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新しい仲間

 次の日の早朝、俺達は東京の佐藤宗一の所属していた研究施設へと足を運んでいた。中にいた死霊たちは全て追い出し、外に出た死霊たちは塵となって消滅した。そんな涼の術に、影山姉妹は目を丸くして驚いていた。

 結論から言うと、その研究施設には霊滅版はなかった。代わりに、佐藤宗一がこれまで部下たちに行ってきたパワハラや、女性所員に対するセクハラ行為の証拠が次々に見つかった。おそらく、それでたくさんの怨みを買ってしまい、その送り込まれた怨みの念に惹かれてたくさんの悪霊にとり憑かれてしまったのだろう。

 そして、この現象が起こってしばらくして佐藤宗一は悪鬼になってしまった。

 結局何の収穫もないまま、俺達は研究施設を後にするのであった。


「一発で見つかるとは思っていなかったけど、収穫ゼロというのもキツイな」

「確かに、片道で5時間以上もかけてわざわざ来たのに骨折り損というのもな」


 収穫ゼロに愚痴る俺と華々美だが、渋井沢の所へ行って情報を手にする事が出来た上に、霊滅版を買ったと思われる佐藤宗一の名前と住所が書かれた領収書の回収、同姓同名の男があと7人もいるという情報を得る事が出来た。その為、全くの収穫ゼロという訳ではない。ただ、住所の欄は破れていて分からなかったから収穫とは言えないし、その佐藤宗一が住んでいる県が全員バラバラで、北は北海道で南は鹿児島までいるという事にはげんなりであった。


「とりあえず、明日一旦俺達の町に戻ろうと思う、由乃さんと梨乃も一緒に行く?」

「私は一緒に行きます。他の生存者がいるのでしたら合流したいです」

「あたしも一緒に行く!電気が使える生活に戻れる!」

「梨乃・・・・申し訳ありません」

「いえ」


 電気が使える生活に戻れることを喜ぶ梨乃だが、実の妹のそのテンションの高さに頭を抱える由乃さん。まぁ、それでも幽霊に対抗できる仲間が増えるのはこちらとしても有難い事である。


「帰る前に少しよろしいでしょうか?」

「どうした、美玲?」

「貴金属売り場で金や銀製をたくさん収穫したいです」

「金と銀をどうするんだ?」

「加工したいと思いました。銀は幹夫さんの鏃(やじり)と、華々美先輩の弾丸にしたいです。金は長い刃物にしたいです。どちらも死霊たちに対して有効ですので」

「なるほど、分かった。皆もそれでいいか?」


 俺が全員に問いかけると、皆が笑顔で頷いてくれた。確かに、銀の鏃と弾丸や金の刃があれば死霊や悪霊たちに対して有効であるため、俺や華々美達も死霊や悪霊たちにも対処できる。対処できると言っても、涼や影山姉妹みたいに戦う事が出来ず自衛くらいしか出来ないだろう。それでも、自分の身を守れるだけでもありがたい事である。

 そうと決まったら早速俺達は、由乃さんの案内で貴金属店に向かった。そこに売られた金製品や銀製品、更にはプラチナ製品も調達した。


「何かやっていることが強盗と変わらない・・・・・」

「人も電気もなく、お金に何の価値がなくなった今では、金も銀もプラチナにも何の価値もないです。それならば、武器にして有効活用した方が良いです」

「ううう・・・・・」

「美玲もたくましくなったな」


 まぁ、梨乃の言いたいことも分かるし、美玲の言いたいことも分かる。人がいなくなってしまい、所有権も何もなくなってしまった物をどうしようがこちらの勝手。そうしないと、今度はこっちが生きていけなくなるからだ。

 その為、必要な物資や食料はもちろん、使えそうなものは全部持って行かないと後悔することになる。この現象が解決しても、元の日常が戻る事はもう二度とないのだから。


(火事場泥棒上等。もうそんなことをいちいち気にしていられないんだから)


 そう割り切りながら俺達は、この先必要になるであろう貴金属や水や食料、更には衣服や日用品や新しいワゴンも3台調達していった。

 必要な物を全て調達した後、俺達は一旦神社に帰ってそこで一泊した。

 そして翌日、キャンピングカーを俺が、ワゴン3台にはそれぞれ里美と由乃さんと華々美が運転していた。このキャンピングカーもそうだが、ワゴン3台には昨日調達した物資でギュウギュウになっていた。

