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愛が起こした奇跡

 それから時間は流れ、デッド・オブ・ザ・ワールド現象が終息して8時間後に絵里奈は見慣れない部屋の布団の中で目を覚ました。


「ううぅ・・・・・」

「起きたみたいね」

「柚羽ちゃんも起きたけど、まだぐったりした様子だったのに、絵里奈ちゃんは大丈夫そうだね」


 目を覚ますとすぐ目の前には、絵里奈に寄り添う小夏と香苗と、すぐ近くで未だにぐったりした様子の柚羽がいた。


「まだ頭がくらくらしますし、倦怠感が凄まじいです。わたくしだけでしたら、間違いなく失敗していたと思います。絵里奈ちゃんの念力の強さと量には本当に驚きました」


 悔しそうにしつつも、無事に霊滅版の力を発動させて全てを元に戻すことが出来たことに安堵する柚羽であった。

 数分は寝起きでぼぉとしていた絵里奈だったが、すぐに何か思い出したかのように立ち上がって玄関に向かおうと走り出した。尤も、すぐに佳苗に抱きかかえられて止められた。


「絵里奈ちゃん!」

「やああぁ!パパとママ!やさしいヘビさんのおうちにいくの!」

「ヘビさんのおうちと言われても、何処に行けばいいというのよ!それ以前に、本当にそこに幹夫君たちがいるとは!」

「絵里奈ちゃん!」


 必死で止める佳苗と小夏だが、指を唇に当てて思案する柚羽には一つ心当たりがあったみたいであった。


「蛇神様のお家・・・・・はっ、もしかして、物部神社!蛇神様が封印されていた神社!」

「柚羽ちゃん?」

「物部神社は、丑の刻参りが頻繁に行われていた所でもあり、蛇神様が封印されていた神社でもあります。もしかしたら、蛇神様が絵里奈ちゃんに仰っていたお家とは、物部神社の事ではないかと思います」

「物部神社・・・・あの町には海水浴をしに行ったことはありますけど、肝心の神社がどこにあるかまでは・・・・」


 困り果てた様子であった。

 あの後彼女たちは、全員空道神社の方へと行ってそこで一泊していた。そのお陰なのか、運よく場所を知っている人が部屋の中に入ってきた。


「物部神社の場所なら俺が知っています、道案内をしますのですぐに迎えに行きましょう」


 偶然様子を見に来た鷹志が、話を聞いてすぐに迎えに行こうと進言した。


「それは助かります。では、私と鷹志君で」

「えりなもいく!」

「絵里奈ちゃん!」

「わたくしも行きます。念力も尽きて、回復にはまだ時間がかかりますが、それでも何かあったときにはお力にはなれます」

「私も行きます。幹夫君は、私達の為にたくさん行動してくれましたし、3年前に私たちを助けてくださったのも彼等です。皆で迎えに行きたいです」

「小夏ちゃんまで。うぅん・・・・・」


 絵里奈と小夏の強い意志を前に根負けした佳苗は、全員は無理でも何人か連れて迎えに行くことを決めた。

 メンバーは、鷹志、絵里奈、小夏、佳苗、宗一、姫香、アリア、柚羽の8人に決まった。

 車は3台で、佳苗と宗一と鷹志がそれぞれ運転することになった。


「大きなワゴンばかり残してどうかと思いましたが、今はそれでよかったと思います」

「それよりも、早く迎えに行きましょう。僕も幹夫君たちには、お礼が言いたいですから」

「先導は俺が行いますので、付いて来てください」


 鷹志の運転する車を先頭に、8人を乗せた車は物部神社に向けて走らせた。車に乗っている間も、絵里奈はずっと「パパ!ママ!」と叫んでいて落ち着きがなかった。

 小1時間ほどで車は物部神社に到着し、下りてすぐに階段を駆け上がろうとする絵里奈を鷹志が抱えて、みんなと一緒に階段を駆け上がった。

 3年間ずっと放置されていた為、階段は落ち葉で埋め尽くされ、周りを囲う木々が日光を遮って薄暗かったが、不思議と不気味さは感じなかった。更に、幹夫たちが以前訪れた時にいた怨念たちも消えていて、鳥のさえずりが聞こえるのみであった。

