異形の悪霊
目的のホームセンターに着くと、涼はすぐに中にいる死霊たちをいつも通り追い出し、周囲に結界を張る事で新たに死霊たちが入って来られないようにした。結界を張る事で、少しでも調達する時間を長くする為だ。
「よし。里美と涼は2階から布団や毛布をお願い。俺と華々美と美玲が1階で工具や木炭などの調達を。空道神社や朝戸地区の教会にいる人たちの分も欲しいから、多めに調達してほしい」
俺の指示を聞いた皆が「はい」と返事し、それぞれ指定された場所に行った。
俺は華々美と美玲と一緒に、1階から工具などを取りに行った。華々美は釘や金槌やヤスリなどの工具を、美玲はシャンプーや石鹸や洗剤などの日用品を、俺は木材やチェーンソー等の重たい物を調達していった。
(にしても・・・・・このホームセンターってこんなにボロかったっけ?)
俺達が今いるこのホームセンターは、2年前に開店したばかりで品揃えも豊富で、外装はもちろん内装もとても清潔感もある雰囲気の良いお店であった。
ところが、今のこの店は内装がボロボロで壁は所々ヒビが入っており、電気が通っていないから当たり前だが非常に真っ暗で暗い雰囲気であった。陰鬱でボロボロで、劣化がかなり進んでいてお化け屋敷にでも入っているような気分であった。
(真っ暗でジメジメしている、というのはもう何処もそうだし漏電で火事にならなかっただけでマシだけど、それにしてはこのホームセンターの劣化はかなり酷いな)
5ヶ月以上放置されたというのを差し引いても、ここまで劣化するものだろうか?これまで訪れたショッピングモールでも、ここまで酷くない。
(やっぱり何かおかしい。ここの劣化はかなり早くて深刻。これでは何十年も放置された廃墟みたいだ。廃墟なのは間違いないけど、これではまるでゴースト団地のマンションみたい・・・・・)
そこまで考えて俺は、一旦物資の調達を中断して全員にバスの前に集まるようにスマホに連絡した。電波が悪く、ノイズ交じりではあったが何とか伝える事が出来、1分後に全員集まった。
「みんな集まって!一人ずつお祓いをするから!」
「なんだよ、涼まで?まぁ良いけど」
涼はすぐに状況を理解し、俺達全員にお祓いをしてくれた。皆がお祓いをし終えた後、ホームセンターの出入り口から唸り声のようなものが聞こえた。
「何、あれ・・・・・」
「下がって!」
涼の指示で、皆がバスの近くまで下がった。その直後、出入り口から真っ黒い異形の何かが姿を現した。
そう、何かだ。その姿は、人ではなかった。もちろん、動物でもない。
正確に言うと、人の姿をしている悪霊はいるが手足や首などの身体の関節があり得ない方向に曲がっていたり、あらぬ所に腕と足があったり、首がなかったり、逆に首だけの化け物ばかりであった。他にも、いろんな動物と人間のそれぞれのパーツが組み合わさったような不気味な姿をしていた。
「まるで妖怪だ」
「似たようなもんだ。いろんな霊が混ざり合って、一つの悪霊となった結果あんな姿になったんだ。バックヤードに身を潜めていたから、私達は襲われる直前に出る事が出来たわ。逃げられそうになったから出てきたみたいだけど、厄介な連中が混ざっていたみたいだね」
「マジかよ・・・・」
詳しく聞くと、複数の悪霊が長い時間密集しすぎると、力の強い悪霊が他の悪霊を取り込んでより強大になるのだという。複数の他の霊を取り込み過ぎた結果、あのような異形の姿へと変貌したのだという。ただ、こういう現象は100年に一度起こるかどうかというレベルで、陰陽師の間ではあぁいうのは普通は起こらないものという認識が強いのだという。
「ちなみに、涼の見立てではアイツ等は何人分の悪霊が混ざったと思う?」
「想像もつかない。少なくとも、10人は取り込んでいると思うわ」
華々美の質問に、涼は顔を引きつらせながら答えた。まぁ、そんな厄介な悪霊が10以上もホームセンターから出てきたのだから、いくら強い力を持っていたとしても関わりたくなかっただろうな。
「里美と美玲はバスに入って。アイツ等に突破されるほど軟な術はかけていないから、中に入っていた方が安全だ。幹夫と華々美は、近づいたらそれぞれ術の施した刀で応戦して。私の刀ほどではないが、悪霊を一太刀で葬る事が出来る」
「逃げるって手段はないのか?」
「あぁいう連中は物凄く執念深いから、一度目を着けられたら追い払うのは骨だ。ここで倒すしかない」
