新潟の佐藤宗一
新潟に来たその日の夜、俺達は2人が何故あれだけ警戒していたのかを思い知ることになった。
その日の夜、教会の周りには物凄い数の死霊たちがわんさかと集まって来て、壁を叩いては「子供をよこせ!」と叫んでいた。
「何なんだコイツ等!」
「壁を叩いているのはまだマシだけど、中には強引に入ってくる奴もいるんだよ。ソイツには、私が作った特製のバットで撃退しているのよ」
そう言って比良坂さんは、銀製品でガチガチに固めたバットを持って見せた。
だけど、夜な夜なこんな事を繰り返されていればおちおち眠る事なんて出来ないだろうし、まだ赤ちゃんの絵里奈ちゃんに至っては泣いて怯えていた。そんな絵里奈ちゃんを、母親である相澤さんが必死に宥めていた。
(こんな事が、絵里奈ちゃんが生まれてから毎晩行われていたというのか!?)
だが、流石にこのまま黙っている訳にもいかない。
俺は持ってきた金の刀を持って相澤さんの傍に着き、華々美と美玲と里美も、それぞれ武器を持って警戒してくれていた。
そんな中、涼と由乃さんは専用の道具を持って教会の外に出ていた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
~涼side~
「クソ!コイツ等一体何所から湧いて来たんだよ!」
「小さな町と言っても、住民と以前からこの町に住み着いていた亡者共も含めると、その数はとんでもない物になります!」
「にも拘らず、私と由乃さんは眼中になしか」
それだけ、生まれたばかりの絵里奈ちゃんが死霊たちにとっては最上のご馳走なのかもしれないけど、だからと言ってこれは明らかに異常だ。
「とにかく、入って来られる前に減らせるだけ減らしておきましょう」
「ああ!」
うじゃうじゃと湧いてくる死霊たちに向けて、私と由乃さんはそれぞれ攻撃を仕掛けていった。
私は薙刀を使い、周りにいる死霊たちを薙ぎ払っていった。死霊たちの方は、私たちの存在に気付いても全く目もくれずに絵里奈ちゃんがいる教会を奇襲していた。
一方由乃さんも、鞄からビー玉よりも小さい水晶を幾つも取り出し、術を使って飛ばして倒していった。これだけ派手に攻撃をしているにも拘らず、死霊たちは私と由乃さんなんて眼中になく襲い掛かってくる気配がなかった。
「妙ですよ!いくら赤ちゃんの生命エネルギーが豊富だからって、あそこまで執拗に狙って、他の生存者に目もくれないなんて明らかに異常です!」
「由乃さんもそう思ってましたか。確かにこれはおかしいです!」
確かに由乃さんの言うように、生まれたばかりの赤ちゃんの生命エネルギーは凄まじいが、だからと言って近くにいるほかの生存者を無視するほどではない。
にも拘らず、ここまで絵里奈ちゃんに執着するという事は、絵里奈ちゃん自身に悪い霊たちを惹きつける何かがある。その何かを狙って、死霊や悪霊どもは絵里奈ちゃんを執拗に狙い続けているのだろう。
「由乃さん!」
「ええ!ここは私が食い止めます!涼ちゃんは一旦中に入って絵里奈ちゃんを調べて来てください!絶対に亡者たちを惹きつける何かがある筈です!早急に突き止めるべきです!」
「ありがとう!」
由乃さんから了承を貰い、私はすぐに教会の中に入って皆がいる住居スペースへと向かった。丁度そのタイミングで、力の強い悪霊が何人か入ってきた。
「邪魔だ!」
悪霊たちが住居スペースに到達する前に私は、薙刀を一旦床に投げ捨てて右手の親指の先を噛み切り、左の掌に垂らしてパンと手を合わせてから両手を悪霊たちに勢いよく向けて衝撃砲を放った。悪霊達は悲鳴を上げながら消滅していった。
悪霊たちが居ないのを確認した後、私はすぐに住居スペースに入った。
「涼!?」
「一体どうしたんだ!?」
いきなり戻ってきた私に幹夫たちは驚いていたが、今はそんなことを気にしている場合ではなかった。戻ってすぐに私は、相澤さんの傍に駆け寄った。
「瀧倉さん?」
「ちょっと、絵里奈ちゃんを見せてください!」
「え!?あの!?」
「事情は後で説明します!早く!」
「ああぁ・・・はい!」
すぐに相澤さんは、絵里奈ちゃんを私に渡した。絵里奈ちゃんを抱っこしながら私は、右手を絵里奈ちゃんのお腹の上に乗せた。
「あの、瀧倉さん血が!」
「しっ!」
確かに、さっき嚙み切った親指からは血は出ているが、今はそんなことを気にしている場合ではなかった。私は全神経を集中させて、念力を使って絵里奈ちゃんの身体を調べた。
(一見すると健康的な普通の生後6ヶ月弱の赤ちゃん。身体も何所も異常はない・・・・・・っ!?)
