ゴースト団地の大魔物 4
幹夫たちがそれぞれ魔物に対処している間、涼と朝香と由乃の3人は3体の魔物の中でも最も強い魔物と戦っていた。
涼と朝香は刀を使って、由乃は桃の木の木刀を使ってそれぞれ対処していたのだが、相手の魔物には全く効いてはいなかった。
「クソ!」
「ボクの術が効かない!」
「ここまで強大になるなんて、あの町にいた大人全員の命と生命エネルギーを奪ったとしても、ここまでは!」
3人は一旦魔物から距離を取り、次の攻撃に移行するための準備に入った。
魔物の方は、完全に3人を見下しているのか一歩も動こうとしなかった。
『驚いているようだが、私は百年以上もこの世を彷徨い、多くの人間に取り憑いてはその命を奪ってきた。そんなとき、この現象が起こって私の力は飛躍的に向上し、おまけに気分を高揚させる効果もあるみたいで今までとは比べ物にならないくらいに多くの人の命を奪うことが出来ました』
それどころか、そんなことを自慢するくらいであった。
デッド・オブ・ザ・ワールド現象のせいで、この悪霊の力と凶暴性が更に上がってしまい、今のような危険な魔物へと変貌を遂げてしまったのだろう。あのような幻覚を見せられたのも、この魔物が本来持っていた力がなせる業だったのだ。
そこへ更に他の悪霊や、この団地に集まってきた悪霊たちまでも取り込んだことでこの魔物の力はとんでもない域まで上がっていったのだ。
「貪欲な魔物め!これだけの命を奪っておきながら、まだ足りないというの!?」
『満足してしまったら、俺は強制的に成仏させられてしまう。私という存在そのものがなくなってしまう。そんなのは耐えられない』
「この世に対する執着が尋常じゃない。だからあの子たちのことも密かに狙っていたのか」
「コイツは何としても消滅させないといけない!」
この魔物の危険性を理解した朝香は、カバンからお札を一枚取り出し、それを素早く魔物の足物へと飛ばした。
お札がアスファルトに張り付いた瞬間、魔物の足元から大きな火柱が上がって魔物を飲み込んだ。
だが、魔物は何事もなかったかのように火柱から出てきた。
『ちょっと熱かったが、何てこともない』
「噓でしょ!?朝香の、日口家の最大の術なのよ!?」
「これもダメだなんて!」
「弱音を吐いてはいけません」
2人が動揺している中、由乃さんは木刀を一旦腰に差して錫杖を前に出した。
「それが分かっていたからこそ、私達がこの魔物の相手をすることを決めたのではありませんか。それに、コイツを倒してもまだバックにはもっと強力な魔物がいるのです。狼狽えている暇なんてありません」
そう2人に厳しい言葉を投げかけた後、由乃は錫杖でアスファルトを強く突くと彼女の全身から眩い光が魔物に向けて放たれた。
『あああああ!なんだこれは!?』
「いかに強力な魔物になっても、太陽の光を浴びれば存在を維持できずに消滅するみたいですね。この光には、太陽光と同等の力があります。消滅させられなくても、その力を全て奪って見せます」
尤も、連発も出来ないしたくさん使えませんがと小声で呟いた後、錫杖を引っ込めてすぐにカバンから水晶を3~4個取り出して飛ばした。飛ばされた水晶は魔物に命中したが、貫通することが出来ずカンと音を立てて弾かれた。
「光を浴びて弱らせても、力を削るには至りませんでしたか。ここまで強大になると、太陽光でも容易には力を全て消すことが出来ませんか」
攻撃が通らなくても、由乃は特に動揺した様子もなく、至って冷静に相手の力を分析し、すぐに錫杖を背負ってカバンから五鈷杵を取り出した。
「クソ!」
2人の術が効かず、弱っている状態であるにもかかわらず無傷でいる魔物に向かって涼は走っていき、宝刀で魔物の身体に何度も斬撃を繰り出していた。
(私の宝刀による斬撃があれば、ここで消滅させられるかもしれない!あとは手数で勝負!)
そう思って涼は、一呼吸の間に十何斬撃もの攻撃を加えた。
幼いころから武術を叩きこまれ、小学校高学年から刀を持って訓練も行ってきた涼は物凄い速さで刀を振った。
習い事でも、幼少期から剣道と柔道と空手を習いいずれも段位と黒帯を持っている。中学に上がるころには、祖父の意向で居合道も習い始めて、その時に初めて本物の刀を手にした。
そんな涼だからこそ、ここまでの斬撃を加えることが出来た。
(あの光が太陽光と同じと言っても、本当の意味で太陽の光と同じという訳ではない!死霊や悪霊を消滅させる力はあっても、コイツを消滅させるには至らなかったか!やはり、本物の太陽の光じゃないとダメか!)
