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吸血鬼

 屋敷に戻ってすぐ、俺達は早めの昼食を取ってすぐに大量の食糧と水と衣類、更には対吸血鬼用にたくさんの木の杭等の武器も用意した。そうして正午には全ての準備を終え、俺は今回の同行メンバーを連れてバスに乗った。


「って、また私はお留守番なの!」

「今日中に帰れないかもしれないのに、その間ここでジッとしてろだなんて、あたしにとっては苦痛だぞ」

「文句を言わない。留守番だって必要だし、私達は幹夫たちが帰ってきたら暖かく迎え入れる準備しなくちゃね」


 そんな訳で、今回は俺と華々美と涼の3人で行き、優希と咲と里美の3人には屋敷で待ってもらうことになった。念の為、吸血鬼用にニンニクを屋敷の敷地内に吊るしておいた。


「ちゃんと問題を解決してからになるから、今日明日で帰れる保証なんて無いんだから屋敷に残って留守番する人が必要なんだ。分かってくれ」

「「むうぅ!」」


 優希と咲は膨れっ面になって俺を睨むが、里美が引き留めてくれたお陰で俺達はバスで再び朝戸中へと向かった。


「幹夫も随分と運転に慣れたもんだな」

「無免許運転なんだけどな」

「こんな状況じゃ仕方ない。わたしや涼だって練習したんだし、同罪だ」

「私はかなり不本意なんだけど」


 まぁ、この現象が起こってから法律もモラルも何もかも崩壊してしまったから、俺達が無免許運転をしていても今更ではあるが、やはり警察がいないかどうかビクビクしてしまう俺がいる。


「ところで涼。吸血鬼の倒し方って、胸に木の杭を打ち込む意外だと首を切り落とさないとダメなのか?」

「他にも燃やすという手もあるけど、それだと再び魂が抜けて死霊になってしまう。木の杭を胸に打つと、首を切り落とす以外に方法がないと考えた方が良い。これ以上死霊が増えるのは嫌だろ」

「だけど、本当にどうしようもなくなった時に焼くという手段も取らないとな。だけどこれは、本当に最後の手段だ」


 出来る事なら、死霊をこれ以上増やさないで対処したいが、本当にどうしようもなくなったら燃やして一気に減らすしかない。死霊なら教会の中に入れないから、毎晩吸血鬼に怯える心配はなくなる。


「他にも、強引なやり方ではあるが外に放り出すことだ。吸血鬼は太陽の光を浴びると、魂も一緒に塵となって消滅するから」


 だがそれは、吸血鬼が眠っている建物の中に入るというとても危険極まりない行為でもある。眠っているから関係ないかもしれないが、吸血鬼になると嗅覚が犬並みになる為近づくには細心の注意が必要になる。

 そんな話をしている間に、俺達は朝戸中のグラウンドに到着した。里美がドローンを飛ばし、生存者を確認した場所までそんなに離れていない為、ここからは徒歩で目的の教会に行くことになった。

 その途中、涼はあるお店の前で立ち止まった。


「どうした涼?」

「いる。この店の中に、吸血鬼が何人か眠っている」

「分かるのか?」

「私を誰だと思っている。これでも陰陽師なんだよ」


 そう自信満々にいう涼の後を、俺と華々美もついて行った。涼が入っていったのは、工具やペンキや木材等が売られている小さなホームセンターであった。

 涼と華々美は、自分の刀があるからそれで首を切り落とす事が出来る。俺も華々美から刀を一振り貰ったが、華々美が言うには完全に素人であった。家籠りしている間に稽古をつけてもらったが、それでも素人から新米にようやく上がったレベルであった。


「しかし、吸血鬼がいる建物には死霊が一人もいないな」

「吸血鬼は時に魂を食らって、自分のエネルギーに変えている」

「「マジで!?」」

「なんて言われているけど、ハッキリ言って眉唾だ。そもそも、吸血鬼にそんな力なんてない。だが、一度死んで離れた魂が再び元の肉体に戻って動き回るんだ。死霊からすれば恐怖でしかないからな。ゾンビみたいに生者を求めている奴ばかり見ているが、アイツ等だってちゃんと理性というものは残っているからな」


 確かに、迷信だとしても魂が肉体に戻って生ける屍になる光景は、死霊たちからすれば死体に食われたのだと思うから恐怖を感じるわな。だから、吸血鬼が眠っている建物には死霊がいないのか。


「止まって」


 突然刀を抜いた涼の指示で、俺と華々美も刀を抜いて止まった。目の前にはちょうど、仰向けになって眠っている小太りの中年男性がいて、顔からは生気は感じられず肌も青白かった。


