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陰陽師姉妹

 東京に来て生存者を見つけただけでも驚いたのに、会った2人がとある陰陽師さんの弟子で、由乃さんと梨乃も陰陽師としての力を持っているのだという。


「俺、この現象が終わった後、とんでもない不幸に見舞われるのだろうか・・・・・」

「考えすぎだって。意識しなければ何も起こらないって」

「里美の言う通り。あまり意識してはダメだ」


 里美と涼に諭され、俺はなるべく意識しないようにすることにしたのだが、それでもこんな短期間で4人もの陰陽師に会う事ってあるのだろうか?そもそもの話、涼と会えたこと自体が奇跡なのに、その上空道や影山姉妹にも会うんだから、運を使い果たしてしまったのではないかと不安にもなる。


「話を戻すけど、東京には吸血鬼だけでなく悪鬼もいるの?」

「はい。吸血鬼どもの駆逐には成功したけど、梨乃が考えなしに火葬するから結局亡者共の数を減らすには至らなかったのです」

「ううう・・・・ごめんって」


 話を詳しく聞くと、この現象が起こった1ヶ月後に吸血たちが町中を徘徊するようになり、由乃さんと梨乃と2人の師匠である西光さんの3人で排除して回ったのだという。術を使って地道に排除する由乃さんと西光さんに対し、まだ修行中の身の梨乃はすぐにパニックを起こしてしまい、炎を出して一気に葬っていったのだという。その代りに、死霊たちの数を更に増やす結果を招いてしまったのだという。


「あの時は流石に師匠やお姉ちゃんに物凄く怒られたわ」

「当然だ。いつも言っているけど、梨乃は本当に考えなしなんだから」

「ううう・・・・・」


 姉に厳しい事を言われ、バツが悪そうに俯く梨乃。空道もそうだけど、梨乃もどちらかというと感情的になりやすいタイプみたいだ。ただ、空道みたいに夢見がちな理想ばかりを語る事はないのだから、年相応の女の子といった感じがした。

 逆に由乃さんは、大人の女性らしい感じがしてとても落ち着いていて、俺達みたいな子供にも敬語で話してくれる。妹の梨乃にはタメ口になり、口調も辛辣になるみたいだが。

 そんな話をしている間に、俺達は2人が避難している神社に到着した。


「降りてください。子供達にも幹夫君たちを紹介したいです」

「はい」


 俺の後に続いて皆もキャンピングカーから降り、鳥居に一礼をしてから潜ると、早速幼稚園と小学生くらい子供たちが声を上げて駆け寄ってきた。子供たちに揉みくちゃにされながらも、俺達は皆に軽く自己紹介を終えた後で由乃さんの案内で本殿の裏手にある住居にお邪魔させてもらった。

 とても大きな家で、居間にはまだ1歳にもなっていない赤ちゃんが一人一人ベビーベッドの上で寝かされていて。そんな赤ちゃんたちを、3人の男女が面倒を見ていた。


「よく25人も助けられましたね」

「梨乃が助けたのです。かなり危うかったですけど、よかったと思います」

「いいじゃない。あのまま死霊に殺されるのもかわいそうだったし」

「そうですね。あの子たちには、すくすくと育って欲しいですもんね」


 空道神社の赤ちゃんたちも、笠島先輩を中心に皆でお世話をしていて、そのお陰でみんな健康的に育っていき、毎日てんてこ舞いだと言っていた。だけど、笠島先輩や他の皆もとても嬉しそうに話していた。


(そういえば、東京に行く3日前に幸城さんが妊娠したって電話で聞いたから更にもう一人増えるんだったな。仲崎君も、俺より年下なのにもう父親になるなんて)


 それに伴って、幸城さんは正式に仲崎君と結婚することを決め、現在は仲崎の姓を名乗っているのだとも聞いた。電話越しに、2人の幸せそうな声も聴けた。一応役所に婚姻届けは出したみたいだけど、今のこの状況では殆ど意味がない気がする。しかも、本来なら2人ともまだ結婚できる年齢ではないのだけどそれも今更である。


「話を聞いた後でも、俺達もお世話してもいいでしょうか。実は、俺達が住んでいる町でも15人もの赤ちゃんや、17人の幼児をお世話しているグループがあって、そのグループと非常に良好な関係を築けていまして」

「その関係で、私達も多少は子供たちの面倒は見れます」


 ちょっと里美さん、俺の最後のセリフを取らないで・・・・・。


「それは助かります。それでは早速情報交換と行きましょう」

「はい。里美と美玲は、子供たちのお世話を先にお願い。俺と華々美と涼で話をするから」

「分かったわ」

「はい」


 俺の指示で里美と美玲は、3人の男女と一緒に赤ちゃんや子供たちの面倒を見た。幼稚園児くらいの子供たちは、10歳から12歳の7人の子たちが相手をしてくれているのだという。小学校高学年くらいになると、積極的にお手伝いが出来るようになるみたいだ。本当なら、あのくらいの年の子の方が一番難しくなる時期なのだけど。

