大嫌いな幼馴染
朝食を食べた後、俺は全員を連れて隣町のショッピングモールを目指してバスを走らせていた。ドライバーは里美だけど。
「別にいいけど、幹夫たちも積極的に運転した方が良いわよ。こんなご時世で法律もへったくれもあったもんじゃないわよ」
「そうなんだけど、やっぱり里美に頼ってしまうんだよな」
今回は人も増えたことで、必要となる食料と物資も増えた為以前の様に少人数で必要最低限という訳にもいかない。それに、出来るだけ不満は取り除いていきたいからな。
「2ヶ月経つと、肉や魚は全滅だろうなぁ」
「でもでも、久しぶりにお菓子食べられるかもよ。新商品はないかもだけど」
「確かに、ここ2ヶ月全然食べれてなかったもんな」
後ろの方では、咲と姫香が楽しそうに会話をしていた。何でも2人は、同じクラスでとても仲が良く、姫香はよく遅刻しそうになったところを咲の乗る原付に乗せてもらっているそうだ。
姫香曰く、咲がレディースの総長であっても特に気にしたことも無い為、休日にはよく2人でショッピングに行ったり、映画を見に行ったりとよく遊びに行っていたという。
最後に、咲も姫香も私服はかなり派手で、露出も多いものを着ていて、ピアスやチョーカーなどのアクセサリーもたくさん身に着けていた。
逆に質素なのは以外にも華々美で、私服であまり着飾る事がないのだという。
「何女の子たちをジロジロ見てんのよ」
「別にジロジロとは見てねぇだろ。つか、それで何でお前が機嫌悪そうにしてんだ」
「幹夫が私以外の女にデレデレしているのが許せない」
「お前にもデレデレした事なんて一度もねぇけどな。つか、しれっと隣の席に座るな」
俺が席に座るとすぐ、華々美が席に着く前に優希が強引に俺の隣に座ってきて、華々美は若干イラっとした顔で涼と一緒に俺と優希の後ろの席に座った。
何時だって優希はそうだ。俺が他の女子と仲良くしようとするとすぐに邪魔をして、俺の近くにいるというだけですぐに間に割って入って引き離そうとする。中学の時は、そのせいで当時好きだった女子に振られ、以後嫌われるようになってしまった。
(それ以来、俺はずっと優希の事が大嫌いだ)
ついに考えてしまった。
今まではなるべく考えないようにしていた。親同士の仲はとても良く、うちの両親も優希の事をとても気に入っている。ハッキリ言って、実の息子の俺以上に可愛がっている。
そんな優希が、ずっと嫌いだった。
素っ気なく接する、適当に流す、あしらう等して流すことで俺に対する関心を失くさせようと思った。優希が自然と俺から離れてもらう為に素っ気なくしていたことを、華々美と涼と話を無理矢理打ち切ろうとした時に思い出した。思い出してしまった。
(ああぁ、そうだったな)
ふと俺は、後ろの席に座っている華々美と涼に意識を向けて思った。
今まで優希に冷たくしなかったのは、優希の影響力が良くも悪くも大きくなりすぎてしまって臆病になってしまったからなんだな。
優希は、美玲に並ぶこの町の三大美女と呼ばれるほど注目されており、そんな優希を強引に突き放してヒステリーを起こして泣きじゃくられては、今度こそ俺の立場がかなり悪くなってしまう。
事実、小学校の時に「もう付きまとうな」と言って突き放そうとしたことがあり、それを聞いた優希は大きな声を上げて泣きじゃくり、それを聞いたうちの両親が駆けつけてくる事態になった。そして、何故か俺が親にこっ酷く叱られて、今後二度と優希を傷つけるなと言われてしまったことがある。婆ちゃんだけは俺の味方をしてくれたが、両親は相変わらず優希の味方ばかりをしていた。
(優希が三大美女と呼ばれるようになってから、それが余計に目立つようになり、それ以来俺は優希に強く言えなくなってしまったんだったな)
そんな昔の事を思い出している内に、バスは目的のショッピングモールへと到着した。
「着いたか。よし、食料と水を中心に集めるように。小夏さんと里美とアリア、美玲と優希と咲は、それぞれ衣類と必需品と防災グッズの調達を頼む」
「ちょっ!?」
「分かったわ、じゃあ私と優希で衣類の方に行くわ」
「里美さんが衣類なら、私はシャンプーや石鹼などといった必需品の方を調達します」
「では、私が先輩と一緒に行きましょう」
「でしたら、ワタシは防災グッズを取ってきます」
「んじゃ、あたしがアリアの傍にいて守ってやんよ」
里美と小夏さん、美玲とアリアと咲が、それぞれ取っていくものを決めた所で俺達はバスから降り、入る前に涼が術を使って中にいる死霊たちを追い出してくれた。
だが、その最中に優希がそんな俺の決断に異議を唱えてきた。
「ちょっと!なんで私が幹夫と別行動を取らないといけないのよ!嫌なんだけど!」