調べ始めて程なく、絵里奈ちゃんの中にあるあの力を見つけ出す事が出来た。
「そういう事か!」
私はすぐに絵里奈ちゃんを相澤さんに返し、幹夫たちの声も耳に入れずすぐに住居スペース出て、床に置いてあった薙刀を拾って外に出た。死霊たちの足止めをしてくれていた由乃さんの顔からは、若干の疲れが見えていた。だからなのか、水晶を飛ばす術を使うのをやめて赤色の木刀を使った物理攻撃に切り替えていた。
「由乃さん!」
「涼ちゃん!何か分かったの?」
「ええ!あの子、もの凄い力の念力と霊力を宿して生まれていたわ!」
「念力と霊力って、まさか!?」
「ええ!あの子は将来、霊感体質になります!それ故に、普通の人よりも霊に狙われやすくなる!」
私と由乃さん、青美や梨乃が死霊と戦う際に主に使っている念力は、普通の人では即ドロップアウトしそうな厳しい修行を行う事で身に着く、霊力に次いで陰陽師や霊媒師が使っている力。その力を得ると同時に、霊の姿が見えたり気配を感じたり出来る第六感、霊感を身に着ける事が出来る。
それは、陰陽師の家系である私や青美でも例外はなく、親が念力と霊力を持っているからと言って楽に身に着く代物ではない。私や青美も、生まれた時は念力も霊力なんて宿っていなかった普通の子供だった。
だが、ごく稀に強い念力と霊力を宿した状態でこの世に生を受けて誕生する子供もいる。そういう子供は、常日頃から霊の気配を感じ、力が強いと霊の姿が見えるようになってしまうという、一般人にとっては何も嬉しくない迷惑な体質になってしまう。
絵里奈ちゃんの場合は、私や青美、そして影山姉妹を軽く凌駕してしまう程の強大な念力と霊力を宿して生まれてしまったのだ。
そして、そんな強大な念力を宿した子供は、死霊や悪霊たちにとっては高級フレンチでさえ霞んでしまう程の最上のご馳走。それこそ、他の生命エネルギーなんてどうでもいいと思ってしまう程の。だから死霊たちは、執拗に絵里奈ちゃんを狙っていたのだ。
「そういう事だったのか!だからコイツ等は!」
「ええ!町の外の霊は、まだ絵里奈ちゃんの存在に気付いていなかったけど、こんな小さい町に住んでいる死霊たちを惹きつけてしまうことくらい造作もない!」
「となると、絵里奈ちゃんを連れ出すとなるといろいろ面倒なことになります。亡者たちの目をくらませるために目くらましの術を施すのはもちろん、大きくなったら修行を積ませてあげないと危険ですね」
「そこは本人次第だけど、せめて自衛できるくらいにならないと」
使われない念力と霊力は、通常であれば成長と共に徐々になくなっていくものなのだが、絵里奈ちゃんの念力と霊力は力が強すぎる為一生消える事はない。陰陽師の修業を受けてくれるかどうかは分からないけど、将来的には必要になる。
だが、今はそんな何年後の事を考えている場合ではない。今やるべきことは、目の前の死霊たちをどうにかしないといけない事だ。
これだけの数の死霊たちに押し寄せられていては、いずれ教会の守りにも限界が訪れる。中に入ってくる悪霊だけを、なんて悠長なことを言っていると教会自体を壊されてしまう。
夜はまだ長く、気力と体力は削られてしまうが目の前にいる死霊たちを無差別に消滅させていくしかないのだ。
そんな時、一際強力な力を放った悪霊が私達の前に姿を現し、死霊たちはその悪霊が来た瞬間にこれまで以上に教会を襲撃してきた。その悪霊は、中年の男性の姿をしていたのだが、その悪霊には見覚えがあった。
「涼ちゃん!」
「ええ!遂に来たわね!佐藤宗一!」
その悪霊は間違いなく、私達が探していた新潟の佐藤宗一であった。従妹の比良坂さんが言うには、一族一の問題児であり自己愛と自尊氏の塊のような非常に傲慢な男。
そんな面倒な男が、よりにもよってこんなにも面倒な悪霊になっていたなんて最悪だ。
「涼ちゃんはアイツをお願い!私は雑魚を何とかするわ!」
「分かった!」
他の死霊たちの相手を由乃さんに任せて、私は佐藤宗一の方へと走っていき薙刀を横薙ぎに振った。だけど、佐藤宗一は近くに落ちてあったブロックを浮かせてガードした。
「チッ!」
『随分と手荒い挨拶だね。いくら僕がイケメンで魅力的な男だからって、いきなり薙刀で攻撃してくることはないでしょ』
「ほぉ、自我は一応残っているみたいだね」
攻撃を防がれた私は、一旦佐藤宗一から距離を取った。目の前に生きた人間がいるにも拘らず、佐藤宗一は私に興味を示した様子は一切なかった。
『君みたいな美しい女性を惹きつけるなんて、僕ってなんて罪な男なんだろうか』
