新しい日常
自分の町に戻った日の翌日、俺は華々美と涼と美玲、影山姉妹と空道と朝香、柚羽ちゃんと笠島先輩と宗一さんと一緒に新しい霊滅版を前の霊滅版が置かれていた洞窟へと持って行った。
涼曰く、置く場所にもちゃんと理由があり、その場所に置くことで少しずつ怨念を集めて浄化していっているそうだ。涼のお爺さんも、ちゃんとその辺も考慮した上で動かしていたみたいで、渋井沢が入ったあの洞窟でも問題ないのだという。
流石に、たった12個だけでは全ての怨念を集めるのは不可能だが、12という数にも意味がある為これ以上増やすことも出来ない。だから、彷徨える魂がたくさん出てくるのだそうだ。それでも、1000年後には成仏させられるというそうだ。
「でも、こんな所に置いてまた誰かに持って行かれないかどうか不安にもなるな」
「自然災害で紛失するならともかく、誰かが持って行くなんてことは本来ならあり得ないわ。こんな山奥に人が容易には入れる訳でもないし、そもそも人や国が所有している森から物を持ち出すのは犯罪だし、野生動物はこういうスピリチュアルな物には絶対に近づこうとはしないのよ。実際この洞窟、クマやコウモリはおろか虫すらいないじゃない。皆、本能で霊滅版を恐れて近づこうとしないの」
涼に言われて気付いたが、確かに人が大人数で入ることが出来るくらいに広い洞窟なのに、野生動物はおろか虫すら見当たらなかった。動物は皆、こういう物には近づこうとはしないのに人間だけは土足に踏み込もうとするものだ。
そもそもの話、こんな舗装もされていなければ獣道すらないような所に行ってみようなんて思わない。仕事で行くのならともかく、遊びや好奇心で行くなんて正気ではないし、それ以前に人様の土地に勝手に入るという行為は日本では重罪だ。
にも拘らず、土地の所有者の了承も得ずに勝手に入っただけに飽き足らず、そこにあった霊滅版を盗み出す渋井沢がどうかしているのだ。そのせいで、あんな大事が起こるなんて誰も予想なんて出来ていなかっただろうが、それを抜きにしてもそれが犯罪であることは変わりない。
(ま、全ての元凶である渋井沢は悪鬼になってしまい、首を刎ねられて完全に消滅してしまったがな)
それはさて置き、霊滅版を元の場所に戻した俺達は、これまで支援してくれた牧場や村にこのことを話し、大変な中たくさん助けて、知恵を授けてくれたことにあらためて感謝してまわった。そして今後も、良いお付き合いをしてくことを改めて約束するのであった。
そうして、元の日常に戻ってから3ヶ月が経った。
まだ厳しい残暑が残る9月、俺達は新しい日常を送っていた。文明レベルは昭和初期くらいまで衰退することになるが、それでも残った電化製品や村人たちから教わった昔ながらの知恵を借りながら穏やかな毎日を過ごしていた。
初めは戸惑った死霊がいなくなった静かな夜だったが、よくよく考えてみればこれが本来普通なんだ。なので、安心して夜中に外に出て豚や鶏の様子を見に行くことが出来た。
そんな静かな夜も、僅か1年後には世界中にたくさんの幽霊が出て、この世に留まってしまうのだと涼が言っていた。
けれど、幽霊は本来やたら無闇に人を襲うようなことはしないし、あんな風に凶暴化することも本来ならあり得ないのだという。その為、放っておいても何の問題もないのだという。流石に人に取り憑いてきたら祓うらしいが。
その後も話し合いにより、満場一致でこの町のトップには笠島先輩が選ばれて、その補佐役に鈴原さんと弘馬君が選ばれた。
