救出
トンネルに入ってすぐ、俺はどう言い表せばいいのか分からないほどの怖気と、真夏とは思えないほどの寒気を感じた。それと、鼻を突くような死臭までもした。
「しかし、いくら使われなくなったからと言って灯りもないなんて」
「確かに、各々が持ってきたカンテラがないと互いの姿も見えなかったな」
「って言うか、ここマジでトンネルなのか?洞窟と言った方がしっくりくるぜ」
俺と華々美と咲は、互いに常に声を掛け合いながら前に進み、2人の先頭を歩く俺はロープから手を離さず、先頭を歩く涼の姿を見失わないようにして歩いていた。涼に至っては、ロープを腰に巻いて縛っていた。
「無理もない。バブルが崩壊してから一度も手を付けられていないからね。灯りは機能していないだろうし、お偉いさんが言うように本当に何時崩壊してもおかしくないからね」
涼の言うように、トンネル内は内装がいくつも剥がれて地面がむき出しになっている部分もあり、壁には度胸試しと称して中に入ってきた馬鹿共が書いた落書きが書かれ、床には空き缶やペットボトルが捨てられて、中には異臭を放っているものもあった。
今のところ悪霊の気配は感じられないが、だからと言って油断は出来ない。俺達は前と後ろを見て、常に互いの姿を確認しあっていた。
「そ、そういえば幹夫は、胸は大きい方が好きか?」
「なぜ今それを聞く!?」
「答えてくれよ。ちなみにあたしはCだ」
「ああぁ!?咲あんた私よりも胸が大きかったのかよ!」
「わたしはつい最近Gになった」
「普通に答えるな華々美!」
「ちなみに美玲がEで、小夏さんがDで、アリアがCだぞ」
「だから聞いてねぇって!?」
「ははは・・・・中学生にも負ける私って・・・・・」
「そんくらいにしてやれよ華々美。涼が闇落ちしそうじゃん。自分の胸が一番小さいもんだから。あ、ちなみに姫香はDだから」
「2人とももうそのくらいにしてくれ!男の俺には毒だから!」
だが、こんな感じで会話を切らさずに話し続ける事が大事だ。互いの存在を認識する上で。
「それにしても、このトンネル異様に長くないか?前にテレビで見た時はそんなに長くなかった筈だけど」
「確かに、通常の豊海トンネルは20メートルちょっとのそんなに長いトンネルではないが、この現象が起こったことで中が魔界になってしまったんだろうね」
「魔界?」
「ファンタジーとかではよく聞くが、その魔界とは別物なのか」
「まさか本当に地獄に通じているなんて言わねぇよな!?」
「そんな訳ないだろ。神社の娘が言う事ではないが、実際には地獄なんて存在しないし、同じように天国なんてものも存在しない」
「そういえば前にもそんなことを言ってたな」
涼は以前、死神は死者の魂を霊界に送り込むと言っていたな。何もない真っ白な空間へ行き、そこで魂の汚れを落として新しい生を受けると言っていた。重い罪を犯すと魂の洗浄も激しくなり、洗浄しすぎて畜生にしかならないとも言った。
霊がこの世に留まろうとするのは、この世界に強い未練と執着があるからで、それらが増幅しすぎると人に悪さをする悪霊へと成り下がるのだという。
「魔界というのは、悪霊たちが作り出した現世と隔絶した空間の事を言って、そこに生きた人間が迷い込むと外界とのつながりが絶たれてそのまま命を落とす。言うなれば、生と死の狭間の世界だね。霊が眠る所を土足で踏み込んだり、面白半分で荒らしたりすとそこに住む霊が怒ってその人間を生と死の狭間の世界、つまりこの魔界へと引き込んで二度と出られなくさせるんだ。だからこそ、幽霊がたくさんいる所には絶対に近づいてはいけない。そういう幽霊って言うのは、本当に手に負えないから祓うのはほぼ不可能なんだ」
「やっぱり心霊スポットには、面白半分で近寄ってはいけないんだな」
「そういう話を聞く度に、アイツ等バカじゃねぇのとわたしは思うのだがな」
「あたしは臆病だから、そんな所には死んでもいきたくない」
「だからさ、私も友坂を救出するなんてことが無かったらこんなトンネルに近づくなんて御免被るわ」
「ま、普通なら周りの木の間伐をして終わりだろうな」
「間伐材は今の状況では何かと役に立つから、終わったらわたし達も貰っておこうか」
「何するんだ?まさか家でも建てようなんて言うのか?」
「咲。お前さっきから声が震えてねぇか?」
「む、無理言うな!オメェ等だって気付いてんだろ!」
「だからと言って、怯えた様子を見せるな。入る前に言っただろ。怯えた様子を見せると襲ってくるって」