 なので――――


「狭いです!」

「我慢してくれ!」

「金銀プラチナに埋もれるのも悪くないですが、流石に窮屈です」


 一緒にキャンピングカーに乗っている美玲は少し、いやかなり窮屈そうにしていた。涼は里美の運転するワゴンに乗って護衛をし、由乃さんは自分で自分の身は守れるからと1人で乗っている。華々美の運転するワゴンには、梨乃が乗って護衛に就いている。


(とはいえ、これは確かに窮屈だ)


 何度か休憩を挟みながら、俺達は日が暮れる前に自分達の町に到着し、皆に迎えられながら屋敷の敷地内へと帰ってきた。


「お帰り!」

「みんな無事でよかったぜ!」

「ただいま」


 小夏さんや咲に声をかけられ、他の皆からも出迎えられて俺は少しむず痒い感じがしつつもただいまと言えた。


「話には聞いてたけど、幹夫以外皆女の子なんだね」

「こんなにも神聖な力が宿った山は、都会では絶対に見られません。師匠にも見せてあげたかったです」


 俺以外の住民が全員女子であることを不審に思う梨乃と、屋敷のすぐ後ろにある山を見て感心する由乃さん。2人の反応はさまざまであった。


「とりあえず、今日は2人ともここに泊まって、明日は空道神社の方に行って2人を紹介したい。そんでもって、由乃さんと梨乃のどちらかに空道神社の方について欲しいと思っている」

「幹夫!?正気なの!?」

「ああ」


 涼は驚いているが、俺は本気だ。

 向こうでは年端もいかない子供がたくさんいて、新しい家を建てる為に野菜を貰っている村から大工仕事が出来る人を数人加えて、更に先日たくさんの子供と3人の大人が加わったのだ。流石に空道1人で守り切れるとは思えない。最悪、由乃さんと梨乃のどちらかと言わず2人とも空道神社についてもらう事も考えないといけない。


「空道を嫌っている涼にとっては納得いかないかもしれないが、あそこに避難している子供たちの事を考えると、2人ともこっちが独り占めという訳にはいかないんだ」

「言いたいことは分かるけど、それでも2人のうちどちらかを青美と組ませるのも・・・・」

「涼の話を聞くと、その空道さんって人ってかなり性格に問題があるっぽいわね」

「問題だらけです。去年のお正月に師匠と一緒に挨拶をしたことがありますが、自惚れがとても強く、独り善がりな言動も多い理想主義者で、自分の力に絶対の自信を持っていますので私や師匠の事も散々見下してくるような人でした」

「ひえぇ・・・・・」

「おじさんならそうするでしょうね・・・・・笠島先輩に会わなかったら、青美もおじさんみたいになってたでしょうね」

「ああぁ・・・・・」


 本当に笠島先輩には感謝しかない。我儘で夢見がちな理想主義者の空道を、笠島先輩が上手く手綱を握る事で暴走させないようにしているのだから本当にすごい。


「けど、それでも私情を挟んであそこに避難している子供たちの命を危険に晒すわけにはいかない。俺達は最悪自分達でどうにか出来るけど、子供たちはそうはいかない。特にあっちには、40人もの赤ちゃんがいるんだから。しかも、全員がまだ1歳にもなっていない。そんな状況だからこそ、たくさんの子供たちの護衛を空道1人に任せる訳にはいかないんだ」

「そうですね。子供たちは何としても守り抜かないといけませんので」

「ううう・・・・・」

「そこまで言わると、流石に止められないわ」


 梨乃と涼は渋々と言った感じであったが、そこは由乃さんみたいに無理矢理にでも納得してもらわないと困る。あの子たちを守らないといけないのだから。

 その後、由乃さんと梨乃は俺達から手厚い歓迎を受けて、食事もいつもよりも豪華にした。その後は何事もなく、全員で同じ部屋で就寝した。梨乃だけは、男子である俺と同じ部屋で寝る事に抵抗があったみたいだが、こんな状況下でそんなことを言っている場合ではないという由乃さんの説得を受けて何とかなった。




 そうして翌朝、俺達は影山姉妹を連れて空道神社へと向かった。同行者は、華々美と涼と里美の3人。

 空道神社について早々、俺達は更に増えた子供たちに揉みくちゃにされたが、そこは保育士であった由乃さんが上手く窘めてくれた。それから小1時間ほど子供たちの遊び相手をした後、俺達は笠島先輩と空道の2人に連れられて大広間へと通された。


「無駄に大きい家だね」

「梨乃。黙れ」

「ううう・・・・・」


 空道の家の大きさに驚く梨乃を、由乃さんが静かに叱るが俺も最初はビックリしたものだ。初詣は瀧倉神社だったが、一度だけ両親の都合でこっちに来た事があり、その際に無駄に大きい家に俺も驚いたものだ。

