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ゴースト団地の大魔物 2

 それぞれが魔物と対峙している中、俺は華々美と美玲と梨乃と一緒に出島の方を向いた。この女とは、戦う前に先ずはしっかりと話を付けないといけないと思ったから。出島もまた、俺達に言いたいことがあるのかすぐに襲い掛かってくる様子はなかった。


「随分変わり果てた姿になったな、出島」


『何でなのよ。何であたしではなく、そんな女たちを選ぶのよ?しかも、華々美との間には子供まで出来ちゃっているし。何でなのよ、何でなのよぉ!』


「あれだけ言われてもまだ分からないなんて」

「無理もありませんよ、華々美さん。だってこの女、重度のメンヘラでヤンデレなんですから。それも、闇堕ち確定の」

「華々美も美玲も、かなり辛辣ね」


 厳しい指摘を言う華々美と美玲に、梨乃が少し困った表情を浮かべて戸惑っていた。


「ここに来る前に里美にも言われただろ。アンタは自分の事ばかり言っていて、幹夫のことを何一つ考えられていない。幹夫の気持ちもまるで分っておらず、自分の気持ちばかりを押し付けている。だからお前は、幹夫に嫌われているんだ」

「本当に惨めですね。努力の方向を間違えた結果、幹夫さんに好かれるどころか逆に嫌われることになったのです。自分中心に世界が回っているとでも思いこんでいるのですか?」


 華々美と美玲にこれだけ言われても、当の出島本人は全く理解した様子も見せない。そんな出島の態度に、俺の怒りは頂点に達した。




「外堀を埋めているつもりだったかもしれんけど、俺の両親に気に入られているせいで俺はいつも実の両親から過度な厳しい矯正を受ける羽目になった。お前に相応しい男になれだの言って、読みたかった漫画や雑誌はもちろん、ゲームさえも全く買ってもらえなかった。婆ちゃんが亡くなってからはそれが更にエスカレートしていって、婆ちゃんからもらったラジコンやドローンまでも捨てられてしまった。お前ばかりを気に入って、お前だけでなく両親までも俺の意思を完全無視するようになった。俺には過剰なまでに厳しい規制をかけておいて、お前には欲しいものは何でも与えられていた上に、お前が行きたい所は何処にでも連れて行ってもらえた。お前の望むことは何でも叶えてあげていた、お前の実の両親以上にな。そんなお前のことが、俺は小さい頃から本当に大嫌いだったんだよ」




 本当にあの時の俺は、どうしてこんな女を助けようと思ってしまったのか?この現象が起こったその日に戻って、この女を助けようとした自分を殴ってやりたいくらいだ。

 自分の事ばかり主張し、人に取り入るのがやたら上手くて、俺に近づく人間は男女問わずに遠ざけようとする始末。ハッキリ言って迷惑でしかないし、コイツのせいで俺は孤独を味わう羽目になったんだ。

 だが、そんな俺達の言葉も出島には何一つ響かなかったみたいで、だから何と言わんばかりに首をかしげていた。


『でも、幹夫はずっとあたしの傍にいてくれたんだから、幹夫も少なからずあたしのことを想ってくれてたでしょ』


「んな訳ねぇだろ。お前が一方的に付き纏っていただけじゃねぇか、何勝手なことを言ってんだ!」


『あたしは幹夫と結婚することが決まってたから、その為に幹夫のご両親はあたしたちの将来の為に幹夫に厳しく躾けてもらってただけじゃない』


「お前との将来なんてどうでもいいんだよ!」


『幹夫にはあたしだけいれば十分だから』


 昔からそうだが、この女は本当に人の話を聞こうとはしない。いや、正確に言うと俺の言葉をしっかり聞いて正しく理解しようとしないのだ。

 小さい頃からずっとそうだ、依存と言ってもいいレベルで粘着され、最初は構ってほしいだけだと思っていた。

 けれど、おかしいと思ったのは小学校に上がった頃であった。

 小学校に入学して1週間ほど経った時に、たまたま隣の席に座っていた女の子と他愛のない話をしていた時であった。嫉妬した出島が、その女の子に執拗な嫌がらせや虐めを行うようになったのだ。その女の子を、不登校にまで追い詰めるまで。

 流石に腹を立てた俺は、出島に怒りをぶつけると同時に嫌がらせと虐めを止めるように言った。だけど出島は全く反省せず、それどころか自分の親と俺の親に泣き付いて、俺の言葉なんて一切聞き入れず「優希ちゃんを泣かせるな!」と言われて逆に怒られたくらいだ。

 俺も何度も、出島のしてきたことを出島の親や自分の親に訴えてきたのだが、どっちも出島を悲しませた俺が全て悪いと言って一切耳を傾けてくれなかった。出島の親だけならともかく、実の親にまでそんな風に言われた時の絶望感は幼かった俺の心を大きくえぐり、それ以来出島には憎しみに近い感情で嫌うようになり、同時に強制されたせいで反抗する気力さえ失う事にもなった。今思えば、小学生ながらに虚無になってしまったと思う。


(だが、俺はぐれることはなかった。婆ちゃんだけが、俺の言葉をしっかり聞いてくれて、出島のことを唯一叱ってくれて俺を守ってくれていた)


 そんな婆ちゃんが亡くなってしまい、俺の心にはぽっかりと穴が開いたような感覚に陥り、益々虚無に堕ちてしまった俺は親の言いなりになって自分の心を守ろうとしていたのだと思う。これ以上傷つきたくない一心で。


(だが、俺はもうお前の言うことなんて聞かない)


