↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/125

再戦準備

 無事に夜明けを迎えた俺達は、再びグリムスが来た時に備えて準備を改めて整えた。幸いなことに、あの後グリムスが再び現れる事はなかった。

 あの時、里美と咲と美玲の3人が窓から投げたのは草刈り用の鎌であった。涼曰く、死神は鉄に惹かれる傾向があるそうだ。グリムスが鎌に気を取られている隙に、前に夢の中で怨霊化した優希に使った術を使って遠くへ吹っ飛ばしたそうだ。

 その後で、折檻を終えた空道をワゴンから出して封印の手順を説明した。同時に、もう二度と勝手な行動をさせないと笠島先輩に約束させられ、心身共に参った様子であった。


「その後、空道の様子は?」

「すっかり大人しくなっています。笠島先輩に相当怒られたみたいですし、武谷先輩や瀧倉先輩からも引っ叩かれましたのでかなり参っています」

「自業自得だ」

「落ち着いてください」


 改めて準備を終えた俺は、仲崎君と幸城さんと一緒に食料の調達の為に少し遠出をしていた。華々美の傍には涼が付いているが、昨日とは打って変わって怯えた様子であったという。


「まぁ、藤波さんを危険な目に遭わせたんですから、武谷君が怒るのも分かるし、私達も青美ちゃんのワガママと独り善がりにはいつも参っていましたので」

「一応笠島先輩の言う事には逆らえないことになっていますし、武谷先輩たちが来る前は本当に大人しくしていたのです。でも、グリムスが出没するようになってから空道さん、いろんな手を使ってグリムスを撃退しようとしたけど悉(ことごと)く失敗して・・・・・」

「それでも反省せず、しまいには昨夜の様な暴走を引き起こしたという訳か。迷惑な話だ」


 大方、自分しか避難した人たちを助けられないと感じ、今度こそ皆の役に立ちたいという空道の暴走に繋がったのだろう。

 だけど、そんなことをされても有難迷惑という物だ。


「一緒に過ごして分かったんだけど、青美ちゃんって思い込みだけで突っ走ってしまう傾向があって、その上自分の力を過大評価しがちな所もあったのです。今回はかなり酷かったですけど」

「流石の笠島先輩もかなり怒っていて、昨夜は物凄い説教を食らっていたみたいで、反省させる為にワゴンに閉じ込めたのです」

「あの時の空道、目を真っ赤にしていたし目の周りも腫れていたもんな」


 確かに、空道の力も強かったしあまり武器を使わない念力メインの術を得意としていて、涼とは違った陰陽術を使って驚いた。

 だが、そんな術が使えるからと言って必ず誰かを守れるという訳ではない。涼もそれは理解しているから、あの悪霊の一件から自分の力不足を自覚して修行を再開した。自分の力が絶対ではないことを、涼はしっかり理解しているのだ。

 しかしあの女は、自分の力が絶対で、それがあれば皆を必ず守れると勘違いしていた。自分の力を過大評価していて、その力があれば守れない命なんてないと強く思い込んでいるのが、昨夜のグリムスとの対峙が物語っていた。


「今回の事で自分の力が絶対ではないことを自覚し、反省してほしいものです」

「自分の力の事はともかく、青美ちゃんのあのお花畑思考はそう簡単には治らないと思います」


 今回の事をきっかけに精進することを期待する仲崎君と、力不足を自覚しても元の性格までは治らないだろうと考える幸城さん。幸城さんは、空道に対して少々辛辣であまりいい感情を抱いていない様子であった。


「幸城さんはあの女の事があまり好きじゃないみたいだな」

「そうですね。私の道明を誑かそうとして、鈴原さんや他の女と関係を持たせようとしたから!」

「そういえば、鈴原さんや他にも2人が中学生以上の男子とすることで不満を軽減させているって聞いたな」

「ええ!そうよ!」


 それから幸城さんは、溜まっていた不満を一気に爆発させた。それにより丁寧語で話さなくなり、少々乱暴な言葉も出てきた。


「確かに、鈴原さん達のお陰で男子たちの欲求不満を解消させる事が出来たわ!でも、だからと言って相手の意思までも無視するのは間違っているわ!あんなアバズレ共に、私の道明を渡したくなかった!だから私は名乗り出たの!道明が他の女とするのが耐えられなくて!そのお陰で、それ以降は道明が誘われることはなくなったけど、あの時は本当に腹が立ったわ!」

「茅音」

「仲崎君は、幸城さん以外の女子とするつもりはなかったって聞いたけど」

「ええそうよ!道明が拒んでいるのに、青美ちゃんは何を血迷ったのか、自分か鈴原さんとした方が良いって説得するという訳の分からない行動を取ったのよ!あそこの女どもはどいつもこいつもクソビッチばかりよ!」


 怒りのあまり言葉選びがまともに出来ず、口調も荒っぽくなっていく幸城さん。だから幸城さんは、自分が仲崎君とするんだと名乗りを上げる事で、仲崎君が他の女に襲われるのを防いでいたのか。


