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夢の中へ

 ワゴンに乗って、行く手を遮ろうとする死霊たちに構わずに飛ばす里美。その間に俺は、あの時見た映像と黒い大きな蛇が俺に伝えた蛇神、もとい蛇神様の真実を伝えた。


「まさかそんなことがあったなんて・・・・・」

「涼もその事は知らなかったのか?」

「初めて知ったわ。おそらく、父も祖父も知らなかったと思うわ。何百年も前の事だから」

「無理もない。わたしだって信じられない」


 華々美も涼も、衝撃の事実に動揺を隠せないでいた。笠島が蛇神様の封印を解くまでの経緯も、その狂った思想と予想外に強力な怨念に俺も驚いた。

 そして、その後で聞いた蛇神様の真実にも俺は驚愕した。

 本当の蛇神様は皆に幸福をもたらす有難い神様で、蛇神様自身もとても心優しい性格をしていた。あの小さな蛇の像は蛇神様の憑代であり、力の源でもあった。

 ところが、ある一人の悪い人間がその力を悪用しようと像を持ち出してたくさんの人を殺し、その怨念を宿した魂を自身の身体に取り込ませたのちに自ら命を絶った。その人間の魂は、殺した人の魂と蛇神様の力により強大な悪霊となり、大勢の人に災いをもたらした。

 そんな悪霊の暴走を、強い力を持った陰陽師でもあった当時の物部神社の党首によって退治された。

 そうして取り戻された蛇神様の像は党首の手に渡り、蛇神様は党首に自分を封印するように伝えたという。蛇神様の意志を聞いた当時の党首は、蛇の像を釜の中に入れてから神社の本殿の近くの地面に埋め、その上に石の祠を立てて封印すると同時に蛇神様を祭ったのであった。


「蛇神様が危険な悪霊として伝わったのは、その悪い人間が蛇神の力を取り込んで強大な悪霊になって暴れたことが原因だったみたいなんだ」

「民衆の恐怖が伝わり、危険な悪霊という事になったという訳か。悲しいな」


 その悪党のせいで、悪霊扱いされた蛇神様を憐れむ華々美。たった一人の人間の悪行により、神聖な神様が悪霊として伝わってしまうなんて悲しすぎる。

 蛇神様としても、これ以上迷惑をかけたくない一心で当時の物部神社の党首に封印してもらうことを願った。そんな蛇神様の安らかな眠りを、笠島の身勝手な恨みのせいで再び悪用されようとしているのだ。


「それで、蛇神様は最後に幹夫に何て言ったの?」


 涼のその質問に、俺は一呼吸おいてから答えた。


「助けてほしいと。そして、もう一度封印してほしいって言ってた。これ以上誰も傷つけたくないって言ってた」


 だからこそ俺は、急いで屋敷に帰ろうと言ったのだ。あのまま放っておくと、笠島は益々手に負えなくなってしまうだけでなく、蛇神様にこれ以上悲しい思いをしてほしくなかった為、一刻も早く救出したかった。


「そうだな。だったら、早くいかないといけないな」

「ええ。悪霊は力技で消滅させる以外に方法はないし、蛇神様の力をこれ以上悪用させるわけにはいかない」


 華々美と涼も早く戻ることに同意してくれたが、俺はふと疑問に思ったことを涼に聞いた。


「消滅させるしかないって言ったけど、その場合笠島はどうなるんだ?」

「言葉の通り存在そのものが消えるわ。生まれ変わる機会もなければ、成仏することも出来ない。死霊たちが太陽の光を浴びると、存在が無くなって消滅するよりも最悪ね。本当の意味での無になる」


 そんな無常ともとれる言葉に、俺と華々美は思わず言葉を失うが同時にどうしようもない事なのだと理解することにした。


「同情なんてしてはダメよ。それで自分達が危険な目にあっては何の意味がないわ。彼は気の毒だと思うけど、私達だって生きる為に必死なのよ。そんな危険な悪霊を野放しになんて出来ない。残酷かもしれないけど、自分達の安全が何よりも優先よ」