 俺の手を握ってくれる2人、華々美と美玲の手の温もりを感じながら俺は改めて出島に言い返した。


「これだけはハッキリと言おう。俺はお前を好きだと思ったことなんて一度もない。それどころか、お前のことは世界一大嫌いだと言ってもいい」


『そんなに強がらなくても、あたしが一生幹夫の傍にいてあげるから』


「俺には華々美と美玲と涼、それにたくさんの仲間がいてくれる。そして、大切な娘もいる。今の俺はすごく幸せを感じている。お前といる時には一度も感じたことがない幸福感を」


『はあぁ!?』


 華々美達の名前を聞いた後、出島は顔を歪ませて奥歯を噛み締めて俺の両隣にいる2人を睨みつけた。


『何でなのよ!何であたしではなく、別の女が幹夫の隣にいるのよ!おかしいでしょ!幹夫はあたしの物なのよ!』


「バカを言うな。わたし達の旦那様なんだぞ。わたしに関しては、娘がいるくらいだから他の嫁よりもわたしが一番幹夫に愛されている。した数も、ダントツでわたしが多いし」


 数に関しては事実なのだが、だからと言って涼と美玲がついでだと思ったことはないぞ。2人とも、華々美と同じくらい大切に想っている。


「それに関してはいろいろ言いたいことがありますけど、この際だから流してあげます。私や涼さんだって、まだまだこれからですから」

「ちなみに涼が幹夫とした回数は、美玲の倍くらい多いぞ」

「涼さんまで私を裏切っていたのですか!?」

「2人とも、その話題はその辺にしてくれないかな・・・・」


 あまり言いたくはないが、俺の方から押し倒したのは1回だけです。そして、その相手も華々美です・・・・。

 だが、その話題は出島の怒りのボルテージを更に上げることになった。


『許せない!あたしなんてまだ一度も幹夫としたこともないし、されたこともないのにアンタ達はたくさん幹夫としてたなんて、納得できない・・・・・納得できない!』


 怒りを顕わにする出島は、全身から黒い突風を起こした。


「怒りで完全に我を失っていますね。梨乃さん、今です!」

「ええ!」


 美玲が梨乃に指示を出した直後、突然出島の周囲から何かが飛んできて、それが一斉に出島の身体を貫通していった。


『な、何よ・・・これ!?』


 何が起こったのか困惑する出島に、梨乃は五鈷杵を手に前に出た。

 出島の前まで来ると、梨乃は持っていた五鈷杵を前に突き出して早口気味ではあったが念仏を唱えた。唱え終えると、梨乃も持っていた五鈷杵から黄金の光が放たれて、その光を浴びた出島の身体が黒い靄となって消滅していった。


『そんな・・・・嫌だ・・・・・幹夫・・・・』


 断末魔を上げる間もなく、助けを叫ぶ余裕もないまま出島は完全に消滅していった。あとに残ったのは、生前に出島が来ていた衣服のみであった。


「あんな醜い姿になってまで俺を奪いに来たというのに、なんか呆気なかったな」

「これでいいのです。全力を出される前に、とっとと倒してしまった方が良いに決まってます」

「相変わらずエグイ作戦ばかり考えるな、美玲は・・・・」


 美玲の立てた作戦に、俺も華々美も言葉を失った。




 俺が指示を出してすぐに、美玲は俺と華々美と梨乃に耳打ちをして作戦を話してきたのだ。

 その内容というのが、俺と華々美と美玲の3人で出島の注意を引いて、その間に梨乃が水晶を飛ばして出島の周囲に配置させて不意打ちを行うというものであった。そうして、梨乃の水晶を使った攻撃が通ったら梨乃の手でトドメを刺すというものだ。

 注意を引くと言っても、ただ雑談をすればいいというものでもない。出島の注意を俺達だけに集中させて、出来れば激情させて視野を狭くさせて、出島の意識から完全に梨乃を外させる必要があった。

 出島の注意が完全に梨乃から外れたタイミングで、周囲に配置してあった水晶で出島をハチの巣にするというのだ。




「いやぁ、普段から影が薄かったお陰で最後には出島さんは完全に梨乃さんに対する警戒心がなくなってしまいましたね」

「倒せたのはいいけど、ちっとも嬉しくない!お姉ちゃんばかりが目立って、妹のあたしの存在はどんどん薄くなっていく一方で、せっかくの見せ場でもあたしはちっとも目立てなかったし!」


 自身の影の薄さに不満たらたらの梨乃だが、そのお陰で出島を倒すことが出来たのだから文句を言わないでほしい。確かに、性格も黒歴史も力もどれを取っても姉である由乃さんには遠く及ばず、結果的に妹の梨乃の影はどんどん薄くなっていくことになったのだ。

 そもそもの話、梨乃が霊媒師になったのは当時グレていた姉の由乃さんから、「死なば諸共」と言われてほぼ強引に西光さんに弟子入りさせられたという経緯なのだけど。


「そのせいで出島は、全力どころかせっかく手に入れた力の一部も披露することなく消滅したんだけどな」

「何を言っているのですか、幹夫さん。わざわざ敵の手の内を見ようとするなんて愚の骨頂です。私達はバトルジャンキーではないんですし、そんなことをしたらこちらが不利になるのは火を見るよりも明らかです。相手が力を発動する前に叩くのは当然ではありませんか」

「まぁ、そうだけど・・・・」


 これがバトル漫画だったら、間違いなくブーイングの嵐が起こること間違いなしだな。

 何にも出来ずに、一方的に攻撃されて終わった出島にほんのちょっとだけ同情してしまう俺と華々美であった。





残念ながら、美玲は策士である為いかに楽に相手を倒せるのかを優先的に考えるタイプです。

そして、梨乃が哀れすぎる。

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