空道神社
蛇神様の封印が完了して2日後に、俺は華々美と涼と里美のいつものメンバーに加えて、咲と美玲の2人も連れて空道神社がある地区の方へと向かうことにした。
「持っていくものは全部揃ったか?」
「ああ。新鮮な野菜とクマ肉と乳製品と・・・・って、こんなにたくさん持って行っていくんか?肉に関しては猪肉でよくね?」
「咲の言いたいことは分かるけど、空道神社に避難している人達と良好な関係を築く為には取れなくなった食材や水は必要だし、クマ肉と言っても燻製にして保存がきくようにした肉だから」
上手くいけば徐々に与える肉の種類も増やしていきたいし、協力関係が結べなかったら与えずにそのまま持って帰るつもりでいる。
(出来れば友好関係を築いていきたい。涼の話だと、空道神社の住職とその娘にも涼と同じ力を持っているらしいから、なんとしても仲良くしたいところだが、それは難しいだろうな)
聞けば、空道神社の住職はかなりの頑固者で、近隣住民の評判もあまり良くなかったと聞いている。交流があったという涼から詳しく聞くと、とにかく人の意見にあまり耳を傾けないような人で、自分の価値観を家族はもちろん参拝に来た人に押し付けるような人で、涼も涼の家族もあまり好ましく思っていないという。
住職の一人娘である青美は、父親である住職よりは幾分かマイルドではあるが、父親とほぼ似たような価値観を持っていて、その上話し合えば皆分かり合えるという楽観的かつ、理想主義的思考を持っているという。その為、涼個人としては彼女の事は嫌っているのだという。
(聞けば聞く程、益々関わりたくない家族だな。涼がこの3ヶ月もの間接触を避けてきたのも頷ける)
本人は怠けてしまったと言って反省しているが、そんな問題のある人間とは仕事でもない限りは絶対に関わりたくはないよな。
だけど、だからと言っていつまでも避け続けるわけにはいかない。ましてや、相手も涼と同じ力を持っていると言うのなら尚更だ。
「準備出来たわよ。早いとこ用事を済ますわよ」
「おう。今乗る」
運転席から顔を出した里美に呼ばれて、俺と咲は慌ててワゴンに乗った。自分たちが居る地区には殆ど人が残っておらず、死霊たちの影響なのか建物の腐敗がかなり進んでいるようにも見えた。
「生存者たちが毎日水を使っているおかげで、水道管の破裂は今のところ見受けられないけど、それも長くはもたないだろうな」
「だが、電気が使えなくなっている建物が多くなっている。小夏先輩から聞いたが、わたし達が物部神社で一晩過ごした夜に発電所がある所で爆発事故が起こったみたいなんだ」
「マジか・・・・・」
華々美から驚愕な情報を聞き、俺は今この町に残っている人達がちゃんと生活できているのかどうかが心配になった。今まではなんだかんだ言って電気が使えたから、スマホを充電する事もテレビを見る事も出来た訳だし、エアコンが使えたお陰で猛暑の中でも何とか乗り切る事が出来たのだ。
「最悪だな」
「ああ。里美や小夏先輩が調べたところ、ここだけでなく、全ての火力発電所と原子力発電所が爆発してしまったそうだ」
「救いがあるとしたら、この町や周囲の県に原子力発電所が無かったことだけど」
「そうじゃないところは最悪だ。原発のあったところからかなりの範囲が、大勢の生存者が退避してきたという情報を聞いた。スマホの充電が、まだ電池でどうにかできたお陰で知る事が出来たが」
「退避した人の殆どが、死霊たちの襲われてしまった。という所か」
「ああ」
やばいことになった。
