変化する関係
7月上旬のある日の夜。町中にて
街灯の明かりが町を照らし、町の中を埋め尽くさんばかりの死霊たちが生者を求めて彷徨い回っている中、サーカスのピエロの様な姿をした男が死霊に囲まれながらも堂々と歩いていた。不思議なことに、死霊たちはそのピエロを避けているようにも見えた。
『出島優希。君は僕の物だ。僕の物。その為なら、僕は何だって出来る。何だって』
うわごとの様に呟きながら、ピエロはまるで夢遊病にでもかかっているみたいにフラフラとした足取りで、さりとて眠っている訳でもなければ、生きている訳でもない。
そんなピエロは、今夜も誰かを探し回っているみたいで、周りに死霊たちが居ようとも関係なくフラフラと歩きまわっていた。
『君さえ手に入れば、僕は何もいらない。出島優希。僕はただ君が欲しい。君の事がどうしようもないくらいに欲しい。欲しい。欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい・・・・欲しい!』
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「ふああぁ~よく寝た」
半袖半パンの寝間着のまま屋敷の外に出て、伸びをしながら日課の一つでもある畑の様子を見に行った。そこには既に先客がいた。
「おはよう、華々美、涼」
「おはよう」
「幹夫も起きたのね」
畑の傍には、赤色の寝間着を着た華々美と、青色の寝間着を着た涼が野菜の様子を見ながら収穫をしていた。今日の収穫は、トマトとキュウリとナスであった。
「ピーマンと枝豆とカボチャはまだっぽかった?」
「もう少し待て。その2つも時期に収穫できる」
「他にも栽培したかったけど、うちの畑の規模ではこれが限界ね。かと言って、他の野菜は栽培方法が分からないし、この畑ではあまりいろんな種類の野菜は栽培できない。小さすぎるからね」
小さすぎるなんて言う涼だが、俺からすれば十分に大きいと思う。だがそれは普通の家庭菜園に比べたらであって、農家さんが所有しているような大きな畑ではないし、仮に大きくても俺達の中に農業の知識がある人なんていない。涼もまた、家庭菜園が多少できる程度の知識しかない。
ちなみに屋敷で栽培している野菜は、既に収穫を終えた野菜や、苗付けがまだのも含めると、全部で12種類であった。
その12種類が、
玉ねぎ、ニンジン、ジャガイモ、ピーマン、ナス、トマト、キュウリ、枝豆、オクラ、カボチャ、大根、ブロッコリー、であった。十分過ぎました。
「とはいえ。人数が増えたから、食料の消費も激しくなってしまったな。肉は猪肉と鹿肉がたくさんあるから問題ないが、野菜は少し不足しているし、魚に関してはこの際諦めるしかないか」
「川や海に行くのは極力避けた方が良い。霊というのは水辺を好んでいるから、あまり近づいてはいけない。上流に行けばあるいは大丈夫なんだろうけど、海に行くのは最悪だ。あそこには何百年もの間に死んだ霊がたくさんいて、隙あらば海に引きずり込んで溺死させようとする。海には絶対に行ってはダメだ」
「「ううぅ・・・・・・」」
海に行ってはダメだと強く言われて、俺と華々美はそれ以上何も言えず乾いた笑みを浮かべるだけであった。そうなるともう魚は食べられないと考えた方が良いだろう。
「それだったらイナゴでも捕まえ」
「「それだけは絶対に嫌!」」
「お、おう」
最終手段である昆虫食は、多数決により否決された。というより、女子全員が嫌がった為諦めるほかなかった。それ以前に、この屋敷には俺以外全員が女性であった。最年長が里美と小夏さんで18歳、年下は美玲(15)とアリア(14)の2人だけであった。残りは全員俺とタメであった。
「そうなると、また食料や物資の調達に行くか」
「食料と言っても、乾物や缶詰しか調達できないでしょ」
「醤油やお塩やお味噌の他に、香辛料やスパイスやインスタント食品だって調達できる。それに、お菓子類もあるといいわ」
挙げたら意外と多かった。言われてみれば、調味料や香辛料の類は絶対に必要だし、インスタント食品だって非常食として必要だし、お菓子類は単に涼が食べたいだけの気もしなくもないが、この現象が起こってから確かに食べていない。時々ポテチやチョコレートが恋しくなる。
他にも、夏用の衣類や下着だって必要だし、それらを洗う洗剤もなくてはならない。この他にも、石鹼やシャンプー、掃除道具や防虫剤なども必要になる。
「久々に物資の調達に出かけるか。ナマ物は腐ってダメになっているだろうけど、それ以外なら何とかなるだろう。それ以外にも必要な物はたくさんあるな」
