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物資調達


「はあぁ!?納得いかねぇんだけど!」

「納得いかなくても従ってもらう。本田咲、お前を追放する」


 俺達の下した決断に納得がいかず、本田は憎悪に満ちた目で俺に掴みかかろうとしたが、直前で華々美が前に出て刀を向けたことで止める事が出来た。


「ふざけんじゃねぇぞ!誰のおかげでヘリの墜落から助かったと思ってんだ!その見返りとしてあたしの下僕になるのが普通なのに、何で誰もそれに従わねぇんだ!」

「呆れた。私達の都合のいい奴隷にする為に取った行動だったのね」

「当然だろ!なのに武谷と藤波のせいであたしの計画は全部パァだ!どう責任取る気だよ!」

「最低ね」


 なんて奴だ。

 偶然目に入った俺達を奴隷のように扱う為に良い人のフリをし、恩を感じさせることで従順な奴隷へと調教させるつもりだったのかよ。優希の言う通り最低だ。あの時助けたのは善意などではなかったのか。やたら反抗的で、事あるごとに突っかかってきたのは自分の思い描いたシナリオ通り進まない事にイライラしていたからか。


「悪いが、わたしはこれでも人を見る目はあるのでね、貴様の様に偽りの善意をもって近づく輩は一目見ただけですぐ分かるんだ。そんな貴様にリーダーの素質がある訳がないだろ」

「うるせぇ!ヤクザの分際で!あたし以上の悪党が意見するな!」


 うわぁ、昨日銃口を向けられたばかりだというのにヤクザの娘に対してそんな態度を取るなんて。


「とんだ命知らずがいたもんね」

「というか馬鹿だね。それも究極の」


 優希と長谷川さんからそんな意見が出た。もうこの時点で本田の人柄は最低値を振り切っていた。


「悪いが、もう決まったことだ。出て行ってくれ」

「わたしは幹夫の意見に従う。そもそも、こんな状況下であんな横暴な態度を取るようなやつを信用すると思ったか」

「っざけんな!あたしがこの町で一番偉いんだから、あたしの命令に従うのが常識だ!この世の掟なんだよ!そんなあたしに従わねぇテメェ等が非常識なんだよ!」


 言っていることが支離滅裂だ。おそらくそれまでの本田は、その力と権力を使ってグループのメンバーを支配してきたのだろう。全員がヘコヘコと頭を下げるもんだから、すっかり女王様気取りでいるのだな。

 そんな本田の発言に、俺達は開いた口が塞がらない状態だった。


「お前は本当に憐れだな」

「テメェ!」


 俺の発言にぶちギレした本田は、勢いよく立ち上がって掴みかかろうとした。しかし、その前に華々美が本田の腕を掴んで地面に組み伏せた。


「いでででで!」

「調子に乗り過ぎだ。喧嘩ならわたしが買おう。その代り、他の仲間に手を出すな」


 華々美のドスの効いた声を前に、本田はそれ以上何も言えず黙り込んだ。


「お前がいると全員の命が危うくなる。とっとと出ていけ」


 そして、最後のその言葉が決定打になったのか、華々美から解放された本田はゆらりと立ち上がった後、大きく舌打ちをしてから走り去っていった。


「さて、問題児を追放したことだし、私達も準備するわよ」

「分かってる。長谷川さんは優希と一緒に屋敷に戻って、瀧倉さんと一緒に準備してきて」

「名前で呼んで。苗字だと変に気を使っちゃうでしょし、いちいち呼びにくいでしょ」

「分かった。里美は優希と一緒に先に戻ってくれ」

「ええ。行きましょう」

「う、うん」


 優希の手を引いて里美は、瀧倉さんがいる屋敷の方へと戻り、この場には俺と華々美だけが残った。


「本当にこれで大丈夫なんだろうか?」

「本田が走り去るさまを見て分かっただろ。あの女の本性はただの臆病者なんだよ」

「だろうなと思った」


 朝起きて皆で朝食を済ませた後、華々美から聞いた本田があんな態度を取る本当の理由を聞いた。

 華々美曰く、本田はただの臆病者だと言い俺もその意見に同意した。

 おそらく本田は、小学校低学年までは泣き虫のいじめられっ子だったのだろう。だけど高学年以降、いわゆる反抗期に入ったことで弱い自分を隠し、強い自分でいようとし続けた結果不良となり、それがだんだんエスカレートしていった結果今の本田の人格が形成されたという訳だ。


