空道神社 2
空道神社に到着してすぐ、俺達は癇癪を起した子供たちのお世話を手伝うことになった。
小学校高学年組はまだしも、低学年組と園児、更に赤ちゃんは突然癇癪を起こすから本当に大変であった。華々美と涼と美玲なんて、赤ちゃんのおしめを変えるのに手を焼いていた。
中学生以上は積極的に手伝ってくれて、特に笠島先輩が誰よりもたくさん動いていた。そんな笠島先輩を、4人の男女が積極的に手伝っていた。
一人は、背が高くてやや瘦せ型の男子で、面長で垂れ目の黒縁眼鏡が特徴的であった。制服から、咲や姫香と同じ青林高校であることが分かった。
「彼は、仲崎道明。線が細く見えるけど、あぁ見えて結構力持ちで頼りになる幸城さんの彼氏だ」
「へぇ、彼が噂の幸城さんの彼氏」
そんな彼の隣で一緒に作業をしているのは、長い黒髪と抜群のスタイルを持ち、何所となく大人びた雰囲気を帯びた美人系の女子であった。麗宮女学園の制服を着ているし、おそらく彼女が
「隣にいるのが、仲崎の彼女の幸城茅音さんだ」
(確かに美人だけど、何だろう・・・・贔屓目かもしれないが、華々美と涼の方が綺麗な気がする)
3人目は、そんな幸城さんに顔がそっくりな大人の女性で、白衣を着たいかにもお医者さんという感じがした。
「あの人が幸城さんのお母様で、唯一の医者の智恵美さん」
「確かに、娘さんは母親似ですか」
しかも、唯一の医者というのは貴重だ。ちなみに旦那さんは、奥さんや生まれたばかりの新生児の避難の為に尽力したが、全員を逃がした後で死霊たちに捕まって犠牲になったという。ちなみに、逃がした新生児の赤ちゃんは全員無事で今現在ここにいる。
最後に、笠島先輩や涼と同じ由比ヶ浜高校の制服を着た女子で、小顔で赤髪のセミロングが特徴的な子であった。赤髪と言っても、頂上付近が黒いから染めているのだろう。
「で、赤髪のプリンのあいつが鈴原萌々美で、あんな見た目だけど結構しっかりした元生徒会会計の子だ」
「あの見た目で生徒会のメンバーだったのですか・・・・・」
それなら髪を染めるなと思う。しかも茶髪ではなく、何故赤なんだ。しかも、仕方ないとはいえプリンになっているし。
ここの主要メンバーは、笠島先輩と空道さんも含めた6人で、この6人を中心に空道神社に避難したグループはまとまっていた。大人の人が9人、そのうち男性が3人いた中まだ高校生の笠島先輩がリーダーになるなんて、とんでもないカリスマ性だな。
そんな中、子供の世話や赤ちゃんの育児に対して積極的なのはその6人の他に大人の女性全員と、男子学生が1人と女子学生全員が協力的であった。情けないことに、大人の男性は3人とも子供と関わることを嫌がり、男子学生の残り2人も育児を嫌がっていた。
「まぁ、こんな状況で子供の世話をするなんて大変だろうから、嫌がる奴の気持ちも分からんでもないですが・・・・・ものの見事に5人とも男ですね」
「育児を手伝わないのなら力仕事や雑用をしろと指示し、渋々従っている感じです。小学生でも、高学年以上は全員協力的なのに、本当に情けない限りです」
「子供が積極的に手伝っているのに、いい年の男が・・・・・」
本当に大人気ないと思った。
最初は大人の男全員が、力で支配しようとしていたのだが、見せしめとして住職を丸腰で追い出したことで3人とも抵抗しなくなったことと、女性全員と数人の男子が笠島先輩の味方に付いた事で逆らえなくなったそうだ。
「未遂でしたけど、住職を追放した前日に若い女子を夜中に襲うとした事件が起こり、俺達が駆けつけたことで暴動にまで発展しました。なので、彼等の両手と両足を縛って夜中の鳥居の前に放り出したことですっかり大人しくなりました」
「エグイことしますね・・・・俺も人のことは言えませんけど」
