ゴースト団地の大魔物 6
5人が魔物と、天城と戦っている中に俺と華々美と美玲も加わった。俺と美玲は金の刀での斬撃で、華々美は斬撃に加えて銀の弾丸を装填した拳銃で応戦した。
とはいえ、陰陽師5人の術を食らってもピンピンしているような異常な魔物相手に、金の刀も銀の弾丸も通じなかった。斬撃を加えても、まるで岩を叩いているような感覚であり、華々美が銃を撃っても弾かれてしまう。
天城の方は、異形の姿になったわけでもなく、生前の姿を維持しているにも拘らず俺達の攻撃が全く通じていなかった。それどころか、肉弾戦のみで俺達を圧倒していた。
「この化け物が!」
「化け物なんだがな」
「そもそもの話、青美さんの浄化の塵で消滅させられない魔物相手に、涼さん達の術が通じる訳がありません」
『無駄な抵抗はやめることだな』
俺と華々美と美玲が後ろに下がっている間、天城と戦っているのは涼と朝香の2人だけであった。由乃さんと梨乃と空道は、念力を使いすぎて少しバテている様子だったので、念力を回復させる陣の中に入っていた。涼と朝香の2人は、最悪念力が切れても刀で応戦が可能であった。
「たとえ無駄であっても、貴様の様な化け物をこれ以上放置することはできない!」
「たとえ刺し違えてでも、お前はボク達が倒す!」
『無駄なことを!この私を倒せると?』
身体能力の高い2人は、刀だけでアクション映画顔負けの戦闘を繰り広げていた。俺達が加勢することが出来ないくらいに。特に涼に至っては、見ていて惚れ惚れするような激しくも美しい戦いであった。
(だけど、天城の動きが何処か不自然だ。一見涼と朝香の攻撃を平然と受けている様に見えるが・・・・)
そんな俺の疑問を他所に、天城の方は2人の斬撃を素手で受け止めているにも拘らず、傷一つ付いていなかった。
「クソ!なんて頑丈な奴なんだ!」
『私は100年以上も極楽へ行くことを夢見て、こんな酷い現世に残り続けたんだ!』
そのせいで益々穢れて行き、余計に極楽に行けなくなっているのがまだ分からないだろうか?それ以前に、極楽なんて存在しないことを何時になったら理解するのだろうか?
『鬱陶しい小娘どもが!』
涼と朝香の攻撃にイライラした天城は、感情のままに大きな声を上げるとものすごく強い衝撃波のようなものを発し、それを一番近くで浴びた涼と朝香は吹っ飛ばされて気絶した。
『私は極楽に行きたいんだ!霊界に行って新しい生を受けるのではなく、極楽で安らかに過ごしたいだけなんだ!何でそれが分からないんだ!』
「知りたくもないし理解もしたくない」
「同感だ!」
「そもそもの話、アナタみたいな霊は地獄に行くものなのです」
2人が吹っ飛ばされて、誰も相手をしていない天城に俺達はそれぞれ攻撃を加えて行った。
『ただの人間が生意気な!』
念力を持たない俺達を完全に嘗めているのか、天城は涼と朝香に使った衝撃波は使わずに拳で応戦してきた。だが、天城の腕は不自然なくらいにしなやかに、いや、鞭のように柔らかくしなっていて動きが予想できなかった。幽霊になったことで、骨が完全になくなってしまったのかと思ったが、冷静に考えるとそんなことはなかった。
「魔物になったことで、骨を自由に消すことが出来るようになったのか?」
「気持ち悪いんだよ!」
「骨がないのに切れないなんておかしいです!」
『うるさいな、ドイツもコイツも!』
苛立って動きや攻撃パターンが滅茶苦茶になのにも拘らず、鞭のようにしなる腕のせいで俺達は防戦一方状態になった。