「だからって、何で暴走族になってしまうんだ」

「悪さばかりやって粋がっている連中の大半はそんなもんだ。弱い自分を隠すために虚勢を張り、自分が下と認定した奴をいたぶって悦に浸って自尊心を保とうとする。悪ぶっている自分って、すごく強くてカッコいいと思い込んでいる。要約するとガキだ。本当の悪の世界を知らない青二才だ」

「お前が言うと妙に説得力があるな」


 確かに、悪に憧れる似非ギャングの本田は、父親の影響で本物の悪がどういうものなのかを知る華々美からすれば、ただ粋がっていたいだけの子供なのだろう。


「ま、そんなだからしばらく放置して本当の恐怖を味合わせてやればそのうち丸くなる。それまで待てばいい。なに、そんな何日もかかりはしない。日が暮れる前には意気消沈して戻ってくるだろう」

「そう祈る。それよりも、俺達も準備するぞ」

「ああ」


 本田の姿が完全に見えなくなったところで、俺と華々美も屋敷に戻って出発の準備をした。

 この後俺達は、まだ動きそうな車の中にいる死霊たちを追い出した後、その車に乗って大型ショッピングモールへと行って水と食料を調達しに行く。時間があれば、各々必要な衣類も調達する予定だ。

 女子にとって同じ服を着続けるのは嫌なのかもしれんが、里美がまずは水と食料の確保が最優先だというので衣類の調達は後回しとなった。

 準備が整った俺達は、屋敷から10分程離れた場所にあったバス停に停まっていたバスを見つけた。中にはたくさんの死霊がギュウギュウに入っていたが。


「瀧倉さん、お願い」

「名前で良いわよ。私だけ苗字呼びって何かいやだから」

「いいのか?」

「ええ」

「分かった。涼」

「任せて」


 たくさんの荷物を積むことを考えると、出来るだけ大きな車がよかったし、これから向かうショッピングモールは屋敷から車で10分の距離にある。徒歩では更に時間がかかってしまうし、あまり時間をかけたくないというのが本音だ。

 なので俺は、あのバスを何としても手に入れたかった。また、遠出用に乗用車を2台調達したかったが、それはまた後日という事になった。

 俺が声をかけてすぐに涼はバスのドアを開けて、中にいた死霊たちを術で1人残らず追い出して行った。追い出された死霊たちは、太陽の光を浴びた瞬間に苦しそうに悶えながら消滅していった。