 運転席から里美も、これは仕方がない事なのだと言った。

 確かに、自らの意志で悪霊になってしまった笠島はもはや救いようがなく、消滅されてももはや自業自得としか思えない。

 里美の言葉を聞いて、俺は笠島を消滅させる覚悟を決めた。

 1時間以上は車を走らせ、俺達はようやく屋敷のある地区へと帰ってきた。それと同時に、小夏さんから電話がかかった。


「どうしました?」


《幹夫君大変だよ!優希さんが突然倒れたの!》


「倒れたって、優希は!?」


《息はしているからまだ生きている!でも、呼吸が乱れているし、何かにうなされているみたいに苦しんでいるの!》


 スピーカーモードで通話していたので、近くにいた3人にも聞こえていた。


「涼」

「おそらく、悪霊が優希の命を奪う為に気絶させて、意識の中に入り込んで内側から命と魂を奪う気だ」

「となると悪霊は」

「ええ。優希の意識の中、夢の中にいる」


 笠島の最悪な企みを伝えて、俺達がすぐに屋敷に入れるようにお願いした。それからわずか10分後に、咲と姫香が門を開けて待ってくれていた。死霊たちは中に入ろうとしているが、敷地内に入る事が出来ずにもどかしそうにしているのが見えた。そんな死霊たちを蹴散らせながら里美は、ワゴンを屋敷の敷地内に滑り込ませた。

 時刻は、午後9時。

 俺達は屋敷へと戻った。

 ワゴンが入った瞬間、咲と姫香が大急ぎで門を閉めた。


「皆!こっち!」

「パイセンから聞いたよ!」


 咲と姫香の誘導で、俺達は急いでワゴンから降りて屋敷の中へと入り、皆の寝室に使っている部屋まで案内された。その部屋の真ん中では、布団に寝かされて優希が大粒の汗を流しながらうなされていて、そんな優希の傍に小夏さんと美玲とアリアの3人が見守っていた。


「優希は?」

「ずっとうなされています。小夏さんが倒れた優希さんをここまで運び、布団を敷いて寝かせました」

「何の前触れもなく突然倒れて、その直後に苦しそうに顔を歪ませて、ここに運んで布団に寝かせたときに体が熱くなって、熱を測ったら39度もあったのです。もしかしたら、この子にとり憑いている悪霊が関係していると思って」


 小夏さんから当時の状況を更に詳しく聞くと、優希は突然コンセントを引き抜かれた電化製品のごとく意識がプツンと切れ、リビングの床の上に倒れた。丁度夕食を終えて、皆で後片付けを終えてリビングでくつろごうとしていた時であった。


「おそらく、幹夫に蛇神様のSOSを聞かれたことを察知して、笠島が強硬手段に出たのでしょう」

「わたし達に正体を知られてしまったから、急いで優希を殺そうとしたんだろう。悪霊のくせに浅はかな奴だ」


 涼と華々美の予想通りだと思う。笠島は理性よりも感情を優先するような男だから、俺達に正体がバレた上に蛇神様の力までも悪用して今の力を手に入れたのだから、その力が失われる前に優希を殺してその魂を取り込もうとしたのだろう。


「どうすればいい?」

「夢の中に入り込まれては、わたし達ではどうすることも出来ない」


 俺と華々美が困惑している中、涼にはまだ方法が様子であった。


「まだ助け出す方法はある。私の術で優希の夢の中に入って、優希に憑依している悪霊を直接叩く。術は使えても、刀などの武器は持ち込めないから格闘戦での応戦になるけど」

「それでも、優希を助けれるのなら」

「わたし達も協力する」

「何を準備すればいいの?」


 俺も華々美も里美もその提案に乗り、涼がすぐに必要な道具を言ってくれた。美玲と小夏さん、咲と姫香も準備に加わってくれたお陰でスムーズに進んだ。

 出来上がった術式は、まるで怪しい黒魔術の儀式でも行うような光景になっていて、優希はその術式の真ん中で仰向けに寝かされていた。相変わらずうなされてはいるが。


「それで、どうすれば優希の夢の中に入れるんだ?」

「優希の手を握って、目を瞑ってゆっくり数を数えるんだ。人によってズレは生じるけど、平均で10秒後には深い眠りに入り、優希の夢の中に入れるわ。この術で最大4人までが優希の夢の中に入れる。私はもちろん行くわ」

「なら俺も行く」

「幹夫がいくのなら、わたしも行こう」

「喧嘩ならあたしがいた方が良いだろう」

「よし、決まりだ」


 こうして俺と華々美、涼と咲の4人で優希の救出に向かうことになった。俺達はそれぞれ左右に2人ずつ付き、2人で優希の手を包み込むようにして握ってから横になった。ちなみに、俺の横には華々美がいた。


「ワリィ。出来るだけくっ付かないようにする」

「今更気にするな。わたしと幹夫の仲だろ。もう少しくっ付いても大丈夫だ」

「分かった」


 華々美からの了解を得たことで、俺は華々美を後ろから抱き着くように密着して横になった。


(相変わらず服からは硝煙の臭いがするが、髪の毛からはシャンプーの良い匂いがするな)


