて次元じゃないだろ!一体何カップあるんだよ!)
来月末で俺と同じ19歳になるというのを差し引いても、この大きさは規格外だろうと思うのであった。
そんな俺の動揺も他所に、華々美は俺の耳元に口を近づけて囁くような声で言って来た。
「ねぇ、久しぶりに味わいたくない?」
「なっ!?」
「あの日以来、幹夫ったらちっとも手を出してくれないし、他の女の子にも手を出さないんだから寂しかったぞ」
「寂しいって・・・・」
「わたしだけでなく、涼や美玲だって、お前と繋がりたがっているのに、肝心の幹夫が何もしてくれないんだから2人とも悲しんでるぞ」
「そ、それは・・・・」
確かに、この2年間は俺自身が皆に遠慮して手を出さないようにしていた為、あの日華々美として以降誰とも行っていなかったし、華々美とも初夜以降は何もなかった。
「気を使ってくれるのはありがたいけど、何もしないというのも嫌なものだ」
「華々美・・・・」
「もう、いいだろ。わたし達だってもう19になって成人しているし、何より絵里奈ちゃんだって弟か妹が欲しいと思うぞ」
「弟か妹って、まさかこのまま!?」
「せっかくブルーシートがあるんだし、この後は寝かせないぞ」
「うううう・・・・お、お手柔らかに・・・・」
なんとも情けない返答になってしまったが、その後川から上がった俺達はブルーシートの上で濃密な一夜を過ごすことになったのであった。




