生存者の確認
屋敷に戻ってすぐ、俺達は調達した水と食料を冷蔵庫と冷凍庫に入れ、それが終わったら薬系統をリビングの棚の中へと入れ、最後に里美が調達した下着を各々が受け取っていた。急いで手に入れた為、可愛くないという文句は受け付けないとのことだし、彼女達も特に文句はなかった。
だが・・・・・・。
「なんでこんな派手な色の・・・・・・」
「仕方ないでしょ、適当に取って籠の中に放り込んだのだから」
「うぅ・・・・・・」
まぁ、トランクスの柄や色はこの際どうでもいいとして、何で里美は俺のパンツのサイズを知っているのだ?というか、一体どこで知ったというのだ!?
「サイズなら優希から聞いたわ」
「なんで優希が俺の下着のサイズを知ってんだ」
俺の問いかけに、優希はそっぽを向いて口笛を吹いていた。
「はぁ・・・・まぁいい。昼食を食べた後、ちょっと出てくる」
「出てくるって、何処行く気よ?」
「涼も一緒に連れて行くからいいだろ」
優希も連れて行っても良いけど、危険を伴う可能性があるから人数は最小限に留めたい。
「私はいいけど、何をする気?」
「ちょっと調べたいことがある」
そんな訳で、俺達は少し早めの昼食を取ることにした。調理を担当したのは、里美と華々美であった。
それから少しの食休みを挟んだ後、俺は涼を連れて如月公園の方へと向かった。その道中、俺は今回の外出の目的を涼に簡単に話した。
「調べたいことって、この辺りにいる生存者と、空に浮かんでいる浮遊霊どもの事か。あいつ等が襲い掛かってくることなんてないわ。放っておいても勝手に成仏するような幽霊で、人間に例えると気ままに遊び歩いているだけの人畜無害の幽霊よ」
「それはそれで迷惑だな」
それでこんなにたくさんいるなんて、こいつ等はちゃんと成仏する気があるのだろうか?涼曰く、幽霊にも寿命というものがあって、平均で千年後には勝手に成仏していくのだという。彼等には、強い恨みも怨念もなく、心残りがあってこの世に留まっているだけなのだという。尤も、大半がその心残りを解消する前に勝手に成仏してしまうのだというが。
「ただ、悪さをする霊、特に悪霊なんかに捕まってその強い怨念を浴びてしまうと、彼等もまた悪霊になってしまうから放っておくという選択しは無いんだけど、現段階では放っておいても問題ないわ」
そういって涼は、浮遊霊どもの後を追っている黒い人型のようなものを指さした。
「あの黒い人型は死神で、死んだ人間の魂を回収して霊界に連れて行くのが仕事。人間に限らず、あらゆる生き物の魂を回収するの」
「死神って、危なくないのか?」
「平気。あいつ等は生きている人間には手を出さない。死にかけている人には付きまとうけど、基本的には生者には何もしない。だからと言って関わっていいものでもないから、見かけても無視するのが賢明ね」
「そうか」
死神が浮遊霊達を回収してくれるお陰で、この世を彷徨っている幽霊を減らす事が出来るのだという。ただ、強い思念と怨念を宿した悪霊の回収には骨が折れるみたいだが。
「じゃあ、あの死霊たちはどうなんだ?建物の中に避難する訳でもなく、ずっとあの場から動こうとしない。しかも、日の光を浴びても平気でいるし」
俺達の目線の先にいたのは、電柱やガードレールなど特定の場所に佇んでいて動こうとしない霊がいた。アイツ等はあの場から動こうとせず、日の光を浴びようがお構いなくジッとしている。
「あれは地縛霊だ。その土地や場所に縛られている幽霊で、近づいたり過度な干渉をしてこなければ襲われる心配はない。家に憑いている霊がその代表ね。入ってきた人や、新しく住み着いた人に悪さをして襲い掛かってくるのがアイツ等だ」
「じゃあ、近づかなければ大丈夫なのか?」
