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病院の幽霊たち

 それから更に月日が経ち、僧の集団の素性も、霧の事も何も分からないまま時間だけが過ぎていき、気が付いたら5月、6月と過ぎていき現在7月。霧のせいで県外に出られない日が、今日で4ヶ月も経過した。


「ああぁもう!一体何がどうなったらあの霧が出来るのよ!」

「梨乃。騒ぐな」

「うううぅ・・・・・」

「でも、梨乃がイライラする気持ちは分かるわ」

「あたし達が総出で調べているのに、4ヶ月も何も掴めていないなんて」


 自分達の不甲斐なさを悔やむ4人の陰陽師が、空道神社の本堂の前で愚痴っていた。

 俺達は今、絵里奈ちゃんの3回目の予防接種をしてもらう為に空道神社に来ていた。同行メンバーは、涼や由乃さんの他は華々美と美玲と里美の3人であった。


「しかし、予防接種を受けられてよかったです」

「ええ。避難している人の中に、抗生物質を作ってくれていた人がいたのも良かったです。ペニシリンなら私でも何とかなりますけど、赤ちゃんに打つ注射となるとそうもいきません」


 注射を打たれてギャン泣きをした絵里奈ちゃんを慰めつつ、茅音さんのお母さんで医者の智恵美さんからそんな話を聴いた。

 余談だが、娘の茅音さんのお腹の子は順調に育っていき、母子ともに健康だという。道明君も、もうすぐ父親になるんだな。出産予定は10月で、茅音さんも道明君も我が子の誕生を楽しみにしていた。


「一応、必要な抗体を作っている施設は自家発電になっていて、今でも抗体を作る事が出来るけど、近くにある病院からたくさんの幽霊が来るから、青美ちゃんや梨乃ちゃんにはいつもお世話になっているわ」

「あの病院ですか・・・・」


 智恵美さんが言っていたその施設が、あの病院の近くだと聞いて俺もげんなりするのであった。

 その病院自体はいたって普通だし、勤めている医者や看護婦さんもいい人ばかりだし、出来て僅か2年の新築であったため雰囲気もとても明るい。

 けれど、問題なのはその隣にある3年前まで使われていた旧病棟であった。




 幽霊病棟



 住民の間でそう呼ばれているその旧病棟は、ゴースト団地や豊海トンネルに並ぶ危険な心霊スポットと言われていて、幽霊の目撃はもちろん心霊写真が高確率で取れ、動画を回せば高確率で幽霊が写るなどする。

 病院側としては、旧病棟の幽霊に関しては否定的だし、新しい病棟は雰囲気がいいからそんな噂が立っては迷惑だと言っていた。実際、新しい病棟まで幽霊が来ることはなかった。




「その病棟なら、以前私と父が霊視をしに行った事があって、もの凄くたちの悪い霊が住み着いているわ。あの旧病棟で亡くなった人の霊と、あの土地に元々住み着いていた霊がいて、どちらも生に対する執着はかなり強いよ」

「青美ちゃんもそんなことを言っていたわ。かなり危険だから、絶対に中に入ってはいけないって言ってた」

「この現象が起こる前ならそうだけど、今は近づくだけでも危険だから」


 話を聴いていた涼が、こっちに来てあそこの幽霊について話してくれた。この現象が起こる前からかなり危険な幽霊が住み着いていて、今の危険度は現象前とは比べ物にならなかった。


「まぁ、幸い抗生物質を作っているあの施設には近づいていませんけど、それも時間の問題と思います。あそこの幽霊たちの、生に対する執着はかなり異常です。ゴースト団地みたいに、マンションごと地面に埋めて浄化でもさせない限り永遠に住み着くと思います」


 そういえば聞いた事があるが、この前の戦いで空道がゴースト団地にあったマンションを塵に変えて地面に、下水道の中に埋めたと言った。その際に、塵に変えたマンションの残骸に浄化作用を付与して触れた霊を消滅させるようにしたと。


「瀧倉さんの言いたいことは分かります。ですが、この町でそれが出来る施設はあそこだけだから」

「うう・・・・・」


 悩む涼に、俺はまた無茶なお願いをしてしまう事を自覚しつつも、ここにいる子供達や絵里奈ちゃんが元気に育つ為にも必要だと思いお願いすることにした。


「まぁ、病院そのものも綺麗なら再利用したいし、旧病棟はゴースト団地の時みたいに塵に変えて空洞の中に埋めてもらおうよ」

「ううぅん・・・・まぁ、青美なら出来るかもしれないけど、それだと青美の負担が計り知れないわ。青美の術って、念力をバカみたいに食うから」

「そういえば、青美ちゃんの術って強力である反面とても燃費が悪かったわね」


 そういえば、空道の術って念力を使って物を飛ばしたり、鬼火を作って飛ばしたりするんだったな。強力である反面、燃費が最悪だったんだよな。空道の父親ならある程度力を抑えられるらしいが、その父親はもういない。皆に嫌われ過ぎたせいで。