 2人を見送った後、俺と華々美と涼は台所に案内され、長いテーブルを挟んでそれぞれ椅子に座った。影山姉妹は、俺達の体面に腰を掛けた。


「早速ですけど、幹夫君たちの町の状況について聞かせてください」

「はい。俺達の住んでいる町も酷いものでした」


 俺は影山姉妹に、町で起こったことや生存者の状況、俺達のグループ含めて今生き残っている人の人数、起こった出来事、そして東京に来た目的を話した。


「霊滅版、ですか。そんな石板が存在していたなんて」

「だけど、歴史的価値がある無い関係なく、誰かの土地から物を持ち出すなんて許せない!完全に泥棒じゃない!」

「そうね。それと梨乃、うるさい」

「ううう・・・・・」


 由乃さんに睨まれて、シュンと顔を伏せる梨乃。本当に由乃さんって、梨乃に対してだけ容赦がないな。


「申し訳ありません。妹であると同時に、後輩でもありますので」

「そうですか」


 まぁ、普通はそうだよな。空道が涼に対してフランク過ぎなのであって、免許皆伝の一人前と皆伝前の半人前との関係はそんなものだろう。


「それで、その霊滅版を持ち出した男、渋井沢の所在は掴めたのですか?」

「はい。ですが、渋井沢は既に死んでいて吸血鬼になっていました。肝心の霊滅版が何処に売られたのかまでは」

「そうですか。しかし、東京にいた吸血鬼は、私と師匠と梨乃の3人で駆逐して、都心部にいる吸血鬼は一人もいないです」

「という事は」

「私達が見つけたあの渋井沢は」

「おそらく、悪鬼になっているのだと思います。丁度渋井沢が住んでいる地区には、たくさんの悪鬼が住み着いていますし、日中は元の人間の姿に戻って住処で眠っていますので間違いありません」


 つまり、生前と同じ姿をしているのは、単純に寝ていたからだったのか。起きて力があふれ出すと、異形の怪物の姿へと変貌して死霊や生きた人間を襲って食うのだという。


「あのちょっといいですか」

「わたしも気になったのだが、そもそも悪鬼って一体?」


 聞き慣れない言葉に、俺と華々美が控えめに手を上げて影山姉妹に聞いた。


「悪鬼とは、生きた人間に大量の悪霊がとり憑いた状態で悪さを繰り返すで、恐ろしい怪物へと変貌したものです」

「平安時代には、こういった悪鬼がたくさん居たけど、今では全く見られなくなったし、あたしもまさか遭遇するなんて思わなかったわ」

「生きた人間が変貌って・・・・」


 確かに、鬼は不幸のどん底に落ちた人がなったものだと聞いた事があったが、複数の悪霊にとり憑かれた状態で悪事を行うとなるなんて。そんなヤバい怪物がいるなんて、東京に来るまで知らなかったぞ。


「なるほどね。だから渋井沢が住んでいるあの一体には死霊がいなかったのね。吸血鬼が魂を食らうというのが迷信なのに対し、悪鬼は本当に魂を食らうから吸血鬼以上に死霊たちから怖がられているのよ」

「涼ちゃんは話が早くて助かります。流石は、15歳で免許皆伝されただけの事はあります」

「修行はかなり辛かったけどね」

「分かります。私も免許皆伝を貰った20歳までの間、とても厳しい修行を受けていました。でも、そのお陰で幹夫君たちが無事に過ごせていますので、この現象が起こる事を予知してくださり、更に霊滅版の事も調べてくださったお爺様に感謝です」

「そうですね。さて・・・・」


 一拍置いた後、涼は深刻そうな顔をして頭を抱えた。


「厄介な奴が出てくるなんて・・・・やはりこの現象が原因と考えるのが妥当でしょう。悪鬼が出てくるなんて戦国時代以来だし、とっくに絶滅したものだと思っていました」

「私もまさか、悪鬼が現れるなんて思いもしませんでした。涼ちゃんの言うように、私達もとっくに絶滅したもので、遭遇することも無いだろうと思っていました」


 涼につられて、由乃さんも頭を抱えて首を横に振った。


「救いがあるとしたら、首を斬り落としたり、脳天を撃ち抜いたり、頭を吹き飛ばせば霊媒師でなくても倒せるという事ですけど・・・・・」

「無理でしょう。銃を持っている奴なんてここにいる華々美だけだし、そもそも鉛の弾丸ごときに悪鬼の脳天を撃ち抜くなんて不可能よ。鉄、若しくは銀でないといけないし、首を斬り落とすにしてもまず接近するのが危険ね」