「そうね。幹夫だって、自分の家に土足で入り込まれたら怒るだろ。それと同じだ。心霊スポットに足を運んだ馬鹿共に憑くのはそういう事さ」
「やっぱ危険じゃねぇか」
まぁ、近づいたり干渉して来たりしなければ大丈夫だという事なので、とりあえず無視することにした。涼曰く、アイツ等も死神の回収対象の魂になるのだという。
「だけど、実際問題死霊どもよりも地縛霊の方が厄介なんだよな。その土地に入り込んだ人間を無差別に襲ってくるし、場合によっては怨念を増幅させてしまうことがあるから、そうなってしまうともう手の施しようが無くなってしまう。代表的なのは、豊海トンネルに住み着いている地縛霊ね。アイツ等の生に対する執着はかなりすさまじく、どんなに有能な霊媒師でも祓う事が出来ず近づかない事こそが最善と言われるくらいなんだ」
確かに、それだと並の死霊よりもかなり危険で厄介だな。
そこまで聞いて俺は、昨日起こったある事を思い出した。
「それじゃ、地面から白い手が生えてきたあれって」
「おそらく、旧下水道に住み着いた地縛霊どもの手だろう。あそこは暗くてジメジメしているから、死霊どもにとっては豪邸並みの優良物件になるから。それゆえに、住み着いている死霊どもの力もかなり強くて危険だから絶対に近づいてはダメだ。地面から手が出てきたのは、あの辺りの地盤が緩んで陥没の危険があった事と、そこに物凄い悪党がいたから引き込もうとしたんだろうね。この現象が起こってから、他の死霊たちの力もかなり上がってしまったからそれが可能になったのでしょう」
「ああ・・・・・」
この場に華々美がいなくて良かったと思う。あの時ガードをしていた男達が引き込まれたのは、ヤクザという大きな悪の組織の一員だったから狙われてしまったのだろう。悪い人間であればあるほど、力の強いに死霊に狙われやすいのだろう。もちろん、あの辺りの地盤が緩んでいたというのも理由の一つでもある。
しかし、あぁいった事は滅多に起こることはなく、むしろ起こらない事の方が多いくらいなのだという。
(でも、それは同時にこの地面の下の、下水道の中には物凄い数の死霊が住み着いていて、それでいてかなり力も強いという事になる)
「でも、あぁいうことは本来なら起こらないものなんだけどね。あの場所で何かとんでもない悪事を行った人でもいたんじゃないの?例えば、何かの破壊行為や金の窃盗とか」
「ん!?」
もしかして、自販機の破壊が原因で手が出てきてしまったのだろうか。もしそうだとしたら、あの人たちは俺のせいで引き込まれてしまったことになる。あの人たちのせいだと思ってしまった俺がバカでした。
(帰ったら華々美に謝っておこう)
そんな話をしている間に、俺と涼は目的の場所に到着した。
「ここって」
「ああ。俺の死んだ婆ちゃんがよく通っていた店だ」
「よく通っていたって、ここドローンやラジコンなどが売られているお店だぞ」
「そう。俺の婆ちゃんってちょっと変わっていてね、将棋やゲートボールには全く興味がなく、最新のテレビゲームやラジコン、オンラインゲームなどを好んでやっていたような人だった」
「随分と流行に敏感なお婆ちゃんだったのね・・・・・・」
「そうだな・・・・・・」
確かに、うちの婆ちゃんはかなりアグレッシブでパワフル、それでいて気が強くて負けず嫌いな性格をしていて、流行や最新技術などに敏感であった。若者言葉も普通に使ってくるし、時代の流れにも敏感ですぐに順応する柔軟性も取り合わせていた。
だからこそ俺は、そんな婆ちゃんと友達感覚で接することも出来、婆ちゃんもそんな俺の事を時々「馬鹿孫」と呼ぶこともあった。
「なのに何で、最後はあんなしょうもない喧嘩をして・・・・・」
「喧嘩してしまったの?」
