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2人の生存者


「ああぁ!やっと外に出られた!」

「幹夫。おじさん臭いぞ」

「ほっとけ」


 3日間の車中生活の後、外に出て久しぶりのお天道様を体いっぱいに浴びながら伸びをする俺を、一緒に伸びをする華々美が呆れた顔でおじさん臭いと言った。


「仕方ねぇだろ。3日間も狭いキャンピングカーに引きこもってれば」

「それもそうだな」


 東京に来た日の翌日から3日間、降り止む事のない雨のせいで身動き一つとる事が出来ず、ずっとキャンピングカーの中に籠っていたのだから。正直言って、滅茶苦茶暇だったし窮屈だった。檻の中にいるライオンの気分を味わった。


「2人とも、伸びをするのは結構だけど早く手伝いなさい」

「おう」

「分かった」


 そんな地獄の3日間を耐え抜き、俺達はようやくここに来た本来の目的を遂行する為に行動を始めた。お日様を浴びた後、俺と里美はまずドローンで周囲の様子を窺った。そしてそのドローンの映像を、華々美と涼と美玲の3人でチェックしていた。


「一応、私が飛ばしている方向に渋井沢の住んでいたアパートがあるけど、とても生存者がいるようには見えないわ」

「そうですね。廃墟同然ですから中の様子を見ることは出来ますけど、何所も死霊たちと白骨死体ばかりです。もう少し中の様子を見られませんか?」

「それはやめておきなさい。映像越しでも霊はとり憑いて来ようとするのよ」


 もう少し詳しく知りたそうにしていた美玲を、涼が止めた。そりゃそうだが、霊にはあまり深く干渉しない方が良い。殆どの霊は生に対する執着が強い為、その念が写真や画面越しでも伝わってくることがあるのでとても危険なのだというのだ。

 涼曰く、心霊番組などで度々流れる心霊写真や心霊映像は全てフェイクであり、本物は一つも放送されないとのこと。なんでも、本物の心霊写真や心霊映像はガチでヤバいらしい。


「それよりも里美、すぐに渋井沢のアパートまで飛ばしてくれない。幸い、ここはアイツのアパートから近い距離にあるから」

「了解。指示は任せたわ」


 涼の指示で里美は、ドローンを飛ばした。まぁ、そっちがメインであって俺は生存者がいないかどうかの確認が目的で飛ばしていて、その映像の確認を華々美にお願いしてもらっている。


(まぁ、こっちでも映像は見れるけど・・・・・あんまり詳しく見られないからな。それでも、動いている生き物がいるかどうかは分かるからな)


 実際、野良猫や飼い主を失った犬やネズミなどの動物はよく見かける。最初こそは生き物は無差別に襲っていた死霊たちも、2ヶ月もしないうちに犬猫や野生動物には目もくれなくなった。それはここでも同じみたいだ。

 涼や空道の予想では、人間だけが持っている欲や憎しみなどの感情に強く引かれ、本能だけで生きる動物には関心を抱かなくなったのではないかという。

 それは置いておいて、今の所生存者らしき人の姿は見られなかった。


「華々美、やっぱりダメか?」

「ダメ。念入りに見ても、野良猫かカラスかネズミくらいしか見られない。人の姿なんてないし、あっても皆白骨化している」

「そうか・・・・・」


 誰かが流した動画で悲惨な状況になっているのは知っていたけど、ここまで酷いなんて思わなかった。


「3日間引き籠って思ったけど、吸血鬼の襲撃は一度もなかったな」

「まぁ、アイツ等なら涼の手を借りなくても普通の人でも倒す事が出来るからな。一番楽な方法は燃やす事なんだけど」

「それだと魂が再び肉体を離れて、結局は死霊を増やす結果になるからな」


 考えてみれば、この3日間死霊の襲撃はあっても吸血鬼の襲撃が一度もなかったのも、誰かが吸血鬼を火炎放射器か何かで応戦して大量に燃やしたのだろう。その代りに死霊がたくさんいるのだろう。


「ちょっと止まって!」

「お、おう」


 突然華々美から止まるように言われ、俺はその場にドローンを制止させた。すると、プロペラの音に惹かれたのか2人の女性がホームセンターらしき建物から出てきて、俺達と同い年くらいの女子が両手をブンブンと降ってアピールしてきた。


「生存者か!」

「ええ!2人だけだけど確認できた!」


 まさか、死霊だらけのゴーストタウンと化した東京に生存者がいるなんて、正直に言って思ってもみなかった。


「ゆっくり近づくな」

「ええ。ゆっくり。ホームセンターの名前も映してくれ。場所が分かれば駆けつける事が出来る」

「了解」


 慎重に彼女達に近づき、ホームセンターの名前と店舗が写るようにしながら慎重にドローンを下した。着地したドローンに、女子高生くらいの女の子が駆け寄って顔を近づけてきた。


