蛇神様の封印
翌朝、俺は蛇の像を持って再び物部神社に行く為にワゴンに乗っていた。同行者は、華々美と涼と咲と里美の4人であった。ざっくり言うと、優希の夢の中に入ったメンバーにドライバーとして里美を加えたメンツだ。
「向こうでもう一度封印してほしいってことでいいかしら?」
「ああ。それも、前の封印よりも強力にしてほしいって」
「まぁ、こんな状況で今までと同じ封印だと、またあれクラスの悪霊が手を出してくる可能性があったのでしょう。その為に封印をより強固にして欲しいのでしょう」
里美からの質問に、俺は手に持っている蛇の像を眺めながら答えた。これ以上誰かに迷惑をかけたくないという思いが、手に持っていた蛇の像からひしひしと伝わってきた。
蛇神様の力を悪用した笠島や取り込んだ魂は、俺の守護霊の力によって浄化され、笠島以外は皆成仏していったそうだ。ちなみに笠島は、優希を呪った代償として消滅することになった。
ただ、優希に関してはあの怨念を強引な方法で払ってしまった影響なのか、目が虚ろになり、話しかけても全く反応せず、喋る事も出来ないほどの廃人状態になっていた。お願いすればその通りにこなしてくれるし、食事も何とか取れる為その辺は安心出来た。
涼曰く、人を呪った代償らしく数年はこの状態が続くとのこと。
「人を呪わば穴二つ、とは言ったもんだな」
「そういう事だ。人を呪おうとすると、その呪いと同じものが自分にも降りかかってくるんだ。優希は、わたし達に強い恨みと憎しみを抱いた事で呪うようになり、それ以上の報いを受けることになった。消滅してしまったあの男が良い例だ」
華々美の言うように、人を呪う為に墓穴を掘ると自分にもその報いを受けることになり、自分が入る為の墓穴を自分で掘ることになるのだから。悪いことをすると必ず自分に返ってくるのだ。
涼も、流石にそういう人までは助けてあげないみたいで、今回の優希の愚行を前に完全に愛想が尽きてしまったみたいで、俺を含めて全員が優希を見限ってしまった。
そこで、里美の提案により優希は引き取り手が見つかり次第そのグループに引き渡すことが決まった。まぁ、今の優希では日常生活を送るのも困難だし、あんな事をしてしまった優希を誰も介護してあげようと思わなかった。
せめて、引き取ってくれたグループで穏やかに過ごし、改心してほしいものだ。
そうこうしている内に、ワゴンは目的地の物部神社に到着した。
「よし、行こうか」
着いてすぐに俺達は、必要な道具を持って長い石階段を上っていった。
森の中からは、相変わらずカンカンという音と、その場に留まっている怨念がちらほら見えた。
「気味悪ぅ」
「無視しろ。見つかって因縁をつけられると厄介だ」
こういう奴は、相手にせずに無視することが最善なのだという。まぁ、カンカンという音と白装束の生霊たちが所狭しと森の中にいて、全員が藁人形を木に打ち付けているのだから、スルーしろというのが無理な話だ。
(咲にはあぁ言ったけど、滅茶苦茶気になる)
鬱陶しさを感じつつも、俺達は本殿の近くにあった祠に行った。
最初に、笠島に殺害された住職とその家族を火葬して丁重に葬ってあげていた。お墓の場所が分からない為、森の近くに新しく住職たちのお墓を作った。申し訳ないと思うが。
後で知ったが、住職の家族も笠島によって殺害されていたみたいで、誰もいないと思われた家から遺体が発見された。
住職とその家族の埋葬を終えた後、蛇神様の封印する準備に入った。その前に周りと必要な物の掃除をする事にし、俺が埋まっている釜の中を綺麗にし、華々美と咲が祠に使われていた石を磨き、里美が周りの雑草と落ち葉を集めて野焼きしていた。最後に涼は、死霊や悪霊が近寄って来ないように結界を張った。
そうして祠と周りを綺麗にした後、綺麗にした釜と石が乾くのを待つ為に一度昼食を取り、乾いた後で改めて釜の中に蛇神様が宿っている蛇の像を丁寧に置いた。最後に釜に蓋をして、その上に石を何段も積んで、形を整えた後で涼が改めてお祓いをした事で封印が完了した。
「まったく。笠島の奴め、どうやったらこんなに重たい石の祠を崩したんだ?」
「その気になれば倒せなくもないぜ。あたしでも、全力で蹴れば倒せると思うぜ」
「そうだな。わたしでも倒せそうだ」
「えぇ。私でも倒せそうだわ」
「そう・・・・・」
女性の華々美と咲と里美でも崩せるんだから、笠島がこの石の祠を崩せても不思議ではなかった。ケンカに強く、腕っぷしの強い華々美と咲を基準にするのもどうかと思うけど。
ただ、そんなに力が強くなさそうな里美でも倒せそうだというので間違いないだろう。
その後、俺達はなんとなしに物部神社の清掃も行っていたらあっという間に外は暗くなり、その日は物部神社に泊まることになった。幸い?なのか、本殿の右側、祠の反対側には住職の自宅があったのでそこに泊めてもらうことにした。
「にしたって、ひでぇ状態だな」
「そんなこと言うな。3ヶ月も人の手もつかずに放置されていたからな」
かと言って、咲の気持ちも分からなくもない。
家の中は、3ヶ月しか放置されていないとは思えないくらいに荒れていた。ドアが開けっぱなしになっていたせいか、ネズミや野良猫がたくさん出入りしていて、食料が保管されているとこにはクマやイノシシに荒らされた形跡もあった。冷蔵庫も荒らされていて、食材が全て食い尽くされたのはもちろん、冷蔵庫そのものも壊されていた。
