グリムスの封印
それからあっという間に日没になり、俺達はそれぞれ配置についてグリムスの登場に備えた。
他の皆が壁際で待機している中、俺は涼と空道と一緒に華々美の近くで待機していた。
「これを持って。魔除けの護符だ、幹夫と華々美に持っていて欲しい。これがあれば、魂が肉体から引き剝がされることはない」
そういって涼は、俺と華々美に薄い木製の板を渡された。サイズは涼が普段使っているお札の半分くらいの長さで、板にはお札にも書いているぐにゃぐにゃの文字が書かれていた。
「ありがとう」
「ありがとう。これで安心してアイツに近づける」
「ただし、この2枚しか用意できなかったから失くしたり、落としたりしないように」
「「分かった」」
受け取った護符をポケットに入れ、俺達はグリムスに備えた。
その時は、すぐに訪れた。
何の前触れもなくグリムスは、昨夜と同じようにドアの前に立って姿を現した。ただ、昨夜と違う所があるとしたらロープがボロボロになっていて、涼に斬り落とされた両腕が無くなっていたことくらいだ。
「やはり来たか。ま、獲物だけでなく自分の両腕もあれば来ないわけがないか」
「両腕?」
「ああ」
「昨夜涼ちゃんが斬り落としたグリムスの両腕が、カラカラのミイラになってあの場に落ちていてね、それを昼間の準備の時に石棺の中に入れたのです」
空道に促されるまま下を見ると、確かに石棺の中にカラカラに干からびた真っ黒い両腕が入れられていた。しかも、涼が書いたであろう文字がぎっしりと書かれていた。そのお陰か、腕が動くことはなかった。
「両腕がなければ思うように魂は取れないし、その間に出来るだけ攻撃して注意を向ける!」
「うん!」
涼と空道は、ほぼ同時に前に出てグリムスに攻撃を仕掛けた。昨夜と同じように、空道は念力を使った術で、涼は肉弾戦で攻撃を行っていた。
『小娘共が、また私の邪魔をして!』
「何度だって邪魔するさ!それが私の役目なんだから!」
『陰陽師ごときが、死神に楯突く気か!』
「生きた人間を襲うようになった貴様は、もう死神でも何でもない!」
『ほざけ!そもそもお前、何故この私に攻撃が出来る!何故私に触れられる!?』
「教える訳ねぇだろ!」
何て言っているが、その理由は涼の靴と両手に霊封じの墨で印が書かれているからだ。それによって涼は、グリムスに肉弾戦で応戦する事が出来るのである。ちなみに、昨夜俺がグリムスに蹴りを入れようとした時、俺の足はグリムスの身体をすり抜けていたそうだ。必死だったから、蹴った感触があったのかどうかなんて分からなかったので初めて知った。
『小癪な!ちょこまかちょこまかと!腕さえあれば!』
「さあぁ、貴様の両腕は何処にあるのやら」
『どボケるな!私の腕を返せ!』
華々美だけでなく、斬り落とされた両腕も取り戻すために躍起になっている様子で、攻撃を加えている涼と空道の事しか見えていない様子であった。
(だがお陰で、近づく事が出来た)
グリムスが完全に2人に気を取られている間に、俺はグリムスの背後へとゆっくり近づき、墨が塗られて真っ黒のロープをグリムスの首にかけた。
『うっ!?・・・小僧!いつの間に!?』
「頭に血が上り過ぎて、2人に気を取られ過ぎなんだよ!」
「そういう事だ!」
グリムスが俺に気付いた瞬間、涼は隠し持っていたロープでグリムスの身体を縛り、アクションスターさながらの動きでグリムスを縛り上げて言った。
そうして動けなくなったところを、背中を踏みつけて強引に地面にねじ伏せさせた。
「今だ!」
涼の合図を聞き、壁際に待機していたメンバーのうち、笠島先輩と鈴原さん、幸城さんと仲崎君、そして優希の5人がロウソク立てに刺したロウソクを持って前に出た。流れる動作で5人は定位置に付き、持っていたロウソク立てを床に置いた。
その瞬間、ロウソクが光り出し、その光がロウソク同士を結び大きな五芒星を形成させた。
『まさか!?か、身体が!・・・・』
動けないうえに、身体から力が抜けていっている今のグリムスに抵抗する力は残っておらず、涼に踏みつけられるだけであった。
最初の5人が壁際まで下がった後、次にロウソクを持った5人、里美と咲、美玲とアリア、そして小夏さんが前に出てきて、五芒星の内側に入ってきた。
それに気付いたグリムスは、スッと目線を華々美に向けた。
『このまま封印されてたまるか!』
次の瞬間、グリムスは大きく口を開けて大きく息を吸い込んできたが、それと同時に華々美の身体から半透明の白い何かが出てきそうになっていた。それが出かかると、華々美は急に苦しそうに顔を歪ませていた。
一目見た瞬間、グリムスが何をしようとしているのかすぐに分かった。
「させるか!」
効果があるのかどうか分からないけど、俺は手に持っていたロープをグリムスの大きく開かれた口を巻いて強引に塞いだ。そのお陰なのか、半透明の何かは華々美の身体に戻り、呼吸は荒かったが容態は落ち着いた様子であった。