つまり、逃げても何処までもしつこく追いかけてくるという訳か。それならここで戦って、この場で消滅させるしかないな。
幸い今日は快晴だから、異形の悪霊達は建物の外に出る事が出来ないでいた。だが、力の強い悪霊程執念深い傾向がある為、無理をしてでも俺達を狙って来ないとも限らない為安心できない。
出来るだけ俺と華々美の手を煩わせたくない涼は、宝刀を抜いてすぐに悪霊たちの所へと走っていき、捕まることなくあっという間に半数以上も葬っていった。
「日に日に強くなっているな」
「ああ。笠島の一件以降訓練を再開し、力の強い悪霊に対応出来るようにしているみたいなんだ」
「だけど、気負い過ぎていないか心配にもなるな。とはいえ、何の力も持たないわたし達ではどうする事も出来ない」
「悔しいけど、俺達ではサポートも出来ないからな」
一応、華々美から剣術や護身術を教わっていて、涼から普通の刀に術を施してもらって何とか戦えるようになったと思ったが、プロからすればやはり俺達のような一般人を危険な目に遭わせたくないのだろう。
そうこうしている内に、涼は首だけの悪霊以外全てが消滅していった。おそらく、わざと残したのだろう。その証拠に、首だけの悪霊の額にお札を貼り、動けないようにさせた。
「さて、お前からは私の知りたいことを洗い浚い吐いてもらうぞ」
ヤンキーみたいにドスの利いた声で言い、指をポキポキ鳴らしながら問い詰めていた。相手は危険な悪霊の筈なのに、首だけの悪霊は怯えた様子で涼を怖がっていた。
『い、言う訳ないだろ!』
声も震えているし、こうなるともはや小物臭しかしなかった。かと言って、俺と華々美で同じ事が出来るかと聞かれると答えは「ノー」である。
「さっさと吐け」
『いやなこった!例え消滅することになろうとも!』
「じゃあ、消えてもらおう。消滅したら転生する機会を失い、真っ暗な何もない世界で永遠に転生することも無く『無』になる。文字通り存在そのものがなくなるぞ」
『ひぃ!分かりました!全部吐きます!』
「それが良い。見た所、アンタだけは悪霊化していないみたいだから、まだ話が出来るという私の見立ては正しかったみたいだね。首だけになって誤魔化しているけど、私には通じない」
「「・・・・・・」」
どうやら、あの幽霊だけは悪霊ではなかったみたいだ。遠巻きから話を聞くと、どうやらあの首だけの霊は人畜無害の浮遊霊だったみたいで、この場所で悪霊に取り込まれないようにする為にそれっぽく見せていただけみたい。
涼に正体がバレてから、その浮遊霊はお札をはがされてすぐに本来の姿に戻った。こうなるもう安全なので、涼に連れられた浮遊霊は俺と華々美にも話してくれた。人畜無害の浮遊霊は日光を浴びても平気なので、連れて来ても問題なかった。
『申し訳ありませんでした!でも、あぁやって偽装しないとこの辺り一帯に住み着いている悪霊たちに取り込まれてしまうのです!』
「ああぁ・・・・」
「言われてみれば、他所では空いっぱいにいる浮遊霊どもがここでは一人もいないもんな」
華々美の言う通り、南波地区に来てから一人も浮遊霊の姿を見ていなかった。
詳しく話を聞くと、2ヶ月ほど前からゴースト団地のマンションに日本全国はもちろん、海外から悪霊や動物霊など様々な質の悪い悪霊が集まって来ているのだという。
それによって、ゴースト団地から周囲50メートル圏内は魔物になる一歩手前の悪霊達が闊歩する超危険エリアと化していた。そんなエリアにいると、力の弱い浮遊霊はあっという間に取り込まれてしまい、残った浮遊霊は取り込まれないようにする為に南波地区から逃げるか、コイツみたいに偽装して取り込まれないようにしているのだという。
「まったく。そんなに嫌なら、さっさと成仏すればいいのに」
『そんなこと言ったって、私達はこの世に未練があるから成仏せずに留まっているのです。悪霊達みたいに強い執着はありませんが、それでもまだ成仏する事が出来ないほどの未練があるのです』
「ったく・・・・」
華々美の指摘は尤もだが、それでもこの世に強い未練や後悔があるから成仏できずに留まっているから、幽霊としてさまよっているのだ。
「まぁ、私の手にかかればコイツの未練を断ち切らせて、成仏させることは可能だから何とかしてあげる。それよりも、話すべきことはこれで全部か?」
「涼?」
「どういうことだ?」