幸いなことに、インスタントのお粥とカップラーメンが合わせて人数分残っていたので、今晩はそれを食べることにした。話し合いの末、俺と咲と涼はカップ麺を、華々美と里美はお粥を食べることになった。
「水道が生きていて良かった」
「電気は止まってたけど、懐中電灯やロウソクもあったから灯りは確保できた。ついでに電池もいくつか持っていこうと思う。あと、ガスコンロも」
「華々美よ、ほどほどにな」
先日のショッピングモールでたくさんの電池やロウソク、懐中電灯なども調達したけど数は多い方が良いので、その辺は止めなかった。
「しっかし、このカップ麺美味しくない・・・・」
「我慢しろ。こうやってちゃんとしたものも、何時まで食べられるのか分かんないんだから」
「うぅーい・・・・・」
咲はカップ麺の味に不満があるみたいだが、食べられるだけでもありがたいと思った方が良いし、今から食料を調達するのは危険だ。
ちなみに、お粥を食べることになった華々美と里美は、自分からお粥を食べると言ったのだ。
華々美は、カップ麺を食べたそうにしていた咲に譲る為に自らお粥をチョイスした。
里美は、俺がお粥を取ろうとする前に素早くお粥を取ったからである。
「しかし、この町には生存者が一人もいないのはどういう事なんだろうな?」
「おそらく、この町の西側にある海と、この町に幾つもある川が仇になったんだろう。水辺には多くの霊が住み着きやすいから、日中であっても近くにいるというだけで多くの人を引きずり込んで溺死させるんだ」
「そういえばそんなことを言っていたな」
魚が取れない理由が、水辺には多くの霊がいてとても危険だと言っていた。
「本当にもう無理なのか?ここには崖もあるから、高い所から釣れば問題なくね?」
「釣った魚に霊がたくさん張り付いてくることがあるから、その瞬間に捕まって引きずり込まれる可能性もあるわ」
「でもそこは、涼が退治してくれればいいじゃん。固い事言わんでいいじゃん」
「咲、あまり涼を困らせるな」
「でも、たまには魚が食いてぇよ」
気持ちは分からなくもないけど、危険だと言っているのだからなるべく近づかない方が良いだろう。安全第一だ。
数秒悩んだ後、涼は大きく溜息を吐きながら頷いた。
「分かったわ。その代り、2週間だけ待ってくれ。私にだって準備が必要なんだから」
「っしゃあー!丁度肉にも飽きてきたことだし、楽しみだ!」
涼から許可が出たことで、咲は勢いよく立ち上がってガッツポーズをした。
「本当に現金な女だ」
「呆れを通り越して清々しささえも感じる」
俺と華々美が呆れている中でも、里美は黙々とお粥を食べていた。
何にせよ、魚が食べられることを喜ぶ咲を咎めることは出来ない。食料の確保は、何よりも優先しなければいけないのだから、魚が確保できるかもしれないことはむしろ喜ぶべきかもしれない。
「でも、釣りに行く前にまず空道神社に行きたいわ。面倒くさがってずっと先延ばしにしてたけど、あそこにいるかもしれない住職と、娘の青美の事も気になるからね。まぁ、青美ならまだ大丈夫だと思うけど、何かなぁ・・・・あそこの住職が嫌いなんだよな」
行きたいという割には、なんだか微妙な表情を浮かべる涼。本当は行きたくないのだろう。
そういえば聞いた事があるが、あの神社の住職ってあの地区では一番の嫌われ者だって聞いた事があったな。まぁ、俺から見れば時代遅れの頑固者だから、学生や若い人から嫌われているんだよな。そしてそれは涼も例外ではなく、昔気質な性格のせいで嫌われているのだろう。
(本心では会いたくないのだろうけど、涼もいつまでも私情を優先させるわけにもいかないから、覚悟を決める為に自分から提案したんだろう)
あの神社の住職を嫌う気持ちは分かるけど、これ以上スルーし続ける訳にもいかないからな。
「空道神社か。まぁ、車で行けばすぐだし俺は構わないよ」
「わたしもだ。あの辺りに住んでいる生存者の事も、前々から気になっていたからな」
「私も賛成。仲良くするかはともかく、この町の生存者の情報は逐一把握しておかないといけないからね」
「まぁ、皆が言うならあたしが言う事はねぇけど」
「そうだね。じゃあ、明後日にでも青美に会いに行くわ。ありがとう」
渋々ではあったが、涼も納得してくれた。困ったような、ホッとしたような、どちらとも言えない表情を浮かべていた。
今後の予定が決まったところで、俺達はゴミを片付け、食器もきちんと洗ってから2階に上がり、住職夫婦が使っていたであろう部屋に入り、鍵をしっかり閉めてから眠りに就いた。大きめのベッドが置かれていたが、全員入る事が出来ない為ジャンケンで華々美がベッドを勝ち取り、俺達は全員仲良く床で雑魚寝となった。
が―――
「暑い」
「そうね。私も暑い」
「今時の夏でクーラーが使えねぇなんて、地獄だ」
「ううぅ・・・・ベッドだともっと暑い」
猛烈な暑さにより、里美以外のメンツは結局一睡も出来ずにいた。というか、体感温度30度の熱帯夜でよく普通に寝られるものだ。
翌朝、帰りの車の中で爆睡したのは言うまでもない。