 そして、上り切った所で柚羽が立ち止まり、目を閉じてゆっくりと掌を前に出した。


「・・・・感じます・・・・・こっちです」


 念力は尽きても、霊感だけは健在の柚羽は大きなお堂に目を向け、小走りで皆を先導した。

 着いてすぐ、お堂の扉を開くと全員が歓喜の声を上げるのであった。




 ◇◇◇◇◇◇◇◇




 どのくらい眠っていたのか、微かに差し込んできた日差しと俺達を絵里奈声が聞こえて俺達はゆっくりと目を開けた。


「ここは・・・・?」


 ぼんやりする頭を抱えようとすると、開いている筈のもう片方の手に何かが握られていることに気付き、俺の意識はすぐに覚醒した。


「・・・・・幹夫」

「華々美。それに皆も」


 微かに入った日差しのお陰で、全員の存在を確認することが出来た。俺から見て手前から、華々美、涼、美玲、咲、由乃さん、梨乃、空道、朝香の姿を確認でき、全員目を覚ましていた。

 同時に、里美の姿がないことも分かった。いや、里美は俺の婆ちゃんであり、ずっと俺達を守ってくれていた俺の守護霊だった。それが分かって涙があふれだしそうになったが、その前に扉が開かれたことですぐに俺達の意識は現実に引き戻された。


「あっ!皆さん、ご無事で!」

「柚羽ちゃん?それに、笠島先輩に小夏さんに姫香、アリアに佳苗さんに宗一さん、絵里奈まで」

「パパ!ママ!」


 笠島先輩に抱かれている絵里奈が、俺と華々美を呼びながら精一杯両手を伸ばしていた。

 俺達の生還を確認し、降ろしてもらった絵里奈が「パパ!ママ!」と叫びながら、真っ直ぐ華々美の胸の中へと飛び込んでいった。それと同時に、絵里奈は華々美の胸の中で大きな声を上げて泣き出した。


「「絵里奈」」

「絵里奈ちゃんが頑張ってくれたから、デッド・オブ・ザ・ワールド現象を終わらせることが出来た。柚羽ちゃんも頑張ったけど、この子がこんなに強い力持っていたなんて思ってもみなかったよ」

「絵里奈ちゃんと柚羽ちゃんだけじゃない。蛇神様や相澤さん、それに空道神社で暮らしている子供たちの亡くなった母親達も力を貸してくれたおかげで」

「相澤さんも!?」

「幹夫君達にとても感謝していました。絵里奈ちゃんを、本当の我が子のように大切に育ててくれて、守ってくれてありがとうって」

「そうですか」


 佳苗さんから相澤さんの思いを知り、体の内側から何かが溢れ出してきた俺の目から自然の涙が流れ出ていた。それは華々美も同じで、涙を流しながら絵里奈を抱きしめていた。


「そうか。絵里奈がデッド・オブ・ザ・ワールド現象を終わらせてくれたのか。ありがとう。それと、ごめんね。いつも寂しい思いをさせて。パパもママも、もう何処にも行かないから」


 絵里奈を抱きしめる華々美は、普段の女傑としての姿から我が子を慈しむ母親の姿になっていた。血の繋がりが無くても、絵里奈は俺と華々美の大切な娘であるから。そんな華々美に続いて、俺も華々美と一緒に絵里奈を抱きしめるのであった。

 初めて会ったときは、まだ生まれて6ヶ月の赤ちゃんでとても小さかった女の子が、こんなにも大きくなって自由に動き回れるようになって、言葉も話せるようにもなった。そして何より、こんなに健康的に、元気に成長してくれた。

 それを再認識すると、どうしようもなく嬉しくなった。


(俺達は、相澤さんから絵里奈を託されたんだ。何があっても、この子を守っていく)


