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千葉へ そして発見

 日が昇り切る前の早朝4時、俺達は小夏さん達に見送られながら屋敷を出発した。


「絵里奈、拗ねるだろうな」

「無理もない。あの子がまだ眠っている時間を狙って出るんだから、絶対に拗ねるぞ。『パパ大嫌い!』って言うかもな」

「ううぅ・・・・めちゃくちゃ傷つく・・・・」

「我慢して。あまり時間がないから、絵里奈ちゃんに引き留められるわけにはいかないのよ。来月の23日の午前0時に決行しないといけないのだから」

「うん・・・・」


 車を運転しながら、俺はまだ眠っている絵里奈を起こさないようにしながら寝室を出て、屋敷を出たことを思い出した。

 無邪気に眠っている絵里奈に内緒で、勝手に出て千葉の佐藤宗一の所へ行こうとしたことに対する後ろめたさがあり、とても胸が締め付けられる思いがあった。まだ早朝の4時だったので、絵里奈がまだ寝ている時間なので仕方ないが、後ろめたさはやはりぬぐえない。


「幹夫の気持ちも分かるけど、モタモタ出来ないのよ。向こうで何が起こるのか分からないのだから、早めに行って早く回収して早く帰りましょう」

「そうだな。幸いなことに、霊滅版の力を発動していい場所がわたし達の町の、幹夫の母校のグラウンドで行われるんだから」

「分かってる」


 その日を逃すわけにはいかない。この機会を逃すと、次は一体いつになるのか分からない。

 そうなると、早く用事を済ませて早く帰るのが良いだろう。


(千葉なら、俺たちの町からなら何とか今日中に着くことが出来るし、出発は日が昇り切る前の早朝というのも良かった。由乃さんが言うには、急げば今日の午前11に着くらしいし、何とか明日には帰れるだろうし、状況によっては日帰りも可能だろうけど・・・・)


 いつも行っている生存者の確認は今回はやらず、すぐに千葉の佐藤宗一の住んでいる所に行けば早く済む。無理をすれば今日中に帰れるけど、無理は禁物だ。明日のお昼ごろに帰れるようにして、絵里奈にしっかりと謝らないといけない。


(今だって、日がまだ上り切る前だから町に出た瞬間、車外は死霊達であふれかえっている)


 その道中で5回休憩を取りつつ車を走らせ、由乃さんの言う通り午前11時に目的地に着くことが出来た。


「何度も旅に出たおかげか、地図を見ればある程度行けるようになったな」

「何を言っているんだ?早く行くぞ」

「そうだな。にしても・・・・・」


 俺達は今、千葉の佐藤宗一が住んでいるというタワーマンションの前まで来ていた。

 そう、霊滅版を買った千葉の佐藤宗一は高級タワーマンションに住んでいる超セレブのようなのだ。


「高級タワマンの最上階に住んでいるって、いったい何をやっているのでしょうか?」


 同じくセレブの柚羽ちゃんも、30階のタワマンの最上階に住んでいる佐藤宗一がどういう奴なのか気になっているみたいだが、盗品と分かっていて霊滅版を買うような奴だから絶対に碌な奴じゃないと思う。


「そんな事よりも、早く行きますよ。エレベーターが動かないでしょうから、最上階の30階まで走っていくことになると思いますが」

「構わないわ。それしかないのなら」


 若干尻込みしてしまう由乃さんに対し、里美は諦めに似た感情で準備運動を始めた。2人とも、どんよりとした空気を漂わせていた。

 入る前に涼がいつものように、術を使って中にいる死霊達を追い出した後、俺達は息を切らしながらタワマンの最上階に到達した。当然ながら、涼以外の全員が息を切らせていた。


「何で最上階に住んでんだよ、コンチキショウ!」


 どうすることも出来ないことを言ってしまったが、そう言いたくもなる。息が切れたのはもちろん、足がパンパンになった。


「疲れた・・・・明日絶対に筋肉痛になってるな」

「30階を階段でって・・・・エレベーターが、電気が恋しい」

「私なんて、御年26歳。歳はとりたくありません・・・・・」


 体力自慢の筈の華々美と朝香と由乃さんでさえ、ここまでノンストップで走り続けたことでバテている様子であった。

 あまり体力のない美玲と里美と、平均並みの体力の柚羽ちゃんなんて床に倒れてしまっていた。一応部屋の外なんだけど、それでも立っていられないくらいに疲れたらしい。


「そんな事より、早く部屋に入って調べましょう。扉の前でぐったりしない」

「流石は体力お化け・・・・なんかの競技でオリンピックに出たら金メダル取れるんじゃね」


 唯一元気な涼は、グループ内で最も高い身体能力と馬鹿体力を持っている為、30階をノンストップで走って登ってもピンピンしていた。

 だが、涼の言うようにあまりのんびりしている暇なんて無い為、俺達は疲れた体に鞭を打って佐藤宗一の住んでいる部屋に入った。扉は外れて倒れていた為、俺達はすぐに入ることが出来た。