「まぁ、あの時反抗期だったからちょっとしたことで衝突してしまってね。その時初めて喧嘩をしてしまったんだ。明日謝ればいいと思っていたのに・・・・・・」
それなのに婆ちゃんは、その翌日の早朝に急性心不全で帰らぬ人となってしまった。あの時は本当に後悔した。どうして、最後の最後であんなくだらない喧嘩をしてしまったのだと。
謝る事が出来なかった。
「幹夫・・・・・・」
「ワリィ。ここに来たのは、ドローンを手に入れる為なんだ。婆ちゃんの影響で、俺もドローンの操縦が出来るし、ラジコン操作もお手の物になったんだ」
もちろん、免許は取得済みであり今も財布の中に入っている。
そんな訳で俺は、店に置かれているカメラ付きのドローンを手に持って外に出た。幸いなことに、お店の中には死霊たちはいなかった。お世話になっている店主さんには申し訳ないけど、お店のドローンをいくつかもらっていった。
「なるほどね。そのドローンを使って生存者の様子を調べようという訳ね」
「ああ」
早速俺は、慣れた手つきでドローンを飛ばして見せた。
このドローンを使って、この辺りにいる生存者の確認と、その人たちが何処に避難しているのかを把握しておこうと思ったのだ。
「へぇ、結構遠くまで飛ばせるんだ」
「俺が今使っている機種は、最大飛距離3キロの奴だけど電波の状況によって短くなる場合もあるんだ」
「ふぅん」
それに、条例がある為実際には目視できない距離以上飛ばせないから2キロ以上遠くへ飛ばすのは困難。まぁ、こんな状況下では今更だけど。
なので、俺もこんなに遠くまで飛ばしたのは初めてであった。
「お、生存者を見つけた」
「遺体を火葬しているみたいだね」
ここから800メートル離れた所で、遺体の火葬を行っている人の姿が見えた。遺体を運んだいる人たちも、ドローンの羽音に気付いてこちらに顔を向けてきた。中には手を振っている人もいた。
「パッと見は30代くらいの男性が3人と、ボロボロの服を着た20代くらいの女性が5人のグループだな」
「女性の方は、今のところ酷い目には合っていないみたいだね。この辺りだと、小さいけど協会があったわね」
「そういえばあったな。あ、他にも10人くらいの男女が集まってきた」
17年も住んでいるこの町の地形は把握している為、何処に何があるのかは大体わかっている。涼の言っていたその協会は、そんなに大きいものではないからあまりたくさんの人は避難できない。おそらく、この18人で全員だろう。
そんな彼等の周辺も調べてみたが、スーパーやコンビニが近くにあったおかげで食料には困っていない様子であった。
「スーパーの中には・・・・・死霊たちはいなさそうだな」
「いくら死霊がウロウロするようになったからと言って、そこら中に蔓延っている訳ではないわよ。たまたまそのスーパーには潜んでいなかっただけで、明日には大量に居ついちゃったなんてこともあるし、その逆もしかり」
「そうか」
つまり彼らは、運よくその日は死霊たちのいないスーパーを見つけただけだったようだ。
しかし、それは本当に運がいい時であって大抵はどの建物にも死霊がいるものだというのだ。
「なぁ涼。特定の建物に死霊たちを近づけさせなくさせる方法ってあるか?」
「あるけど、そんなに長続きしないぞ」
その方法というのは2つあった。
一つは、その建物の中に塩を盛った皿を建物の出入り口、および窓の近くに置くのだという。ただし、これの効力は非常に短く1週間に一度、理想は5日に一度は塩を交換しないといけない。
もう一つが、その建物の周りにお酒を撒くこと。これも5日に一度は撒かないといけないし、当たり前だが雨が降ったら効力はなくなってしまう。ちなみにそのお酒は日本酒の方が良いそうだ。