涼はそう言うけど、この状況で怯えるなというのが無理な話だ。何故なら、トンネルの中腹辺りに付くと同時に周りに物凄い数の霊が群がってきたからだ。今は護符やロープのお陰で無事でいるが、ちょっとでも怯えた様子を見せるか、俺達がロープを離すのを狙って虎視眈々と待っている状態だ。
「皆、ロープと互いの手を絶対に離すなよ。一瞬でも離したら二度と戻って来られなくなるから」
「こんな所に瑠奈は1人で!?」
「悪霊どもなんて無視しろ!俺達は友坂を助ける為にここに来たんだ!見つけたらすぐにここを出るぞ!」
「わたしもそれには賛成だ!こんな所に長くいたくない!」
「私もだ!流石にこの数は私でも祓いきれない!一応減らすが、殆ど意味がないからな!」
涼も宝刀を抜いて周りにいる悪霊たちを蹴散らしているが、数があまりにも多すぎるせいで全く減った気がしなかった。これではあの悪霊たちが住処を追われ、トンネルを出て危険を冒してまであの村に行こうとしたのも頷ける。
「それよりも、わたし達は友坂を探すんだ!早く助けないと、あの子だって危険だ!」
「分かってる!」
「瑠奈!何所にいるんだ!」
涼が悪霊たちの対処をしている間に、俺と華々美と咲は友坂の捜索を再開した。
(友坂の容姿って確か、黒のセミロングに赤のメッシュが入っていて、目が吊り上がっていて、両耳にピアスをたくさん着けていて、黒のチョーカーをいつも着けていて・・・・)
容姿だけを見ればかなりの美少女なのだが、性格がかなりキツくて負けん気がかなり強く、その上もの凄く頑固な性格をしているから学校でもあまりモテなかったんだよな。
何でこんなに詳しく知っているかって?それはもちろん、何を隠そう友坂瑠奈は俺の学校に通っていて、何なら1年の頃は同じクラスだった。頻繁に生徒指導室に連行されていたから、学校でもかなり有名な問題児であった。レディースのメンバーだというのは聞いた事があったが、まさか咲の率いるグループのメンバーだったとは驚きであった。
「とにかく目立つ容姿をしているから、すぐに見つかると思うんだが」
「確かに、友坂もかなりの美人だもんな」
「そんなんじゃない。確かに1年の時は同じクラスだったが、あんな派手なヤンキー女なんてお断りだ」
「瑠奈の何処が不満なんだ!?あんなに綺麗で頭いいのに!」
「あぁいう派手派手しい女は苦手なんだよ」
「幹夫は清楚系でおっぱいの大きい女が好みなんだもんな」
「ちょっと待て幹夫!お前は胸が大きい方が好きなのか!?」
「何故涼まで!?って言うか何故そこに食いつく!?」
「清楚系かはともかく、瑠奈だっておっぱいデカいぞ!」
「知るか!んなもん!」
どういう訳か、華々美からなぜか巨乳好きと思われているのだが!?確かに華々美は大きかったけど、だからと言ってそれで決めつけるのはやめて欲しい!
(第一、俺は美乳派だ!)
なんて考えても説得力はないが、そうこうしている内に目の前に木刀を持って倒れている黒髪の女の子を見つけた。その周囲には、大量の悪霊が群がっていてかなり危険だ。よく見ると、その子の髪には赤のメッシュが入っていた。
「見つけた!」
見つけてすぐに涼は、宝刀を一旦鞘に納めてから文字の書かれた石を鞄から取り出し、息を吹きかけて印を結んだそれを少女のすぐ横に軽く投げた。石が着地した瞬間、周りにいた悪霊達が悲鳴を上げてその石から逃げていった。
「ううぅ・・・・誰?」
石が投げられる音に反応し、女の子がゆっくりと起き上がった。俺達が探していた友坂瑠奈で間違いなかった。生きているみたいで本当に良かった。
「瑠奈!」
「待て!」
すぐに駆け出そうとする咲を、華々美が手を引いて強引に止めた。
友坂が意識を取り戻してすぐ、涼が彼女の手を強く引き、強引に背負って踵を返した。
「長居は無用!早くここから出るぞ!」
涼の掛け声と共に、俺達は来た道を辿ってトンネルから出る為に走り出した。今度は最後尾にいた咲を先頭に、俺が涼の手を握ってロープを辿りながら出口を目指した。霊封じの墨が塗られているおかげで悪霊たちは、ロープはもちろんその近くにいる俺達に近づけないでいた。だが、中にはそれでも俺達に近づいて憑依しようとしてくる悪霊もいたが、ポケットに入れていた護符のお陰で憑かれないで済んだ。
「村に戻る前に、一度お祓いをした方が良い!それと、トンネルの入り口を厳重封印した方が良い!こっち側はもちろん、私達のいる町に通じる方も!これ以上悪霊どもが入って来ないようにしたいし、この中にいる悪霊どもを封印しておきたい!多少無茶をすれば祓えなくもないと思うが、今こんな所で使うべきではない!昨夜言ったように近づきさえしなければ危険はない!」