「何か引っかかるんだよな。似たような状況をつい最近も体験したから、それがここの問題と関係があるのかどうか気になって」
「つい最近って・・・・豊海トンネル!」
その言葉を聞いた瞬間、浮遊霊は顔を恐怖に歪ませながらゆっくりと語ってくれた。
『そ、そこまで知ったのなら、話は早いです。悪霊たちの間にも上下関係が存在していて、後から入ってきた悪霊達の方が圧倒的に強く、そういう強い悪霊がゴースト団地に留まっていて、前から住んでいた力の弱い悪霊は別の場所へと逃げていったのです。豊海トンネルも、そんな悪霊たちの避難先の一つです』
「そういう事か!豊海トンネルにいた悪霊達は、ゴースト団地から流れてきた悪霊に住処を追われ、ゴースト団地から逃げ出した悪霊達も新しい住みかとして豊海トンネルへと流れていったという訳か!ゴースト団地に住んでいた悪霊の方が強いから、豊海トンネルに住んでいた悪霊達はなす術もなく追い出されてしまったのか!」
「マジかよ!?」
「最悪だ!」
これで、ゴースト団地と豊海トンネルの悪霊達の関係性が分かった。
あの村で人を誘導していたのは、元々は豊海トンネルに住んでいた悪霊達であって、ゴースト団地に元々住んでいた悪霊たちによって住処を追い出されてしまったのだ。
また、現在豊海トンネルの中にいる悪霊達は元々ゴースト団地を根城にしていたのだが、日本だけでなく世界中から集まったより強い悪霊や動物霊によって追いやられ、豊海トンネルの様な他所の心霊スポットへと逃げていったという訳か。
「これは思っていた以上に厄介だ。豊海トンネルは封印したけど、他の溜まり場の事も気になるし、何よりゴースト団地を放置する事が出来なくなってしまった」
「確かに、アイツ等が更に勢力を増して、俺達の住んでいる所にまでテリトリーを拡大させていったら、大変なことになる。
「そうなる前に、この辺り一帯の悪霊達を退治しないと」
本来ならスルーすべき事案の筈が、スルー出来ない事態に変わってきたことで涼の表情が険しくなった。
「とりあえず、最低限必要な物資だけを調達して今日はもう帰りましょう。戦うにしても準備はいるし、何より私一人では無理だから青美の力も借りたい」
「そうだな。本当なら関わりたくないのだが、そういう訳にもいかなくなった」
という訳で俺達は、とりあえず最低限必要な物資だけを調達して南波地区を後にした。ついでに、情報を提供してくれた浮遊霊は涼の手によって無事に成仏する事が出来た。ただし涼曰く、こんな状況で人間への転生は厳しいだろうという事なので、あの浮遊霊は間違いなく畜生になるだろうと言った。
「涼、本気なのか?」
帰りのバスの中で、俺は前の席に座る涼に話をした。
「本音を言うのなら関わりたくもないのだが、これ以上あの異形の悪霊達をのさばらせるわけにはいかない」
「けど・・・」
「大丈夫。通常のお祓いならこっちがピンチになるけど、私は今回あそこの悪霊達を消滅させるために戦うのだ。それなら大丈夫だし、何より青美がついてくれれば後れを取ることはない。私と違ってまだ免許皆伝前だけど、それでもあそこの悪霊達にやられることはない」
「まぁ、涼がそこまで言うのなら、俺達は信じて待つだけだ」
「大丈夫だ。きちんと準備をしてから挑む。私とて、負け戦に身を投じるつもりなんて微塵もない。ちゃんと勝てる見込みがあるから、戦いに行くんだ。心配しないで」
どうやら、ちゃんとした勝ち筋が見えているみたいで、涼の表情からは不安は全く感じられずにいた。
「それより、幹夫たちには当日にやって欲しい事がある。それを帰ってから説明するわ」
「ああ。涼や空道みたいに戦うことは出来ないかもしれないけど、俺達に出来る事があったら何でも言って欲しい」
「ありがとう。だったら、一切抜かりが無いようしっかりと準備しないと。1週間もあればなんとかなるわ。それに、笠島先輩たちにも協力をお願いするわ。団地を出た異形の悪霊達は、強い力を得ても太陽の光を浴びると消滅することに変わりはないから、建物の中に入ったり日陰に入ったりしなければ大丈夫よ」
「ああ」
翌日から俺達は、南波地区の悪霊達と戦う為の準備を行った。野菜を貰っている村に行って間伐材を貰い、火を起こすための道具を調達し、南波地区に通じる道を全て調べるなどした。
そうして1週間後の快晴の日、俺達のグループと笠島先輩のグループは道具一式を持って南波地区に来ていた。




