新しい仲間
それから俺と横原先輩は、2階を担当していた華々美達と合流し、そのすぐ後に1階を担当していた涼と城ヶ崎さんが上がってきた。どうやら皆、吸血鬼の掃討に成功したみたいだ。
その後、俺達は刑務所を後にし、完全にこの辺り一帯の吸血鬼を全滅させたことを涼のお陰で確認できた。
教会に戻ると、全員が俺達の無事な帰還を皆喜んでくれた。
最後に、俺と華々美と涼はこの後自分達の屋敷に帰る事を皆に伝え、一緒に来るかどうかの確認をしてみた。
しかし、残念なことに殆どの人がこの教会に残ると言い、一緒に来てくれるのは4人だけであった。その理由は、華々美と咲が屋敷の方にいるからであった。
華々美だけならまだ良かった。今回の一件で、華々美の見方が変わって怖い印象を抱かなくなったから。
けれど、咲はそうはいかない。いくら丸くなったと説明しても、実際に見た訳ではないのだから、はいそうですかと言ってすんなり受け入れられるものでもない。
華々美も怖がられているけど、この辺り一帯を根城にしているレディースの総長である咲も同じくらいに地元の人達は怖がっている。丸くなったと言っても、現象が起こった当日に傍若無人な態度を取って全員の反感を買い、俺達を支配する為に墜落するヘリから助けるという、善意を装った最低なことを企んだくらいだから簡単に受け入れられない。丸くなる前の咲は、確かに最悪な女だった。
無理強いも出来ないので、残りたいという人達の意見も尊重することにした。その代り、水と食料の配給を定期的に行い、表面上では俺達と友好関係を築くことを約束してくれた。表面上では。
そんな中でも、4人も俺達と一緒に来てくれると言ってくれた。
「私たちは、武谷先輩たちと一緒に行きたいと思います」
「私が送ったSOSを見てすぐに来てくれたあなた達の為に、私は力を尽くしたいです」
「咲ちゃんに会えるのは、あたしも楽しみ~♪」
「ワタシも、先輩たちの役に立ちたいです」
俺達と積極的に力を貸してくれた城ヶ崎さんと横原先輩、実は咲ととても仲が良くて会いたいと言っていた神崎さん、避難した人たちの中で最年少の市原さんが一緒に行くと言った。
こちらとしても、人手が欲しかったため彼女達の同行はとてもありがたかった。
教会の人達とも、これから先も交流を深めていく事を約束してから、俺達は教会を去ってバスが停めてある朝戸中学のグラウンドへと向かった。その際に、積んであった水と食料を教会の人達に全て渡していった。
全ての用事を終えた俺達は、教会に残る人たちに見送られながら帰路に就いた。
その道中で、城ヶ崎さん達4人は一番後ろの席で寄り添うように眠っていた。
「ずっと張り詰めていたんだろうな。午前中もぐっすり寝ていたのに」
「無理もない。寝かせてやれ」
「そうね。あの吸血鬼の群れだけでもかなり厄介なのに、その上鬼塚達までもいたんだ。気が休まる時なんてなかっただろう」
「その鬼塚も、結局は仲間に裏切られて殺され、自分自身が吸血鬼になってしまった。哀れでバカなやつだ」
仮に起きたとしても、指が全部なくなってしまっては何も出来ないだろうけど。
「それにしても、横原先輩から聞いたぞ。刈本を相手にかなり危ないことをしたらしいな」
「窓枠と鉄格子が外れていたから放り出す事が出来たけど、そうじゃなかったらかなり危なかったよ」
「それでも、誰かがやらないといけないんだ。刈本みたいな吸血鬼は、絶対に残してはいけないからな」
窓枠と鉄格子が外れていたのは、正直言ってかなりの幸運だったと思っている。3階の階段を上った時から気付いていたけど、まさかあれが役に立つなんて思ってもみなかった。
木の杭も刺さらず、首を斬る事も出来ないほどの硬い筋肉を持っていた為、日の光を浴びせる以外に対処法が思い浮かばなかった。
「まったく。幹夫のその運の強さには脱帽するぞ」
「そうね。やはり幹夫には、かなり強い力を持った守護霊が憑いてくれていて、その守護霊が幹夫に強運をもたらして護ってくれているとしか考えられないわ」
「守護霊、か」
確かに、これまでも何度もその強運に助けてもらっているけど、一体どんな守護霊が俺に憑いて護ってくれているのか分からない。
「だけど、その守護霊のお陰で俺はいつも助けられているから、感謝しないとな」
「そうだよ」
「きちんと敬わないと、罰が当たるからな」
「ああ。・・・・っと、帰る前にちょっと寄りたい所があるけどいいか」
「わたしは構わないが・・・・」