 中に入ると、高そうな腕時計やスーツや靴、ずらりとたくさんの本が置かれた大きな本棚がたくさんあった。

 そして、結論から言うと探していた霊滅版はとても広いリビングのど真ん中で見つかった。それも、綺麗に真っ二つになった状態で。


「こんなにあっさりと見つかるなんて・・・・」

「すぐに見つかったのはいいけど、何で真っ二つなの?」


 真っ二つになっている霊滅版を見て、俺と涼はボソッとそんなことを呟いた。他のメンバーは、華々美以外が霊滅版を見て呆然としていた。

 一方の華々美は、真っ二つになった霊滅版を見てすぐに部屋の中を物色し始めていた。


「一体なぜこんなことに?」

「隣にある機械を使って真っ二つにしたのでしょうけど、何故わざわざ?」


 すぐ近くにあった、石材を切る為の機械が置かれていて、それを使って真っ二つに切断したのだということはすぐ分かった。

 が、朝香と柚羽ちゃんの言うように何故わざわざこんな事をするのか分からないでいた。

 俺達がそんなことを思案していると、突然バサと大きな音がして一斉にそっちの方を向くと、本棚の本を乱暴に床に落とす華々美の姿があった。


「華々美?」

「真っ二つになっている理由だが、おそらく中身をくり抜いてコイツを隠すつもりなんだろう。意外に大きくて分厚かったから、入れて隠すにはちょうど良かったんでしょう」


 そう言って華々美、本棚の奥から白い粉が入った袋を取り出してバサッと床に放り投げた。


「これってまさか?」

「コカインだ。本棚の奥行に対して本が全て手前に置いてあったし、奥にも本があるとも思えなかったから調べてみたら、案の定これだ」


 そう言って華々美は、本棚の奥に隠されていた袋に入れられていた大量のコカインを床に放り出した。


「こんなにたくさん」

「コカインだけでもこんなにたくさんあるけど、押入れやらテレビ台の奥やら、いろんな所を調べてみたらいろんな薬物が見つかったぞ」


 その後も華々美は、いろんな所に隠されていた危険薬物を次々にリビングの床に放り出した。


「他にも、ヘロインや大麻やマリファナなども見つけた。針山もたくさんの麻薬を仕入れていたけど、こんなにたくさんは持っていなかった。麻薬王と言ってもいいレベルの多さだぞ」

「こんなにたくさん・・・ちょっと待て!ってことは!?」

「幹夫の予想通りだと思う。ここの住人、佐藤宗一は大量の麻薬を売り捌くことで莫大な金を得て、その金でこのタワマンの最上階で贅沢暮らしをしてたんだろう。違法な薬物売買で得た金で贅沢三昧、虫唾が走る」


 隠す様子もなく怒りを顕わにする華々美。

 だか、これで全てが納得した。

 千葉の佐藤宗一は、違法薬物の密売で物凄い金額の金を手に入れて、その金で豪遊と散財を繰り返して金持ち気分を味わっていたハリボテのセレブだったのだ。


「藤波さんのおっしゃるとおりかもしれません。改めて部屋の中を調べたら、高そうなお財布から物凄く分厚いお札の束が入っていましたし、免許書から確認した顔写真からもとても若い人だということが分かりました」


 そう言って柚羽ちゃんは、佐藤宗一の物と思しき財布から免許書を取り出し、それを俺に差しだした。

 受け取った免許書から、30代くらいの男性の姿が映されていて、実際生年月日から計算して霊滅版を買った当初は36歳だったことも分かった。

 その後部屋の中を調べてみると、年末調整や給与明細なども見つかっており、普段の仕事でも大企業で課長職に就いていて年収も1000万もあることが分かった。


「いくら高給取りと言っても、物価高が深刻なご時世だから年収1000万でもタワマン暮しはかなり厳しいはずです。それ以前に、今時年収1000万はもう高給取りとは言えません。物価だけでなく、税金も高くなっていますし、その年収だと普通よりもかなり多く引かれていると思います。予想ですけど、実際の手取りは年間で700万もないと思いますし、下手したらそれより少ないかもしれません」


 由乃さんからそんな話を聞き、改めて日本は国民からたくさんの税金を巻き上げているのだなと思った。巻き上げていると悪い言い方をしてしまったが、一般人からすればそう言いたくもなる。


「麻薬の密売に手を染めたのも、もっとたくさん贅沢と豪遊をしたかったからなんだろうけど、一番の目的は見栄だろうね」

「涼の意見に俺も同意見。見栄の為にもっと金が欲しくなって、道を踏み外してしまったんだろうな。せっかく大企業に就職して、課長職にまで就いたというのに本当にバカだろ」