「とはいえ、他にそんな事が出来る奴はいないし、あいつに頼むしかないんだよ」

「まぁ、確かにあんな芸当が出来るのは青美だけだもんな」

「芸当って・・・・瀧倉さんも何気に酷いね」


 智恵美さんはそう言うけど、本堂の前で空を眺めている空道を見るとやっぱり未熟な陰陽師なのだというのが分かる。

 涼と由乃さんが、何故4ヶ月も調べて何も分からなかったのか、他に何所を調べたらいいのかを考えていた。

 対して、空道と梨乃は4ヶ月も調べても何も出なかったことでイライラしていて、どうしてダメだったのかなど次を考えられていなかった。


(免許皆伝の2人と、未熟な2人でここまで差が出るもんなんだな)


 それでも、空道も梨乃も力は本物なので笠島先輩からも大いに頼られている。


「まぁ、一応青美にも相談してみるわ。先ず断らないと思うけど、あの子は死霊を消滅させるのに消極的だから。父親に似て理想主義で、周りの迷惑を顧みない奴だから」


 本当に困った奴と幼馴染であり、流派は違うが陰陽師仲間でもあるなんて涼が気の毒だ。

 早速涼は、空道の所へと駆け寄ってさっきの事を相談してみた。最初は渋っていた空道だが、すぐに首を縦に振った。


「まぁ、空道の言いたいことも分からなくもないけど、他のたくさんの生存者を抱えている身としてはそんなことを言っていられないもんな」

「今まで通りお祓いでどうにかできればいいけど、今回はそれでは私たちを守り切れないもんね。嫌でも割り切ってもらわないと、特にここにはたくさんの子供と40人の赤ちゃんがいるんだから」

「はい。それじゃ、俺達はこれで」

「何か困ったことや、怪我や病気の治療をして欲しい時はいつでも呼んで。その時は、道明も研修生として連れてくるわ」

「肝心の娘さんは連れて行かないのですね」

「連れてく訳ないでしょ。3ヶ月後には出産を控えているんだから、大人しくしてもらいたいわよ」

「そうですね」


 智恵美さんと軽く話をした後、俺達は里美の運転する車で帰路についた。




 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 絵里奈ちゃんの予防接種から5日が経ち、俺は華々美と涼を連れて件の幽霊病棟へと来ていた。空道神社からは、空道と笠島先輩と鈴原が来てくれていた。というか鈴原、毛染めが出来なくなったもんだからこの1年で赤かった髪が元の黒に戻っていた。

 それはさておき、俺達は今幽霊病棟を前にそれ以上足が進まなかった。


「近くで見ると、寒気がするほど気味が悪いな」

「確かに、特にボロい訳でもないのに妙に不気味なんだよな」

「ここは、昭和初期までは墓地だったから、病院どころか建物を建てて良い場所じゃないのよ」

「「うえぇ・・・・・」」


 俺と華々美が不気味さを感じている横で、涼がこの旧病棟の事について説明してくれた。正直言って聞きたくなかった。

 何でも、この土地は元々墓地があった場所でもあったのだという。なんでも、第二次世界大戦で空襲被害を受けたことでこの土地は更地になり、何も知らない当時の院長がここに病院を建てたのだという。そのせいで、あの土地で眠っていた先人たちの魂が幽霊となって彷徨い、更に病院で亡くなった人たちの魂まで居付いてしまったせいでこの旧病棟は幽霊の巣窟となった。


「本当ならきちんと供養してあげたいし、成仏して欲しいと思っているのだけど・・・・・」

「今後の事を考えると、そんなの悠長に待っている訳にはいかない。今後の事を考えると、ワクチンや抗生物質は絶対に必要だから」

「青美ちゃん、笠島先輩もこう言っているんだし、ちゃんとお仕事してね」

「分かってるよ」


 笠島先輩に絶対に逆らえない空道は、納得いかない様子ではあったがそれでも従うしかなかった。


「塵にする前に、ここの死霊たちを全員消さないといけない。ここの死霊たちは、縄張り意識がかなり強く、外から入ってこようとする幽霊を受け入れようとはしない」

「でも、だからこそ危険なんのよ。生に対する執着も強く、当時あの病棟に入院していた人たちも、その霊たちによってたくさん命を奪われたわ。そして、あそこで死んだ人の魂までもあの病棟に住み着き、その魂もまたその霊たちと同じように入院した人たちを狙うようになるの。完全に悪循環だよ」


