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東京の佐藤宗一

 翌朝。

 神社に戻ってすぐに仮眠を取った俺達は、朝になってすぐに渋井沢が住んでいた地区へと足を運んで、眠っている悪鬼の首を斬る為に来ていた。


「昨夜は雑魚ばかりだったけど、お陰で悪鬼の気配を涼ちゃんも覚える事が出来たと思います」

「その為にあえて夜を待ったのね。由乃さんって、何気にサディスティックな所があるわ」

「これで保育士さんなんだから、絶対に間違っているよ」

「ほおぉ」


 表情に影を落としながら由乃さんが、横にいる実の妹の梨乃の頬を強くつまんで思いきり引っ張った。


「いひゃい!」

「このお口が良くないのか?おこちゃまの梨乃ちゃんは、言っていいことと悪い事の区別もつかないのかしら?」

「おふぇえしゃんこひょがおいぃ!」

「誰が鬼だって、ああぁ!」


 妹の頬を引っ張りながら由乃さんが、それまでの大人の女性という感じから外れたドスの利いた声で梨乃に問い詰めた。


「もしかして由乃さん・・・・」

「おそらく咲と同類だな」

「はい。雰囲気が完全に咲さんに似ています」

「人は見かけによらないものね・・・・・」


 俺と華々美、美玲と涼はこのやり取りで気付いた。由乃さんは、学生時代かなりヤンチャしていたのだろう。

 それから1分以上引っ張られて、解放された梨乃が涙目になりながら実の姉を睨みつけていた。


「ううう・・・・・お姉ちゃんの鬼!高校時代レディースの総長をしていた元ヤン暴力女!小学校高学年から悪さしてたせいで、中学の時にパパの紹介で西光さんの所に弟子入りさせられた生粋のヤンキー女!」

「ああぁ!」


 怒った由乃さんが、再び梨乃の頬を引っ張った。


「いーーーひゃーーーいぃーーーー!」

「今は真面目に保育士やってんだよこちとら!」

「「「「・・・・・・」」」」


 まぁ、この5日間で由乃さんが元ヤンだという事は何となく気付いていたし、今日の梨乃とのやり取りを見て雰囲気が完全に咲と一緒になったので、憶測が確信に変わった。

 ちなみに、梨乃が霊媒師の修業を始めたのは由乃さんから、「死なばもろとも」と言われて、小学5年生の時にほぼ強引に弟子入りさせられたのだという。何とも酷い話だが、それくらい当時の由乃さんは荒れに荒れまくってたのだろう。今までよく、レディースだったころの本性を隠し通せたものだと感心さえもする。


「ほらほら!そんな茶番をしている場合じゃないわよ!12月に入って、明るい時間が短くなってきているんだからちゃっちゃと済ませるわよ!」


 里美の一声により、俺達はもちろん影山姉妹までも里美に注目し、由乃さんはパッと梨乃の頬を放し、梨乃は真っ赤になった頬を撫でていた。


「うっうん!悪鬼の気配を探りましょう」


 気を取り直して大人の女性らしく振る舞うが、今更感があった。


「ううう・・・・・幹夫の周りには個性豊かな女が多いわね。陰陽師の涼と言い、ヤクザの娘の華々美と言い、元ヤン霊媒師のお姉ちゃんと言い」

「町に戻ると、現役バリバリのレディースの総長もいるぞ」

「うっわっ、ワルばっか」

「ワルは華々美と咲の2人だけだ。咲ってのがさっき言ったレディースの総長で、あとは皆まともだ」


 まぁ、華々美は自分がワルだという自覚がある分まだマシだし、腹を割って話せば分かり合えない奴ではない。対して咲は、ワルであることを指摘するとキレるので面倒だ。


「皆、気を引き締めて」

「流石は涼ちゃん。すぐに悪鬼の気配を覚えて、眠って人の姿になっている悪鬼の場所を突き止めるなんて」

「その辺は小さい時から父と祖父に叩きこまれたので」


 あまりいい思い出がないのか、表情に影を落としながら当時の事を思い出す涼。その上今回は、由乃によって悪鬼の気配を覚えさせられた事で寝ている悪鬼を探させようとするのだから、やり方がかなりエグイな。


「っというか、由乃さんは悪鬼の気配を探る事が出来ないのですか?」

「私と梨乃を涼ちゃんと一緒にしないでください。そもそも私達は霊媒師、霊と交信するのが本来の役目であって、悪霊退治はついでのようなものです。悪霊の気配を探るのは専門外なのです。そういうのは、陰陽師の涼ちゃんの方が得意なのです。特に武闘派なら尚更です」

