封印に向けて
朝からちょっと精神的に参ってしまったが、俺達はワゴンに乗って空道神社を出た。メンバーは俺と華々美と涼、咲と美玲と里美の6人に加えて、空道さんと笠島先輩と仲崎君、幸城さんと鈴原さんの5人も乗ったものだから、流石の大型ワゴンの車内はギュウギュウとなった。定員オーバーである。
その道中で俺達は、グリムスの封印に必要な道具を調達してきた。
「というか、本当にこんなもんでいいのか?チャッカマンとロウソクとロウソク立てと、ロープとシャベルって・・・・・」
「言ったろ、とても簡単だって」
「確かに、俺達でも出来るけど・・・・・なんでそんなにぴったりくっ付いてんだ?華々美もそうだけど」
「幹夫が傍にいてくれるとわたしは安心するんだから」
「あんたね!仕方ないでしょ!ギュウギュウなんだから!」
「言いたいことは分かるけど・・・・・・」
車内がギュウギュウなのは仕方ないと思う。このワゴンは定員が10人のところ、今回は11人も乗っているのだ。1人多いだけでかなり窮屈になる。
そんな中、右側には華々美が、左側には涼がピタリと張り付くように座っていて、2人の柔らかい胸が身体に押し付けられいた。
(チキショウ!こんな事なら助手席乗ればよかった!)
現在助手席には笠島先輩が座っていて、運転席には里美が座っていた。この中で免許を持っているの里美だけだから、里美が運転席に座るのはまだ分かる。
だけど、笠島先輩は必要な時以外は女性には絶対に触れないという、訳の分からない信念により助手席に座ることになった。
その結果、俺と仲崎君は女子と密着しながら座る羽目になった。いや、仲崎君は角の席に座り、その隣には彼女である幸城さんが座って密着しているのだからまだいい。だってこの2人は交際しているのだから。
(だけど、こっちは違う!俺達は別に付き合っている訳でも何でもない!確かに、他のメンバーよりも親密ではあるがそれでも付き合っている訳ではない!)
余計なことを考えてしまうが、今はグリムスを封印する方法を考えないといけない。というか、そうしないと俺の理性が持たない!
涼から聞いた封印方法は、グリムスをかつて封印してあった棺の近くまで誘導し、その周りに火の点いたロウソクを5ヶ所、五芒星を描くようにして置く。そうすることでグリムスの力を弱らせ、弱ったところに更にその内側に同じようにロウソクを5ヶ所、先程と同じように五芒星を描くように置くことで、グリムスを棺の中に入れる事が出来る。入った瞬間に蓋が自動的に閉まるので、閉まったらすぐに地中深く埋めるのだという。
手順としては確かに簡単だが、問題は棺を埋める穴をどうするかであるが、その穴は昨夜涼と青美に情報を与えた死神が掘ってくれるというのでそこは大丈夫だ。
だが、本当の問題は2つあって、一つは2回目のロウソクを置くときである。いくら力が弱っていても、相手の魂を抜く力は健在である為近づきすぎると魂を抜かれる危険性がある。
そしてもう一つが、グリムスをおびき寄せる為に華々美には棺の傍で待機しなくてはいけないという事だ。当たり前だが、タイミングが遅れれば華々美の魂は奪われてしまうし、その後は俺達にも危険が及ぶ。なのでこの封印はスピードが命なのである。
(グリムスが活発に活動するのは夜。日中も活動するけど、夜程活発ではない。が、常にターゲットである華々美の行方を追っている。今も華々美を狙って、何処かで見ている可能性がある)