 涼と空道からそんなことを聞き、益々この土地が病院を建てるのに最悪な場所だと思った。


「だからこそ、ここの死霊たちを成仏させるのはかなり骨だし、父もここの霊たちのお祓いは諦めて近づかないと言ったのだ」

「でも、今回はそうはいかない」

「分かってる。今回は祓うのではなく、消滅させるのだから簡単だし。でもその前に、新病棟に住み着いている死霊たちを追い払った後、二度とは言って来られないように結界を張らないと」


 早速涼は、新病棟の死霊たちを追い出して、すぐに結界を張って二度と霊が入って来られないようにした。もちろん、住み着いていた死霊たちは日の光を浴びて消滅した。今回は数が少なかったお陰で、時間にして15分もしないうちに新病棟の結界張りは完了した。

 結界を張る際に、新病棟建設の際に涼の祖父がこっそり結界を張ってくれていた事が分かり、お陰で旧病棟の死霊たちは新病棟になかなか近寄る事が出来なかったという事が分かった。お陰で、新病棟は今も新築同然に綺麗なままであった。


「お爺ちゃん、いろいろ準備が良すぎるわよ・・・・・」


 対して、旧病棟は放置されていたというのを差し引いても、廃墟のようにボロボロで今にも崩れそうであった。


「幽霊病棟なんて言うから、幽霊がうじゃうじゃいるのだと思ったんだが」

「1階は比較的平和なんだ。問題は2階から上なんだよ。あそこは元々病室があった階だから」

「そういえば、そんなことを聞いた事がある」


 涼から護符を貰って、一緒に中に入る俺と華々美。笠島先輩と鈴原も、空道に術をかけてもらって死霊から守ってもらっていた。


「気を引き締めて。ここから先は危険だから、幹夫と華々美は私の傍を離れないでね」

「分かってる。金の刀をもう抜いておくよ」

「私も、銀の弾丸が装填された銃を持っておく」

「笠島先輩と鈴原先輩は、あたしから離れないで」

「武谷たちから武器を借りてるから、自衛くらいは出来るさ」

「うん。青美ちゃんは自分の心配をして」


 2階に上がる階段を前に、俺達はより一層気を引き締めた。笠島先輩と鈴原には、事前に金の刀を持たせていた。

 そうして2階に上がった瞬間、老若男女問わずたくさんの幽霊たちが俺達の前に立ちはだかってきた。


「他の死霊たちと違い、噛み付いたり首を絞めてきたりしてこないんだな」

「けど、なんだか背筋が凍り付く感じがする」

「あんまり見るな!」

「ええ!コイツ等は相手の精神にとり憑いて、命を奪っていくタイプの幽霊だから普通の死霊よりも厄介なのよ!」


 涼と空道に言われて、俺と華々美はハッとしてすぐに周りにいる死霊たちを金の刀で斬っていった。斬られた死霊たちは、甲高い悲鳴を上げながら消滅した。そんな俺達に続いて、笠島先輩と鈴原も金の刀で死霊たちを斬っていった。


「相変わらず、やり方が陰湿で嫌なんだよここの死霊どもは」

「しかも数が多いからすごく面倒」


 涼と空道は、正面にいる死霊たちにそれぞれ術を使って消滅していった。涼はお札と宝刀を使って、空道は鬼火を使って。


「やっぱり面倒だ!」


 そして痺れを切らした涼が、お札から火種を作り、それに息を吹きかける事で廊下全体に大きな炎を噴き出した。


「ちょっと涼ちゃん!ここ建物の中!」


 空道がそう叫んだ直後、煙感知器が作動した後に天井のスプリンクラーから水が噴き出した。


「ここ、まだ電気が生きてたの!?」

「病院って言うのは、患者の生命維持に必要な機材がたくさんあるから、万が一停電になったときの為に自家発電が出来るようにしてあるんだ!新病棟だって、ソーラー発電に切り替えていたお陰でついさっきまで電気がフル稼働してたじゃん!」


 解説をどうも笠島パイ先。

 という事はここも、3年も放置されていても電気は普通に通っていたから、当然煙感知器も生きていたしスプリンクラーも普通に作動できるという訳か。

 そうとは知らなかったのか、スプリンクラーでびしょ濡れになりながら茫然と立ち尽くす涼。一人前になったとはいえ、免許皆伝してまだそんなに年が経っていない為たまにこういう迂闊な行動を取ってしまう事がある。


「・・・・・ごめん」


 しばらくしたらスプリンクラーも止まり、濡れて使い物にならなくなったお札を捨てて、皆に一言謝った後涼は少し速足気味に3階に昇る階段の前まで言った。


「今が夏でよかった」

「だけど、わたし達はそうはいかない。幹夫や笠島先輩は平気でも」

「そう言う事なら、俺と武谷は前だけを見てればいい」

「はい」


 笠島先輩に言われて、俺と笠島先輩は極力女性陣の方に視線を向けないようにした。だけど、チラッと見えてしまったが、華々美は赤で涼は水色であった。





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