「断っておくけど、私は嫌々道明に抱かれてなんかないわ!道明との子供なら産めるし、むしろ望んでいるくらいよ!でも、いくら道明が拒んでも、あいつ等は何かとつけて不満はないかと聞いてきて、本当に腹が立った!私の道明なのに、勝手に手を出さないで欲しいわ!」


 ハッキリと「私の道明」と言い切るくらい、幸城さんは仲崎君の事をとても愛しているのが伝わった。だからこそ、最愛の彼氏が他の女に迫られているのが許せないのだろう。仲崎君自身は拒んでいるみたいだけど、向こうが諦めていないようでは不安になるのは当然だ。その時は、幸城さんが仲崎君の相手をすることで何とか諦めてくれたけど、当時の幸城さんからしたら気が気じゃなかっただろうな。

 そんな幸城さんの気持ちを聞いた仲崎君は、そっと彼女に近づいて優しく抱き締めてあげた。


「ごめんね。僕がもっとハッキリと拒んでいれば」

「ううん。道明はハッキリと拒絶していたわ。でも、あいつ等はそれでも迫ったから・・・・・」


 やがて涙を流し、最愛の彼氏の胸の中で泣き叫ぶ幸城さん。そんな彼女を、仲崎君は落ち着くまで優しく頭を撫でてあげた。


(フリーの男子からすれば喜ばしいことでも、彼女持ちでその子に本気で惚れている男子からすれば迷惑でしかない。視点を変えてみるだけでこんなにも違うんだな)


 向こうはグループの為に貢献していると認識しているけど、仲崎君みたいに望んでいない男子にとっては男に飢えている腐れビッチに見えるのだろう。


(どちらかが間違っていて、どちらかが正しいなんて一概に言えない難しい問題だな)


 笠島先輩も、きっとこの難しい問題に頭を抱えているのだろう。つくづく思う、何でこんな出来た兄がいてあんな横暴の弟が出来るのだろうか?

 その後、ようやく落ち着いた幸城さんと仲崎君は俺に謝罪をし、改めて食料の調達を行った。少し遠出してまで手に入れたのが、缶詰とミネラルウォーターとカップ麺だけだったがそれは仕方がない。

 電気が使えなくなってしまった今、ナマ物はもちろん、冷蔵や冷凍が必要な物もダメになってしまっているし、飲み物はまだ大丈夫でも衛生面を考慮してミネラルウォーターの方が良いと思った為だ。

 戻ってすぐに、俺達は昼食を取った。笠島先輩が昨日調達したお鍋とガスコンロのお陰で、俺達がとってきたミネラルウォーターでお湯を沸かす事が出来た。お湯が沸かせたお陰で、俺達はカップ麺を食べる事が出来た。

 だが、食事の間も華々美はずっと怯えた様子で周囲を見渡していた。いつも自信満々で、堂々としていた彼女にしては珍しい行動に同じ学校に通っていた幸城さんはもちろん、他の皆も戸惑った様子であった。


(流石に虚勢を張る事も出来ないか)


 怖いと思う事は多々あっても、明確に自分の命が狙われるなんて今までなかったから、虚勢を張るだけの元気が湧かないのだろう。それも、死霊や敵対勢力ではなく死神の様な銃も普通の刀も拳も通用しない得体の知れない存在に。

 食べ終わってすぐ、俺は華々美を連れて教会の近くにある民家にお邪魔して、今にあるソファーに座って2人きりで話すことにした。


「何処を見ても、死霊どもはいないな」

「ああ。死神が、この世に留まっている魂を回収してくれているおかげで、死神を恐れた死霊たちがこの地区から離れたんだろう。まぁ、それが死神の本来の役目なんだろうけど」

「そうだったな。グリムスが例外なんだよな」


 口調はいつも通りなのだが、声は震えているしいつもの覇気も感じられない。やはり怯えているのだ。


「涼が里美にお願いして、屋敷に戻って道具とあと3人誰かを連れてくるようにお願いしている。今夜こそ、アイツを封印してみせる。あの女も、笠島先輩にこっ酷く叱られたことで凹みまくっているみたいだし、昨夜みたいに暴走することはないだろう」

「あいつの攻撃だけじゃなく、涼の攻撃も効いていなかったんだから、あれはもう勘弁してほしい」

「そうだな」


 今の俺が、こんなに怯える華々美に何をしてあげられるのか分からないし、付き合ってもいない女子に触ってはいけないのかもしれないが、それ以上何も思い浮かばなかった俺はそっと華々美の肩を抱き寄せた。


(普通ならぶん殴られるか、セクハラだと騒がれる事案なのに、俺は何をやってんだ!)