『あたし達以外にも生存者がいたのね!あたし達は、ここからすぐ近くの大きめの神社に避難しています!たくさんの子供と赤ちゃんがいます!助けてください!』

『梨乃!そんな説明じゃ分からないよ!』


 もう一人の20代くらいの女性が、女子高生の名前を叫びながら駆け寄ってきた。


(姉妹なのか?顔立ちも髪の色もよく似ている)


 2人とも同じ黒いセミロングの髪で、女子高生の方は後頭部に赤色のリボンを着けていて、大人の女性の方は青色のリボンを後頭部に着けていた。2人ともかなりの美人だが、青いリボンをつけている女性の方が大人の女性という感じの美しさがあって綺麗がしっくりきた。逆に女子高生の方は、活発で明るい印象があって可愛いがしっくりくる感じであった。

 もっと詳しく言うと、2人ともシンプルな服を着ていたが女子高生の方は肩掛け鞄だけを身に着けていて、20代の女性の方は肩掛けカバンに加えて赤色に塗られた木刀と五鈷(ごこ)杵(しょ)を腰に差していた。

 その20代の女性の話だと、彼女達はあのホームセンターから東に徒歩15分ほどの距離にある大きな神社へと避難していて、25人の赤ちゃんと15人の12歳以下の子供がいるのに対し、高校生以上が自分たち含めてたったの5人しかいないとのこと。

 そして最後に、合流して情報の共有と交友関係を築きたいと話してくれた。


『1時間ほどここで待っています。私達と一緒に、避難している神社に来てください』


 深々と頭を下げた後、俺はすぐにドローンを飛ばしてこちらに戻した。

 それから5分後に、里美もドローンを戻してそれぞれ情報を共有した。


「結論から言うと、アイツの住んでいるアパートに霊滅版はなかったし、渋井沢本人はもう死んでたわ」

「死んでるって何で分かった?」

「渋井沢が吸血鬼になったからです。彼が住んでいるアパートの部屋に、吸血鬼になった渋井沢が仰向けになって眠っていたのです」

「マジか」


 案の定、渋井沢はもうとっくに死んでいて、しかもかなりの悪事を働いたからなのか魂が肉体に戻って吸血鬼になっていたのか。


「霊滅版はもうとっくに売られたと思います。その証拠に、霊滅版が売られた時の領収書が机に置かれていて、その金で買ったであろうゲーム機とソフトがたくさん置かれていました」

「だけど、肝心の領収書からは何処に売られたのかまでは分からなかったわ。その部分が汚れて破れていたから」

「分かったのは、古代の石板、もとい霊滅版が1000万で売られていたという事ね。おそらく、買った人はそれが盗品だと知らなかったんでしょう」


 深刻そうに話す美玲と涼を他所に、あっけらかんと答える里美。

 婆ちゃんから聞いて予め知っていたが、やはり霊滅版はとっくに売り飛ばしていたようだ。そして、その誰かが霊滅版を壊したことでこの現象が起こってしまったという訳だ。改めてそれを知ると腹が立つな。


「次に俺達だが、生存者を確認できたからすぐに待ち合わせ場所に行きたいと思っている」

「ネットでその場所を検索したから、案内は任せて」


 俺と華々美の話を聞き、3人は少し驚いた顔をしていたがすぐに頷いて機材の片づけをして出発の準備を進めた。

 俺と華々美もすぐに片づけをして、華々美の指示で俺達は指定されたホームセンターへとキャンピングカーを走らせた。ドライバーは俺だ。


「それにしても、こんな地獄となった東京に生存者がいただなんて驚きだわ」

「しかも、25人の赤ちゃんと、15人もいる子供の面倒をたった5人の高校生以上の男女がお世話していただなんて」

「ですが、生存者がいるのでしたら急いだ方が良いです。早くここから離れないといけません」


 涼も里美も美玲も、まさかゴーストタウンとなった東京に生存者がいて、しかもたくさんの赤ちゃんと幼児がいると聞いて驚いてもいたが、同時にすぐに駆け付けなければいけないと思ってくれた。


「けど参ったな。生存者どころか、40人もの小さい子供が生き残っていたなんて完全に予想外だ」

「俺もだ。空道神社と同じ状況が、ここでもあったなんて。しかも、赤ちゃんの数は向こうの方が多い」


 少人数で15人の赤ちゃんと、17人の幼児の面倒を見ているだけでも笠島先輩たちの凄さが分かるというのに、向こうは更にたくさんの赤ちゃんの面倒を見ているというのだ。救いがあるとすれば、向こうでは10歳以上の子が7人いて、全員が育児に協力的だという事だ。