確かに、いざという時に力は温存しておくべきだし、ここの悪霊達みたいに近づきさえしなければ大丈夫という奴等の為に、涼に無理をしてほしくない。
(2~3日休めば完全復活するらしいが、その間に危険が迫る可能性だってある。今はまだ、涼に無理をしてほしくない)
力の向上は行っているが、だからと言って無理をしてまで戦ってほしくない。今はまだ、その時ではないと思う。
その後、どのくらい走ったか分からないがようやくトンネルの出口に到達し、俺達は最後の力を振り絞ってトンネルを出た。
そんな俺達を追いかけて悪霊たちが出てこようとしたが、涼が文字の書かれた石を投げ入れたことで防ぐ事が出来た。
それから涼は、友坂を一旦俺に預けると鞄から塩と小皿を取り出して、小皿の上に塩を高く積んで固めて盛り塩を2つ作った。その盛り塩を、トンネルの両端に置いた。
「盛り塩には、霊から守る結界の役目があると同時に、中にいる霊を閉じ込める効果もある。一旦これで閉じ込めておいて、後日改めて封印を施す」
盛り塩を設置した後、俺と華々美、咲と友坂の4人は改めてお祓いを受けた。涼も自分自身に術をかけ、霊に憑依されないようにしてから俺達は帰路に就いた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
それから半日ほど経ち、村で看病を受けていた友坂が目を覚まして俺達は改めて彼女と話した。
「長い間あの中に閉じ込められていたとは思っていたけど、まさか2日も入っていたなんて・・・・・」
たくさん生気を吸われたせいか、少し陰鬱そうにしていて、声にも覇気は感じられなかった。涼が言うには、この程度ならたくさんご飯を食べてたくさん眠って、たくさん日の光を浴びれば1週間ほどで回復するそうだ。
「あの時、まだ小さかった子供が攫われそうになったのを見て、私は思わずその子の前に立って守った。そして、また同じようなことが起こらないように懲らしめに行ったんだけど、結局捕まって長い間あの中に閉じ込められて出られなくなってしまったんだ」
「まったく、無謀にもほどがあるぞ」
これも涼から聞いたが、もしもあの時助けられなかったら友坂は確実に死んでいたのだという。
「まぁ、あのトンネルは私と青美が封印するけど、これ以上この村の周辺に霊が寄り付かないようにする為にも、この辺り一帯の間伐はした方が良いです。森に日の光が差し込めば死霊たちは寄り付きません、土砂災害の危険性も軽減されます」
「分かりました。村の者に相談して、成長しすぎた木と老木を中心に伐採していきます。丁度木材が不足していましたし、人が増えたので新しい家も建てたいと思っていましたので丁度良かったです。余った間伐材は、薪や木炭にしてそちらにも分けます」
「ありがとうございます」
馬場村長との話を終え、涼は俺達の所に戻ってすぐに帰り支度を始めた。
「さて、用事も済んだし帰るわよ」
「ああ」
「皆を待たせているからな」
「私は体中が痛いわ。待っている間に農作業を手伝ったけど、全身が筋肉痛になるわ」
そうして皆が帰り支度をしている中、咲だけが友坂の隣に座って告げた。
「ワリィ。あたしはしばらくこの村に残るよ。瑠奈の事が心配だし、瑠奈がちゃんと回復するまでは傍にいたいんだ」
「咲」
友達が心配みたいで、咲はしばらくこの村に泊まって友坂の面倒を見たいと言った。
「・・・・・分かった。ただし、1週間だけだ。その間に友坂も回復するだろうし、その間だけ傍にいてあげて」
正直言って、咲に抜けられるのは困る。
俺達が住んでいる地域には、男所帯で独裁政治を行っているグループが2つ存在する。今の所はお互いに不干渉を貫いているが、何時アイツ等が奇襲を仕掛けてくるかも分からない。そんなときに、喧嘩の強い華々美と咲は大きな戦力になる。その中でも咲は、レディース時代でもかなり喧嘩も強くて、成人男性相手でも引けを取らないくらいだ。
そんな咲に抜けられると今後遠出が出来なくなり、霊滅板を探しに行く事も出来なくなってしまう。
「咲がいてくれないと、俺達も安心して外出が出来ない。あの2つのグループがいつ奇襲を仕掛けてきてもおかしくないから、喧嘩の強い咲に留守番を任せて守ってもらわないと安心できないんだ」
「分かってる。1週間後には帰るから」
「約束だぞ」
1週間遠出を控える事になるが、それでも友人を心配する咲の気持ちも分からなくもない為、遅い夏休みを貰ったと思って俺達は咲を残して村を後にした。
その後、屋敷に戻った里美が筋肉痛で倒れたのは言うまでもない。