「そんなに危険なのか?」

「幹夫君、あなたは知らないのかもしれないけど、悪鬼になるとどんなに小さくても背丈が3メートルを超えるものが多く、力もかなり強くなりますので接近するだけで自殺行為になります」

「動きを封じたとしても、華々美の腕をもってしても首を斬り落とすのは難しいわ」

「そんなに固いのか・・・・・」


 理由は単純に、全身を硬い筋肉で覆われているからだそうだ。


「今の所、その渋井沢という男が住んでいるエリアにしかいませんが、過去に何人かこっちに近づいてきたこともありますので、こちらとしても全く油断が出来ません」

「お姉ちゃんと交代で見張っているけど、お陰で毎晩寝不足だよ」

「情けない声を出さない。その分、日中に寝る時間を確保させているでしょう」

「花のJKにはキツイわ~」

「ったく!この未熟者」


 美玲もそうだが、高校デビューして僅か1ヶ月後にこの現象が起こり、その上悪鬼の出現だから溜まったものではない。


「それなら、明日から少しずつ俺達の町にお引越ししませんか?」

「「あっ!?」」


 俺の提案に、影山姉妹は一瞬驚いた顔をした後、お互いに顔を数秒見合わせた後笑顔で頷いた。


「お願いします!」

「あたしからもお願い!」


 2人とも、俺達の住んでいる町への移住に賛成してくれた。


「でも、先ずは子供たちをお願いします。私と梨乃は最後で、いえ、せめてこの辺りにいる悪鬼どもを駆逐してから行きます。」

「ええぇ~!」

「黙れ未熟者。半人前でも、お前も霊媒師の端くれだろ。そんな私達が真っ先に逃げる事は許されない」

「ううう・・・・・」


 由乃さんに怒られて黙り込む梨乃。確かに、梨乃は陰陽師としては未熟者なのかもしれない。


「分かりました。出来る事は少ないかもしれませんが、俺達も残って悪鬼の退治に協力します」

「お願いします」


 話を終えた俺達も、里美や美玲たちと合流して子供のお世話をに入った。その前に俺は、小夏さんに連絡をした


『部屋も余っていますし、子供や赤ちゃんを引き取る分には問題ありません。ただ、全員を引き取るのは厳しいです。なんせ、うちの屋敷には物騒な武器がたくさんありますので』


「そういえばありましたね・・・・・」


 うちの屋敷には、涼が使う宝刀が合計で5本、他にも槍や薙刀や弓矢もあり、華々美の刀が6本と拳銃と猟銃までもある。更には斧やチェーンソー、鉈やノコギリや金槌等もある為、万に一つでも子供の手に触れてはいけない。

 そんな物騒な物が多い中で、万が一目を離して子供の手に触れては危険であった。俺達では外科手術が行いない上、それが出来る人が医者で幸城さんのお母さんの智恵美さんしかいないから、大きな怪我を負わせる訳にはいかない。

 なので、無理のない人数であれば引き取りは可能だという事だ。

 どうしたものかと悩んでいると、小夏さんから笠島先輩にも相談してみるのもいいだろうと言われ、俺は一旦電話を切ってから笠島先輩のスマホに電話を入れて、東京で出会った子供たちの事について話した。


『一部と言わず、全員うちで引き取るよ』


「いやしかし、それだと先輩たちの負担が」


『大丈夫だ、15人の赤ちゃんに、17人の幼児、更に来年にはもう一人産まれる予定だから今更だよ』


「でも!」


『それに、幹夫たちには霊滅版の捜索とこの現象の終息に尽力してほしい。子供の世話が大変だと分かっているからこそ、そこにあまり時間を取られてほしくないんだ。なに、全て解決したら改めて手伝いをお願いする。それまでは、子供たちの面倒はうちで全て引き受ける。だから、幹夫たちには一刻も早く、この現象を終わらせてほしく、それだけに集中して欲しんだ』


「笠島先輩」


 この人には一生敵わないなと思った。面倒ごとは全て引き受ける代わりに、俺達には一刻も早いこの現象の終息に集中して欲しいという願いも籠っていた。

 ここまで言われれば、俺も頷かないわけにはいかない。


「分かりました。本当に、申し訳ありません」


『いいって。たまに遊びに来て手伝いに来てさえくれればいいから。それに、子供だけじゃなく一緒に面倒を見てくれた大人の方も全員引き取るよ。そうすれば育児も少しはマシになるってもんさ』


「ありがとうございます」


 電話を終えた後、俺も皆と一緒に子供のお世話をし、赤ちゃんのおしめを変えたりミルクを上げたりした。

 それから10分後に、再び笠島先輩から電話が来て、皆に相談したところ全員快く引き受けてくれると言ってくれたとのことで、全員が空道神社へ引っ越すことが決定した。


(なんかすごい大所帯になったな。空道神社)






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