「そうですか」


 だから今まで寝込みを襲う事が出来ず、神社で子供たちを守る事に徹していたのか。それと、元々悪霊退治が専門ではなかったというのもあったのかもしれない。


「見つけたよ。あっちのビルの各階にたくさんいるわ。っというか、このビルに全部固まっているわ。あのビルが、悪鬼たちの巣なのね」

「「「「・・・・・・」」」」


 そう言って涼が指さす先には、町育ちの俺達が今まで見たことがないくらいに物凄く高いビルがあり、そのあまりの高さに俺達は言葉を失った。


「でか・・・・」

「わたし達の住んでいる町でも、ここまでのビルはないぞ」

「どんなに高くても、10階までしか見たことがありません」

「えっと・・・30階。噓でしょ・・・・」

「私もびっくりだよ。でも、逆に言えば好都合よ。だって、東京にいる悪鬼は全てこのビルを寝床にしているんだから」


 涼もびっくりした様子だったが、東京中の悪鬼全てが目の前にビルに全ていて、その中で眠っているのだから東京中を探し回る手間はなくなった。


「うぅわっ!大金持ちのセレブしか住めない高層タワマンに住み着くなんて」

「「「「「へ!?」」」」」


 梨乃の言葉に、俺達5人は思わず変な声を上げてしまった。


「タワマン?」

「はい。タワーマンションの略で」

「梨乃。そのくらい皆だって知ってるわよ。ただ」


 俺達の様子を見たことで、由乃さんが何を言いたいのかをすぐに理解した梨乃。


(都会にはこういうのがあるとは知ってたけど、実際に見るとスゲー高い!)


 イエス、俺達はタワーマンションという物を人生で初めて目にいたしました。こんないろんな意味で高いマンションを寝床にするなんて、都会の悪鬼どもは随分と高級志向な奴が多いのだな。


「昨夜戦った雑魚悪鬼は、おそらくこのタワマンに住み着いている強い悪鬼たちの虐めにあって、その結果渋井沢が住んでいたあのアパート周辺に隠れるように住み着いてたんだろう。数だけはかなりたくさんいたみたいだけど、昨夜全滅させちゃったけど」

「悪鬼の世界でも虐め問題があったのか・・・・・」


 悪鬼の世界でも人間と同じ問題があったのだな。


「驚いている暇なんてありません。さっさと退治しますよ」

「ああぁ!お姉ちゃん!」


 全く動じることなく中に入る由乃さんと、そんな姉の後を追う梨乃を見て俺達も慌てて中へと入った。都会出身者、流石です。

 だが、タワマンの中に入ってすぐに俺達は仰天した。だって、1階のロビーに入った瞬間に足の踏み場もないくらいたくさんの悪鬼が、人間だった頃の姿になって仰向けになって眠っていた。何故悪鬼だと分かるのかというと、皮膚が青白くて生気がなかったから。


「たくさんいるのは分かっていたけど、これは完全に予想外だわ」


 まぁ、タワマンの外からでは正確な人数なんて分かんないから、足の踏み場もないくらいにたくさんの悪鬼が眠っていたなんて予想できる訳がなかった。

 けれど、だからと言ってそのまま放置するわけにはいかない。なので俺達は、各階で眠っている悪鬼を葬ることにした。


「とはいえ、一人ずつ首を斬っては時間がかかる」


 そういって涼は、お札の先に火種を作り、その火種に息を吹きかけた。その瞬間、火種が大きくなって目の前の悪鬼に放射された。まるで火炎放射器みたいであった。ロビー内には、悪鬼以外に燃えやすいものがなかった為建物全体に炎が燃え広がる事がなかった。そうして悪鬼が灰になったタイミングで火は消え、生き物が燃えるような不快な臭いだけが残った。


「まさかこんな術まで使えたなんて・・・・」

「でも、吸血鬼相手には使えませんね。悪鬼みたいに、魂と肉体が一体になったわけではありませんから、燃やした瞬間にこのフロアは死霊だらけになっていましたでしょうね」

「そうね。悪鬼だから使えた横着術だもんね」


 由乃さんと梨乃は、若干呆れつつも手っ取り早い処理に感心していた。


「さて、この階の悪鬼は全て燃やしたから、次に行きましょう」


 一仕事を終えた涼は、火種を消してから階段で次の階へと上がった。


「そんな面倒なことをしなくても、このタワマンごと燃やしてしまえば良くないか?」

「それは無理です幹夫さん。現在技術で作られたビルは、火災が起きた際に炎が他の部屋や階に燃え広がらないように建造されています。例えスプリンクラーや火災報知器が作動しないくらいに劣化が進んでも、建物の構造上タワマン全体を燃やすことは出来ません」