なので、グリムスの封印は夜に行われることになる。最近は暗くなるのも早く、まだ8月とはいえ夜の時間も徐々に長くなりつつある。
その分、準備する時間も短くなる。救いがあるとしたら、準備にそんなに時間がかからないという事だろう。その代り、危険と隣り合わせの封印になる事は間違いない。
(だが、それでも華々美を助ける為にもやらなければいけない)
神社から出て10分程で、俺達は目的の教会に到着した。
パッと見は普通の教会なのだが、中に入るとそこには異質な光景が広がっていた。
「なんだ、これは・・・・・」
「おそらく、ここに避難してきた人がグリムスの最初の犠牲者になったんだろう。避難してきた人の誰かが、遊び半分でグリムスが封印されていた棺を開いてしまったのでしょう」
「なんてことを」
中に入ると、グリムスの犠牲者と思わしき人の遺体がたくさん転がっていた。遺体からは腐敗臭が漂い、祭壇の奥には蓋の空いた黒色の棺が置かれていた。おそらく、あの棺の中にグリムスが封印されていたのだろう。その棺の近くには、髪を金髪に染めていて服装からいかにもチャラそうな外見をしていそうな男が3人倒れていた。
涼に限らず、誰もがこの状況を見ただけで何故封印が解けたのかが分かった。
「他にストレスを発散させる方法がなかったんでしょう。遺体を見る限り、全員男子っぽいから」
「鈴原。それ以上は言うな」
「・・・・すみません、会長」
笠島先輩に窘められた黙り込む鈴原だが、俺は鈴原の予想は正しいと思う。
避難生活というのは、現代っ子にとっては窮屈でしかないもの。特に今は。
まず、娯楽が存在しない。毎日同じことのルーティンを繰り返しても、当然のことながら飽きが来る。自由に遊ぶ事が出来なくなり、夜も自由に出歩けなくなればおのずと不満は溜まっていくもの。
二つ目は、美味しいものをお腹いっぱい食べられなくなった。非常食や保存食というものは、言いたくはないけどあまり美味しくない。カップ麺にしろ、食べれなくないけどこれは物凄く美味しいという物は殆どなく、ゆえに食べ飽きてしまう。乾パンは味気ないし、肉や魚などのナマ物はすぐに腐って食べられなくなってしまう。
そして三つ目が、電気が使えない。それはつい最近の出来事なのだが、発電所が爆発してしまった事でそれまで当たり前に使っていた電気も使えなくなり、スマホの充電も出来なくなってしまう。
ゆえに、ストレスが溜まらないわけがない。
ストレスが爆発したあの3人が、新しい刺激を求めてあの棺に手を出してもおかしくない。
「あの、武谷先輩。鈴原先輩が言っていたストレスというのは、おそらく武谷先輩の想像していたものではないと思います」
「え?」
俺の隣に立った空道さんが、若干呆れた表情で俺の予想を否定した。一体何が違うのか、俺にはさっぱり分からなかった。
「あの、もしかしなくても、武谷先輩は童貞ですか?」
「・・・・・は?」
空道さん頓珍漢な質問に対し、俺は呆けてしまった。
「その表情、周りは自分以外全員女子でありながら誰にも手を出さずに童貞を貫いているのですね」
「・・・・・ほっとけ!」
(この小娘め!一体どんな意図でそんな質問をしているのだ?えぇそうですとも!俺はまごう事無き童貞です!それの何が悪いんですか!周りは俺以外全員女子であるにもかかわらず、誰ともそういう関係に発展させられないキチンで悪かったな!)
