美少女陰陽師
次の目的地が決まった俺達は、なるべく日陰を避けながら瀧倉神社が所有している山に向かって走っていった。
だが、日陰を避けるという事は常に直射日光を浴びていることになる。つまり何が言いたいのかというと、全員がここまで飲まず食わずの状態で走り続けているという事だ。なので
「おい!ちょっと休まねぇか!喉乾いたぞ!水でもいいから何か飲ませろ!」
ようやく正気に戻った本田が、走りながらそんなことを言ってきた。
だが無理もない。5月とはいえ、真夏並みの暑さを誇っている。全員が喉の渇きを訴えている。
「クソ!俺だって喉が渇いているが!」
丁度目の前に自販機が見えたが、最悪なことに建物の陰になっていて、自販機の陰から2~3人の死霊が舌なめずりをしながらこちらを見ていた。近づくのは危険だ。
しかし、このままでは全員が脱水症状と熱中症のダブルパンチを食らう。買いに行くにしても、素通りするにしても、どちらに転んでも命が危ない。
だったら、褒められた事ではないが取るべき選択肢は一つ。
「本田!金属バットを貸せ!」
「ああぁ!?テメェ誰に向かって指図してんだ!ぶっ殺すぞ!」
「いいから幹夫にバットを貸してよ!」
状況を理解できない本田だが、すぐに俺の意図を理解した優希によって強引にバットを取り上げられた。
「おいコラ!」
「幹夫!」
掴みかかろうとする本田だったが、長谷川さんに腕をつかまれたおかげで俺は優希からスムーズにバットを受け取り、全速力で自販機の方へと走っていった。
「出来るかどうかは分かんねぇが、このままでは全員熱中症だ!」
「待て幹夫!わたしも行こう!」
『お嬢!』
自販機に向かって走る俺に続いて、藤波さんと護衛の男たちまでもが俺の後に続いた。
「通じないかもしれないが、怯ませるくらいは出来るだろう!」
そう言って藤波さんはブレザーから拳銃を取り出し、自販機近くにいた死霊たちに向けて発砲した。
確かに効いていなかったが、それでも動きを数秒だけ止める事が出来た。そのお陰で俺は金属バット自販機を叩く事が出来た。
「見つかれば警察案件だが、あいにく金を入れている暇なんてねぇんだよ!」
自販機をぶっ壊したところで飲み物が調達できるとは限らないが、それでも今の俺にはこれしか思い浮かばなかった。何より、全員分の飲み物を買う金がないし、この自販機は電子カード使用不可のタイプだ。
しばらく叩いていると、自販機を閉じているカギを壊す事が出来たのか、表側がバンと勢いよく開かれた。すぐに中の部分をバットで何度も叩き、そのお陰なのかどうか分からないがペットボトル飲料がボロボロと飛び出てきた。ついでにお金も。
出てきたペットボトル飲料を護衛の男たちが拾ってくれたが、その場所が悪かった。いや、既に何所にいても危険な場所になっていた。
日が大きく傾きだしたせいで、向こう側の塀に届くくらいに日陰が覆うようになり、アスファルトから無数の白い腕が伸びてきて、それが男たちの足を掴んでアスファルトの中へと引きずり込んでいった。
「おい!」
すぐに助けに向かおうとするが、男たちは俺と藤波さん、そして日向にいた優希と長谷川さんと本田に向けてペットボトル飲料を投げた。投げつけられたペットボトルを俺達は、当たらないようにしながら2~3本受け取った。
「あんたはお嬢たちを連れて早くいってくれ!」
「俺達の事は気にするな!」
「お嬢の事は任せた!」
「でも!」
「いいから行け!」
それでも助けに向かおうとした俺と藤波さんに対し、男の一人がジャケットから拳銃を取り出し、それで俺と藤波さんの足元に向けて撃ってきた。
反射的に俺と藤波さんは後ろへと下がっていき、気付いたら優希たちと合流していた。
「お前にお嬢を任せた!」
「お嬢、どうかご無事で!」
そう言い残した後に、男たちは全員死霊たちによってアスファルトの中へと引き込まれていった。
「あいつ等」
「・・・・クッ!」
悔しい気持ちでいっぱいの筈なのに、身体はどうしようもないくらい水分を求めているみたいで、男達から受け取ったペットボトルを一本開封して、それを勢いよく口の中に入れた。そんな俺につられて、優希と藤波さんと長谷川さんと本田も勢いよく1本分飲み干した。
「・・・・・すまん藤波さん。助けられなかった」
よく考えれば、男たちにお金を出してもらった方が早かったかもしれないのに、あの時は暑さと脱水症状のせいなのかそこまで頭が回らなかった。
そのせいで、またたくさんの人が犠牲になってしまった。
落ち込む俺の肩に、藤波さんはそっと手を置いた。
「落ち込むことはない。あいつ等が自分で決めたことだ。それに、あのまま走り続けても目的地に辿り着く前に熱中症で全員やられてた」
「藤波さんの言う通りよ。それに、素直にお金を払っても結果は同じだったと思うわ。あんな短時間で日陰の範囲が広がるんなら」
長谷川さんにまで諭された以上、無理矢理にでも切り替えないといけない。短時間で日陰の範囲が広がったという事は、日暮れがもうすぐそこまで迫っているという事になる。
「ボォーとしている場合じゃない。突っ切るぞ!」