とはいえ、この魔物があの光を浴びたことで弱っているのは事実。それならば、あとは手数で勝負をするだけだと思い涼はひたすら斬撃を繰り返していた。
涼の一族である瀧倉家は、あまり妖術を使わずに武術で対処するタイプの武闘派陰陽師一族。使えない訳ではないが、一撃一撃がかなり強力である一方で念力の消耗が激しくあまり使用しない。更に、基本的には武術で対処するというのがこの一族のやり方であり、それは末裔である涼にもしっかりと受け継がれていた。
(私にはこれしかない!青美みたいに自由に妖術が使える訳ではない、朝香みたいに音楽で悪霊を弱らせることも出来ないし、結界を張ることはできても柚羽ちゃんみたいに魔物クラスの悪霊を完璧に退けることはできない!)
そう自分を卑下する涼だが、彼女にはその3人を遥かに凌ぐ圧倒的な力がある。その力をもって、魔物クラスの悪霊でさえ一撃で葬ることが出来る。
だが、今回は相手が悪く傷を付けられずにいた。
『小賢しい!』
涼の斬撃を鬱陶しく思い、元気を取り戻した魔物が口から黒い靄を出してそれを涼に浴びせかけた。その瞬間、涼の身体にものすごい衝撃がかかって吹っ飛ばされてしまった。
「くっ!」
吹っ飛ばされてすぐ、涼は猫のごとく何とか体制を整えてうまく着地し、背中をアスファルトに打ち付けるという事態を回避した。
「涼!」
「涼さん!」
「大丈夫よ!それにしても、弱っている状態であの力なんて!」
あれだけの斬撃を加えたにも関わらず、魔物の身体には傷一つ付いていなかった。相変わらず弱っている状態ではあるが、それでも倒すにはまだ足りなかった。
「全くの無傷か。流石に凹むな・・・・」
「だけど、あそこまで弱っていれば勝てない訳ではない」
「はい。では、朝香さん」
由乃さんの掛け声で、朝香は一旦刀を鞘に納めて、手頃だからという理由で腰に差してあった笛を手に取った。
『何をする気なのか分からないが、お前たちごときにこの私が倒せるものか!』
動けるようになった魔物が、大きく口を開けて長い牙を剝き出しにしながら3人に向かって走ってきた。
それと同時に、朝香が笛を吹いて演奏し始めた。
『なっ、なんだこれは!?・・・く、苦しい!?』
彼女の笛の音を聞いた魔物は、突然足を止めて耳を強く塞ぎながら膝をついて苦しみだした。
朝香の一族である日口家は、念力の籠った音楽を奏でることでそれを聞いた悪霊の力を大幅に削いで弱らせる力を持っており、例え耳を塞いでも防ぎきることが出来ない。
万全の状態なら不可能だったが、由乃によって弱らせられた今の魔物には朝香の奏でる音楽に抗う力はなかった。
『この、小娘が!』
それでも抵抗して立ち上がろうとする魔物に、今度は由乃が前に出て五鈷杵を前に突きだし、念仏を早口で唱えた。唱え終えると当時に、五鈷杵から黄金の光が放たれ、それを浴びた魔物の身体から黒い瘴気のようなものが出て行った。
『ああああああああああ!や、やめろおぉ!』
苦しむ魔物を無視して最後に涼が前に出て、宝刀で魔物の身体を縦に一刀両断した。
「はああっ!」
『ああぁ・・・・・ああああああああああ!』
だが魔物は、縦に真っ二つにされたにも拘らずそれでもなお襲い掛かろうとしてきた。
「クソ!」
「下がって涼!」
朝香の掛け声とともに涼は後ろに下がり、演奏を終えた朝香は笛を腰に差してすぐ、胸の前で素早く印を結んだ。
「朝香さんは左半身を!私は右半身を!」
その直後、由乃は再び五鈷杵を前に突き出し、今度は呪文と共に先端から黄金の細い光線が放たれ、その光線は魔物の右半身の胸を貫通した。
それとほぼ同じタイミングで、印を結び終えた朝香が左半身に向けて口から火を吹いた。
『そんな・・・・バカな・・・・・この私が、人間ごときに!』
2人の攻撃を食らった魔物は、音を立てて霧散していった。
片方は、光の光線を食らって呆気にとられる暇もなくぱあぁと霧散していった。
もう片方は、全身を炎に包まれて悲鳴を上げる暇もなく爆散していった。
「何とか倒せた・・・・」
「少し力を使いすぎた」
「念力の回復は、青美ちゃんに頼めばいいのですが、体力の回復までは」
「私は全然平気だけど」
「そりゃ、ボクと由乃さんは涼みたいなバカ体力じゃないから」
「私なんて、2~3年後にはアラサーですよ」
力と体力の消耗が激しい朝香と由乃に対して、涼の方は力の消耗はあれど体力の消耗が感じられなかった。
そんなピンピンしている涼を見て、朝香と由乃は顔を引きつらせながらドン引いていた。
「2人とも酷いわ・・・・」
少し落ち込みながらも、涼は朝香と由乃と一緒に2体の魔物を倒した幹夫たちと合流した。
ベテラン由乃と、力の強い涼と朝香が加わればほぼ敵なしです。
ですが、最後に控えている魔物はそうはいきません。どうか最後までお楽しみください。




