ゴースト団地の大魔物 3
幹夫たちが優希と対峙している時、里美と咲と青美の3人は魔物となった千葉の佐藤宗一と対峙していた。
「まさか、ここまで追いかけてくるなんて本当に執念深いわね」
「里美だって知ってんだろ。悪霊って執念深いもんだろ」
「2人とも黙って。相手はかなり危険ですよ。しかも、ここに集まってきた悪霊の殆どを取り込んで強くなっています」
緊張感の欠けることを話す里美と咲に、大きな筆を構えて敵を睨む青美が注意した。とはいっても、里美も咲も決して警戒していない訳ではなかった。2人も武器を手に、いつでも反撃できる体制に入っていた。
『お前たちが俺の大切な商売道具を持って行きさえしなければ、こんな所まで追いかけてこないってもんだ』
「あの石盤が必要だったから取りに行ったの。それ以前に、盗品と分かっていながら渋井沢から1000万で買い取ったアンタが悪いのよ」
「そもそもの話、盗品の売り買いは犯罪でしょうが。それを平気でやるなんてどうかしてんだろうが」
『黙れ!俺は特別でなければいけない!特別でなければいけないんだ!その為にたくさん金が必要だったんだ!』
「年収が1000万もあったのにまだ金が欲しかったのかよ」
「無理もないわよ。ここの所の物価高に加えて、国がたくさん税金を取りすぎたせいで日々の生活はカツカツ、そのくせ見栄っ張りのせいで常に金欠になっているし、帰っても寝に帰るだけになっているからね」
『うるさい!俺はずっと特別だったんだ!その為の努力もたくさんしてきた!その甲斐あって年収が1000万になって、念願だったタワマンの最上階を購入することが出来た!なのに、夢にまで見た金持ち生活は全く出来ず、欲しかった高級時計や財布なんて買える訳もなく、高級車だって買えない!せっかくのタワマン最上階も寝に帰るだけで、日々のローンで貯金の殆どがなくなるし!こんなの、俺が望んでいた金持ち生活なんかじゃない!』
当然である。
年収1000万と言っても、保険や税金などでたくさん引かれる為手取りは更に少なくなるので、実際の手取りでは日々の暮しで精一杯の状態だった筈。収入が多ければ多い程、引かれる税金も多くなってしまう上に毎月のローンの返済で苦しい生活に拍車がかかってしまった。
それは、この男が望んでいた豪遊贅沢三昧のセレブな生活とは程遠いものであった。
「きっかけはともかく、努力をたくさん積んできたのは素晴らしいと思うわ。大手に就職して課長職に就いただけじゃなく、年収も1000万なんだからすごいのに、お金の使い方が下手だったばかりに」
「マジだっさ」
『うるさい!俺はもっと特別であるべきなんだよ!だからもっと金が必要だったんだよ!』
「だからと言って、麻薬の密売に手を染めるべきじゃなかったわね」
「大金が欲しいからって、犯罪に手を染めるべきじゃなかったな」
里美と咲の2人に責められても、千葉の佐藤宗一は全く悪びれることもなく自身の行動の正当性を熱弁していた。その内容に関しては、あまりにも自分勝手すぎたためその内容は3人の頭には入っていなかった。
「聞くに堪えないです」
青美も、そんな自分勝手な千葉の佐藤宗一に嫌気がさしたみたいで、大筆でアスファルトに字を描き大筆を使ってゴルフの要領で書いた文字を飛ばした。飛ばされた文字は、カンと大きな音を立てながら佐藤宗一の身体に当たった。
『ああぁ!?小娘が!』
「やっぱこの程度の術は効かないですか」
軽い挨拶程度に放った術だった為、青美自身もこれが効くとは思っていなかったみたいで、すぐに切り替えて大筆を背負って胸の前に両手を持って来て素早く印を結んだ。
「2人とも下がってください!危なくなったらお呼びしますけど、コイツはあたしが倒します!」
『二十歳にもなっていない小娘が生意気な!』
「あたしは18歳で成人済みです。アナタはとことん惨めですね。タワマンなんて見栄を張らずに普通のマンションにしていれば、そんな苦しい思いもせずに済みましたのに」
『黙れ!俺は特別なんだ!特別でなければいけないんだ!そんな俺が、いつまでも安い賃貸マンション暮らしだなんてあってはならないし、そんな屈辱は許せない!』
「アナタみたいな霊を救う気にはなれません。申し訳ありませんが、消えてもらいます」
印を結び終えると、周囲のタイルやブロックが浮き上がり、回転して千葉の佐藤宗一の所へと飛んでいった。タイルやブロックは、千葉の佐藤宗一に命中したが効果は殆どなく、命中すると同時にボロボロと砕けていった。
『小賢しい術を使いやがって!奇術師か何かか!?』
「あたしは陰陽師よ!」
次の攻撃に切り替えた青美は、今度は千葉の佐藤宗一の足元に大きな亀裂を作ってその中に落とそうとしたのだが、相手は落ちてもすぐに這い上がってきて更に青美に迫ってきた。
『小娘が!』
「これもダメなんて!?亀裂の表面には浄化の力があるのに!」
とっておきの術が効かなかった事に少し焦るが、すぐに切り替えて十八番の鬼火を出して飛ばした。命中はしたが、殆ど効いていない様子であった。
そんな事に驚いている間に、千葉の佐藤宗一はあっという間に青美の目の前まで迫った。敵が青美に触れる前に、里美と咲がそれぞれ金の刀と金属バットで攻撃して千葉の佐藤宗一を一時的に下がらせた。とはいえ、攻撃が効いているとは思えなかった。
「ありがとうございます」
2人に感謝した後、青美は髪飾りとして付けていた椿の花を取って再び千葉の佐藤宗一を睨みつけた。