先ず笠島先輩は、元に戻ったことで改めて皆のそれぞれの家の建設を行った。前の建物は、十数件の民家と一番新しい病院、浄水施設と電気施設、そして俺が前に通っていた高校を含む小中高の学校が一つずつ残っただけだった為、改めてそれぞれの家を建てるように指示を出した。
農村の人達の力も借りて、僅か3ヶ月で3件の家を建てることが出来た。尤も、そんなに大きい物ではない1階建ての平屋のだが、一世帯が暮らすには十分な広さであった。
空道神社にいた小学生以上の子供たちは、半分が村の大工さんの下で働いて技を磨いていき、もう半分は農業をやって俺達と一緒にたくさんの野菜を育てていた。
町長になった笠島先輩は、皆から押されてようやく結婚を決意した。相手は、本人たちの希望により空道と鈴原と梨乃の3人に決まった。3人も娶った理由は、農村や牧場も含めて若い男性がかなり少ない為であった。
尤も、結婚したからと言ってすぐに手を出してもらえた訳ではなく、幼児に成長した40人もの子供たちがもう少し成長するまで待つことになり、3人は「生殺しは嫌です!」と毎日のように愚痴っていた。
道明君と茅音さん夫婦は、ともに智恵美さんとうちのファミリーの一員である香苗さん共に医者の道を歩んだ。と言っても、茅音さんはまだ現場に立ちあえないでいる。智明君がまだ小さいからというのもあるが、実はつい先日2人目を授かったということ言うのだ。それを聞いた時、本人や夫の道明君や母親の智恵美さんはもちろん、町民全員が喜んだものだ。
第2子の懐妊により、茅音さんは医療知識こそはこれからも学んでいくが、母親である智恵美さんと夫の道明君との話し合いの末に、医者になる道を諦めて専業主婦の道を選ぶことにした。
医者としての技術と知識を身に着けていく夫を支え、我が子と家庭を支えていく事を決意するのであった。
小夏さんと美玲と佐藤夫妻と西園寺さんの5人は、残した小学校の校舎をそのまま使って、子供たちに読み書き計算などを教える教師役に就いた。小夏さんは国語を、美玲は英語を、宗一さんは理科を、敦子さんは社会を、西園寺さんは算数を担当した。
近い将来、生き残った県外の人達を関わる機会が出来た時の為に読み書き計算は必須。子供達もそれを分かっているのか、仕事がない日は全員参加してしっかり勉強に励んでいた。
一方で、俺の通っていた高校の体育館は簡素だが改装されて幼児たちを預かる保育園が出来上がっていた。
その保育園の初代園長に、元保育士の由乃さんが自ら立候補する形で就任し、妹の梨乃と柚羽ちゃんと姫香の3人と村の育児経験者数人が保育士として働くことになった。
子供が大好きな由乃さんは、俺達と接するときとはかなり違って非常に優しく、且つ非常に甘い為その落差に俺達は呆然としたもんだ。
梨乃曰く、「お姉ちゃんは常に子供優先だから、大人の都合なんてどうでもいいからどうしても大人には冷たくなるの」、とのことだ。こんなんでは、嫁の貰い手が益々なくなる。事実、来年アラサーになるにも関わらず特定の異性といい感じなったという話は一切なかった。
尤も、本人があまり焦っていなかったので当分の間は仕事一辺倒の生活を送りたいという。
それに本人曰く、「35までに結婚して、翌年に子供が出来ればそれでいい」、何て楽観的に考えるものだから既に結婚している妹の梨乃はそんな姉を心配するばかりであった。
後は説明すると長くなるのでザックリ言うと、アリアと咲は共に製鉄所で働き、戸村さんと柴川さんは俺や涼と朝香と一緒に農業を行い、華々美は育児と両立しつつ猟師となって日々クマやイノシシやシカを狩っている。
そんな日々を過ごしていた9月某日、絵里奈の3歳の誕生日を記念して俺は屋敷の皆と一緒に海水浴に来ていた。
「ヤッホー!久しぶりの海だ!」
「あたしが一番!」
