とある神社の一時
新しいキャラがまた出てきます。とても頼りになるキャラ達だと思います。一人、問題がありますけど。
遡る事2週間前。
とある神社で大勢の人が避難していて、一人の眼鏡をかけていた男子生徒を筆頭に統率されていた。
「順番に並んでください!ちゃんと全員分ありますので!」
その男子生徒の指示に従い、皆が一列に並んで料理を受け取っていた。どうやら、食事の配給を行っていたらしい。
「すまないな。いつも君達が最後で」
「いいんです。先輩のお陰で皆の統率が取れていますので、僕たちはただ自分にできる事を精いっぱいやっているだけです」
「道明だって、毎日皆に料理作ってくれているじゃない。私だって、そんな道明の力になりたいわ」
「2人とも本当に仲が良くて羨ましいです」
そんな雑談をしながら食事の配給を進めていると、神社の裏にある森から長い銀髪をポニーテールに結った小柄の少女が、その小さな体からは信じられない力で仕留めたイノシシ2頭を引き摺って戻ってきた。
「帰ってきました。いつもはイノシシの多さに参っていましたけど、今のこの状況ではありがたいです」
そういって少女は、指揮を取っていた男子生徒の前にイノシシ2頭をドサッと置いた。
「ありがとう。すぐに解体します」
「血抜きは済んでいますので、そんなに慌てなくても」
「俺はただ自分にできる事をやっているだけです。道明君、すまないが手伝ってくれ」
「はい」
「あ、私も手伝うわ」
眼鏡をかけた男性と、一緒に配給を手伝った男子生徒と女子生徒と協力してイノシシを人目のつかない所へと運び、3人で解体作業に取り掛かった。この神社には小さい子供や、生まれて間もない赤ちゃんもいる為である。
「こんなにたくさんの人が避難しているのに、うまくまとまっているのは笠島先輩のお陰だし、仲崎君や幸城先輩もそんな笠島先輩を支えてくれているし、鈴原さんがムードメーカーになっているお陰ですね。あたしや父ではここまでまとめるなんて出来ないでしょう。特に、追放された父には」
感慨深そうに3人を見送った後、銀髪の少女は小さい子供たちが居る広場へと向かった。
彼女、空道青美はこの神社の住職の娘でありながら、父親共々ここに避難してきた人たちを導く事が出来ず、それどころか自分の価値観を避難した人たちにも押し付けようとした結果反感を買い、食事にしても貴重な食糧の殆どをお供えに回してしまうという始末。その結果、夏に入る前に大人の男性も加わって暴動が起こってしまい、父親は住職でありながら追い出される形で追放された。
娘の青美も追放されそうになったが、笠島鷹志先輩が皆を説得し、彼がグループのリーダーを務める事でまとまり、青美は彼の指示には一切口出しをしないという条件の下で追放を免れた。父親はそれに激しく反発し、あろうことか彼に暴力をふるおうとした為、暴動が起こった翌日に追放される決定打となった。
「本当に笠島先輩は凄いよ。あたしではとても真似できない。出来る訳がないわね」
生まれて間もない赤ん坊の世話をしながら、青美は力なく笑いながら自身の無力さと、こんな時であっても自分の偏った価値観を押し付けようと自身の父と己自身を呪った。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
蛇神様の封印を終え、物部神社から帰ってきた翌日の夕方、俺は華々美と里美と小夏さんの3人と一緒に今朝仕留めたイノシシの解体作業を行った。
「それにしても、ほぼ毎日のようにイノシシやシカが来て、よくいなくならないな」
「父から聞いたけど、この町の山や森にはクマの数が少ないせいでイノシシやシカが大繁殖していて、町に降りてはゴミを漁ったり、人に向かって突進して来たり、家庭菜園の野菜を食べられたりするなどの被害が多いって聞いた」
「でも、そのお陰でお肉には困らないでしょ」
「とはいえ、毎日猪肉ばかりでは流石に飽きるでしょうし、かと言って鹿肉もウサギ肉も飽きが来ると思います」
「そうですね」
里美の言うように確かに肉には困らないが、小夏さんの言う通りで肉ばかりでは必ず飽きが来る。贅沢な悩みだという事は分かっているが、反感を買ってしまうと組織は崩壊してしまい、その結果多くの人が飢え死にすることになるし、何よりも争いの火種にもなりうる。
(涼には負担をかけて申し訳ないと思っているが、咲の釣りがしたいという提案は正直言ってとてもありがたかった)
水辺の近くという事で危険は大きいが、魚は正直言って俺も食べたい。それは俺達だけでなく、生き残っている全ての人が思っている事でもある為、協力関係を結んでいるグループとの結束を深める上でも有効だと思う。
(気持ちにゆとりがあれば、余計な争いも暴動も起きにくくなるし、その分俺達もいろいろと動きやすくなる)
それに、牧場や農家さんから物々交換で新鮮な野菜や小麦粉や米、牛肉や乳製品なども仕入れている為、食事のバリエーションに困る事がないのは助かる。あの牧場や農村に死霊や悪霊が現れていなくて、本当に良かったと思う。感謝です。
「でも、電気も水道も何時までも自由に使えると思わない方が良いと思います。物部神社の住職宅で電気が使えなくなっているのを考えると、電気が使えなくなることも考えないといけませんね」
「そうですね。肉と魚なら保存の利く干物に出来るけど、電気が使えないというのは困ります」
「そうだな。電気も水道も、管理する人がいなくなるといつか使えなくなる。この別荘はソーラー発電と浄水装置のお陰で不便はないけど、永遠に使える機械なんてこの世に存在しない」
小夏さんと華々美の言う通りで、今は何の不便もなく過ごせているけどそれも何時までも続くものではない。早い所この現象が起こった原因を調べないといけないし、生存者同士の良好な関係と円滑な物流も充実させないといけない。
(そもそもの話、何で目に見えない筈の幽霊たちが急に見えるようになったんだ?しかも、かなり凶暴になって)
涼が言うには、通常の霊があそこまで狂暴になって人を積極的に襲う事はないという。空を浮かんでいる浮遊霊たちが良い例で、普段はただ漂っているだけか、その土地に縛られるかのどちらかであると。そうやって幽霊は、かなりの年月がかかるけど放っておけば勝手に成仏するそうだ。
それなのに、この現象が起こってからの霊たちは明らかに異常であった。悪霊たちの力も強くなっていて、涼でさえ関わりたくないという程であった。
(空道神社への訪問と、魚の確保がどうにかなったら、本格的にこの現象が起こった原因を探ろうと思う)
今度涼にもその事を相談しようと思い、俺達はその日解体した猪肉を長期保存できるように燻製にした。