喧嘩を売られた気分になりながらも、俺は状況確認を行った。
礼拝堂のど真ん中に、死神が掘ったであろう大穴があり、ロープでもないと自力で這い出る事が出来ないくらいに深かった。ただ、横広の長椅子と遺体はそのままなので撤去しないといけないし、棺とその蓋も穴に入れないといけない。流石にそれ以上はしてくれないみたいだ。遺体に関しては火葬した後に、丁重に葬ってあげた。
その後俺達は、最初に長椅子を撤去してから棺を穴に入れる作業に取り掛かった。撤去した長椅子は教会の裏手にある広い庭に置いた。
とはいえ、長椅子の撤去はそこまで手間ではなかったし、2人で抱えれば運べないことはなかった。
ただ、問題は棺であった。それが想像以上に重く、穴の近くまで持って行くだけでも一苦労であった。パッと見は黒塗りのシンプルな棺だが、よく見ると石棺で重量もかなりの物であった。一応分解可能のようだったが、パーツの一つ一つがとにかく重かった為棺を穴に入れるだけで3時間くらいかかってしまった。
「重すぎだ・・・・・まさか石棺だったとは・・・・・」
ようやく全ての作業を終えて、鈴原さんと空道さんと一緒にワゴンの中で涼んで休憩をしていた。
華々美と涼は、ロウソクを置く位置と華々美自身が待機する場所の確認を行っていた。
残りの面々は、近くの民家から水と食料の調達を行っていたが、思っていた以上に難航している様子であった。
「無理もないよ。あの協会に避難していた人たちが持っていったでしょうし」
「だろうな」
この辺りには死神をよく見かけ、まだ成仏したくない死霊たちはこの地区からどんどん離れていった為、日中に多くの水と食料を近場から調達していったのだろう。死霊がどんどん離れていったと言っても、完全にゼロという訳ではない為遭遇することはある。その辺は注意しないといけないが、それでも全力で逃げれば大丈夫なレベルで少ないそうだ
「それはそうと空道さん、着いたときに俺が童貞かどうかを聞いてきたけど、あれは一体どういうつもりなんだ?」
他に何か話題がないかと考えていると、ふとこの教会に着いたときに俺があそこにいた人達のストレスの原因を予想して、空道さんはそれだけが原因ではないと言い、その後なぜか俺が童貞かどうかを聞いてきたことを思い出した。
「ああ、それは私が説明するわ」
「鈴原さん?」
言い渋る空道さんに代わって、鈴原さんが自傷交じり話した。
「実はね、うちの神社で避難している中学生以上の男子で、童貞は実は会長だけなんだよね」
「は?どういうことだ?」
言っている意味が分からず、思わず呆けた顔で聞き返してしまった。
「そのままの意味よ。うちに避難している男子の欲求不満やストレスを、私も含めた高校生以上の女3人が毎晩抱かれてあげる事で発散させているのよ」
「なっ!?」
「気付いたみたいだね。あの協会で犠牲になった男子の不満は、武谷君が予想していたことに加えて、女と触れ合う事の出来ないストレスも含まれていると思うの」
最後の説明には少し納得もいくが、空道神社では毎夜鈴原を筆頭に3人の女子が男子に身を捧げていたという事実が、それ以上に衝撃であった。
「ビックリしているみたいだけど、だってそうでしょ。でなきゃナイフ持っているような奴が、会長のような若輩で社会経験皆無の高校生の指示に従う訳がないでしょ。暴動が原因で住職が追放されたという出来事を差し引いても」
「そうならない為に、自分達が娼婦になる事であの男たちの不満を軽減させたのか」
「そうよ。特に、死んじゃったけどあの5人は本当に毎夜私達が相手をしていたわ。その代りに気持ち良くしてあげたのだけどね」
「お前!」
そこまで聞いただけで、俺は反吐が出るほどの嫌悪感に襲われて腹が立った。
その一方で、納得してしまっている自分もいて気分が悪くなった。よくよく考えたら、あんな物騒なナイフを隠し持っているような連中が、何の見返りも求めずに笠島先輩の指示に従っているのが不自然であった。だが、毎夜鈴原さん達3人があの5人とすることで不満やストレスを軽減させて、反乱がおこらないようにさせたのだろう。
「今残っている男子、会長以外の中学生以上の男子2人のうち1人はそこまで頻度は高くないものの、私達が相手をしてあげる事で不満を取り除いてあげているの」
「会長以外ってことは、仲崎君ともしたってことか?」
笠島先輩以外が女を抱いた事があるという事は、彼女持ちの筈の仲崎君までも鈴原さん達としているのかと思うと途端に嫌悪感に襲われた。
けれど鈴原さんと空道さんは、静かに首を横に振って否定した。
「道明君とはしていない。彼の相手は、彼女の幸城ちゃんが1人で引き受けているの」
「強要はしていない。幸城先輩が自分から進んで仲崎君と繋がったのです。仲崎君と幸城先輩に関しては、カレカノ同士という事で笠島先輩や他の人達も黙認しています。あの5人以外は」
「まぁ、百歩譲ってその2人に関しては俺も黙認するだろう」
仲崎君と幸城さんが、恋人同士でするのはまだいい。だが、そうでもないのに身体を売るような真似をするなんて認められるわけがない。笠島先輩を献身的に支え、給仕や子供の世話を積極的にしていただけに、鈴原さんの印象が少しだけ悪くなっていくのを感じ、つくづく自分自身が嫌になった。
(そういう仕事をしている人を差別するような考えだと分かっているのに、鈴原さんみたいな人がそういう事をしていると知ってショックを受けてしまっている!)