「気色の悪いこと言ってんじゃないわよ、40過ぎのおっさんが。そもそも、その年にもなってそんなことを言っているなんて気持ち悪いわよ」
事前に比良坂さんから聞いていたが、実際に目の当たりにすると寒気がしてしまうくらいに気持ち悪かった。
だが佐藤宗一は、そんな私の意志なんてどこ吹く風といった感じでベラベラと語り始めた。
『僕の事が気になるのは分かるが、今は君の相手をしている場合じゃないんだよ』
「絵里奈ちゃんの中にある、強大な念力と霊力が欲しいのか?」
『当然だろ!あの力を取り込めば、僕はこの世界で唯一無二の存在に、いや、神にだってなれる!そんなあの子の力を取り込む為なら、僕はどんな手段も厭わない!必ずあの力を手に入れて、僕はこの世界で絶対的な存在、神になるんだ!その為にこの僕が選ばれたんだから!』
「バカだ!?」
バカな奴だと聞いていたが、まさかここまでバカな奴だったなんて思わなかった。強大な念力と霊力を取り込めば神になれる、そんなことがある訳がないのにこの男は本気で神になれると思い込んでいる。
自惚れの強いナルシストな上に、一度思い込んだらとことん突っ走り、相手の意見や言う事なんて全く聞かない。
ハッキリ言って危なすぎる。比良坂さんや、コイツの家族がこの男を嫌う理由が今は本当の意味で分かった気がする。
「呆れた男だ!お前みたいな悪霊を野放しにするわけにはいかない!」
『そこをどいてくれ。僕は一刻も早く、あのガキを殺さなければいけないんだ』
「そうはさせない」
コイツにだけは絵里奈ちゃんを渡してはいけない。
この悪霊は早急に消滅させないといけない。
『君にこの僕を止められると思うのかい?』
「出来るさ。私は陰陽術だから!」
相手の返答を聞く前に、私は態勢を低くして佐藤宗一に向けて薙刀を振った。悪霊となった影響なのか、壁や地面をすり抜けて攻撃を除けて何度も教会に向かおうとしたが、その度に私はお札を飛ばしてゆく手を遮った。
『小娘!僕の邪魔をしないでくれ!』
「そうはさせない、この悪霊が!」
元々この男から霊滅版の手掛かりを探すのが目的だったが、実際にこの悪霊と戦ってみたことで分かった。その答え合わせの為、私は足止めをしつつ問い詰めてみた。
「アンタ!渋井沢雅巧という男を知っているか?」
『渋井沢雅巧?あぁ、気まぐれでアイツのSNSを見たことがあったな。すごく珍しい円盤型の石板が掲載されていて、100万で落札すると交渉をしたことがあった』
「ほおぉ」
『なのにあの男!エリートであるこの僕にではなく、何処の馬の骨とも知らん僕と同姓同名の別の男に貴重な石板を売った!エリートのこの僕にではなく!1000万なんてふざけた金額を出すような無能なんかに売るなんて、あの男は人を見る目が無さすぎるぞ!あの石板は、エリートであるこの僕にこそ売るべき物の筈なのに!』
(やっぱりな)
この男は霊滅版を買おうとしたが、提示した金額の10倍もの金額を出した同姓同名の他の佐藤宗一に横取りされてしまったのだ。
比良坂さんの言う通り、この男には常識というものが欠如していた。
東京の佐藤宗一は、盗品の売買は犯罪だと分かっていた為手を着けなかった。
しかし新潟の佐藤宗一は、出品されたものが盗品だろうが何だろうが関係ない。自分が名声を得る為ならどんな手段も厭わず、自分こそがトップに立たないと気が済まない究極のワガママ坊やだ。
とはいえ、日が暮れてから10時間以上も休まず戦い続けている為、そろそろ体力が限界に近付いてきた。
けれど、コイツだけは絶対に通してはいけない。
私は最後の気力を振り絞って、薙刀を佐藤宗一に向けて投げた。佐藤宗一はそれを避けたが、その避けた方向に向けて私は衝撃砲を放ち、佐藤宗一の左半身を吹き飛ばす事が出来た。
(クソ!上手く狙えなかった!)
『クソ!力が!』
不利を悟った佐藤宗一は、悔しそうに顔を歪ませながら逃げていった。それからすぐ後、日の出が始まったことで教会を襲撃しに来た死霊たちは、皆悲鳴を上げて逃げ出していった。中には、欲張りすぎるあまりギリギリまで襲撃し、逃げ遅れて太陽の光を浴びて消滅した死霊もいた。
「ひとまず乗り切った・・・・」
夜が明けたことで、ここまで戦い続けたことに対する疲れが一気に襲ってきて、私はその場に倒れそうになった。
「「涼!」」
倒れる私を、駆け付けた幹夫と華々美によって受け止められた後、私は疲労から深い眠りに入った。
東京の佐藤宗一でも書いたように、作中に出てくる人物と団体と組織は全て実在のものとは一切関係ありません。
また、最初に取り上げる七つの大罪は「傲慢」です。




