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ゴースト団地の大魔物 1


「クソ!」


 出島に引っ張られ、俺達はまたゴースト団地の魔界の中に入ってしまった。


「このクソ女が!」


 俺の腕を掴んで離さない出島の腕に、涼がお札を飛ばして張り付けた。お札を張られた出島は、苦しみながら俺の腕を離し、俺達はどこかの廃墟らしき建物の中に落とされた。


「ここは・・・・?」

「おそらく、ゴースト団地の中にある魔界だろう。ここはいくらお祓いをやっても、またすぐに別の霊が集まってしまうから、私達の親たちでさえも近づかないのよ」


 若干諦め気味に首を振る涼に、少し疑問に思った由乃さんが錫杖を妹の梨乃に預けて両手を床に置いて目を閉じた。

 すぐに分かった、由乃さんは今霊視を行っているのだ。なぜこの団地は、こんなにもたくさんの霊を呼び寄せてしまうのか、その理由を突き止めようとしているのだ。


「由乃さん」

「この現象のお陰で、力を持った霊の存在を完全に察知することが出来るようになりました。気配を探るのは無理でも、その霊の正体を知る為に探ることはできます。何でこの団地には、世界中からたくさんの霊を引き寄せてしまうのか、ここには一体何があるのか、それがずっと気になってもいましたし」


 確かに気になっていた。

 何故この団地は、これ程までにたくさんの幽霊を引き寄せてしまうのか、そして引き寄せてしまうその要因とは一体何だろうか?元凶と思われていたマンションがなくなっても尚、ゴースト団地には今もたくさんの悪い霊を引き寄せてしまう。

 その正体が分からないまま、俺達はもちろん涼達でさえ掴めないでいた。

 しかし、デッド・オブ・ザ・ワールド現象の影響により霊の力と気配がより強く、いつもよりも気配を探りやすくなっている。けれど、ここゴースト団地は常にたくさんの幽霊が集まる為それが出来ないでいた。その為、近づかないことこそが最善であった。

 しかし今なら、その原因を知ることが出来る。由乃さんなら、それが出来る。


「・・・・・・っ!?」


 霊視をしてしばらくして、由乃さんの目がバッと開かれたと思ったら、突然腕で口元を覆って勢い良く立ち上がった。


「由乃さん!?」

「何て化け物なんだ!?」

「何が見えたんだ?」

「ゴースト団地の地下に、とんでもない力を持った魔物が身を潜めていました。その魔物の霊気に引き寄せられて、世界中から多くの霊が引き寄せられてしまったみたいです」

「何故そんな魔物が?」

「そもそも、地下にいるのなら私と青美がここに来た時に、青美の浄化の塵で消滅していてもおかしくないはず」

「その浄化の塵でさえ効かない程の強大な魔物みたいです」

「そんな・・・あたしの術が効かないなんて・・・・」


 効いていなかったと聞いて、ショックを受ける空道。

 由乃さんの話を更に詳しく聞くと、その魔物の生前は明治時代に過激な宗教団体の教祖をしていて、極楽に対する執着が異常なくらいに強く、死後も極楽に行くことに執着していた。


「気の毒ですね。極楽は存在しないし、当然地獄も存在しません。魂は死後に天に上り、そこから霊界に行き、魂の洗浄が行われて何年後かに新しい生を受けます。重い罪を犯せば更に強い洗浄を受けて、人に転生できず畜生になってしまいます。この世に長く留まった魂も同じ末路をたどります。どんな宗教があろうとも、その事実だけが揺らぐことはありません。けれど、人間というのはどうしても自分に都合がいいように考えてしまうもので、ありもしない極楽と地獄を作り出してしまうのです。善い行いをすれば極楽に、悪い行いをすれば地獄に行くと」


 それが人間の価値観であり、どの宗教においても共通する認識なのかもしれない。魔物の基となった人間の場合は、その価値観に異様なまでに固執していて、特に極楽に対する執着は人一倍強かったみたいだ。

 死んだ後も、かつて自分の教団があったこの地に魂は居座り、今も極楽に対して尋常じゃない執着心を抱いていた。だが、その異常な執着によってその人間の魂は穢れていき、昭和に入るころにはとても危険な悪霊へと変貌し、更に平成の終盤、令和に入る一月前にはとうとう魔物になっていったというのだ。


「悪霊になってその強大な霊力により、日本中からたくさんの霊がこの地に集まるようになり、魔物になったことでそれが更に強くなっていき、結果今のゴースト団地が形成されているというのです」


 説明を終えた由乃さんは、梨乃から錫杖を受け取って一呼吸を置いてから改めて錫杖で進むべき道を示した。


「その魔物がいるのはあっちです。ソイツを倒さない限り、この団地は永遠に悪霊たちの巣窟となります。そして、その魔物を倒さない限りこの魔界は消えません。今まではただ居座って傍観するだけの魔物も、私達が霊滅版の力を発動させることを察して自ら魔界を作り出してまで本格的に動き出したようです。デッド・オブ・ザ・ワールド現象を終わらせないために」