「そうね。一体何所に行きたいのか私も気になるし、付いていくわ」
「ありがとう」
華々美と涼の了承を得て、俺は早速その目的の場所へと向かった。途中で、空になったペットボトルに水を入れて、更に花屋に寄ってまだ枯れていない花を調達してから目的のその場所に行った。
道はだんだん傾斜に入り、やがて山の中にある大きな墓地に辿り着き、そこでバスを停車させた。
「用事って、お墓参りに行きたかったんだな」
「ああ」
水と花束を持って、俺は華々美と涼と一緒にとある墓の前に立った。
「幹夫の家のお墓か?」
「ああ。婆ちゃんが死んでから、毎月必ず墓参りに行ってたんだ」
「お婆様の?」
「お婆ちゃんの事が、本当に好きだったんだな」
「ああ。いい歳こいてコンピューターゲームを好み、ラジコンやドローンの操縦も得意で、最新のテレビゲームに目がない婆ちゃんだった。そのくせ、将棋やゲートボールといった他のお年寄りが好む遊びを嫌っていた変わり者だったな」
「あははははは・・・・・」
「随分とアグレッシブなお婆ちゃんだったんだな・・・・・・」
「よく言われた」
そのお陰で俺は、そんな婆ちゃんと友達感覚で仲良くする事が出来、休みの日は婆ちゃんと一緒に遊ぶのを何よりも楽しみにしていた。
けれど、そんな気安い関係だったからそこ些細なことでよく喧嘩もしていた。亡くなる前の日も、いつものくだらない理由で喧嘩をしてしまい、仲直りも謝罪も出来ないまま大好きな婆ちゃんは天国に逝ってしまった。急性心不全だったそうだ。
それが、俺にとっての心残りでもあり、一生消える事のない後悔でもあった。
「婆ちゃんが亡くなったときは、マジで泣いた。本当は、明日にでも謝りに行きたかったのに、それすら出来ないまま、俺は・・・・」
そんな大好きな婆ちゃんの為に、俺は毎月墓参りに行って心の中で婆ちゃんに何度も謝った。
ごめんなさい
と言って。
お墓磨きには華々美と涼も手伝ってくれて、お花も供えてから俺達はお墓の前でしゃがんで手を合わせた。線香は涼が持っていたので、それを使った。
「ごめんね、婆ちゃん。来るのが遅くなってしまって。こんな状況であっても、俺は毎月婆ちゃんのお墓参りに行くから」
数秒ほど拝んだ後、俺達は立ち上がって一例をした後でバスの方へと向かった。
「幹夫にここまで大事にされて、お婆ちゃんは幸せ者だな」
「幹夫は罪悪感を抱いているかもしれないけど、お婆様はきっと気にしていないと思うわ」
「俺もそう思う。結構豪快な人でもあったから」
そんな昔を懐かしみながら、俺達はバスに乗って再び屋敷に向かって走らせた。
「建物の中もすごいけど、森の中もすごいな」
「あんまり見ない方が良い。そこに住み着いているのは質の悪い霊で、足を踏み入れた人間を容赦なく襲って命を奪う厄介なやつだ。あまり意識するな、無視しろ」
「よく見ると、着物を着ている奴や甲冑を身に着けている奴まで色々いるな。何百年も前からここにい付いているんだな」
「幹夫。気になるのは分かるが、運転に集中した方が良い。ドライバーのお前に何かあったら、このバスに乗っている皆が被害を受けるんだ」
「ワリィ」
華々美に注意されて、俺はバスの運転に集中することにした。代わりに、俺が疑問に思っていたことを華々美が涼に尋ねてくれた。
「にしても、空にプカプカ浮かんでいる浮遊霊どもは日中でも普通に活動しているのに、森の中に潜んでいる奴や、建物や日陰に避難している死霊どもは日光を嫌っているって、その違いって何があるんだ?」
「太陽の光は除霊の力がものすごく強く、霊を寄せ付けない力があるの。その為、日光を浴びた幽霊は跡形もなく消えてしまうんだ」
太陽にそんなすごい力があったなんて、想像もしていなかった。お日様には感謝だ。
他にも、強い光も嫌う傾向があってLEDも実は効果が抜群だというので、霊を近づけさせないようにするには部屋を明るくするのが良いとのこの。
「とはいえ、今私たちを脅かしている死霊どもは通常の死霊よりも力が強いから、LEDはともかく蛍光灯や豆電球程度の光なんて効果がないの。だから死霊どもは、日中は太陽の光から逃れる為に建物の中や森の中に避難しているんだ。空に浮かんでいる浮遊霊どもは、人に危害を加える悪い霊ではないから太陽の光にある程度の耐性があるんだ。だからと言って、長時間浴び続けるとあいつ等だった消滅してしまう。太陽光などの光が平気なのは、守護霊などといった善い霊だけで、そういった霊は太陽の光を好んでいるんだ。幹夫に憑いている守護霊の様にね」