「分かっています、残忍なことをしてしまっていることも。でも、これ以上反乱を起こさせないようにする為に必要ですし、こういう悪評も抑止力になると思うので、甘んじで悪評を受けるつもりです」
そう言って辛そうな顔をする笠島先輩。
大人の男性の方はそれで大人しくなったが、男子学生2人は見るからにいきり散らした感じの2人で、笠島先輩にいろいろ指示されるのに腹を立てているという。その2人も、住職みたいに追放されるのが怖いのか、今の所笠島先輩に逆らう様子は見られない。
「まぁ、その2人は鈴原を中心に矯正されているから最近は大分マシになっているのです。ただ、その方法には感心できませんが」
「ん?」
その矯正方法については、笠島先輩はあまり語りたくなさそうにしていたので、俺もそれ以上は詮索しないことにした。
そして、追放された住職についてはとにかく上から目線で偉そうに命令を出し、神道としての生き方を避難してきた人全員に強制させるという行動を取っていたのだという。
「うわぁ、涼でさえそんなこと強制しなかったのに」
「まぁ、神社の住職としてその生活を重視する気持ちは分かりますし、神様を敬うのは住まわせてもらっているので構いません。むしろ当然の事です。けど、それがあまりにも度が過ぎていたし、こちらの言い分には一切聞く耳を持ちませんでしたので」
「噂で聞いていた通りの頑固者ですね」
しかし、こんな状況で根拠のない宗教にすがる人はここには1人もいなかった為反発もされた。
そして、決定打になったのは先程言った若い女性へのわいせつ行為未遂について、「そんな事よりも私の言う通りにしろ。明日も早いから早く寝ろ」、と被害に遭いそうになった女生徒のケアも行わず、どうでもいいみたいな言い方をしたという。それが引き金となり、住職を追放するきっかけとなった暴動に繋がったのだという。しかも、そんな住職の意見に娘の空道さんまでも賛同した為、一時は親子共々追放しようという事になったのだという。
「うわぁ、娘の方も危うく追放されそうになっていたのですね」
「はい。ただ、今後この神社を突破してきそうな悪い霊が入ってこないとも限りませんので、強い力を持った彼女の力はとても貴重です。なので、俺の言う事には一切逆らってはいけないという条件で何とか留めているという状況です」
「なるほど」
だから空道さんは、笠島先輩に逆らう事が出来ないのだなと納得した。
「まぁ、今の所この神社に入って来られるほどの幽霊に出くわしていないけど、全くない訳でもない筈だ」
「そうですね。俺達が避難している所にも、1度だけ入ってきたことがあります」
「マジ!?詳しく聞かせてくれ!」
笠島先輩が血相を変えて問いかけてきたので、俺は先日あったことを全て話した。先輩の弟さんが危険な悪霊となり、優希に憑依して屋敷に入り込んできたことを。
けれど、優希の怨念が弟さんを上回ったことで逆に取り込まれ、最終的には涼によって強制的に消滅させられたことを話した。
「うちの弟が、本当に申し訳ない!」
「いえ、笠島先輩は何も悪くありません。全てはアイツの自業自得です」
だけど、自分で話したことでそういう強い力を持った悪霊の怖さを改めて実感した。あの時は幸い、俺の守護霊様と涼のお陰で退治することは出来たが、時間が経てば経つほどあの規模の悪霊が増えてくる可能性もある。
「涼はあの日から修行を再開し、更に力を着けようと努力しています」
「そうか。俺も、青美に言っておこう。現状、幽霊共に太刀打ちできるのは瀧倉と青美の2人だけですから」
「・・・・・・」
だけど、現状この町にはたった2人しかいない。世界規模で考えれば、同じ力を持っている人はまだたくさんいるだろうけど、それでも圧倒的少数である筈だ。