「コラ2人とも!まずは準備体操をしなさい!」
水着に着替えてすぐに海に入ろうとする咲と姫香を、Tシャツと短パン姿の小夏さんが叱っていた。昨日初めて知ったが、小夏さんは泳げない為海に入るのは遠慮すると言って唯一水着を着ていなかった。
なんにせよ、久しぶりの海水浴に大はしゃぎの皆を眺めながら、俺はパラソルの下で水を飲みながらくつろいでいた。
「幹夫は泳がないのか?」
「俺はいい。絵里奈の面倒を見ないといけないしな」
そう言って俺は、目の前で美玲と涼と一緒に砂遊びをする娘を眺めていた。
「幹夫も少しは遊んだら?せっかくの息抜きなんだし、それにこれは幹夫が言ったんだろ」
「そう・・・なんだけど・・・・」
確かに、日ごろの労をねぎらう為に絵里奈の誕生日に合わせて今回の海水浴を企画したのは俺だけど、いざ来てみると周りは皆女性ばかり。男は俺以外だと宗一さんとその息子と柴川さんの息子の瞬君だけで、宗一さんは妻の敦子さんと息子と一緒に遊んでいて、まだ赤ちゃんの瞬君は母親である柴川さんにべったりである為実質一人。
つまり、今更ながら緊張しています。
「ふふ、ハーレムよの」
「心にもない事を言うな」
冗談だと分かっていても、実の妻からそんな風に言われたくなかった。
言い忘れたが、あの現象が終息して1週間後に俺も華々美と涼と美玲の3人と結婚した。そんな魅力的な3人の奥さんの水着姿を前に、緊張するなというのが無理な話である。
俺の隣に座っている華々美は、赤色のビキニでビシッと決まっていて、町一番の抜群のスタイルを惜しげもなく晒していた。
涼は青色のセパレートを着ていて、引き締まった美ボディがとても美しかった。
美玲はピンク色の可愛らしいビキニを着ていて、可愛らしさの中にセクシーさがあってとても良かった。
「・・・・・」
「どうした?」
「あれからもう3ヶ月も経ったんだなって思うと、今でも感慨深いなと思って」
「何言ってるんだ。皆のお陰であの地獄のような現象を終わらせることが出来て、再び平和な世界を取り戻すことが出来たんだぞ。そして、それを先導したのは幹夫だ。幹夫が、この世界を元に戻したんだ」
「俺一人の力じゃないさ。華々美、涼、美玲、由乃さん、朝香、そして婆ちゃん。皆がいてくれたから、俺は霊滅版に辿り着くことが出来たんだ」
「里美が、幹夫の死んだお婆様だったことには驚いたが、あの人のお陰でわたし達は安全に日本各地を回って霊滅版を探すことが出来たんだ」
「そうだな」
デッド・オブ・ザ・ワールド現象が終息したことで、里美は元の姿に戻って再び俺の前からいなくなってしまった。
けれど、あの時のような後悔と悲しみはなかった。今は婆ちゃんの為にも、前を向いて生きようと思えるようになった。
「そんなお婆様の為にも、今晩も励まないとな。絵里奈も、弟か妹が欲しいだろうし」
「ちょっ!?華々美」
「あぁ!華々美だけ抜け駆けして!」
「何時もずるいです!」
「えりなも♪」
そう言って密着してくる華々美。そんな華々美につられて、砂遊びをしていた涼と美玲と絵里奈までもが俺に抱き着いて来て、4人にもみくちゃにされるのであった。
これから大変だけど、不安なんてなかった。だって俺には、こんなに心強い仲間と頼もしい3人の奥さんがいるのだから。
私の久しぶりの作品はいかがでしたでしょうか?
書いていて思いました、自分に異世界物のハイファンタジーは向いていないと思い、かと言って日常系もあまり得意ではないなと思い今回の作品を思いつきました。
最後までご愛読、ありがとうございました。
何時になるか分かりませんが、また次回作も楽しみにしてください。