「2人は動くな」


 俺と華々美には動かないように言い、涼は足音を立てずに慎重に近づいて中年男の唇をめくってみた。異様に長い犬歯以外は普通の歯だが、それが吸血鬼の最大の特徴といってもいいだろう。


「やはり吸血鬼になってしまったのか。本当に憐れだ。この世への執着が強すぎるあまり、生命活動を停止させた元の肉体に魂が戻ってこんな姿になるなんて。だが、それは終わりなき苦痛の始まりでもある。お前のような存在は、この世界にあってはならないのだ」


 そう言った後涼は、手に持っていた宝刀でその吸血鬼の首を斬り落とした。首を斬り落とされた瞬間、吸血鬼は灰となって消滅した。熟睡していたお陰か、眠っていた吸血鬼に気付かれることなく倒す事が出来た。


「まだあと2人いる。行くよ」


 このホームセンターにはまだ2人の吸血鬼が眠っていて、その2人の吸血鬼の気配を感じ取った涼は流石だと思う。

 そうして俺達は、ガーデニング売り場で眠っていたもう一人の吸血鬼の首を斬り落とした。今度は俺が斬りました。

 そしてもう一人は、なんとペンキ売り場で眠っていた。ついでに言うと、その吸血鬼になった遺体には見覚えがあった。


「まさかコイツまで吸血鬼なっていたなんて」

「幹夫。この男の事を知っているのか?」

「俺と優希の学校の同級生で、その中でも五本の指に入るほどの問題児で停学の常習犯。ちなみに名前は毒島(ぶすじま)


 下の名前は生憎憶えていないので省略する。というか、俺はこの男の事が嫌いだからどうでもいい。

 校則違反の金髪に、耳にたくさんのピアスを着け、臭いのキツイ香水をこれでもかというくらいにかけている。喧嘩や煙草、飲酒や万引き等の犯罪行為もたくさんしてきた犯罪者予備軍。そういえば、この地区出身だと聞いていたから、例の刑務所に収監されている悪党に憧れて悪になったのだろうなと思う。


「悪イコールカッコいいと思い込むなんて、男ってバカで幼稚な奴しかいないのか」

「それって俺もバカと言いたいのか?」


 自覚はない訳ではないが、面と向かって言われるとなんだか腹が立つ。確かに、本物の悪を知る華々美からすればバカで幼稚なのかもしれないけど。

 そんな顔見知りの俺が近くにいたせいか、突然毒島の瞼がパッと開いて目を覚ました。


「マズイ!下がれ!」


 俺の臭いを感じたのか、目を覚ました毒島は瞬時に起き上がり、俺達に襲い掛かってきた。

 そんな毒島を相手に、涼は宝刀を一旦鞘に納めて肉弾戦で応戦していた。


「喧嘩が強いからと言って、この私を圧倒できると思ったら大間違いだ!」


 その宣言通り、涼はいとも容易く毒島を組み伏せて見せ、その間に俺は毒島の両手と両足を切り落とし、何の抵抗が出来なくなったところで華々美が毒島の首を斬り落とした。


「ふぅ」

「何とか倒す事が出来たな」

「ええ」


 塵となった毒島を見取り、俺達は安堵の表情を浮かべた。

 が、それも一瞬で終わった。流石に暴れすぎてしまったのか、塗料が陳列されている棚がぐらつき始め・・・・・・。


「ヤバイな」

「ヤバイぞ」

「ヤバイね」


 そんなこと言っている間に俺達の頭上に棚が、もとい大量のペンキが中身をぶちまけながら落ちてきた。当然のことながら、俺達は3人仲良くペンキまみれになった。




 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇





「で、何でこうなるの?」

「仕方ないだろ。少しでも時間短縮したいんだから」

「だからって、何で私まで!」


 涼がそう叫びたくなるのも分かる。なんせ俺達は今、ホームセンターの近くにあった誰かの家にお邪魔し、そこで眠っていた吸血鬼を倒した後すぐに風呂に入って身体と髪の毛に付いた塗料を落としているのだ。

 しかも、3人一緒に入ることになった為、俺の後ろではバスタオルを巻いているとはいえ裸の華々美と涼がシャワーを浴びているのだ。

 そもそも最初は、俺が先に入って後で女子2人が入ることになったのだが、それでは時間がかかると華々美が言った為3人一緒にお風呂に入ることになってしまったのだ。


「み、幹夫!絶対にこっち見ないでよ!」

「バスタオルを巻いているんだ、大丈夫だろ」

「大丈夫なわけがないでしょ!」


 まぁ、年頃の女の子が裸で一緒に男とお風呂に入るのだから、恥ずかしさが限界突破する涼の反応が普通だと思う。大丈夫だろと言っていた華々美も、平然としているように見せているが顔はトマトの様に真っ赤になっていた。彼女も恥ずかしいのだろう。