「でも、教えてもあまり意味がないぞ。スーパーの食材や飲み物には限りがある。それが無くなってしまったらどうなる」
「そうだな。物流がストップしてしまっている以上、あまりあてには出来ないな」
それに、電気だっていつ使えなくなるのかだって分からない。そうなったらもう食材は食べられなくなる。しかも、これから梅雨に入り、更に夏になったら食材は余計に長持ちしないし、飲み物なんてそれよりももっと早く底をついてしまう。幸い、日本の水道水は飲む事が出来るけど、それだっていつまで機能するかなんてわからない。
「教えても良いけど、たぶん1週間もしないうちに無くなってしまう。そうなったら、他の生存者にも危険が及ぶ可能性だってある」
「だから、教えるべきではないというのだな」
「冷たいようだけど、今の私たちに彼らを助けることは出来ない」
「それは女性たちの服装を見ればなんとなくわかる」
カメラに映っている女性全員がボロボロの服を着ていて、男たちの目がなんだか濁って見えた。おそらく、匿う代わりに女性たちに夜の相手をするように強要したのだろう。
「なんにせよ、屋敷に連れて行けないな。特に男は」
「そうね。それを考えると、幹夫はよく私たちに手を出さなかったわね。枯れてるの?」
「んなわけあるか」
ジト目で見られてしまったが、俺にはあの子たちに手を出す度胸も甲斐性もない。特に華々美には。
「ま、俺はお前たちに手を出したりしないから安心しな」
「それはそれで、女としての自信を無くすんだけど・・・・・・」
「なんにせよ、生存者の確認も出来たし隠れ家も特定できた」
目的は達成した為、ドローンを撤退させた。女性たちの表情が悲しそうに見えた。屋敷は大きいし、敷地面積も広いのだけど問題のある人を引き入れると、華々美や優希、里美や涼が危ない目に合うかもしれない。それだけは何としても避けなければいけない。
その後、ドローンを回収し終えた俺と涼は急いでその場から離れ、別の場所で生存者の確認を行った。次に見つけた生存者は、俺達がショッピングモールに向かう途中で見つけた人達で、男性だけで構成されたグループみたいであった。
このグループでは、年長者が若い人を酷使していた。事実、指揮を取っていた人が若い男性に殴る蹴るなどの暴力を行って無理矢理言う事を聞かせていた。
「こっちもかなり酷いな」
「法律やモラル何て機能していないようなものだから、あんな風に恐怖で支配しようとするグループが現れても不思議ではないわ」
「そうだな」
幸か不幸か、屋敷の存在は地元でもあまり認知されておらず、部活の合宿に来た高校生たちが利用していた施設程度の認識しかなかったと涼は言っていた。実際には、俺達のために用意してくれた施設であった。
(涼のお爺さんには感謝だな)
だけど、そこで疑問が残る。
何故涼のお爺さんは、俺達なんかの為にあんなに立派な屋敷を用意してくれたんだ?それも、巨額の費用を投じてまで。
10年前に涼のお爺さんは、本当にこの事件の事だけを予知したのだろうか?
あの時、他に何かを見た筈だ。
息子である現当主にも、孫の涼にも伝えていない何かがあるはずだ。
そうでなければ、俺達みたいな何の縁もゆかりもない他人のためにあんなに立派な屋敷を残すはずがない。
俺達に一体何を求めているというのだ?
そんな疑問はあるが、その後俺達は2組の、合計で4組の生存者グループの存在を確認した。いや、本当は5組目も見つけたのだが、避難場所に使っている教会まで距離があり過ぎたというのと、日暮れが近かったからというのもあってその日の捜索を打ち切った。
明日は朝から遺体の回収と火葬を行い、午後からはその5組目の詳細の確認を行うことにした。その際に車も必要だから里美も加えた3人で行うことを決めて、俺と涼は帰路に就いた。