『んん!?』
悔しそうに声を荒げるグリムスに、涼は更に強く背中を踏みつけた。
その間に5人は、指定された場所にロウソクを置いた。その瞬間、先程と同じようにロウソクが光り、その光が五芒星を描いた。
『わああああああああああああ!』
断末魔にも似た悲鳴を上げ、グリムスの身体は渦を巻くように穴の中の石棺に吸い寄せられ、全身が入った瞬間に横に置いてあった蓋が宙に浮き、ゴンッと大きな音を立てて閉まった。
「まだ終わってない!ロープで棺を縛って!その後土をかけて埋めるんだ!」
俺の掛け声と共に、涼と空道は穴の中に入ってロープで石棺を縛った。最後に、土をかけて穴を埋めた。
「華々美?」
「大丈夫だ・・・護符のお陰で魂を食われずに済んだ・・・・」
「よかった・・・・」
華々美の持っていた護符は真っ二つに割れていたが、そのお陰で華々美は魂を取られずに済んだ。華々美の無事な姿を見て、俺も他の皆もホッと胸をなでおろしていた。
そして、グリムスが入っている棺が埋まっている地面とその周りを笠島先輩たちが調達したコンクリートで固めた。今後グリムスが、二度と復活しないようにする為に。
「ふぅ~終わった・・・・・」
グリムスの封印は終わり、俺達は全員疲労からなのかその場に倒れこむように眠りに就いた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
その頃、教会の外で
『ようやくグリムスを封印できたか。地中深く棺が埋まっていれば、今後二度と蘇る事はないだろう。この下には、あの下水道が通っていない。地盤沈下の心配もない』
涼と青美にグリムスの情報を与えた死神が、教会の窓から床で雑魚寝をしている幹夫たちを見てホッと胸をなでおろしていた。
『これで我々も、亡者共の回収に精が出る。だが、この現象の元凶を解決しない限り終わりはない』
そう呟いた後、死神は西側に視線を向けた。
『私に出来る事はここまでだ。あとはあの男に任せる。あの男にはとても強力で強い守護霊が憑いているから、万が一の事が起こっても大丈夫だろう』
『だからと言って、大切な孫を危険な目に遭わせるわけがないでしょ』
突然声をかけられた死神は、勢いよく声のした方を向くと真っ白い服を着た老婆が立っていて、真っ白いオーラを全身からはなっていた。
『なるほど。あなたは彼の祖母』
『ええ。死んだ後も私は、幹夫の事が心配でずっと見守っているわ。この現象が起こる前日も、あの子にこの事をそれとなく伝えたお陰で、こうして今も生きてくれて本当に良かった』
『その深い愛情が、彼に強い運を与えたんだろう。まるでご都合主義だな』
『幹夫を守る為なら、私は何だって出来るわ。あんたに喧嘩を売ることだってできる』
『勘弁してください。いくら私でも、あなたの様な守護霊に喧嘩を売ってただではすみません。それに、彼とその周りにいる人たちはすぐに寿命を迎える事はないので何もしません。向こうがちょっかいをかけてきたらその限りではありませんが、向こうには陰陽師がいますのでそんなバカな事はしません。見かけても無視するでしょうし』
必死で弁解する死神に、幹夫の守護霊は腰に手を当てながら睨みつけていた。
『まぁ、彼にはあの洞窟に行って欲しいとは思っているけど』
『まさか、幹夫にあれを見つけさせる気か』
『私は立場上それが出来ないから、彼にやってもらわないと困る。彼自身も、この現象の解決に向けて本格的に動くだろうから、いずれあれを見つけてくれるだろう。あれがあれば、この現象を解決し、終わらせる事が出来る』
『・・・・確かに、幹夫ならいずれあれを見つけるでしょう。でも、私は幹夫の安全を最優先にするからすぐに見つける事はないでしょう。もちろん、あれが今何処にあるのか分からないというのもあるけど』
『それでも構わない。私が彼等にしてやれることはないが、彼等の健闘を陰ながら祈る』
『陰だけに?』
『その冗談は笑えませんのでやめてください』
その言葉を最後に、死神は何処かに去っていった。
『とはいえ、この現象を早く何とかしてほしいのも分かる。あまり時間をかけすぎると、亡者たちの悪霊化が進んでしまう。この町の地下にいる悪霊と、ゴースト団地に住んでいる悪霊達も、更に手が付けられなくなる。特にゴースト団地は。どうしたものか』
幹夫には危険な目に遭ってほしくないが、この現象の解決してほしいと思っているのも事実。このままずるずると長引かせると、死霊たちの悪霊化が進んでしまいあの屋敷にも容易に入り込んでしまう。
『無理はしてほしくないけど、幹夫の意志を無視してまであれから遠ざけさせるわけにもいかない。いずれあれを見つけさせる必要があるでしょう』
幹夫がこの現象の解決を考えているのを知っているだけに、守護霊はそっと幹夫に近づいて優しく頭を撫でてあげた。
「無理だけはしないでね」