(力を着けてくれるのはありがたいけど、たった2人では数の暴力で押し切られるのがオチだ。やはり、最悪な事態になる前にこの現象が起こった原因を突き止めて、元に戻す方法を見つけないと)
現在抱いている赤ちゃんにミルクをあげながら、俺は改めてそう決意するのであった。
そうして子供たちの世話を終えた俺達は、持ってきた野菜と乳製品とクマ肉を与えた。持ってきた食料を受け取ると、子供を中心にみんなが大喜びであった。特に乳製品などと言った加工食品は喜ばれた。
受け取った食材を使って、仲崎君と幸城さんを中心に早速調理を始めた。
(一応、皆が食料を分け合っている感じがするな。特に奪い合っている様子もないし、大人の男どもも傍若無人な態度はとっていないみたいだな)
とはいえ、きちんと助け合いが出来ているのかというとそうでもなかった。先程笠島先輩から聞いたように、大人の男性5人が消極的で殆ど手伝おうとはしなかった。調理に関しては出来ないからという人もいるだろうけど、そういう人は調理以外の事で役に立とうとしていた。
だが、見るからに大人の男性とチャラそうな男子生徒2人は手伝おうとすることはなく、もてなされようしているのが見え見えでふてぶてしく賽銭箱の前で足を組んで座っていた。それはもう、見ていて腹が立つくらいに。
「あいつ等が笠島先輩の言っていた問題児ども」
「まぁ、見てすぐに分かったがな」
「ってか、大の大人を問題児呼びしちゃってんじゃん」
「仕方ないでしょ。実際に問題児なんだから」
俺だけでなく、華々美も咲も里美も同じ意見であった。涼は空道さんと話をする為に、2人で外出していたのでこの場にはいなかった。美玲は、仲崎君と幸城さんと一緒に調理の手伝いに行っていた。
(一体何が気に入らないのか知らないけど、小学生の子供でさえ積極的にお手伝いをしているというのに、あの5人は何もしないのかよ)
今朝の物資の調達だけをやって、それ以外は一切何もしないなんて許されるわけがない。むしろ、あんなのはいても邪魔になるだけだ。
それどころか、目の前を通っただけの小さな子供相手に理不尽に怒鳴りつける始末。それも、かなり大きな声で。
「流石に見ていられねぇ!」
「まったくだ!」
「リンチすんなら、あたしも協力すんぜ」
「3人とも、程々にね」
呆れた様子で見送る里美だが、止める様子もなかったので俺と華々美と咲はふんぞり返っている男5人の所へと歩み寄り、里美は怒鳴られて泣いている子供の所へと駆け寄った。俺達に気付いた男たちは、すぐに立ち上がってあからさまに高圧的な態度で俺達に詰め寄ってきた。
「おいテメェ等、さっきから何見てんだよ文句でもあんのか!?」
「俺達にそんな態度を取って、ただで済むと思ってんのか!」
「テメェ部外者だろ!だったら引っ込んでろ!」
完全に俺達を見下しているみたいだが、俺は怒りよりも恐ろしさが勝った。決してこの男たちが怖いからではなく・・・・・
「テメェ等、調子に乗ってんじゃねぇぞ」
怒りに満ちた華々美が、もの凄い剣幕で男達を睨みつけていた。
「うわぁ、ヤベェな」
「ああ、あいつ等死んだな」
そんな様子を見た俺と咲は、顔と引きつらせながら2~3歩下がった。
(あいつ等本当にバカだな・・・・俺はもう知らねぇぞ。止められないし、喧嘩を売る相手を間違えてるぞ)
華々美の事を知らないのかどうか知らないが、完全にいきり散らしている男5人は物凄い剣幕で睨む華々美に掴みかかろうと近づいてきた。そのうちの一人、見るからに柄が悪そうでチャラチャラしていそうな男子学生が華々美の肩を掴んできた。
「あんたも、喧嘩売る相手を選んだ方が・・・・」
「気安く触るな」
底冷えするような低い声で言うと、華々美はその細い腕からは信じられないほどの力で肩を掴んできた男子の腕を捻った。
「いでででででで!」
「このままへし折ってやってもいいんだぞ」