 母親の胸の中で泣きじゃくる娘を抱きしめながら、俺は改めてこの子の父親になることを決意するのであった。

 そんな俺に続いて、涼と美玲も俺や華々美ごと絵里奈を抱きしめてくれた。


「それはそうと、里美さんはどうしたんだ?」

「そういえば、里美さんの姿がないですけど」


 里美の姿がない事に、笠島先輩と小夏さんが不思議そうにしていたが、すぐに最悪の事態を想像したのか表情をしかめ始めた。

 そんな2人に、由乃さんと朝香がゆっくり首を横に振って事情を話した。


「里美さんも実は幽霊だったのです」

「しかも、幹夫さんのことをずっと傍で見守っていた守護霊本人だったんだ」

「ちょっと待て!」

「里美さんが、幹夫さんの守護霊だったって、確か幹夫さんの守護霊って幹夫さんのお婆さんだったのでは?」


 笠島先輩と小夏さんに、俺はそっと絵里奈から離れてから話した。


「今思い出したんだけど、婆ちゃんが通っていた西宮高校は、今は名前が変わって麗宮女学園になっていて、あの姿はその当時のものだったんだ。長谷川という苗字も、武谷家に嫁ぐ前の旧姓だったんだ」


 駆けつけてきてくれた皆が驚いていたが、柚羽ちゃんだけが動揺した様子が全くなかった。


「やっぱりあの人は、幽霊だったんですね」

「やっぱりって、柚羽ちゃんは気付いていたのか?」

「はい。涼ちゃんたちの目を欺くくらいですから、相当強い力を持っているのだろうと思いました。朝日を浴びても平気でいるのも、わたくしの張った結界を自由に出入り出来るのも、善良な霊である証拠でもあるのですが、あれほどの力を持っていらしたし、その理由が分かりかねていましたので少々警戒はしていましたが」


 どうやら柚羽ちゃんだけは、善良な霊であったとしても強大な力を持っていた婆ちゃんを警戒していたみたいだが、その理由については宗一さんが微笑みながら答えた。


「それは理屈なんかじゃない。ましてや、何か訳があるわけでもない。理由は至って単純だと僕は思うよ」

「それは何でしょうか?」


 納得がいっていない様子の柚羽ちゃんだったが、宗一さんはなんてことがない事のように答えた。


「それはね、里美さんが、お婆様が孫である幹夫君のことをとても愛していたからだよ」

「え?」


 予想外の返答に面食らう柚羽ちゃんだが、宗一さんは構わず説明を続けた。


「大切な孫を守りたいという深い愛が、神に匹敵するほどの強大な力を生み出して、幹夫君や皆をずっと守っていたんだ。里美さんだけじゃない。空道神社にいる子供たちの母親達だって、愛する我が子と、そんな我が子を全力で守ろうとする鷹志君を守ろうとしていたように、何処よりも深い愛が奇跡を起こしてくれてたんだ。絵里奈ちゃんの本当の母親が、蛇神様の封印を解いて幹夫君たちを助けたいというのも、娘と娘を守り育ててくれた君達への愛があるからなんだ。だからこそ僕達は、そんな人たちの為に生きなくてはいけないんだ。そして、その命を次の世代、そのまた次の代へと繋いでいかないといけないんだ。生きるというのは、本来そう言うことなんだから」


 宗一さんの話を聞いてもまだ分からないと言った様子だが、柚羽ちゃんはまだ子供である為今はまだ理解できないだけだと思う。成長して、好きな男の子が出来てその人と結婚するときに理解すると思う為、その時まで気長に待てば良い。


「確かに、俺達はいろんな人に助けられている。そのおかげで、今も生きています。俺達が今こうして無事でいるのも、相澤さんが蛇神様を起こしてくれたお陰ですから」


 そう言って俺は、ゆっくりとずっと握っていた何かを皆に見せた。それは、蛇神様の依代となっている小さい白い蛇の置物であった。


「また、眠らせてあげよう。きっとそのために、俺にこれを持たせたんだと思うから」


 俺の提案に、皆が頷いてくれた。

 その後、全員で協力して蛇神様の塚を元に戻した。もちろん、依代は窯の中に入れて。

 塚を戻した後、全員で手を合わせて蛇神様が再び安らかに眠ることを祈ってから物部神社を後にした。その際に、森から藁人形に釘を打つ怨念がいなくなったのを見て少々戸惑ったが、同時に全て元に戻ったことを改めて知ることが出来た。

 そして、お昼ごろに俺達は皆俺たちの町へと帰ってきた。





たくさんの愛と、大切な孫を守りたい里美の無限の愛がずっと幹夫たちを守ってくれていたのです。深い意味も、理屈も伏線もありません。ただ、大切な家族を守りたいという思いと愛が起こした奇跡なのです。

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