このままでは埒が明かないと思い一旦離れた瞬間、そんな俺と華々美を追って天城は腕を伸ばして首に巻き付いて来た。
「コイツ!?」
「何なんだよ!?」
首と天城の腕の間に、俺も華々美も左腕を強引に入れて完全に締まらないようしているのだが、力が強すぎるせいでどうしても締まってきていた。
「幹夫さん!華々美さん!」
『お前も邪魔なんだよ!』
拘束された俺と華々美を助けようとした美玲に、天城は首を伸ばして噛みついてこようとしてきた。その時、口があり得ないくらいに大きく開き、歯が全て猛獣の牙のようになっていた。
「わあぁ!」
間一髪の所で金の刀で防いだが、それを天城はいとも容易く噛み砕いてしまった。
「そんな・・・・・」
武器を失い、震えながらへたり込む美玲。無理もない、彼女は本来知略が専門である為こういう戦いには向いていないのだ。
「クソ!」
「離せ!」
首に巻き付いた腕を振り解こうともがくが、解くどころか益々力が強くなっていって首と左腕の骨が折れそうになった。俺も華々美も左腕でのどを守っていて、辛うじて呼吸はできている。だが、それも長くは持たない。
そんな時、俺と華々美の首に巻き付いた腕と、美玲に噛みつこうとした首に水晶が命中した。
『小癪な!』
飛んできた水晶に気を取られ、天城は俺と華々美の拘束を解き、首も美玲から離れた。水晶を飛ばしたのは、念力が回復した由乃さんと梨乃であった。
「下がってください!」
「こっち来い化け物!」
「今度はあたし達が相手です!」
天城の注意を引いてすぐ、今度は空道が前に出て鬼火を飛ばした。
しかし、先程の水晶による攻撃はもちろん鬼火を食らっても全く傷ついた様子もなかった。
だが、お陰で天城の注意が俺達から外れた。その隙に、腰を抜かしている美玲の所へと駆け寄った。
「美玲!」
「立てるか?」
「ああぁ・・・・幹夫さん、華々美さん・・・・・」
俺と華々美に腕を引かれた美玲は、涙を流しながら震えていた。そんな彼女にこれ以上の戦闘は出来るはずもなく、扉をこじ開けようとしている咲と里美の所へと連れて行った。
「大丈夫?」
「俺と華々美は大丈夫。でも美玲は」
「あんなのに噛みつかれそうになれば仕方ない。すまないが、美玲を頼む」
事情を汲んだ里美に美玲を渡し、次に俺は南京錠を壊そうとしている咲に目を向けた。こちらもかなり苦労しているようであった。
「クソ!なんて頑丈な南京錠なんだ!」
「まだ時間がかかりそうか?」
「絶対にこじ開けて見せる!もう少しだけ待ってくれ!」
天城の力が及んでいるせいか、通常の南京錠とは比べ物にならないくらいに頑丈みたいだ。
「あたしの事なんて気にするな!絶対に壊して見せるから!」
「分かった、頼む!里美、美玲もお願い!」
「分かった」
「すみません、私は・・・」
「気にしなくていい。里美と一緒に咲を守っててくれ」
美玲を里美に任せ、俺と華々美は再び天城の所へと立ち向かった。
先程の近接戦と打って変わって、術による遠距離攻撃に変わって更に苛立つ天城。そんな彼女たちに対し、天城は再びネズミやゴキブリなどを放ってきたが、天城の力によって生み出されたので由乃さんと梨乃の放つ光で消滅させた。
「マジで埒が明かないな」
「2人とも下がってください」
俺と華々美が合流してすぐ、空道は素早く印を結んでブロック塀やアスファルトを飛ばして天城に当てた。
『鬱陶しいな!』
「テメェの意見なんざ聞いてねぇんだよ!」
「お姉ちゃん、ヤンキー時代の口調に戻ってるよ!」
「うるせぇ、バカ梨乃!」
「ううぅ・・・・・」