『鬱陶しい!小娘どもが!』
「目的はどうあれ、金持ちになりたいという目標の為にたくさん努力をなさったのは立派だと思います。けれど、見栄を張ってタワマンの最上階を購入したのは失敗でした。ただでさえ、物価高の影響で生活が苦しくなっているうえに税金も高くなる。収入が多ければ多い程更にその金額も高くなる。これでどうやって、アナタの望む豪遊贅沢三昧をするとおっしゃるのですか?年収1000万といても、それはあくまで税金や保険が引かれる前の金額です。30過ぎているのにそれが分からないのですか?」
年収1000万であっても、もはや贅沢暮しが出来難くなってきているご時世。見栄を張って後のことを考えず、高級なブランド品を買えばあっという間に生活が苦しくなるのは火を見るよりも明らか。
いろいろと工夫をし、我慢をすることで日々の生活を苦しくさせないようにしているのが殆どの中、この男は見栄を優先して贅沢豪遊三昧の生活を渇望した。
その結果、更なる大金を求めて麻薬の密売に手を染めるという犯罪に手を染めてしまった。
しかし、それでもこの男は全く反省する様子もなく、むしろ青美たちに逆ギレをしていた。
『仕方ないだろ!俺はどうしても大金持ちになりたかった!貧乏で毎日の生活が苦しい子供時代を送り、欲しい物があっても買ってもらえなかった!それも全部、中卒で収入の少ない仕事にしかつけなかった低学歴のクソ親父と、そんなクソみたいな親父を選んだバカな母親のせいで!だから俺は、死に物狂いで勉強し、高校も有名私立に合格し、大学も難関大学に奨学金を借りて進学できた!そして、卒業後は大手に就職して順調に成果を上げていき、30歳で課長に就任することが出来た!年収が1000万になったときは天にも昇る気分だった!』
本当にここまでたくさんの努力を積み、しっかり結果を残してきた佐藤宗一。挫折も何度も味わっただろうけど、それにめげずにひたすら頑張り続けたのだろう。
そんな子供時代を過ごしたからこそ、この男は異常なまでにお金に執着し、贅沢暮らしをすることに最上の幸せを感じるようになってしまったのだ。
だが、物価高騰の影響は非常に大きく、見栄で購入したタワマンの最上階のローンの支払いだけでなく、奨学金の返済やこれまた見栄で購入した高級車の維持費や高級時計などで日々の生活は苦しくなり、結局子供時代と同様の貧困生活を送る羽目になったのだ。
「本当に哀れな男です。もう少しお金の使い方を学んでいれば、こんなことにはならなかったでしょうし、霊滅版を持ち出した渋井沢も逮捕されていたと思います」
青美の言うように、元を辿れば霊滅版を盗んだだけに飽き足らずそれを売り払った渋井沢雅巧という男が全ての元凶なのだが、道を踏み外した上に盗品と分かって霊滅版を購入したこの男も悪い。
不幸なのは、この男が霊滅版を見つけて、それを使って麻薬の密売を行おうとしたことであった。歴史学者だと偽ってまで。
『お前たちのせいで、俺の望んでいた更なるセレブ生活は台無しになった!お前たちがあの石盤を持ちだしたせいで!』
「いい加減にしなさい!自分の見栄と欲望の為に、一体どれだけの人に迷惑をかけたの想っているのよ!」
「アンタが霊滅版を壊したせいで、世界中の人達が死霊や悪霊たちに襲われて命の危機に瀕しているのに!」
「この期に及んで自分のことばかりですか!心底軽蔑します!」
『うるさい!俺は特別なんだ!』
怒り狂った千葉の佐藤宗一は、再び青美たちに掴み掛ろうと走ってきたが、近づかれる前に青美は手に持っていた椿の花を敵に投げつけた。
すると、椿の花から木の根が伸びていき、その根が佐藤宗一の身体に巻き付いて拘束した。
『な、なんだこれは!?』
「うちの神社にある椿の木は、樹齢が300年を超える特別な老木でね、うちの御神木にもなっているのです。その椿から取った花に、あたしの念力を注ぎ込むことで邪を拘束する木の根を出させるようにしたのです」
『何!?っ!?・・・力が!?』
「ついでに、拘束している悪霊の力を吸い取る効果もあるのです」
説明を終えた青美は、懐から一枚のお札を取り出した。
涼と朝香がたくさん使う印象があるが、彼女もお札を使うことはある。頻度は、涼達に比べると格段に少ないが。
「使い方は涼ちゃんとは違いますけど、あたしだってお札は使います」
そう言って青美は、お札を両手に挟んで呪文のようなものを唱えた後パッと両手を敵に向けた。すると、お札は光を放ちながら吸い寄せられるように千葉の佐藤宗一の顔に張り付いた。
『ああああああああああ!』
お札を張られた佐藤宗一は、悲鳴を上げながらそのお札に吸い込まれていき、数秒で全身がお札に取り込まれていった。
最後に、佐藤宗一を吸い込んだお札はパッと燃えて跡形もなく消えた。
「相手が防御特化で、攻撃手段が肉弾戦だったのが救いでした」
「確かに、一番ヤバそうなのは涼と朝香と由乃さんが相手しているし」
「にしても青美、オメェもお札を使うなんて意外だったぜ」
「あたしは妖術専門だから、お札は滅多には使わないです」
「みたいね。でも、大きな胸でパツパツの中よくお札が皴だらけにならないわね」
「確かに、青美もデケェよな」
「あ、あまり見ないでください!」
そんなやり取りをした後、魔物化した出島優希を倒した幹夫たちとも合流し、更に厄介な魔物を倒した涼達とも合流するのであった。
性格は破綻していますが、青美だって強い陰陽師です。