「わがまま言うな。衣類はおそらく物凄い量になると思うから、2人で行った方が良い」
「だったら何も、私じゃなくたっていいじゃない!幹夫ったら最近、私に対する態度が酷過ぎるんだけど!」
「付きまとわれるこっちは良い迷惑だ」
誰が好き好んで、こんな粘着質で束縛が強くてワガママな女なんかと一緒にいたいと思うか。
ハッキリと嫌いと思ってしまった今、俺にとって優希はどうでもいい存在に成り下がってしまった。それでも、数少ない生存者である為助けるが、関わりを持ちたいかどうか聞かれるとノーである。
それなのに優希は、そんな俺の気持ちなんてお構いなしにベタベタしようとしてくる。それがたまらなく嫌だった。
そんな俺と優希の間に華々美が割って入り、物凄い剣幕で優希を睨みつけていた。
「お前最近おかしいぞ。やたらと幹夫に付きまとい、嫌がっているにも拘らずそれを無視して」
「あ、あんたには関係ないでしょ!私と幹夫の問題なんだし!私は幹夫の幼馴染として」
「幼馴染だからなんだっていうんだ?幹夫が迷惑がっているのが分からないのか」
「幹夫が迷惑がっている訳ないでしょ!幹夫は幼稚園の時からずっと一緒にいてくれた、私だけの幹夫なんだから!」
「幹夫はお前のものではない。勝手なことを言うな」
「うるさい!誰が何と言おうと、幹夫は私のものなのよ!」
華々美の圧に怯むことなく、執拗に俺は自分のものだと主張する優希。そんな光景に、術を施している涼ともう一人以外は困惑した様子であった。
そんな中、困惑しなかったもう一人が前に出て優希の腕を掴んできた。そのもう一人というのは里美であった。
「いい加減にしなさい!幹夫があんたを嫌っているのがまだ分かんないの」
「え?」
里美の口からハッキリと、俺が優希を嫌っていることを聞いて優希は表情が固まり、瞳に影を落とした。
「何言ってるのよ・・・・幹夫が私を嫌っている筈・・・・」
「幹夫の態度を見ればすぐに分かるわよ。それでも何とかここにいる全員と生き残ろうとしているのに、優希は自分のワガママのせいで幹夫にどれだけ迷惑をかけているのか分かっているの。このままでは、咲みたいに追放になるわよ」
追放という言葉を聞いて、咲までがピクッと肩を震わせた。とはいえ、それで優希が懲りるとは到底思えない。咲は懲りて丸くなったが。
里美の厳しい言葉を聞いた優希は、瞳に涙を浮かべながら泣きそうになったが、その前に里美が優希の腕を強引に引いて阻止させた。
「そうやって周りの同情を買うのはやめなさい。あんたを上げてくれた人たちには通じても、私には通用しないわよ。ハッキリ言ってアンタ、感じ悪いわよ」
「・・・・・クッ!」
悔しそうに里美の手を振り解く優希。
そんな優希の味方をしてくれる人は、この場には誰もいなかった。
「分かったら大人しく言う事を聞きなさい。それでもワガママを言うのなら、あなたをここに置いて行くからね」
「・・・・・分かったわよ」
不機嫌そうに頷いているが、その顔は怒りに満ちていて先程の涙は何処に行ってしまったのやら。
そんなやり取りをしている間に、涼がモール内にいた死霊たちを全て追い出したみたいで、俺達はすぐに中に入って2時間以内に持って来られるものを全て持っていく為に、それぞれペアを組んで店内に散った。
ちなみに、涼は姫香と、俺は華々美と組むことになった。と言っても、俺達は食料品売り場に行くので殆ど意味はない。
「それにしても、本当に大丈夫なのか?優希をこのままわたし達のグループに留めておいて」
「今のところ、実害を受けているのは俺だけだからな。他のメンバーにも害を与えるようなら、その限りではないが」
「わたしと涼は、既に被害を被っているがな」
「それに関してはすまないと思っている。だが、あいつがまだチームの輪を乱している訳ではないから、もう少し我慢してくれ」
「まったく、お人好しなんだから。だが、ここ最近はかなり酷いからそろそろ」
「分かってる。もし、これ以上チームの輪を乱すようなら優希を追放するつもりだ」
優希もそれが嫌だから、わざわざチームの輪を乱すようなことはしないのだが、今よりも更に酷くなるようなら追放も考えないといけない。
そんなことを考えながら俺と華々美は、棚に陳列されていた調味料と小麦粉等の粉類をカートいっぱいに詰め込んでいった。いっぱいになったら一旦バスに戻り、取ってきた物を詰め込んでからまた取りに行くというのを繰り返していった。
俺と華々美が調達しているのは、調味料や粉類や米といったものを調達して回っていた。
涼と姫香は、袋麵やカップ麺などのインスタント食品や、缶詰や乾麺や水といった日持ちが出来て非常食にもなる物を担当していた。おまけで、姫香の希望でお菓子類も。