要約すると、空にいる浮遊霊もそんなに太陽の光に強い訳ではない為、定期的に建物の中などに逃げているのだという。
守護霊みたいに人を守ってくれる幽霊は、逆に太陽の光を浴びても平気で、それどころか好む傾向があるのだという。
悪さをする霊も、通常なら居付いている土地に近づかなければ何の問題もないらしい。本来であれば。
「でも、だからと言って悪戯に近づいたり、霊の住処に土足に踏み込んだり、物を持ち出したりすると日中だろうが太陽の光を浴びようが関係なくその人間に憑く」
「前に涼が言っていたな。そういう所に踏み込まれると、幽霊たちも怒ってその人間に悪さをするって」
「そうそう。人間だって、自分の家に土足で踏み込まれると腹が立つでしょ。あれと同じ」
「子供でも分かる理屈だな」
「そう。だから、絶対に幽霊が住んでいる土地、特に心霊スポットに行くなんてもっての外。絶対に行ってはいけない。この町で言うと、地下を流れている古い下水道とゴースト団地が該当する。あそこに住んでいる死霊どもは、私や父や祖父が今まで経験したことがないレベルで強力かつ危険な悪霊が住み着いていて、除霊が出来ずにその場に近づかないことが最善だというくらいなんだ」
「そんなに危険なんだ」
「うん。だけど、今回の現象で更に力を増して、悪霊よりもさらに強力で危険な魔物になってしまっている可能性がある。こうなるともう手に負えない」
涼の話を聞いて、俺は改めてこの町の古い下水道とゴースト団地の危険性を再認識した。
ゴースト団地に至っては、後に皆がその危険性をこの身をもって体験することになる為、ここでは省かせてもらう。
この町の下水道の危険性は小さい所から聞いており、死んだ婆ちゃんからも「この町の下水道には悪い霊がたくさん住んでいるから近づいちゃダメだ」、と口を酸っぱくして言っていたのを思い出した。
下水道に住み着く悪霊の話は、この町に住んでいる人なら誰でも知っている危険地帯で、下水工事の人でさえ関わった人全員が病気や不慮の事故で皆死んでいった為、今では工事の人ですら近づこうとしない。
何年か前に瀧倉神社の住職、涼のお爺さんがお祓いをしようとしたが、あまりにも強すぎる怨念を前に近づく事が出来ず、誰もここに近寄らないことが最善の方法だと言ったほどであった。
もちろん、理由は悪霊達だけではない。あの下水道は地盤がかなり緩んでいるため、崩落の危険性もあるのだという。
だけど、この現象が起こってしまったことで更に力を増してしまい、陥没の危険性がある所から生きている人間を引きずり込むほどになってしまったのだという。現象が起こった日に、華々美の護衛に就いた男達を引きずり込んだあの白い手がまさにそれであった。
「まぁ、今は落ち着いているが、アイツ等は今も虎視眈々と生きている人間を狙っている」
「わたし達もターゲットになっているというのか?」
「たぶん大丈夫でしょう。強力な守護霊が守っている幹夫はもとより、日中に外に出て日の光をたっぷり浴びている私たちが狙われる可能性は限りなく低い。アイツ等だって日の光を浴びると消滅してしまうから、陽光をたくさん浴びている人間を敬遠する傾向が強いんだ」
「安全地帯に引きこもってばかりいるのも良くないという訳か。わたし達を外に連れ出してくれている幹夫のお陰で、わたし達は狙われにくくなっているという訳か。これも幹夫の守護霊の恩恵かもな。感謝だ」
うん。有難いのは分かったから、俺に向けて拝むのはやめてほしいぞ。
だけど、それも狙われにくくなっているだけであって、全く狙われないという訳ではない。
(やはり対策としては、日陰を避けてお日様の下に就くことなんだろうけど、今のこの季節ではそれは厳しいだろうな)
これから夏になり、気温もどんどん上がっていくこの時期に長時間日の光を浴びるのは、体中の水分を全て蒸発させてしまう危険性も秘めている。
太陽の光も、俺達を危険な悪霊から守ってくれるだけでなく、暑さの影響で体力や水分も奪い、最悪の場合熱中症になって命を落とす場合もある。こまめに水分補給をすればよいのだが、それだけでは追いつけないのが現状だ。
(これからの時期を考えて、相応の対策も練らないと。屋敷から出られないなんて事態にもなりかねない)
引きこもっていては、いずれ食料や物資は底をついてしまう。その為、ずっと引き籠るという選択肢は絶対に取るべきではない。
そうならない為の対策も考えている内に、俺達はようやく屋敷に帰る事が出来たのであった。




