最恐の廃墟
あれから2週間が経ち、俺と華々美と涼は再び村を訪れてあのトンネルの前まで足を運び、改めて封印を行った。
使用するのは、あの村の人たちが伐採した間伐材を加工して作ったもので、それでトンネルに蓋をするようにして建て、更に倒れないようにする為に両端に柱を埋め込んだ。そうして出来た蓋に、涼が霊封じの墨で何かを書いて封印は完了した。ちなみに、反対側は空道が行っていて、やり方はこっちと同じだった。
最後に、蓋を作る際に出た廃材を使って村の四方に大きな火を焚いて改めてこの村のお清めを行った。全て終わって帰る際に、間伐材で出来た木炭と角材を幾つか貰った。
そうして手に入った角材で畑の周囲に策を作り、木炭は将来浄水装置が使えなくなった時の為に必要となる為厳重に保管した。また、たまには外でバーベキューをするのも良いだろうという事で、それから1週間後のその日は牧場から貰ったたくさんの牛肉を使って焼肉パーティーを行った。
「うんめぇ!焼肉うめぇ!」
「久しぶりのギューうめぇ!」
「咲さん、姫香さん、はしたないですよ」
久しぶりの焼き肉にはしゃぐ咲と姫香を、年下の筈のアリアが窘めていた。しかし、はしゃぐ気持ちも分かるので今回は大目に見ることにした。
「そういえば、瑠奈の様子はどうだった?」
「姫香も友坂と面識があったのか?」
「ええ。まぁ、あたしは咲のグループに入っていなかったけど、咲を通じて仲良くなった感じよ」
「レディースのメンバーとよく仲良くできるな・・・・・」
普通なら敬遠するのだが、姫香の場合はそんなのお構いなしに純粋にクラスの友達として咲と仲良くなったという。その関係で友坂とも仲良くなったみたいだが、だからってわざわざ近づいて話しかけようとは思わないだろ。
「そんなこと言ったら、レディースのメンバーだけじゃなくヤクザの娘と親しくしている幹夫はもっとヤバいってことになるぞ」
「うっせ」
確かに、こんな現象でも起こらなかったら華々美とも仲良くしなかっただろうな。華々美の悪評はこの町でも有名だし、咲のグループもこの辺りでは結構名が知られている。
(考えてみれば、そんなヤバイ2人と一緒に暮らしているなんて)
まぁ、咲は最初トラブルを起こして一度追放したが、華々美は腹を割って話せば話は通じるしそんなに悪い奴ではない。
「そうそう。最近肌寒くなってきたから、秋服と冬服の調達もした方が良いだろう。もう10月に入るわけだし、そろそろ寒さ対策もした方が良いだろう」
「とはいえ、このところ10月に入っても暑い日は続くぞ」
「それでも、暗くなれば徐々に寒くなりますし、11月に入ってから調達しても遅いですし」
「小夏さんの言う通りだ。早いに越したことはない。霊滅版探しが更に先延ばしになってしまうが、備えを怠ると命にかかわるからな」
とはいえ、いつも物資の調達に行っているショッピングモールにはまだ冬服を売っていない。長袖の服はあるにはあるが、春用なので寒い季節には向かない。調達と言っても、各々自分の家に戻って自分の冬服や毛布を取りに行く事になる。
「あと、幹夫は納得いかないかもしれないけど、周りの家からも調達した方が良いかもしれないわ。これから住民が増えてくるかもしれないし、予備の冬服や毛布や布団はたくさん調達した方が良いわ」
「本当の意味で火事場泥棒みたいになるけど、里美の言う通りだし割り切るよ」
俺達の住んでいる町は、冬になると物凄く寒くなる。雪はそれなりに降るが、別に豪雪地帯という訳ではないのが幸いだ。だけど、それでも酷い日は0度を下回る事がある。やはり、霊滅版を探しに行く前に防寒対策はきっちりしないといけない。
そんなことを考えていると、華々美からある提案をした。
「それならば、南波地区に行ってみるのもいいぞ。あそこには大型のホームセンターがあるし、もしかしたら暖かい布団や毛布もバックヤードまだ残っているかもしれない。それに、現場作業の人が使っていそうな工具も調達した方が良いだろう。裏の山の間伐もして、土砂崩れ対策もしたい」