「あの力が発動されたら、自分たちが極楽に行くこともなく転生することをアイツも知っているのか。それを止める為に、俺への執着が強い出島をそそのかして、殺さずに引き込むことで俺たちの町に入り込もうと企んだんだな」

「幹夫君の虫の知らせのお陰で、それを未然に防ぐことが出来ました。本当にあなたには、感謝してもしきれません」

「そう言われるのはむず痒いな・・・・・」


 だが、そうはさせない。向こうには柚羽ちゃんを残してあるし、いざとなったら彼女に任せればいい。柚羽ちゃん一人に負担を強いることになるが、それでも全員が引き込まれるよりはマシだ。


「柚羽ちゃんならきっとやってくれる。それを信じて、俺達はその魔物を倒しに行くぞ」


 俺の言葉に、全員が力強く頷いた。

 このまま放っておいても、その魔物は無理やり成仏させられるのだけど、また出島を差し向けて邪魔をされてはかなわない。ここで食い止めて、魔物を消滅させるしかない。出島に関しても、既に人間ではなくなってしまっているため倒さない訳にもいかなくなった。


「華々美!今何時だ?」 幹夫


「時間なんて聞いても無駄だ。魔界の中では、時間なんて概念は存在しないだろ」 華々美


「それもそうね。数時間入っていても、外では何十日も経っているなんてこともあるから」 梨乃


「でも、出来るだけ早く何とかしないといけません」 由乃


「ああ。あたしも早くここから出て焼肉食いてぇぞ」 咲


「私はタン塩が食べたいです」 美玲


「あたしはお野菜がたくさん食べたいです」 青美


「焼き肉の話をしてんのに何で野菜なのよ」 里美


「無駄だよ。青美の家は基本的には精進料理がメインだから、肉は食べないこともないけど殆ど食べないわ」 涼


「ボクは上カルビが食べたい」 朝香


 無駄話をしながら走っているが、これも互いの存在を確認するために必要なことなので喋らないという選択肢はないのだ。


「まぁ、肉と言ってもホルスタインの乳廃牛になるがな」 

「まぁ、それでもおいしいし、たくさん食べているおかげで今も胸は大きくなってるからな」 

「ああぁ!?華々美、あんたまだ胸が大きくなってんの!?」

「自分がAカップしかないからって、Hカップもある華々美を僻むなよ、涼。ちなみにあたしはCだけど」

「私はEです」

「美玲も大きいわね。私はFよ」

「あたしも里美さんと一緒でFカップです」

「ボクはⅭカップ。てっ、青美に負けるのもなんか嫌・・・・」

「私はⅮカップで、梨乃はCカップ」

「ちょっとお姉ちゃん!?というか、何でいきなり胸のサイズの暴露大会が始まってんのよ!?」

「俺がいること忘れないでほしいぞ・・・・・」

「あと咲、私はAじゃなくてBだよ!ギリだけど・・・・」


 ・・・・うん、きちんと相手に配慮した内容でないといけないな。君たちも女の子なんだから、もう少し恥じらいを持ってほしいぞ。

 そんな事を考えながら走っていると、見覚えのある4棟のマンションが見えてきた。


「おい。あの4棟のマンションって」

「ええ」

「3年前にあたしが塵に変えて、潰した霊の寝床になっていた廃墟同然のマンションです」


 そんなマンションが4棟も、当時のまま目の前に建っていた。おそらく、魔物が当時の光景を魔界の中で再現しているのだろう。

 そんな4棟のマンションのうち、右から2つ目を除く3棟のマンションからからそれぞれ一人ずつ、合計で3人の男女がゆっくりと歩いて近づいて来た。そのうちの一人が、当時の美しい姿のままの出島であった。その顔からは生気はなく、俺達にバレたことでもう生かしておく必要もなくなったのだろう。


『ふふ♡やっとあたしの所に来てくれたわね』

『お前たちのせいで、せっかくの極上の獲物であるガキたちを食べ損ねちゃったじゃないか』

『俺の大切な商売道具をよくも持ち出したな。1000万も出したのに、お前たちが持って言ったせいでパァになった。せっかく大金が手に入るはずだったのに』


 先程の言葉から、あと2人が誰なのかもすぐに分かった。

 一人は、あの大人の町を支配していた悪霊で大人たちから生気を奪って行った元凶。どうやら、あの大人たちが追放した子供達も狙っていたみたいだが、俺達があの子たちを保護したことでそれが叶わなかったみたいで、そのせいで俺達を恨んでいてここまで来たのか。しかも、ここの影響なのか魔物になっていた。