 居間に着くと、大きなテーブルを挟んで俺達と笠島先輩と空道は向かい合わせに座った。


「今日ここに来た理由は」

「影山さん2人のうちどちらか2人、こっちが希望すれば2人ともこっちに置けないかを話し合いに来た、だろ?」

「何でもお見通しですね。流石笠島先輩です」


 そこまで予想していたのなら話は早い。

 俺は早速本題に切り出そうとした時、笠島先輩が右手を前に出して俺が言葉を出すのを遮った。


「妹の梨乃さんの方を、こちらで引き取りたいです。お姉さんの由乃さんには、武谷たちのグループについて欲しい」

「なっ!?」


 笠島先輩の予想外の言葉に、俺は思わず声を荒げそうになった。免許皆伝のベテランで、その上職業は保育士というそっちにはうってつけの条件を兼ね備えた由乃さんではなく、霊媒師として半人前で未熟な高校1年生の梨乃の方を引き取るというのだ。流石にそれは承諾できないと思い抗議しようとしたが、その前に笠島先輩が訳を話してくれた。


「武谷が驚くのは分かるが、お前はこれから霊滅版を探しに日本中を回るのだろ。その際に、たくさんの危険に遭遇するのは想像に難くない。そんな中、瀧倉1人に武谷たちを守らせるのは辛いだろうと思う。それならもう一人ベテランが、お姉さんの方がいてくれた方がより安全に探す事が出来るというものだ」


 なるほど。だからあえて、ベテランの由乃さんを俺達の方に着けてより安全に霊滅板の捜索が出来るようにしてくれたのだな。


「武谷たちの気遣いには感謝するが、もう少し自分の事を大切にした方が良い。神社の敷地内に籠る事が多い俺達と違い、そっちは自ら危険な所へと足を運ぶのだろ。だったら、ベテランは多い方が良い。それに、妹さんも死霊たちと十分に戦えるのだろ」

「はい。未熟ですが、亡者共相手に後れを取ることはありません」

「って!?お姉ちゃんまで!?」

「実戦を積むことでお前自身のスキルアップにもつながる」

「ううう・・・・・分かったよ。あたしがここに残るわ」


 半ば脅されてではあったが、この先の事を考えると由乃さんには俺達の側についてもらいたい。


「まぁ、青美もそうだけど梨乃だって実戦投入可能なレベルくらいはあるでしょうし、未熟だからと言って力が弱い訳ではないのは一昨日の悪鬼との戦いで知る事が出来た。私も笠島先輩の意見に賛成です」

「そうだな。あんなヤバイ奴がこの先出てこないとも限らない。それを考えると、強い由乃にいてもらった方がわたし達も助かる」

「私も賛成。1人よりも2人の方が良いし、死霊に対抗する武器があっても、私達では自衛がせいぜいだから」

「みんな」


 涼と華々美と里美の意見も同じみたいだし、俺も梨乃を空道神社に付ける事には賛成だ。幸い、この辺りには死神たちが死霊や悪霊を捕まえようと狙っている為、死霊や悪霊はなかなかこっちには寄り付かない。だからと言って完全に安心出来る訳ではないが、それでも他よりは安全であるのは間違いない。


「話はまとまった。梨乃には今日からここに住んでもらう」

「って、もう!?いくらなんでも急すぎるわよ!そもそも着替えや荷物も持ってきてないのに!」

「そもそも持ってきてなかったでしょ。現地調達しろ」

「そんな無茶苦茶な!?」

「ああぁ!」

「ううう・・・・・何でもない・・・・・」


 由乃さん、元ヤン時代の口調と顔になったぞ。梨乃だけじゃなく、空道まで委縮されたぞ。


「そういう訳だ。俺達としても、一日でも早くこの現象を何とかしたい。子供たちが伸び伸びと成長できる未来を取り戻す為にも、武谷たちには一刻も早く霊滅版を探し出して欲しんだ。その為にも、お姉さんの方にはそっち側について欲しんだ」

「分かった。何としてもこの現象を止めて見せる」


 笠島先輩と固い握手を交わし、俺達は子供たちのお世話もそこそこに梨乃を置いて屋敷へと帰っていった。その際に、梨乃が悲しそうな顔をしながらハンカチを振っていた。


(かわいそうだけど、梨乃には子供たちを守ってもらいたい)


 同情はするが、これも必要な事なので俺達は振り返ることなく空道神社を去った。





作者自身に、犯罪を助長するような意思は一切ございません。ご理解をお願いします。

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