「・・・・そうだな。チェーンソーとかノコギリとか、鉈やヤスリや木槌も欲しいし」
何より、この町で唯一生存者の確認を行っていない地区だから丁度良いかもしれない
ただ、あの地区には避難出来そうな場所は存在せず、生存者がいる可能性はゼロだ。それ故に死霊の数もこの町で最も多いだろうし、危険だろうという事で敬遠していた所でもあった。
それに、あの地区を敬遠する理由がもう一つある。
「行くのは構わないけど、正直言って南波地区に行くのはちょっと気が引けるんだよ」
「涼の言いたいことは分かる。あの地区にはこの町最恐の廃墟があるからな」
「ええ。通称、ゴースト団地。豊海トンネルに引けを取らない最恐の心霊スポットで、たくさんの幽霊が住み着いている曰く付きの団地がある地区でもあるわ」
「ああ」
南波地区には古いマンションが4棟も密集している団地があり、幽霊の目撃情報や写真や動画を取ると幽霊が写るなど噂されており、人がいなくなってから正式名称で呼ばれたことは今までなく、俺達はあの団地を「ゴースト団地」と呼ばれていて、この町の旧下水道とは比べ物にならないくらいに危険な所だ。
そこはかつて、木材加工が盛んに行われた場所でもあり、それに比例して工具などが売られているお店がたくさんあった。町には職人や、お店の店員などがたくさん住んでいたと聞いた事があるが、バブル崩壊によって多くの企業が廃業となり、多くの失業者を出してしまった。
更に追い打ちをかけるみたいに、平成に入ってからあの辺りに住んでいた若者がどんどんこの町を離れて都会に進出ことで新たな問題、後継者不足により今では南波地区はすっかり寂れてしまった。
それにより、無人となったマンションがあの地区にはたくさんあり、取り壊されることも無いまま放置されて廃墟と化しているのだ。そして、そんな寂れた団地に何時しかたくさんの幽霊が住み着くようになり、その中でも最初に言ったゴースト団地はこの町では特に有名な最恐心霊スポットとなってしまったのだ。
涼曰く、実際に幽霊が住み着いている廃墟があるのはゴースト団地だけで、他の廃墟には幽霊は住み着いていなかったとのことだ。
「別にゴースト団地に行くわけではないのは分かるし、あの地区には今も工具や金物を売っているお店があるのも間違いない。それに、2年前にオープンした大型のホームセンターに行ければ大きな収穫もあるでしょう。けれど・・・・」
「涼の言いたいことは分かるが、今後の事を考えるとあのホームセンターに行かないわけにもいかないし、用があるのはそこだけだ。何もゴースト団地に行くわけではないのだから、用事が済んだらさっさと帰るさ」
悩む涼に、華々美がホームセンター以外に寄る所なんてないから大丈夫だと言って説得した。
両者の言い分も分かるだけに、俺達はただその成り行きを見守る事しか出来なかった。
数秒考えた後、涼は諦めたように両手を上げて華々美の意見に賛同した。
「分かった。ただし、ゴースト団地だけは絶対に寄ってはダメだ。あそこも豊海トンネルに引けを取らない危険地帯で、特にこの現象が起こっている今あの団地がどうなっているのか想像も出来ない。だから、ホームセンター以外は何処にもよらないわ」
「それでいい。元々そのつもりだったし、わたしとてそんな危ない団地に立ち寄るつもりはない。ただ、これからの事を考えるとなるべくたくさんの道具は揃えておくべきかと」
「華々美の言う通りだな。だったら、3日後に南波地区のホームセンターに行こう。あの地区に生存者はいないだろうけど、念のためにチェックをしたいからドローンも持っていこうか。出発までの間に、各々自宅に戻って自分の冬服や布団や毛布を取りに行こうか」
明日からの予定も決まり、俺達は久しぶりのバーベキューを楽しんだ後普通に風呂に入って寝た。