 そんなことを考えてしまったが、すぐに意識を切り替えて頭の中でゆっくりと数を数えた。

 すると、まだ10秒も経っていないというのに俺の意識はまどろみに入り、涼の術の影響かあっという間に深い眠りに入った。

 そうして目を覚ますと、俺はあの現象が起こる前の連勇高校の校舎の中にいた。いや、眠っているのだから目を覚ますという表現はふさわしくないかもしれない。しかし、意識はハッキリとしているし、五感もきちんと機能している。とても夢の中とは思えない。


「不思議だ。夢の中という感じがまるでしない。まぁ、そうじゃないと笠島と対峙できないからな」

「そうだね」

「何というか、寝ている感じが全然しねぇな」

「うん。3人とも一緒にいるのは幸いだけど、突然声をかけられると怖いからやめて」

「私はまだ声をかけていないんだけど・・・・」


 当然のことながら、すぐ近くには華々美と涼と咲もいた。とはいえ、悪霊がいるこの空間で突然後ろから声をかけられるとマジで怖い。口から心臓が飛び出るかと思ったぞ。


「モタモタしている場合ではないわ。早く優希を探さないと」

「涼の言う通りだ。悪霊よりも早く優希と合流しないと」

「そうだな。優希が居そうな所といったら」


 3人を引き連れて俺は、現象が起こる前まで在籍していた自分と優希の教室、2-2の教室へと向かった。何故なら、笠島もそのクラスに在籍していたし、笠島が優希に告白した場所もそこだからだ。

 そう思って俺のかつての教室に向かって走っていると、そこには真っ黒いオーラを纏ったピエロと、壁際まで追い詰められた優希の姿があった。


「優希!」

「っ!?幹夫!」


 俺の声に反応し、優希が満面の笑みでこちらを見た。が、すぐに表情を硬くしたのが分かった。

 そして当然、コイツも俺の声に反応してバッと勢いよく後ろを振り返った。


「武谷、幹夫!」

「久しぶりだな、笠島隼人。随分と変わり果てた姿になったな」

「黙れ!」


 激しい怒りを俺にぶつける笠島。

 声を聴いてハッキリした。複数の死霊が集まった集合体でも、主人格と声は笠島で間違いなかった。

 笠島がこちらに気を取られている間に、優希は大急ぎで俺達の所へと駆け寄り、すぐに俺の背中に隠れた。


「何で貴様が出島さんを後ろに隠しているんだ!彼女は僕の物なんだ!」

「よく言うぜ。物部神社に行って、丑の刻参りで優希に呪いをかけていたくせに」

「それは出島さんが悪いんだよ。この僕の告白を無下にし、突き放すなんて愚かなことをしたから!」


 自分は何も悪くないといった感じで怒鳴る笠島に、俺やこの場にいた全員が呆れかえっていた。


「まるで欲しい玩具を買ってもらえなくて駄々をこねる子供だ」

「優希じゃなくても、アンタみたいな非常識な男を誰が好きになるっていうの」

「馬鹿じゃね」


 女性陣からも、笠島に対して冷ややかなコメントが口にされた。

 そんな3人の言葉を聞いて、笠島の怒りのボルテージは更に跳ね上がり、黒色のオーラから机や椅子が吹っ飛ぶほどの強風が吹き荒れた。


「一旦引くよ!ここでは分が悪すぎる!」

「分かった!それじゃ、体育館までいくぞ!」


 涼の提案に乗り、俺達は一旦校舎から離れて体育館へと向かう為に走り出した。あそこならまだ戦うには十分な広さがあると思った。

 だがその道中、1階の廊下に着いたところで突然優希が俺の手を引いて立ち止まった。俺と優希が立ち止まるとほぼ同じタイミングで、華々美と涼と咲も何事かと言いたげな顔をして立ち止まった。


「優希?」

「何で・・・・何で他の女を連れてくるのよ」

「何でって、3人ともお前を助ける為に」

「幹夫だけ来てくれればよかったのに、何で・・・・・」


 何でと繰り返して呟く優希の身体から、先程の笠島と同じ黒いオーラが靄の様に漂い始めた。


「くっ!」


 ただならぬ気配を感じた俺は、力任せに優希の手を振り解き、速足で華々美たちの所へと駆け寄った。


「酷いよ、幹夫。何でそんな女どもの所に行くのよ。私を置いて」

「お前、悪霊に毒されたのか?」

「いや幹夫。おそらくあれは、優希自身が発している強い恨みの念だ!それも、あの悪霊と同等の強烈な怨念が」

「なに!?」


 涼の口から聞かされた衝撃的な事実に、俺は言葉を詰まらせた。

 まさか、優希自身が強烈な怨念を発していただなんて。

 予想外の出来事を前に、俺達は困惑するのであった。





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