「そうだな。今回は最初の頃よりも人数が多くなっているから、手に入るものも前回よりも多いだろう」
「ああ。じゃ、今日はちょっと遠出して別のショッピングモールにでも行って」
「幹夫おぉ!」
俺がそう提案した直後、ピンク色のTシャツとスカートを着た優希が俺の所へと駆け寄ってきた。若干鬼気迫る感じなのは気になるが、まぁスルーしておくか。
そんな優希が、俺の近くに来るといきなり手を掴んで引っ張ってきた。
「また寝間着のまま畑に来て。お洗濯するこっちの身にもなってよ、もう!」
「別に汚している訳でも何でもないからいいだろ」
「よくない!」
「おい!」
こっちの言い分も聞かずに、優希は俺の手を引いて強引に屋敷に連行しようとした。そんな優希の姿に、華々美と涼が不機嫌そうな顔をしていた。
「まだ華々美と涼との話が終わっていないんだから、ちょっと待ってくれ」
「何よ。私とはあまり一緒にいてくれないのに、華々美と涼の2人とは一緒にいたがるんだ」
「だから!」
優希は俺の幼馴染だが、正直言って俺は優希の事がだいき・・・・好きじゃない。
何かと俺にベッタリしてくるし、お節介を焼くのはこの際良いとしてもそれが度を越えて勝手に身の回りの世話をしようとするし、仲良くなった女子と話をすると勝手に割って入って邪魔をするしで本当に迷惑であった。
今までは適当にスルーすればそれで良かったが、ここ最近はそんな優希の行動が妙に癇に障り、場合によってはイライラするようにもなった。特に、華々美と涼と話しているときは。
この町の三大美女にお世話されて何言ってんだ、なんてよく男子たちに言われてきたが俺は別に脈がある訳でもないし、優希に対して恋愛感情がある訳で何でもない幼馴染という名の他人だ。それ以上でもそれ以下でもないと思おうとしていた。
「とにかく、今大事な話をしてんだから構わないでくれ」
「何よ!幹夫のバカ!」
怒った優希は、俺の手を勢いよく振り払うとドスドスと足音を立てながら屋敷へと戻っていった。
「いいのか?」
「いいんだ。正直言って、付きまとわれて迷惑してたし」
「幼馴染なんでしょ?向こうは幹夫の事を気にかけているけど、幹夫は優希の事は何とも思っていないの?」
「・・・・・幼馴染だと思っているけど、それ以上の感情は抱いていないんだ」
だが、あの協会から帰った後から優希のお節介と付きまといが鬱陶しく感じるようになり、最近ではあんな風に突き放すことが多くなってしまった。以前だったら無視したり、適当に流してやり過ごしたりしていたのに。
そんな俺の話を聞いた華々美と涼は、お互いに顔を見合わせた後妙に嬉しそうな表情を浮かべながら俺の両隣に移動し、腕に抱き着いてきた。
「お、おい!?」
「ほおぉ、幹夫は大きいのが好みか?」
「膨らみかけの柔らかさが良いに決まってるでしょ」
「何聞いてんの!?」
一体2人は何を考えて、俺なんかの腕に抱き着いてきているというのだ!?しかも、なんか嬉しそうだし!
(ヤバイ!どっちも柔らかい!華々美は弾力と張りがあって、大きいから俺の腕が挟まってる!涼はそんなに大きくないのに、フニャフニャしていてとにかく柔らかい!)
というか、何で2人の胸の感触の感想を考えているのだろう。
そんな雑念を振り払い、俺は2人に今日の予定と調達したい食料と物資の話し合いをした。
「とりあえず、食料の方は米と小麦粉はあった方が良いだろう。米はこの町から車で1時間もある村の農家さんにお願いすれば分けてもらえそうだけど、小麦粉はそう多くは貰えないだろう。それでも、食パンくらいなら何とか作れるぞ」
「他にも、非常食用にインスタント食品や調味料、それに乾物も欲しいわね。人数も増えたことだし、その分必要な食料も増えるだろうからたくさん欲しいね」
「他にも冷食もまた調達したいな・・・・ところで、2人とも何時までくっ付いているつもりなんだ?」
今大事な話をしている筈なのに、2人とも俺の腕に抱き着いたまま離れようとしなかった。一体なぜ?
「そんな事よりも、話を進めようじゃない。他にも衣料品や靴も欲しいな」
「あの、華々美?」
「そうね。他にも防災グッズや着火剤、ライターやロウソクも必要ね。うちはソーラー発電だけど、万が一の事も考えて備蓄しておいた方が良いでしょう」
「ちょっと、涼?」
何故か離れようとしない2人は、何事もないみたいに話を進めていた。
何にせよ、今日の予定と必要な物の確認も出来たので、俺達は収穫した野菜をもって屋敷の中へと戻っていった。屋敷に戻ると、やはり不機嫌そうな優希が里美と小夏さんと一緒に朝食の準備を進めていた。