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それから3日経ち、俺は華々美と涼と里美と美玲の4人と一緒に南波地区に向けてバスを走らせていた。その地区にある大きいホームセンターへ行き、工具や木材、布団や毛布などを調達するのが目的だ。
「確か、1階が工具や木材、金物や畑の肥料やキャンプグッズなどが置いてあって、2階に布団や毛布や家財道具などが置かれてたんだったな」
「布団や毛布だけじゃなく、新しいカーテンや食器も欲しいですね。あと、バスタオルやハンカチも良いですね」
「そうだな。他にも洗剤や石鹸、シャンプーやリンスも調達したいな」
後ろの席に座る美玲とそんな話をしている中、前の席に座る華々美と涼はこんなことを話していた。
「ドラム缶があるといいかもしれないな。木炭もたくさん調達して、手ぬぐいと砂利も調達しよう。砂と石は屋敷の裏の山から調達できるから、それでお手製の浄水装置を作れる」
「念の為ポリタンクと野菜と果物の種もあった方が良いわね」
「チェーンソーやノコギリ、鉈や金槌や釘、それと包丁や砥石も欲しいな」
「物騒なのが多いわね・・・・まぁ、必要なのは事実だけど」
(まぁ、ドラム缶や砂利や手ぬぐいはまだしも、チェーンソーやノコギリや鉈などは確かに物騒だよな。必要なのは確かだけど)
それに、近々屋敷の近くに新しく家を建てていざという時に避難できるようにしたいと考えており、あの村に住んでいる大工さんを来年呼ぼうと思っている。まぁ、あの屋敷に泊めるわけにはいかないので、向こうで仮設住居を建ててしばらくそこに住むのだという。その為に必要な家電などの調達は必要だけど、よくこんな提案を引き受けてくれたなと思った。
それに、新しい家を建てようと思っている場所は平らにならされていて、広さも十分であった。おそらく、涼の祖父と父親はあそこに建物を建てる事を想定して予め用意してくれていたのだろう。家を建てるかどうかは、あの屋敷に避難した人たちの意思に委ねる為にあえて更地のままにしていたのだろう。
俺達なんかの為に、この日の為にたくさんの物を用意して残してくれた涼の家族にはいつも感謝しているし、頭が上がらない。
(そう考えると、エアコンや水道や家具なども近いうちに調達しないとな。問題は電気をどうするかだな)
最悪うちの屋敷と繋ぐ手もあるが、出来れば新しいソーラー発電を設置したい。出来れば電気関連の仕事が出来る人とも会って、良好な関係を築いていきたいと思っているのだが、そう簡単にはいかないだろうな。
そんなことを考えながら外を眺めていると、視線の先に件のゴースト団地が目に入った。正確に言うと、団地内にある4棟のマンションが見えたのである。
「あれがゴースト団地のマンションか。いつ見てもボロボロで不気味だな」
「幹夫、あまり見ない方が良い。近づかなければ大丈夫だと言っても、ジロジロ見ても良いものでもないわ」
「ワリィ。でも、他の廃マンションと比べるとゴースト団地にあるあの4棟がぶっちぎりにボロボロだなと思って」
「他の家を見れば分かると思うけど、人の手が離れて幽霊が住み着くとその家の劣化が加速するのよ。もちろん、あの4棟は放置されて40年近く経っているからというのもあるけど」
「そうか」
まぁ、幽霊が住み着いている以前にあの4棟は放置されてから一度も人の手が加わっておらず、劣化で外装はもちろん内装もボロボロになるのは仕方がない事なのだろう。
(とはいえ、あの4棟がとびっきり不気味な感じがするんだよな)
この地区に住む人の数が大幅に減ったとはいえ、あんなボロボロのマンションを放置するのもどうかと思う。
「そりゃ、幽霊がたくさん住み着くわけだ」
とはいえ、近づかなければ特に問題はないのでその時の俺は特に気にしなかった。
まさか、あの団地でとんでもないことが起こっているとも知らずに。
作中で最も危険で、最も恐ろしい団地が登場します。
今後も出ますので楽しみにしてください。