それ以上何も言わないように歯を強く食いしばったが、それだけは言わないといけないと思っていった。
「鈴原さんの覚悟は分かったが、もう少し自分を大事にした方が良いぞ」
「会長にも言われたし、そんな理由で肉体関係を持つべきではないと言って会長だけは今もずっと童貞を貫いているの」
なるほど、そういう事だったのか。
笠島先輩が、必要な時以外は絶対に女性に触れようとしないのは自分自身に対する戒めでもあったのか。欲望に走って、たくさんの女性達を傷つけないようにする為に禁欲の道を選んだのか。
「でも、そんなことを続けても会長はいつか潰れる。そんなの、私は嫌」
「あたしだって嫌です。だって、笠島先輩のお陰であたし達はまとまっているのに、笠島先輩一人に負担をかけて欲しくない。だからあたしは、何度も笠島先輩に迫ったことがあるのに、先輩はあたしに指一本触れてくれないのです」
「空道さん、あんたも!?」
「あたしはまだ処女だけど、笠島先輩になら捧げる覚悟は出来ているし、笠島先輩との子供なら望んで生める。なのに、笠島先輩はあたしの裸を見ても絶対に触れようとしない!」
その後空道さんは、なかなか抱いてくれない笠島先輩に対する不満をぶちまけた。最初は、笠島先輩に潰れて欲しくないという思いで抱かれようとしたのだが、次第に笠島先輩に恋慕を抱くようになっていき自分から望むようになった様子であった。
「すみません、一方的に愚痴を言ってしまって。でも、本気で好きになった人に手を出してもらえないっていうのも辛いのです。自分で言うのもなんですけど、スタイルには自信があります。胸に関しては涼ちゃんよりもずっと大きいのに、自身を失くします」
「胸に関しては、涼の前では絶対に言わない方が良いぞ」
気にしていない風に見えるけど、実は華々美や里美、更には美玲よりも小さいことをかなり気にしているのだ。なので、胸が小さいことを指摘すると軽くダークサイドに堕ちる事がある。
「まぁ、青美ちゃんの不満はともかく、私だって大好きな会長に潰れて欲しくない。だから私も、会長が求めるのなら絶対に拒まないのに、会長は頑なに女に触れようとしない」
「だからと言って、笠島先輩の意思や覚悟を無視していい理由にはならない。きっと、グループのリーダーとして、子供たちの模範となる為に自分に厳しくしているんだと思うんだ。そんな笠島先輩の覚悟を、無駄にしてはいけない」
そんな責任感の強い人だから、子供達も笠島先輩の事を信頼しているのだろうし、大人の人も彼にリーダーを任せられたのだろう。
鈴原さんと空道さんの言いたいことは分かるけど、ここは待ってあげるのが良いと思う。いつになるか分からないが、笠島先輩が本気で2人のうちどちらかを好きだと思えるようになったら、その時に誘うべきだ。
「だから今は、子供たちの模範としての笠島先輩を応援し、支えてあげるべきだと思う」
最後にそう言い、俺はエンジンを止めてから2人と一緒にワゴンから降りて華々美と涼と合流した。