「どちらにせよ、早く合流しないと」


 渋井沢と霊滅版の調査で来ていたけど、まさかこんな事があるなんて想像もしていなかった。

 それから15分ほどキャンピングカーを走らせ、俺達は待ち合わせ場所であるホームセンターに到着した。そこでは、たくさんの物資をカートに積んだ2人の女性が立っていた。

 その内の女子高生らしき子が、車が止まった直後にこちらに駆け寄ってきて、大人の女性の方もその後に続いた。


「待ってたよ!本当に、あたし達以外に生存者がいたなんて!」

「驚きです!よくこんな地獄と化した大都会で5人も!」


 降りてすぐ俺達は、2人から熱烈な歓迎を受けた。


「自己紹介をします。私は影(かげ)山(やま)由(ゆ)乃(の)と言います。歳は23で、この現象が起こる前は保育士をしていました」

「あたしは影山(かげやま)梨乃(りの)。16歳の高校1年生です。影山由乃は、あたしの8歳年上の姉です」


 やはりこの2人は姉妹のようだ。8歳も年が離れた。


(8歳年上ってことは、由乃さんはまだ誕生日を迎えていないという訳か)


「俺は、武谷(たけや)幹夫(みきお)。ここから車で5時間も離れた町から来ました、17歳の高校2年生です」

「藤波(ふじなみ)華々美(かがみ)だ。幹夫とは高校は違うが、17歳の同級生だ」

「瀧倉(たきくら)涼(りょう)と言います。16歳の高2です」

「えっと・・・城ヶ崎(じょうがさき)美玲(みれい)です。梨乃さんと同じ15歳の高1です」

「私は長谷川(はせがわ)里美(さとみ)。このメンバーでは私が最年長の18歳で、高校3年生よ。ちなみに、車の運転免許も私が持っているわ」

「俺達は皆同じ町出身で、高校は皆バラバラですけど同じ場所に避難生活をしている仲間です」


 俺達の自己紹介を終えると、梨乃がいきなり俺の手を掴んでこう言ってきた。


「早速で申し訳ありませんが、あたし達を助けてください!」

「梨乃!少し落ち着きなさい!」

「いいえお姉ちゃん!せっかくこうして出会えたのです!しかも、そんな遠い町から廃墟になった東京にわざわざ来てくれたのです!こんなチャンスを逃すわけにはいかない!」


 梨乃の方は少し切羽詰まっているのか、開口一番でそんなことを言ってきた。


「ここにドローンを飛ばした時にお姉ちゃんが言ったように、あたし達が避難している神社には大勢の子供がいてすごく大変で、しかも物資と食料がそろそろ底をつきかけていて!」

「落ち着きなさい。その前にまず、幹夫君たちがどうしてこんな所に来たのかを聞かないと」

「でも!」

「落ち着きなさい!この未熟者!」

「ううう・・・・・」


 姉である由乃さんに叱責され、梨乃は渋々俺の手を離して一歩下がった。そのすぐ後に、由乃さんが俺達に深々と頭を下げて妹の非礼を謝罪してくれた。


「妹が申し訳ありませんでした。なんせ、神社周辺の建物で調達できる水と食料がそろそろ尽きかけてきて、しかも電気までもが使えなくなってしまいましたのでそれであんな」

「いえ、頭を上げてください」


 だから梨乃は、必死になって俺達に助けを求めてきたのだな。水も食料も底を尽きかけ、おまけに電気が使えなくなってしまったものだから困窮しだしたんだな。


「その上最近、悪鬼どもがこの近くまで来たというのもあって、子供たちを守るのに必死になり過ぎてあんな」

「悪鬼だと!?」


 悪鬼という言葉を聞き、涼が突然大きな声を上げたので俺達は思わずビクッとなってしまった。


「知ってんのか?」

「当たり前だろ!よりにもよって悪鬼が誕生しだしたなんて、本格的にヤバイわよここ!」

「涼さんでしたか。やはりあなたも、私や梨乃と同じなのですね」

「お姉ちゃん?」


 訳が分からず首をかしげる梨乃に対し、由乃さんは涼に近づいて頬に触れてきた。


「強い念力を感じます。あなたも陰陽師なのですね」

「『も』という事は、あなたと妹さんも」

「はい。妹はまだ修行中の身ですが、私も梨乃も霊媒師です。西光さんの所で修行を行いました」

「西光って・・・2人とも西(さい)光(こう)良(よし)成(なり)さんの弟子なのですか?」

「はい。苗字を聞いてまさかとは思いましたが、涼さんはあの瀧倉さんの娘さんですね。日本でもトップクラスの力を持った陰陽師一族の一つ」


 どうやら、涼と2人の師匠は顔見知りで、由乃さんと梨乃の2人もその陰陽師の人から修行を受けた陰陽師だったみたいだ。


(生存者がたくさんいたというだけでも驚きなのに、更に2人の陰陽師に会うなんて・・・・いよいよ向こう10年の運を使い切ってしまったのか、俺?)


 何てことを考えている間に、俺達は2人を乗せて詳しく話を聞きながら避難先の神社に向かう事になった。





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