「テメェ!」
今度は5人の中で一番柄が悪く、ここにいる人の中で一番年上っぽい男性がナイフを取り出してきた。それと同時に、華々美が男たちに拳銃を向けて、それを見た男たちは一気に血の気が引いた。そしてそれは、男達だけじゃなく他の避難した人たちも同じであった。
「じょ、嬢ちゃん!なんでそんな物騒な物を持ってんだ!?」
「なんでって、これはわたしの私物だ。そもそも、誰がクマを仕留めたと思ってんだ」
流石にこれ以上華々美を怒らせるのはマズイと思い、俺はあえて大きな声で言った。
「おい華々美、それくらいにしろ」
「華々美って、あの藤波華々美!?藤波組組長の愛娘の!?」
腕を捻られた男子がようやく華々美の素性に気付き、それを聞いた他の4人の男達も顔を真っ青にさせて怯えた。
「あ、あばばばばば・・・・・」
「テメェ等の態度は目に余る。いても邪魔だから、何所か消えろ」
「う、うるせぇ!なんで俺達があんなガキの言うことに従わないといけねぇんだよ!」
ナイフを突き出した男性を皮切りに、5人は一気に怒りと不満を爆発させた。
学生2人は、それまで学校ではカースト上位に位置付けられていて、クラスメイトの大半が自分達の言葉に皆が喜び、大いに盛り上がっていたみたいでそれを気持ちよく感じている様子であった。
しかし、この現象が起こり、ここに来てから自分達の命令が全く通らず、住職を追放してからも笠島先輩の指示に従うことに不満を抱き、だけどそれで自分達も追放されたくないので渋々従っているみたいであった。腹の底では、自分を中心に回せないことに腹を立てているみたいであった。
一方大人の人3人は、一人は地元のチンピラで年下の学生に命令されることに腹を立てていた。偉そうにしていたが、要は無職のごくつぶしであった
一人は、会社で役職についていて社会人経験皆無の学生の指示に従うことに不満がたまっていた。役職についていると言っても、話を聞く限りではパワハラをしてしまったことですぐに降格処分を食らったみたいだが。
そしてもう一人は、会社を経営している社長で自分が一番上の立場に立てないことに腹を立てていた。ちなみにこいつが一番年上の40代後半で、華々美にナイフを向けた柄の悪い男であった。社名を聞くと、従兄が以前勤めていた超ブラック企業であった。
要約すると、3人とも年下の若造で社会人経験皆無の学生に命令されるのが嫌だそうだ。
「幼稚だ」
「バカか」
俺と咲が思わずボソッと呟いた。
どうやら5人とも、かつての栄光を忘れられずそれに縋るばかりで何かをしようとは考えていないみたいだ。
「くだらない」
この5人の幼稚でバカで、それでいてちっぽけで小さすぎるプライドのせいで、ここにいる人たちがどれだけ迷惑をこうむっているのかも分かっていない。
そんな俺の言葉にカチンときた5人が、俺に掴みかかろうとしたのだが、華々美に銃を向けられたので未遂で終わった。
「そんな過去の栄光に縋ってばかりいて、何もしないでいる本物の役立たずの屑が偉そうにするな」
「はあぁ!?ガキが何俺等に偉そうなこと言ってんだよ!」
「俺等は後ろからこの無能共に指示を出すだけでいいんだよ!」
社長をやっていた男が言っていた事に腹を立て、俺がその男を殴ろうとする前に華々美がその男の右足を銃で撃った。
「ああああああああああ!」
突然の銃声にその場に集まった人達の視線が俺達に集まり、撃たれた男は激痛のあまり数分その場に転げ回った。
「あんまり調子に乗るな。大の大人が情けないぞ」
「子供がたくさんいるのに、みっともないぞ」
俺達に睨まれていたたまれなくなったのか、5人は悔しそうな顔をしながら日が傾きかけている神社の外に出ようとしていた。
「待てこら!」
感情任せに外に出ていき、それを俺以外の誰も止めようとしなかった。