都市部は殆どゴーストタウン化していき、困窮した生活に嫌気がさした人たちが死霊たちの近寄って来ない牧場や農村へと逃げていき、そこでは多くの避難民でごった返している状況なっている。そこへ原発の爆発だ。また更に多くの人が、動画にアップされていた牧場や農村へと避難してくるだろう。今後、食料を分けてくれるかどうかが不安になってくる。
(幸い、俺達が懇意にしている農村と牧場は今のところ大丈夫だが、一応警戒はした方が良いだろう)
そうなると食料問題は深刻になるだろうし、何より全ての牧場と農村に死霊たちが寄り付かないわけではないのに、そこを勘違いした人たちが近くの牧場や農村に行って死霊たちの被害に遭う。完全に悪循環である。
「うちみたいにソーラー発電をしている家もあるが、その殆どには死霊たちがギュウギュウに入っているだろうからな」
「吸血鬼騒動があったあの協会も一応はソーラーだったが、殆どが電気を使えなくなってしまっている中、わたし達だけ電気が使えるとなるとかなり目立つな」
「ああ。皆には不便な思いをさせるが、しばらくは夜間での電気の使用を控えようか」
「そうした方が良いだろう。ロウソクや懐中電灯の灯りならともかく、変に悪目立ちするのも良くないからな」
ゴーストタウン化が進む街並みを眺めながら、俺達の乗っているワゴンは空道神社のある地区に到着し、その中にある桜庭学院高校という小中高一貫の学校のグラウンドで車を停めて、そこからドローンを飛ばして周辺の調査を行った。
やはりというかなんというか、電気が使えなくなってしまったことで不満を爆発させた人達は早々にこの町を離れていったのか、それらしい人は一人も見当たらなかった。少なくとも、俺が調べている所では。
「おやおや、ようやく人を見つけたけどこれはねぇ」
「どうした里美?」
「一応人を見つけたけど、かなりボロボロで痩せ細っているし、肌も干からびていて今にも死にそうね。というか、風前の灯火状態だね。一応まだ生きているみたいだけど、あれはもう手遅れね」
気になった俺はドローンを一旦アパートの屋根に下ろして、華々美と涼と一緒に里美の操縦しているドローンの映像を見た。そこには、神社の住職風の格好をした男性が息も絶え絶えといった状態で倒れていた。よく見ると皮膚が真っ赤になっていて、顔も熱を帯びていて、身体も肋骨が浮き出るくらいにガリガリに痩せ細っていたのが確認できた。周囲にはハエが無数に飛んでいた。
「明らかに空腹と熱中症になっているな。その上栄養失調まで患っている。まともな食事もとれていないのか、ガリガリになっている」
こうなるともう、病院でちゃんとした治療を受けないと助からないのだが、病院は何処よりも多くの死霊たちでごった返していて入れないし、それ以前に薬品知識もないのに病院からいろいろ持ち出すのは危険だからそのままにしている。
(かわいそうだけど、俺達では彼を助ける事が出来ない)
生存者なんて言っているが、殆ど遺体だ。
そう冷静に分析にしている俺の横で、涼がいきなり大きな声を上げた。
「ああああああ!」
「っ!?どうした涼」
「この人、空道神社の住職!」
「「「「ええぇっ!?」」」」
「あら、やっぱり」
里美だけ淡白に返しているが、まさか神社から離れた所で住職が倒れているなんて予想もしていなかった。しかも、よく目を凝らしてみてみると、身体の至る所に打撲跡があり、それまで周囲にいた他の生存者によってボコボコにされてきたのが見て分かる。
(あまり評判のいい人ではなかったけど、ここまでボコボコにされるなんて一体どんだけ恨まれていたんだ?)