 バスの中が空になった隙に、涼はあらゆる所にお札を張って死霊たちの侵入を防いでくれた。


「よし、俺達も乗るぞ。運転は里美に任せる」

「バスなんて運転したことないけど、何とかなるでしょ」


 俺達の中で運転免許を持っているのは里美だけだし、その辺は里美に任せることにした。免許書は家に置いてしまったらしいが、今はそんなことを言っている場合ではない。


「涼。これでもう大丈夫なのか?」

「ただし、6時間後にはお札の効力が切れてしまうからその前に屋敷に戻る必要がある」

「6時間もあれば楽勝だ」

「幹夫。楽観的に考えるな」

「すまん華々美」


 華々美の言う通り。いくら6時間もあるからと言って、その間に何でも出来るなんて考えない方が良い。

 現在は午前9時前後。術の効力が消えるのが午後3時前後。その前に帰りたいから、午後2時までには屋敷に帰った方が良いだろう。

 そう考えると、あまり時間がないだろう。


「そうと決まったら行くぞ。里美」

「ええ」


 俺の掛け声と同時に、里美はバスのエンジンをかけて出発した。配置として、俺の隣を優希が陣取り、後ろの席には華々美と涼が座った。


「まったく、お前ってやつは」

「だって、幹夫ったら全然私の相手しれくれないもん」

「はぁ・・・・・・」


 俺としては、あまり優希の相手はしたくない。好きか嫌いかで言えば嫌いだし、恋愛感情は心の底からの本音で全く無い。

 そもそも優希なら、わざわざ俺でなくても仲の良い男ならたくさんいるから、そいつ等と一緒にいた方が良いと思っている。


「幹夫は私にちょっと冷たくない?」

「別に普通だ」


 優希の小言を右から左へと聞き流しながら、俺は変わり果てた町の風景を観察していた。


(建物自体はいつもと変わらないけど、中から妙に重苦しい空気を感じる。バスの中にいて建物の中の空気を感じるなんて変だが、そんな風に感じる)


 それに、道路には車道歩道問わずたくさんの車の残骸と、死霊によってミイラにされた死体がたくさん見られた。


(伝染病の防止も兼ねて、明日から時間をかけて遺体を燃やした方が良いだろう。二次被害は何としても防がないといけない。となると、買い物リストの中にマスクや風邪薬、傷薬や包帯やガーゼ等も入れた方が良いだろう)


 よく見ると、誰もいない道路では生き残った人達が遺体の火葬を行っていた。あの人たちも、遺体を放置することの危険性を理解しているみたいだ。だからと言って彼等に任せきりにするのではなく、俺達も遺体の火葬をして対策をした方が良いだろう。


「華々美、涼、優希。明日から遺体の火葬をした方が良いと思うから、手伝ってほしい」

「分かった」

「二次被害を防ぐためにも必要だからね」

「死体に触れるのはちょっと抵抗あるけど、伝染病も怖いし手伝うわ」

「サンキュウ」


 そう考えると、水と食料はなるべく多めに調達した方が良いだろう。屋敷には畑もあるし、浄水装置もあるから当面は野菜と水には困らないだろうけど、それも何時まで持つのか分からない為非常用にたくさん備蓄しておく必要がある。何よりも、これからまた人数が増える可能性だってある。

 そんなことを考えている間に、バスは目的のショッピングモールへと到着した。俺達が乗っているバスは、ショッピングモール入り口前へと無造作に停まった。幸い日向になっていたが、正午になると停まっている所も日陰になる。


「少し待ってて。私の術で中にいる死霊どもを全員追い出すから」

「分かった、頼む。よし皆、ショッピング時間は1時間、理想は40分だ」

「1時間って、短すぎない!?」


 優希の言いたいことは分かるが、今いるこの場所が日陰になる前に終わらせてさっさと帰りたい。バスの中は涼のお陰であと5時間は安全だが、それまでに日陰になって死霊たちに取り囲まれては何の意味もない。涼がいれば大丈夫なのかもしれないが、だからと言って負担をかけていい訳ではない。


「ここが日陰になる前に終わらせたい。皆には悪いが、衣類はまた後日だ。今日はとにかく水と食料を最優先だ」

「そうね。水と食料がないとまず生きていけないし、生きることを優先すると服は後回し。時間があればそれでもいいけど、まずは食料が優先よ」

「私も賛成。突然の豪雨や地震などの自然災害に備えて、水と保存食はたくさん備蓄すべきよ」

「そうね。屋敷にも非常用の水と缶詰やカップ麺はあるけど、それだって限りがあるし、今後人数が増えた時のことを考えて増やすべきよ」

「ううぅ・・・・・・分かったよ」


 優希以外全員が俺の意見に賛同してくれたお陰で、俺達は食料品を最優先で確保する方向で固まった。優希も渋々であったが、皆の意見を聞いて納得してくれた。


「その代り、時間があったら服も・・・・とは言わないからせめて下着だけでも調達させて」

「分かった」


 出来れば、だがな。

 