影山姉妹のやり取りにはいつも辟易とするし、妹の梨乃ももう少し姉の由乃さんに強く出てもいいと思う。他人ならまだしも、梨乃と由乃さんは血の繋がった実の姉妹なんだから。
(まぁ、普段落ち着いている由乃さんがヤンキーみたいに怖い顔をしてれば怯えるのも無理もない。これで一人前の僧侶なんだもんな)
そんな姉妹のやり取りはスルーして、あれだけの攻撃を食らっているにも拘らず、天城は全くの無傷であった。
だが、空道のお陰で不自然な動きの訳を知ることが出来た。
「ッタク!無駄に頑丈ね!」
「それでも、この化け物は絶対に成仏させてはいけない」
「ああ。例え畜生にしかならなくても、こんな異常な化け物に新しい生を与えてはいけない。わたし達の手で、消さないといけない」
3人の一斉攻撃が一度止まった所で、俺と華々美が前を出て再び肉弾戦に入った。近づく際に、華々美は銀の弾丸を撃ち込んだが、全く効いていなかった
『無駄だというのがまだ分からないのか!』
「無駄じゃない!」
「幹夫!?」
戸惑う華々美をよそに、俺は天城に接近して金の刀を奴の心臓に突き刺した。先程と違って、俺が突き刺した金の刀は天城の身体を貫通した。
『くっ!小僧、貴様ぁ!』
「なんか妙だと思ったんだよ!一見攻撃が全く効いていないように見えたが、よく見ると貴様は身体のある部分を庇うように戦っていた!それがここ、お前の唯一の急所である心臓だ!」
『小僧!』
唯一の急所を突かれて怒り狂った天城は、両手で俺の首を絞めようと腕を伸ばしてきた。
が、天城の手が俺の首に触れる直前、俺の両手から眩いばかりの光が放たれ、それが周囲へと広がっていった。そして、その光によって気を失っていた涼と朝香が目を覚まして素早く起き上がった。
『なっ、なんなんだこの光は!?力が・・・・』
「滅びろ!」
謎の光によって力が削がれた天城に、俺は金の刀を更に深く突きさした。
「下がれ幹夫君!」
由乃さんの掛け声とともに俺は素早く下がった。それと同時に、目を覚ました朝香がこの好機を逃さず、刀を鞘に納めてすぐに笛を手に取って音楽を奏でた。
「梨乃!」
「はい!」
由乃さんの合図で、影山姉妹は五鈷杵を天城に向けて、先端から光が細い光線のように伸びて天城の身体を貫いた。
『あああ・・・ああああああああ!』
「逃がさない!」
このままではマズイと思った天城は逃走を図ろうとしたが、空道が髪飾りの椿の花を飛ばし、それから出てきた木の根で天城を拘束させた。
『離せ!』
「離す訳ないだろ!」
先程の光を浴び、更に陰陽師4人の術を一斉に食らって弱った天城の眉間を、拳銃を構えた華々美が銀の弾丸で撃ち抜いた。
『あああ・・・・』
「これでトドメだ!」
銀の弾丸を撃ち抜かれ、今度こそ動けなくなった天城に涼が駆け寄り、持って来ていたお札全てを取り出し、それを天城の全身に張り付けた。その中には、金墨で書かれたお札も数枚混ざっていた。
そして、声も上げられなくなった天城の身体を宝刀で縦に両断した。
『ああああああああああ!』
甲高い断末魔を上げた瞬間、天城の足先から徐々に黒い靄となって消滅していった。
『嫌だ嫌だ嫌だ!私は極楽にだけ行きたいんだ!それ以外の所には逝きたくない!助けてくれ!』
「「助ける訳がないだろ」」
そんな天城の命乞いなんて聞くわけもなく、左半分を涼が自身の十八番術である衝撃砲で、右半分は演奏を終えた朝香が火を吹いて完全に消滅させた。
これでようやく、ゴースト団地に巣くい、多くの悪霊を呼び寄せる元凶である大魔物を討伐することが出来たのであった。