ここから向こう側の日向、十字路までおよそ100メートル。全力で走っても15秒前後かかってしまう。優希を基準に考えると、女子は確か18前後だったはず。その前に死霊たちに捕まる確率の方が圧倒的に高い。
だが、ここでジッとしていても夜になるだけ。
「突っ切るしかねぇ!」
「使って!」
長谷川さんから木刀を付け取った俺を筆頭に、藤波さん、本田さん、優希、長谷川さんの順番で日陰の中を走り抜けていった。何故この順番なのかというと、単純に足が速い順で合った。
アスファルトから伸びる白い手は木刀で蹴散らしていき、死霊たちには藤波さんが拳銃で牽制していった。
とても長い18秒を乗り切った俺達は、何とか十字路の日向に辿り着いた。
だが、日陰を抜けても安心できなかった。何故なら、日陰を抜けきった時にはもうすでに空はオレンジ色に染まり始めていたのだから。
そのせいなのか、四方八方を死霊たちに囲まれることになった。
「まったく。何でこんな時に限って日が落ちるのが早いんだ」
「ははは、お天道様に文句を言っても仕方なさ」
「オメェ等がモタモタしたせいじゃねぇのか!」
「本田さんはさっきから文句ばかり!あなたが一番モタモタしてたでしょ!」
「喧嘩するなら、本田さんも出島さんも2人とも置いて行くわよ」
俺達は互いに背中合わせになって、迫りくる死霊たちの対処をしていた。目的地までもう目と鼻の先、しかもそこには死霊たちはいなかった。
なのに、そこに至る道にはたくさんの死霊たちがひしめき合っていてネズミすら通れそうにもなかった。しかも、肝心の日向も俺達全員がギリギリ入るかどうかという狭さ。
もはや打つ手なしか、そう思った時いきなり横から強風が吹き荒れ、その強風に死霊たちが一斉に飛ばされていった。
何が起こったのか分からず困惑すると、風上の方から女の子の声が聞こえた。
「こっちだ!早く来い!」
その指示に従い、俺達は山に通じる道ではなく左側へと走っていった。そこにいたのは、藤波さんと同じく刀を腰に差した茶髪のショートの女の子が鬼気迫る顔で立っていた。顔立ちは中世的で、スカートではなくズボンを穿くと男の子に見えるくらい整った顔立ちをしていた。
「早く!もうすぐ日が暮れる!その前に私に付いてこい!」
彼女に言われるがまま、俺達はその後をついて走っていった。途中で何度か死霊たちに遭遇したが、その度に茶髪の長方形の紙を取り出し、呪文のようなものを唱えてから前方に投げた。その紙がアスファルトに貼られると、死霊たちはその紙をまるで怖がるかのように逃げて行った。よく見ると、その紙はお札であった。
(死霊たちを退けるなんて、この子もしかして陰陽師!?)
この辺りで陰陽師の家系と言ったら一つしかない。
「ねぇ!もしかして君って!」
「着いたぞ!もう少しだから頑張れ!」
俺が問いかける前に茶髪の子は、俺達を連れて山のふもとに建てられた大きな屋敷へと誘導した。不思議なことに、死霊たちは誰も敷地内には入ろうとはしなかった。
全員入ったタイミングで茶髪の子は、大急ぎで門を閉めた。それと同時に太陽は完全に沈み、辺りは真っ暗となった。
「ふうぅ~。間に合った。助けられたのは5人だけか」
安心しきった表情を浮かべながら彼女は、俺達を屋敷の中へと案内した。
「みんな無事?」
「ああ。わたしは大丈夫だ」
「あたしは疲れた!」
「大丈夫よ」
「私も疲れたけど、大丈夫」
「俺もだ」
「そうか」
全員の無事を確認した彼女は、「よかった」と一言呟き、玄関に入ったタイミングで俺達の方を向きなおした。
「私は瀧倉涼。由比ヶ浜高校に通う2年生です」
名前を聞いて俺は、内心やっぱりなと思った。
瀧倉家は、この町でも知らない人は殆どいないほどの大地主でもあり、飛行機が墜落した瀧倉神社の神主であり、そして平安時代から代々続く陰陽師一族でもある名家。一言で言うと、俺達の目の前に立っている女子、瀧倉涼は名家出身の超お嬢様であり、陰陽師でもある。
そんな瀧倉さんに圧倒されつつも、俺達は一人ずつ自己紹介をしていった。
「ふむ。武谷君と出島さん以外全員高校はバラバラ。更に言うと、長谷川さんだけが3年生で残りは私も含めて2年生」
「何考えこんでんだよ!」
「そのうち問題児が2人。藤波さんと本田さん」
「テメェ!あたしに喧嘩売ってんのか!」
瀧倉さんの言葉に逆上した本田が掴みかかろうとしたが、瀧倉さんはなんてこともないといった感じで本田を床に組み伏せた。
「いでででで!」
「感情に任せてすぐに手を上げる。その時点であなたが一番の問題児です」
「ああぁん!?ヤクザの藤波よりも問題があるってんか!?」
「誰彼構わず喧嘩を吹っ掛ける時点で貴様の負けだ」
藤波さんにまで言い負かされた本田は、悔しそうに奥歯を強く嚙んで悔しそうにしていた。
「なんにしても、助けてくれてありがとうございます」
「敬語はいいよ。長谷川さん以外は同級生なんだし。それに」
本田を放し、ゆっくりと俺達の方を向いてから瀧倉さんは笑顔で答えた。
「今日という日のためにこの別荘を建てたのですから」
どうやら瀧倉さんは、今日死霊たちが湧いて出てくることを予知していたみたいだ。そしておそらく、俺達がこの屋敷に来ることも。
こういう話には、私的には陰陽師が必要と思っています。