 いろいろ調べて憶測を立てた人物像だけど、このタワマンの最上階に住んでいる佐藤宗一は重度の見栄っ張りで、自慢癖もとても強く自分より下の人間を見下して馬鹿にする人間性の持ち主であることが予想できる。それを裏付ける証拠もあり、自分に意見する部下に対する愚痴と、他者を見下すような内容が書かれた日記も見つかった。

 その日記には、いかに自分が高学歴のエリートで特別な存在なのかも記されていて、見栄の為に購入したタワマンの最上階にしても日々の生活がかなり苦しく、殆どが仕事から帰ってすぐに寝るだけの生活をしていたことも分かり、求めていたセレブ生活が送れていないことに対する不満も書かれていた。

 普通に考えれば、年収1000万でもかなりの高収入であるはずなのに、年々高騰する物価や高くなる税金により手取りは更に少なくなる中でタワマンの最上階を購入し、それによって見栄を張ることが出来なくなっていくくらいに精神的にも、生活面でも苦しくなっていったのだろう。


「見栄を張ってタワマンに、それも最上階を買わなければここまで道を踏み外さずに済んだんだろうな」

「哀れな男です。社会人になったのでしたら、見栄の為にではなく今の自分に合った正しいお金の使い方をしないと、将来的に自分の首を絞める結果になります。ましてや、こんなに高そうな物をたくさん買っていては、お金なんてあっという間に無くなってしまいます」


 由乃さんからも厳しい指摘を貰った。

 要約すると、ここの住人である佐藤宗一は自分の欲求を満たすためにたくさんお金を使い、見栄の為に高いスーツや靴や時計、更には高級外車まで購入し、タワマンの最上階というスペックの為にお金を使いすぎてしまったが為に、常に金欠状態が続いてしまったのだろう。

 それによって追い詰められた結果、違法薬物の密売という最悪な選択を取ってしまったという所だろう。実際、違法薬物の密売に手を染めた翌月から仕事をリモートに切り替えていたみたいだし。


「ま、ここの住人がどんな人物だったかなんてもうどうでもいい。それよりも、霊滅版を持ってさっさとここを出るぞ」


 俺の指示に皆が頷き、俺は真っ二つになった霊滅版を持って佐藤宗一の部屋を後にした。霊滅版の大きさは、くっ付いていれば直径は50センチほどあり、厚さは20センチほどもありかなりの大きさであった。対して、重さはそれほどではなく小学校低学年くらいの子供でもがんばれば持てないこともなさそうであった。


(盗品と分かっていたはずなのに、歴史学者と偽って自分の年収と同じ額でこれを渋井沢から買って、更なる大きな利益の為に半分に切ってこの現象を起こしてしまった。迷惑な話だ)


 霊滅版を買った佐藤宗一にいろいろ言いたいことはあるが、今回は放ておくことにした。それ以前に、涼の術によって昼間の外に追い出され、日の光を浴びて消滅しただろうからな。

 今更どういう人だったかなんて、もう興味もない。

 何を思って麻薬の密売に手を染めて、なぜそこまでして見栄を張りたかったのかなんて知ったことではない。そんな人間の身勝手のせいで、俺達はもちろん世界中の人達が迷惑を被ることになってしまったのだ。

 そんな男なんかどうでもいいと思い、俺達は回収した霊滅版を持ってタワマンの近くに停めてあった車に乗った。時間も急げば帰れる時間だったこともあって、予定を変更して早急に帰ることにしたのであった。

 帰る時間は、夜の7時過ぎになる見込みだが、何だかこれ以上ここにいてはいけない気がしたので俺達は予定を切り上げて帰ることにしたのであった。




 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




『あのガキどもめ!よくもこの私の秘密を!』


 幹夫たちがタワマンを去った後、その近くの建物に避難していった30代後半の悪霊が、物凄い怒りで幹夫たちが乗っていた3台の車を睨みつけていた。


『私の秘密を知っただけに飽き足らず、1000万もかけて購入した石板を持っていきやがって!許せない!私はこんな所でくすぶっていい人材ではない筈なのに!』


 見当外れも甚だしい怒りに、悪霊はすぐにでも追いかけたい気持ちにかられたが、日の光のせいで外に出ることも出来ず、見失うことになってしまった。

 そんな時――――


 ―――ならば、こちらに来い。


『っ!?誰だ!?』


 ―――私の所に来れば、私の力の一部を与えることが出来る。私の手元には今、依代の生きた若い女がいる。その女の体を借りて、たくさんの生きた人間の命を奪おうではないか。無論、お前の大切な収入源を奪った人間たちにも復讐をさせてあげる。


『いいだろう。何処に行けばいい?』


 ―――××県の×××町の南、南波地区にある団地、通称ゴースト団地に丑三つ時に来い。


『分かった』


 謎の声に導かれるがまま、悪霊は日付の変わった丑三つ時に指定された町の団地、ゴースト団地へと向かったのであった。





ついに見つけることが出来ました。ここから終盤に突入しました。最後までお楽しみください。

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