「マジか・・・・・」


 美玲に言われて気付いたが、確かにあれだけ大規模な炎が上がったにも拘らず、火災報知器やスプリンクラーが作動していない事に気付いた。それくらい、このタワマンの劣化が進んでいることになる。


(霊の影響で建物の劣化が加速するって前にも涼は言ってたけど、ここまで酷くなるなんて思わなかったぞ)


 その上、国が定めた基準によってタワマン全体を燃やす事が出来ないのも痛い。こうなるともう、各階ごとに眠っている悪鬼を燃やしていかないといけないという非常に面倒な作業になる。救いがあるとすれば、このタワマンやその近辺に死霊たちが住み着いていないという事だろう。

 結果から言うと、2階から10階までは部屋の中はもちろん廊下にもびっしり悪鬼が眠っていて、燃やすだけでも少し時間がかかった。鍵は壊れていた為、全力で蹴れば壊せないことも無かった。逆に言えば、そのくらい劣化が酷くなっているという事だ。


(だけど、僅か半年強でこんなに劣化が酷くなっているのに、壁や床が壊れる心配はなく、倒壊の可能性すら感じない。一体なぜ?)


 10階までの作業を終え、11階に上がる階段で俺は不思議に思った。

 その後、11階から20階までは廊下に悪鬼はおらず部屋の中のみにいた。21階から29階に関しては、各部屋に2~3人しか眠っていない状況が続いた。由乃さんの予想では、上の階程力の強い悪鬼が眠っており、弱い悪鬼程低層階で眠っているのではないかと予想した。

 そして、最上階はその階そのものが部屋になっていて、そのだだっ広い部屋に悪鬼が1人眠っていた。そしてその悪鬼こそが、俺達が探していた東京の佐藤宗一であった。


「まさかコイツまでもが悪鬼になっていたなんて」

「複数の悪霊にとり憑かれた人間が化けたんだから、コイツも相当罰当たりなことをしてたんだろうな」


 華々美の予想通りなら、この男は相当な悪事を働いた事で多くの怨みを買い、その上悪霊たちのテリトリーに土足で入り込んでは、知らず知らずのうちにたくさん取り憑かれてしまったのだろう。一体何をしたというのだ、この男は。


(確かSNSでは、歴史学に置いて数々の賞を獲得しており、学会でもかなり注目されていると記載されていたな)


 でも、この男の現状を見るにそれが本当の事とは思えない。いろいろと聞きたいことはあるが、悪鬼となった以上これ以上野放しには出来ない。


「アンタには悪いけど、消し炭になってもらうわ」




『そうはいかない』




「「「「「「「なっ!?」」」」」」」


 涼がお札で火種を作ろうとした瞬間、眠っていたはずの佐藤宗一が急にパッと目を開き、勢いよく起き上がると同時に窓から外へと飛び降りた。よく見ると、空がオレンジ色に染まっていた。

 反射的に佐藤宗一を追いかけて窓の所に駆け寄ると、佐藤宗一の身体がボコボコと膨張していき、身長が5メートルを超える巨大な悪鬼へと変貌してから隣のビルの屋上に着地した。


『うおぉおおおおおおおおおおお!』


 雄叫びを上げる巨大悪鬼を見た瞬間、由乃さんと梨乃の表情が急に険しくなった。


「どうした?」

「アイツだよ!」

「アイツが、私たちの師匠を食った悪鬼です!」

「何!?」


 驚愕しながら俺達は、改めて大柄の悪鬼に目をやった。まさか探していた人物が、悪鬼になった上に2人の師匠を食った怨敵だったなんて。


『ハハハハハハハハハハ!』


 全く悪びれた様子もなく、悪鬼は真っ暗になった空に向かって高らかに笑ったのであった。


「ここで合ったが百年目だ!」


 怒りを露にした由乃さんが、鞄から小さめの水晶を掌いっぱいに握り、それを大柄の悪鬼に向けて思い切り飛ばした。しかし悪鬼は、落ちていた瓦礫の一部を盾代わりにしてそれを弾いていった。


「チッ!」


 らちが明かないを思った由乃さんは、仕方なく飛ばした水晶を全て手元に戻してカバンの中に入れた。


『ハハハハハハハハハハ!』


 悪鬼はというと、笑いながら俺達に向けて手にした瓦礫を投げつけてきた。


「伏せろ!」


 このままではマズイと思い、俺はとっさにそう皆に命令した。幸いなことに、瓦礫はタワマンの上を通り越したが、あれではまともに攻撃が出来なかった。

 それと同時に思った。あんな危険な悪鬼は、絶対に野放しにしてはいけない。





この物語はフィクションです。作中に出てくる地名と人名は、実在の地名や人名や団体とは一切関係ありません。

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