住職の事は気になるけど、飛んでいるドローンにも反応出来なくなっている今の彼を助ける事は出来ない。
「悪いけど、助けるのはやめた方が良いわ。どの道あの人は死ぬだろうし、あそこまで酷い状態の彼を医者でもなければ知識もない私達ではどうする事も出来ないわ。それに、駆け付けたところでドローンに反応出来ていない時点でもう手遅れよ」
非情ともとれる発言だが、この場にいる全員が里美の意見に異議を唱えなかった。それだけ今の住職の状態は最悪であった。
「そうだな。じゃあ、他の生存者を確認出来なかったみたいだし、予定通り空道神社に行ってみよう」
生存者の確認を終えた俺達は、ドローンを回収してすぐにワゴンに乗り空道神社に向けて走り出した。俺の予想では、この辺りの生存者の殆どは空道神社に集中していると思う。確かあの神社も、つい最近電気をソーラーによる自家発電にして、水道も綺麗にする浄水装置を取り付けたと聞いた事がある為、今もまだあの神社にはたくさんの人が残っている。
そして、死霊たちに対抗できる力を持った住職を追い出した今、あの神社を仕切っているのはいったい誰なのだろうか?その相手ははたして、俺達と良好な関係を築く事が出来るのだろうか?
そんなことを気にしていると、空道神社付近のコンビニやスーパーからたくさんの人がお菓子や飲み物、缶詰やレトルト食品を持って出て来た。そしてそんな人たちを先導しているのは、涼と同じ由比ヶ浜高校の制服を着た眼鏡をかけた男子生徒であった。
そして、その男子生徒のすぐ傍には長い銀髪をなびかせた小柄な少女がいた。着ている制服から、桜庭学院高校の生徒であることが分かった。
「止まって!」
突然声を上げた涼に驚きつつ、里美は車を急停車させた。停まった瞬間に涼は慌てて車から降りて、眼鏡をかけた男子生徒と銀髪の少女の所へと駆け寄り、俺達もその後に続いた。
「青美!笠島先輩!」
「瀧倉!?」
「涼ちゃん!?」
互いに名前を呼びあう所を見ると、2人と面識があるのが伺える。男子生徒の方は、涼と同じ由比ヶ浜高校の生徒という事で面識がある事は予想できたが、銀髪の女の子については予想外であった。
「無事だったんですね!」
「ああ。何とか生きている。青美がいてくれたお陰だ」
「あたしじゃなくて、笠島先輩のお陰だよ」
互いの無事を喜びあっている中、俺達もゆっくりと涼たちに近づき、俺達に気付いた男子生徒が笑顔で俺に近づいてきた。
「来てくれてありがとう。笠島鷹志と言います。一応、瀧倉神社に避難している人達のリーダーをしています」
「どうも。武谷幹夫と言います・・・・って、笠島って、あの笠島のお兄さんですか!?」
「弟を知っているってことは、武谷君は隼人と同じ連勇高校の生徒なんだね」
「ええ、まぁ・・・・」
「その様子だと、君も隼人にかなり迷惑かけられたみたいだね。ごめんね」
「いえ・・・・」
あの笠島にお兄さんがいるのは知っていたけど、弟がいかにもいきり散らした問題児という感じなのに対し、お兄さんは何だか模範的な優等生という感じがする。何か、あんな弟と一緒の学校に通っていたと聞いて、お兄さんに滅茶苦茶同情された。
(兄はこんなにしっかりしているのに、何で弟はあんな横柄で傲慢な性格になったんだ?しかも、なんかデカイ。190センチくらいあるか?)
「藤波華々美だ。麗宮女学園に通っていた」
「えと・・・・城ヶ崎美玲です。麗宮女学園の1年生でした」
「麗宮女学園って事は、2人とも幸城さんと同じですね」
「幸城もいたんだ」
「良かったです」
華々美と美玲も自己紹介をし、向こうで同じ学校の生徒が避難していると聞いて嬉しそうにしていた。
(幸城って、幸城茅音か?この町の三大美女の一人で、3人の中で唯一の彼氏持ちの?)