「そうと決まったらすぐに行くわよ」

「「「「ああ」」」」

「ああぁもう!分かったわよ!」


 方針が決まったところで、涼は勢いよくバスから降りてモール内へと入った。それからわずか10秒後に、モール内にいた死霊たちが一斉に外へと放り出されていき、日の光を浴びたことで苦しみながら消滅していった。


「よし、行くぞ」


 俺の掛け声とともに、皆が一斉にバスから降りてモール内へと入った。


「中にいた死霊どもは全員追い出したが、2時間しか持たないから急いだ方が良い」

「制限時間は1時間だ、問題ない」


 入ってすぐに俺達は食料品売り場へと行き、カートを持ってそれぞれが必要と思う物を調達しに行った。

 俺は飲み物売り場の方へと行き、2リットルの水とお茶をカートいっぱいに詰め込んだ。

 冷静に考えると思いきり窃盗を行っているのだが、生きている人間が一人もいないうえにこんな状況でそんなことなんて言っていられない。お店の人には申し訳ないが、俺達が生きる為に持っていかせてもらう。

 床に転がっている店員らしき遺体に謝罪しつつ、俺はいっぱいになったカートを押して一旦バスへと戻った。確保した飲み物をバスに積む為だ。ちょうど同じタイミングで華々美と合流した。彼女のカートには、ベーコンやハム、更にはお高そうなお肉等といった肉類がたくさん詰め込まれていた。


「おい!肉なんて持ってって大丈夫か?」

「電気系統は辛うじて動いていたし、どのみち火を通すから大丈夫だ」

「そうか」


 電気系統がまだ生きていたという事は、ちゃんと適正温度で置かれていたという事になるな。それに、屋敷には馬鹿デカイ冷凍庫もあったから冷凍すればとりあえず数か月は保存できるだろう。

 俺と華々美が調達した物をバスに積み終わると、今度は野菜を調達した優希と、インスタント食品や缶詰といった長期保存が可能なものを調達した里美、卵や調味料を調達した涼も戻ってきた。


「ここまでの時間は・・・・」

「25分だ。床に転がっている死体を避けながらだから、どうしても時間がかかってしまう」

「そうか」


 予想よりも時間がかかってしまった。だが、あと15分は自由に動ける。


「華々美と優希と涼はバスで待機、俺はドラッグストアに、里美は衣料品売り場で下着の調達に行く」

「ちょっ!何で残る人が必要なのよ!?」

「留守を守るのも重要だ。全員が抜けている間に、全部盗まれては目も当てられない」

「華々美の言う通り。そんな訳で、強い華々美と涼がいてくれると助かるし、長くてもあと35分しかないんだから最小限の人数で行った方が良い」


 理想はあと15分だが、長めに見積もって35分にしている。無論、のんびりするつもりなんてないが。


「だったら幹夫、あんたは先に行ってきて。あんたがいると、この子たちの下着のサイズが聞けないわよ」

「「「っ!」」」

「・・・・・・」


 俺はそれ以上何も言えず、籠を持って再び店内へと入っていった。確かに、一人一人サイズが違うだろうし、その辺は男の俺がいては聞けないだろう。ぱっと見だと、里美と華々美が大きくてFカップくらい、優希が平均よりやや大きめでCカップ、涼がB?カップくらいでそんなに大きくなかった。

 何てことを考えてしまったが、俺は薬売り場で傷薬と風邪薬、包帯やガーゼ、頭痛薬や胃薬、絆創膏やマスクといった必要最低限の薬や道具を籠いっぱいに詰め込んだ。


(改めて考えると、必要な道具や薬ってたくさんあるな)


 必要な物を揃えた俺は、制限時間の40分以内にバスに戻る事が出来、最後に里美がすぐに運転席についてバスを発進させた。

 とりあえず必要な物は一通りそろえた。必要物資の調達はこれからも行うが、当面の食糧や水の心配はなくなった。





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