 もう一人は、渋井沢から霊滅版を買った千葉の佐藤宗一みたいだ。どうやら、涼の術でタワマンから追い出された後、何とか近くの建物へと逃げて消滅を免れたのだろう。その後、俺達を恨んでこんな所まで追いかけて来たのか。


『許せない!あたしから幹夫を奪うお前たちが!』

『俺から極上の獲物を奪ったお前たちが憎い!』

『俺の儲けの邪魔をしたお前達が許せない!』


 俺を華々美達に奪われた事に、最後のご馳走でもあるあの子たちを保護された事に、違法薬物を密売するために購入した霊滅版を持って行かれた事に対する怒りを爆発させると、3人の身体がぼこぼこと膨れ上がり醜悪な化け物の姿へと変わっていった。

 出島は真っ赤な体に、額に長さ10センチほどの鋭い角が生えて、犬歯が長く伸びた3年前に遭遇した悪鬼を思わせる姿になった。

 大人の町の魔物は、姿こそは人間と同じだが皮膚の色が青紫色をしていて、頭の側頭部からはヤギの角を思わせる長い角が生えていて、歯がライオンのようになっていた。

 千葉の佐藤宗一は、狼男を思わせるような姿をしているが、全身にブランド物に疎い俺でも知っているハイブランドの腕時計や財布などが埋め込まれた姿になっていた。


「なんて酷い姿なんだ」

「悪霊2人は、あの魔物から力を貰ったせいなのかしら、魔物になってしまっているわ」

「女の子の方に関しては、悪鬼に似てますけど全くの別物の魔物になっています。生きたまま魔物になるなんて、本当に惨めな方です」

「あたしがしっかり出島さんと話をしていれば、自我を取り戻していたことに気付くことも出来たはずなのに」

「今更言っても仕方ないよ。神社で常に傍にいると言っても、殆ど抜け殻状態になっていた彼女に何を言っても話にならなかったよ」


 朝香、涼、由乃さん、空道、梨乃という順番で、それぞれ自分が思っていたことを口にしていた。


「私と朝香と由乃さんで一番強い奴の相手をするから、青美と梨乃の2人は幹夫たちを守りながら他2体の相手を頼む」

「え!?ちょっと涼ちゃんたち!?」

「いいから言う通りにするわよ」


 いきなり涼からそんな指示を受けて戸惑う空道だが、梨乃が制止させたことで3人は真っすぐ真ん中の、大人の町の魔物の方へと向かって行った。


「はっ!」


 最初に攻撃を行ったのは由乃さんで、カバンから水晶を5~6個飛ばして大人の町の魔物に当てた。と言っても、弾かれてしまったため相手は全くのノーダメージであった。


「コイツ!」


 次に動いたのは涼で、カバンからお札を取り出してそれを大人の町の魔物に張り付けようとしていた。

ところが、魔物は両腕を伸ばして涼の両足首を掴んで転ばせた。


「あ!?・・・いっ!」


 転んでお札を落としてしまったが、それを朝香が拾って代わりに魔物の額に貼り付けた。それと同時に、魔物の鳩尾に蹴りを入れて背中から倒した。

 その隙に、起き上がった涼がカバンから黒色の網を取り出して由乃さんと一緒に広げた。網は漁で使う投網に、霊封じの墨を染み込ませたものだ。

 2人が魔物に近づくのと逆に、朝香は一旦魔物から距離を取った。

 だが、涼と由乃さんが網をかける前に魔物は貼られたお札を剝がしてそれを千切って捨てた。一瞬驚いた2人だったが、すぐに切り替えて魔物に網をかけた。


『こざかしい!』


「「あっ!?」」


 だが魔物は、網を引き千切って涼と由乃さんの胸倉を掴んで投げ飛ばした。


「涼!由乃さん!」

「平気よ」

「何て奴なの。ここに来て複数の悪霊と融合して強力になったのを差し引いても、ここまで私たちの術が効かないなんて」


 驚く間もなく、魔物はすぐに3人に襲い掛かってきたが、3人もそれぞれ刀と桃木剣で応戦していた。涼が一番強力だと言うだけあって、ベテラン3人の術が殆ど効いていなかった。


「幹夫、あの3人なら心配はいらない。わたしたちは、それぞれあの魔物の相手をしないといけない」

「ああ、そうだな」


 出島と千葉の佐藤宗一は、戦っている3人を無視してゆっくりと俺達に歩み寄ってきた。


「それぞれ分かれて相手をするぞ。俺と華々美と美玲と梨乃で出島を、里美と咲と空道で千葉の佐藤宗一の相手をしてくれ」


 俺の指示に皆が無言で頷いてすぐ、それぞれ指定された相手の所へと駆け寄ったのだった。





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