「途中で何度も濡らして湿らせていたけど、髪の毛痛んでないと良いな」

「華々美は髪が長いから、洗うのも大変でしょうね」

「こういう時、髪が短い幹夫と涼が羨ましいな」

「私は華々美みたいに綺麗で長い黒髪が羨ましいわ。しかも胸もすごく大きいし」

「そうね。髪の手入れは毎日欠かさずしている。胸に関しては、母親譲りでどんどん大きくなっているのは確か。でも、涼だって全体のバランスが良いじゃん。間違いなくスタイル抜群だ」

「私はもっと大きくなって欲しかったわ。せめてあと2つ」

「Cは欲しいって、流石に欲張りすぎだ・・・・・・」

「G寄りのFの華々美が言うと嫌味に聞こえる。あと、私はAではなくBカップだ」


 お嬢様方。すぐ傍に男のわたくしめがいる事をお忘れなく!

 極力聞かないようにしているのだが、どうしても耳に入ってしまうし頭の中にも入ってしまう。


(か、華々美がG寄りのFで、涼がBか!)


 忘れる為に俺は、ペンキを被ってしまう時の事を考えることにした。


(髪と体に付いたペンキを乾かさないようにする為に、道中で何度も水で湿らせたけど・・・・・・ってそこじゃない!)


 意図せず2人の胸のサイズを知ってしまって動揺したのか、考えようとしていたこととは全く関係のないことを考えてしまった。


(普通に考えたら、こんなペンキまみれになる程度では済まない筈。重たい棚の下敷きになって動けなくなる筈)


 それでもまだマシな方。最悪の場合、骨折や頭を打つなど棚で身体を強打するのは確実。

 なのに俺達は、身体を打って痛かったものの痣も残らなかった。


(それに、あの手はいったい何だったんだ?)


 実は棚が俺達に直撃する直前、2人は気付いていなかったみたいだが俺のすぐ横から白い手が延ばされ、その手が棚を支えて強打するのを防いでくれていた。俺達を助けてくれたのだ。


(前に見た地縛霊の手みたいな真っ白ではなく、普通の色白の人の肌に見えたし、皮膚の垂れ具合や皺の入り具合からかなり高齢な人の腕であった)


 あの腕のお陰で俺達は助かったのだが、一体どこから現れ、いつから俺についていたのかサッパリ分からなかった。

 だけど、他の死霊たちみたいに恐怖の感情は全く感じず、むしろ傍にいてくれると気持ちが落ち着く安心感もあり、何よりもとても懐かしい感じがした。


「ふぅ~。何とかペンキが取れたけど、毛はかなり痛んだでしょうね。帰ったら里美にお願いして切ってもらおう」

「毛先をちょっと切るだけで済むんだから、そんなに長さは変わんないじゃん。私なんてこれ以上短くできないから、死にもの狂いで洗って落としたんだから」

「それでも、ここまで伸ばすの本当に大変だったんだから、毛先だけでも切るのに若干の抵抗があるんだ」

「私よりも綺麗でスタイルが良くて、それでいて長い黒髪をもっておいてなんて贅沢な悩み!」


(こいつ等いつまでじゃれているのだ?)


 流石に居心地が悪くなった俺は、2人に気付かれないように出ようとしたのだが、丁度2人が扉の前で通せんぼしている状態になっている為なかなか出られないでいた。


「2人とも、そこに立っていると出られないぞ」

「「あ!?」」


 俺の声に反応して2人はすぐに振り返ったのだが、それが良くなった。

 振り返った反動で、2人の身体に巻いていたバスタオルが解け、バサッと床に落ちていった。


「なっ!?」

「ああ・・・・・・」

「っ!」


 3人揃ってフリーズしてしまい、俺の視線は華々美と涼の生まれたままの姿に釘付けとなってしまった。見てはいけないと思いつつも、2人の裸から目が離せないでいた。

 涼の裸体は、全体的に引き締まっていて程よく筋肉も付いていて、まさにアスリートと言った体付きであった。

 華々美の裸体は、引き締まった腹筋と反比例して物凄く大きな胸が圧倒的な存在感を醸し出していた。

 そんな2人の魅力的な身体から目を離せず凝視してしまった。

 そして――――


「きゃああああああああああああ!」


 涼の悲鳴と共に、俺は頬に強烈なビンタを食らうのであった。

 華々美は悲鳴こそ上げていなかったが、顔全体を真っ赤に染めて今もなおフリーズしていた。

 結論から言うと、2人ともとても素晴らしくて美しい身体でした。頬は痛かったけど。





みんなの知っている吸血鬼とは違いますが、かと言ってゾンビともキョンシーとも違う気がしましたので吸血鬼にしました。

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