 今更後悔する俺だが、華々美はそっと俺に身体を寄せてきた。その身体はとても震えていて、顔は見えなかったが今にも泣きそうな顔をしているのは嗚咽が聞こえる事から想像がつく。


「華々美」

「・・・ギュッとしてくれ・・・・怖くて仕方ないんだ・・・・こんなに怖いって思ったのは、初めてだ・・・・・」

「・・・・・そうか」


 要望通りに抱きしめてあげると、その身体はとてもか細く、少しでも力を入れると壊れてしまいそうであった。身長は平均より少し高いが、こうして抱き締めるととても小さく感じた。相変わらず硝煙の臭いがして、女の子らしい匂いとは無縁ではあるがそれもまた彼女らしいと思い特に気にならなかった。


(いくら普段虚勢を張っていても、やはりまだ16歳の女の子なんだな。いや、明日誕生日を迎えるって言ってたから17歳になるのか。屋敷に避難したメンバーの中では、俺や里美の次の3番目になるな)


 ちなみに、一番誕生日が遅いのは涼で3月31日生まれなのだそうだ。


「華々美」

「ん?」

「お前は明日どうしてほしい?」

「明日?」

「ああ。お前の17歳の誕生日に」

「あ、そうか。明日は、8月29日はわたしの誕生日。覚えてくれたのか」

「お前だけじゃない。皆の誕生日も覚えてるぞ」

「そこはわたしだけと言って欲しかったぞ」


 嬉しそうに顔を上げた華々美の目からは、やはり涙が流れていた。


「こんな状況じゃまともなお祝いは出来ないし、ケーキも豪華な料理も用意してあげられない。それでも、明日は華々美の17歳の誕生日を祝いたいんだ」

「幹夫」

「だから・・・・」


 次の言葉を発する前に、俺は華々美の両肩を掴んで彼女の正面を向いた。


「絶対に生きよう。俺なんかが華々美にあげられるものなんてないが、それでも明日はお前の誕生日を祝いたいんだ」

「幹夫・・・・ええ。絶対に、生き延びる」

「ああ、俺も華々美を守ってみせる」

「ありがとう」


 お礼を言うと華々美は、また涙を流したがこれは決して恐怖からくる涙ではなく、嬉しくて感極まって流れた涙なのだと分かった。


(本当に綺麗だ)


 今夜何としても、華々美を守り、グリムスを封印してみせる。明日の華々美の誕生日を、無事に迎えられるように。

 それからしばらく俺は、華々美が落ち着くまでギュッと抱き締め、頭を撫でてあげ、民家を後にしたのは日没の1時間前であった。


「すまない、こんなギリギリの時間まで」

「いいよ。華々美も、ようやく落ち着いたみたいだね」

「ああ。それで、今回はどうするんだ?」


 ようやく落ち着きを取り戻し、いつもの調子に戻った華々美に、涼は里美が連れてきた小夏さんから黒色のロープを受け取った。今回手伝いに来てくれたのは、小夏さんと優希とアリアであった。


「このロープには霊封じの墨を塗って染み込ませてある。この墨は、私が普段使っているお札に使っている墨で、死霊や悪霊どもには絶大な効果を発揮するほどの強い力を宿しているんだ。これでグリムスを拘束して動けなくさせてから、他の皆で外の五芒星と中の五芒星を描いてもらう」

「その為の私達なんだね」


 小夏さんの言葉に、涼はうんと頷いて見せた。


「昨夜の一件で、私と幹夫と青美もグリムスに完全に存在を認知されてしまった。そんな私達が五芒星を描こうとしてもすぐにバレて襲われる」

「だったらいっそ、俺と涼と空道でグリムスを牽制しつつ、そのロープでアイツを縛って動けなくさせるんだな」

「うん。私や青美はともかく、幹夫まで巻き込んでしまった事は申し訳ないし、華々美にはまたおとり役を任せてしまって申し訳ない。そもそも、霊封じの墨がグリムスに効くとは思えないが、何の効力もないただのロープよりは効果はあるだろう」

「構わない。少しでも可能性があるのなら、とことん使うまでだ」

「ありがとう。話を戻すけど、華々美には昨日と同じように穴の前に立ってグリムスの注意を引いて。アイツの執念深さは筋金入りで、狙った獲物の魂を狩るまでは執拗に狙うし、取るまではその相手しか見えない所がある。私や幹夫や青美みたいに、存在を認識されない限りは狙われる心配はない」


 涼の説明に、五芒星を描くメンバーはコクッと黙って頷いて見せた。


「入ってきた瞬間に、私と青美で奴の気を引き、その隙に幹夫が背後からアイツの首にロープをかけて。かけたら私の名前を叫んで、そしたらすぐに私と青美が駆けつけて、改めてグリムスを縛り上げて動きを封じる。幹夫にも手伝ってもらうけど、大丈夫そうか」

「無茶でもやる。華々美を助ける為だ」

「ありがとう。そうして奴の動きを止めている間に、他の皆は火の点いたロウソクを指定された場所に置いて欲しい。それで五芒星は自動的に描かれる。外側の五芒星でグリムスの力を封じ、内側の五芒星でグリムスを石棺の中に入れて閉じ込める事が出来る。これはとにかく、スピードと正確さが問われる。チャンスは一度きりだ」


 チャンスはこの一度きり、涼のその言葉に全員が一斉に気を引き締めた


(おそらくこれが、グリムスを封印する最後のチャンス。失敗は許されない)


 昨夜は空道の暴走のせいで失敗したが、今度こそは絶対に封印してみせる。

 そう俺は、固く誓うのであった。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。