「本田咲だ。青林高校の2年だ」
「西宮高校3年の、長谷川里美と言います。この中で唯一、車の運転免許を持っているわ」
「よろしく。本田さんは青林高校ってことは、仲崎と同じですね」
咲と里美も自己紹介を終えて、俺達は改めて涼と銀髪の少女の方へと視線を向けた。
「私からも彼女を紹介するよ」
「自己紹介くらい自分で出来るって。・・・・空道青美を言います。桜庭学院高校に通っていた1年生で、涼ちゃんとは小さい頃からの幼馴染です」
「君が空道青美さんか。涼から話は聞いてます」
「涼ちゃんから、ですか。あまりいい話は聞きませんよね?あたしの事は」
「それは・・・・・」
否定したい所ではあるけど、実際に父親共々あまりいい話は聞いていない。涼から聞かなくても、彼女の父親の悪評はこの町でもかなり有名だ。度を越した頑固さと、人の話を聞かずに自分の意見を強引に押し通そうとするその態度が災いして。
「まぁ、実際に私は青美に会いたくなかったし」
「涼ちゃん、酷いよ・・・・」
ズバッと言われてしゅんとする空道さんに、涼は構わず会いたくなかったと言った。
「まぁ、実際に避難してきた当初の青美と父親共々酷かったもんな」
「笠島先輩まで酷いです・・・・・」
「まぁ、今はマシになりました。詳しい話は空川神社でしましょう」
「はい」
その後俺達は、笠島先輩の先導で空道神社へと足を運んだ。ちなみに里美は、ワゴンで1人先に空道神社へと向かった。
その間に俺は、笠島先輩から空道神社の状況を軽く聞いていた。避難している人は、中学生以上が笠島先輩や空道も含めて20人、小学生が18人、幼児位の子供が17人、まだ1歳になっていない赤ん坊が12人とかなりの大所帯で、特に子供の人数がかなり多かった。そこへ更に10日前に、避難していた妊婦さん3人が出産して新たに3人も増えて毎日てんてこ舞いだそうだ。
総勢70人のかなりの大所帯であった。
「小学生が18人と、幼稚園児くらいの幼児が17人もいるだけでも大変なのに、その上赤ちゃんが15人って・・・・・」
「なるべく皆に負担がかからないように、俺と仲崎と幸城さん、それに鈴原さんや幸城さんのお母さんの協力もあって何とかなっている状態です。青美も良く手伝ってくれますし」
「そういえば、幸城の両親ってそれぞれ医者と看護師だったな。父親が看護師で、母親が大きい病院の院長を務めている医者だって」
「って、医者は母親の方かよ・・・・」
華々美の補足情報に少し驚きつつも、医者が生き残っているのは大きかった。だから、新たに3人の新生児を生む事が出来たのか。
更に詳しく言うと、20人いる中学生以上の中で分けると、中高生が11人で、社会人が9人。そのうち、医者は幸城さんのお母さんただ一人だけで、娘は多少知識があるだけではあるがそれでもかなり重宝されていて、更に仲崎君や鈴原さんも幸城さんのお母さんから毎日教わっているという。
「ちなみに男女比は、男が28人で、女が42人と圧倒的に女子の力が強いんですよ」
「男子が28人いるだけでもいいじゃないですか。こっち何て男は俺1人だけなんですよ」
「何それ、ハーレム自慢ですか?」
「違いますって」
「ははは。すまんすまん」
そんな感じ軽口も叩けるくらいには、俺は笠島先輩と打ち解ける事が出来た。
(兄はこんなに出来た人間なのに、何で弟はあんな感じになってしまったんだ?)
ちなみに、笠島先輩が連勇高校を受けなかったのは弟がその学校を受験すると知り、一緒の高校に通いたくなかった先輩は由比ヶ浜高校を受験することにしたそうだ。そのせいで弟から学歴マウントを取られることになったが、先輩はその全てを聞き流すことにしていたという。
それからしばらくして、俺達は目的地の空道神社へと到着した。そこでは、たくさんの子供たちにもみくちゃにされている里美の姿があった。