とはいえ、俺達としてはさっさと食料品売り場での調達は終わらせたかった。だって、肉や魚などの腐敗臭がかなり酷く、野菜に至っては真っ黒になっていて虫までたくさん飛んでいた。
いくら電気がまだ生きていると言っても、適切な保存がされていないナマ物が2ヶ月ももつわけがない。特に、肉類と魚類に関してはネズミがたくさんいた。その為、あまり長くいたくなかった。
およそ1時間かけて、俺達は必要な物を出来るだけたくさん調達する事が出来た。
必要な物もある程度揃えた所で、全員の希望で靴屋と少しお高めの服売り場、更に化粧品売り場に行くことになった。
「行くのは構わないけど。そんなに時間はかけられないぞ」
「分かってる。でも、せっかくの機会だから新しい服や靴は欲しいだろ」
「まぁ、いいけど」
それでも、1時間あるかないかだ。そんな短い時間で、買い物が長い女子にとっては物足りないと思う。
(本当ならきっちり2時間あげたかったけど、食料や下着類、防災グッズ等は無くてはならない必需品。それを後回しする訳にはいかない。こればかりは)
そんなことを考えていると、突然後ろから誰かに帽子をがばっと被された。後ろを振り返ると、屈託のない笑みを浮かべた涼がいた。
「今の時期、帽子は必須だよ。選んでいる時間はないから、良さそうなのを勝手に見繕ったけど、似合っているわ」
「お。サンキュウ」
少し照れ臭くなって、俺は思わず帽子を深く被って顔を見えにくくさせた。
「それに靴だって、何足かあった方が良いだろ。幹夫の靴もボロボロだし、新しい靴はあった方が良いぞ」
「そうね。一緒に行きましょう」
華々美と涼に手を引かれながら、俺達は靴売り場に足を運んだ。
そんな俺と華々美と涼を、物陰から睨む人影があった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
~優希side~
「何よ!鼻の下伸ばして!」
気に入らない!
幹夫はいつだってそう!
私という幼馴染がいて、幹夫のご両親も私たちの仲を認めていて私の事をすごく気に入ってくれている。
私も幹夫の事が幼稚園の時から好きで、将来は幹夫と結婚することに何の疑いを持っていなかった。
なのに幹夫は、いつも私に対して突き放すような態度ばかり取り、あろうことか小学生の時に私に向かって大嫌いと叫んだこともあった。当時の私はとても悲しくなり、大きな声をあげて泣いた。そんな私の泣き叫ぶ声を聴いた幹夫のご両親が駆けつけ、すぐに幹夫を叱ってくれた。
私の親だけでなく、幹夫のご両親も私の味方をしてくれて、幹夫も私を傷つけたことを反省してくれると思った。だが、幹夫のお婆さんだけは違っていて、幹夫の気持ちも考えずに勝手なことを言うなと叱ってきて、その日から2週間ほど幹夫は家には帰らずお婆さんの家に泊まった。
同時に、その日から幹夫の私に対する態度が素っ気なくなり、声をかけても適当に流すようになってしまった。
中学の時も、高校に入っても、幹夫は私がどんなに声をかけても全く態度を改めようとはしてくれなかった。
中学の時から、幹夫に振り向いてもらう為にお洒落に気を遣うようになり、自慢になってしまうがその甲斐あって人生で初めてモテた。高校に入ってからは、麗宮女学園に通う幸城茅音と城ヶ崎美玲に並ぶこの町の三大美女と呼ばれ、老若男女問わず注目されるようになった。
これなら幹夫も私の事を好きになってくれる、大好きな幹夫とお付き合いして、大学卒業後に結婚してお嫁さんにもなれる。そういうビジョンが、私の中で形成されていた。
それなのに幹夫は、未だに素っ気ない態度ばかり取り、私の事を好きになってくれる様子が一向になかった。
それどころか、この現象が起こってから幹夫はたくさんの女の子に囲まれるようになってしまった。特に、幹夫とペアを組むことが多い2人、藤波華々美と瀧倉涼。この2人は特に幹夫との距離が近く、幹夫も私よりもあの2人と一緒にいる事が多くなった。極めつけは、あの協会から帰ってきた後あの3人の距離感はやたらと近くなり、幹夫も私に対して明確な拒絶反応を示すようになった。
「あの2人が、私から幹夫を奪おうと!」
このままでは華々美か涼、あるいは両方に私の幹夫が奪われてしまう!
そう思うと、私の中であの2人に対する怒りがどんどん大きく膨らんでいった。
「私の幹夫を奪うなんて、絶対に許せない!」
華々美と涼に対する怒りが沸き上がっていると、
『見つけた!』
「え?」
突然誰かに声をかけられて振り返るが、そこには誰もいなかった。
「何なのよ。こんな状況で空耳は洒落にならないから勘弁してよ」
その時は適当に流すことにしたが、その時の事を私は後に深く後悔することになった。




